そうして彼は、猫に行き遭う。
2019年7月19日金曜日午後15時24分
俺は昨日に続き、オオナラ森林に来ていた。
終業式?知らん。
昨日と違ってソロだけれど、俺は基本的にはソロである。
そもそも、この【魔闘術】というスキルの特性上、PTプレイをする旨みが、あまりないのである。
一応、俺の戦い方に於ける、利害を列挙してみよう
まず利益だが、これがもし死にかけた時には、フォローに回ってもらえるということだ。確かにこれは確実な旨みではあるのだが、もうオオナラ森林のモンスター程度なら、捌けてしまうことがわかってしまっているし、そもそも何故か防御力にマイナス補正が掛かっている上に、VITが低いゆえに甲冑の類、というか、布系統の、最早服と呼べるもの以外装備できない俺は、ここでは一撃くらえば、お陀仏なのである。従って、この利益は、俺にとってはあまり利とはならないのである。
次に害だが、これが結構多い。
まず、ターゲットが俺以外に向いてしまうこと。実際俺は、一発殴れば勝ちなので、自ら攻撃してくれるアクティブモンスターには、待ちの体制に入って、カウンターで仕留めていくのが、最も効率が良いのである。ていうか疲れない。しかし、ターゲットが全て俺に向いていなければ話にならない。つまりターゲットが俺以外に向くというのは、意外とメンドくさいのである。
で、二つ目に、経験値が分配されてしまうことだ。
まあ、RPGの宿命として、もらえる経験値は、PT内で分配されてしまう。つまりPTというのは、楽しむ、もしくはソロだと効率が悪いなどの理由以外で組む旨みはないのだ。
そして最後に、これが何よりも辛いのだが、コミュニケーションを取らねばならないこと。何?戦闘スタイル関係ない?うるさい。俺は一人で黙々とやるLv上げが、結構好きなんだ。
以上である。これで皆様にも、俺がソロでやることの有効さを、わかっていただけるだろう。
つまりは、俺はどこまで行ってもぼっちであり続ける宿命にあったのである。・・・そう自覚してしまうと、やはり少し悲しい。
だが、俺はそんなことでは今更挫けない!高校一年間のぼっち生活は、伊達ではないのだ。グスッ
そうやってモンスターがPOPするのを、膝を抱えて待っていると、視界の端に、キレイにたたまれた布が映った。
「あ、・・・どうもありがとうございます・・・。」
俺はその優しさに甘え、その布を取った。ハンカチだった、ゲーム内でもハンカチってあるんだな。ていうか、ゲーム内でまでハンカチ持ち歩くなんて、結構な几帳面だな、等と思うが、彼の(彼女の?)優しさは、純粋に嬉しく思った。
―――って、ちょっと待て。
俺は顔をそちらに向ける。
その何かは、小さな耳と大きな目、少し短いがしなやかな足を持った、四足歩行動物だった。ていうか、明らかに、
「・・・猫?」
猫だった。
しかしここはファンタジーの世界だ。馬牛鶏羊豚等の家畜は何故かいるけれど、それは人里にしか生息していなかったはずである。恐らく魔物におわれている設定なのだろうが、セーフティエリア外に、地球上に存在する生物、つまりはterrestrial animalは、存在しない筈なのである。ていうかそれはいい。どうでもいい。べつにそれは今俺が考えてどうにかなることではない。ただ・・・・
「みゃー」
何か、なつかれた・・・・・。
なんだろう。これはどうすればいいのだろうか?良くMMOで見るペットシステムなのだろうか?でもああいうのって、専用の店で買うとか、倒したモンスターを手懐けるとか、そんな感じの奴らだったはずである。
「えーっと・・・」
というか、そもそも俺は何か条件を満たした覚えもないのだが。というか、例えばこのまま俺がこの子を連れて帰るとして、餌とかはどうすればよいのだろう?
と、ふと気づく。俺の視界の左上端、つまりは俺の緑色のHPバーと、青色のMPバーと、紫色のBPバーの真横。つまりはHAKAMAと刻まれた半透明の青色の枠の下に、黒い猫のマークがついていて、それをクリックできることに。
えーっと・・・
とりあえず、迷った末に、クリックしてみることにした。ポチッとな。
すると、俺の目の前に、ウィンドウが表示されたが、それはすぐに消えてしまった。
モンスターがPOPしたのである。
まあ、POP待ちの暇つぶしにはなったと、早々に頭を切り替えることにした。
相手は、フォレストウルフが2体に、チャージボアが3。たんぽぽの花を大砲にしたような見た目の、ヴィントプラントが2である。
ちなみに、ヴィントというのは、風属性の第一魔法名である。
チャージボア三体を先頭にして、その次にフォレストウルフがその斜め後方をそれぞれカバー、ヴィントプラントが後方から、援護射撃をできるような形になっているらしい。
何で異なる種族で、そこまで連携するようになっているのかとは思うが、それもまた、鬼畜と名高いIIOスタッフということなのだろう。POP待ちをすると、厄介になるようにできているのである。
ヴィントプラントが、ボアの背中より少し高い位置にある大砲のような部位から、風属性の第一魔法、『ヴィント』を放つと、チャージボアが、放たれた風に追従するように、順次走り出し、フォレストウルフが、その背後を走る。
ソロプレイヤーには、優しくない仕様となっていた。
「―――【炎の拳】」
そう唱えると同時に、俺の両手に、火球が灯る。一応は、『ファイラ』が灯っている扱いらしい。
さて、対処だ。
まず俺は、両手に灯った『ファイラ』を、それぞれ飛来する『ヴィント』に翳す。すると飛来する『ヴィント』を、翳された『ファイラ』が消し去る。第一波クリアである。
次に俺は、猪とオオカミの軍勢を避ける為に。前方に跳び上がり、前方に一回転をして着地する。AGIに補正が掛からなかろうが、体育で習った動きくらいは出来る。
俺は降り立ち、狼と猪の軍勢が、後ろに走り去ってしまうのを確認すると同時に、前方に向けてダッシュをかける。こういう時は射手を先に潰してしまうのが、定石である。
当然向こうは、迎撃に出てくる。つまりは『ヴィント』を撃ってくるが、それをまたしても、手に灯った『ファイラ』で遮る。そして件の植物に肉迫し、その一本の、合計二本の畝ねる茎を、それぞれの手で殴りつける。本来、こう言う部分を殴っても対して効果はないのだけれど、ファイラは殴りさえすれば、きちんと反応するようで、手に灯った『ファイラ』は、その植物たちを焼き殺し、多角形の粒子に変化させた。
俺としては、もうウィンドウを一瞥し、街に戻りたいのだけれど、そうはいかない。
後ろから先ほどすれ違った猪と狼がもどってきたのだ。まあ当然対処せざるを得ないわけなので、
「―――フッ!」
俺は息を吐くと共に、思いっきり、走ってる猪たちの真ん中の一頭の鼻面を、正面から殴った。
するとやはりその猪は四散する。ていうか、モンスターに判定勝っちゃうって。結構すごいなこのスキル。残った猪たちは怒りの表情を見せながらも、そのまま俺の真横を通り過ぎていったが、狼はそうもいかず、2頭の狼は、俺の元へと跳躍してきた。が、
「―――【炎の足】」
そういうと共に俺の両足に灯る。そしてそれと同時に、右足を思いっきり振り上げ、飛行する狼の下顎に叩き込む。そしてその狼の末路を一瞥もせずに、振り上げた右足を振り下ろし、跳躍し、右足を振り下ろした時の力を利用し、二の足、左足を振り上げ、もう一匹の狼の下顎に叩き込む。二連脚・・・だったか?たしかどっかの格ゲーで見た技だったのだが、存外上手くいったようで、俺の着地と同時に、二匹の狼は四散した。
そして俺は背を向けた状態でしゃがみ、後ろから迫って来ていた猪の行く先に、裏拳を置くように放つと、猪は、壁にぶつかったように顔を潰し、パリィーンと、ガラスを割ったような音と共に弾けた。
それと同時に、ファンファーレが鳴り響いた。レベルアップである。
俺は与えられたSPを、全てINTに振り、獲得アイテムと経験値を一瞥すると、視線を、視界の左上に向けた。猫のアイコンは、そのまま残っていたのだ。件の猫も、知らぬ間に、足元に寄ってきてるし。しかしこれが何かを確認しようにも、またモンスターに襲われては堪らない。
「・・・帰るか。」
俺はそう呟くと共に立ち上がり、街に戻るのだった。
【炎の~】AS
消費MP それぞれ1
持続時間1分
1分の間、指定した部位に『ファイラ』を付加する。
威力は『ファイラ』+殴った時のダメージ