魔闘術
と、いうわけで、MPがありません。一応、一分に1P回復する、自動MP回復を、最初のスキル取得の際に、取得していたのだが、流石に厳しい。
因みにこのゲームのスキル取得は、スキルスロットを用いる。最初に5枠与えられるのだが、俺はそれを火属性魔法、自動MP回復に費やしている。因みに他は未定である。
はてさてこれからどうするかといえば、まあ、おふたりの温情によって、二分に一発、即死攻撃を撃てる自立稼働砲台という役割をもらった。効率は少し下がってしまうけれど、まあ、ある程度は働けるし、今は彼らの温情に甘えるしか、できない状況である。
でもまあ、これが結構暇で、ほとんどの時間は棒立ちである。
あいつらがキャッキャウフフと、狼や猪や謎植物と戯れている間、俺は採取やらインヴェントリの整理やらをするのである。やはり俺も物理型にすればよかったかと、少し後悔している。そんな時だった。
二分に一発の即死攻撃を放った、直後だった。
「―――あ、お兄ちゃんゴメン!そっちいった!」
という大声を聞いたのは、おいおい妹よ、仕事しろよ。なんて、半分ニートに近い状態の今の俺には言えるはずも無い。
こっちに迫り来るは、あの猪だった。
あの猪が結構な速度で、俺に迫ってきた。
ちょっと待て。今くらったら、俺即死じゃね?HPはフルにあるけど、くらったら即死じゃね?平原ならともかく、ここは一つ進んだ森林である。HPとVIT無振り、初期装備のLv4でどうこうできるものじゃない。従って、俺は右足を、思いっきり振り上げた
「―――おらぁっ!!」
という掛け声と共に、俺のつま先は、件の猪にぶち当たる。
おもっ!?やはり猪だけあって、結構な重量があった。それが突き進む俺の足への抵抗となるが、構わず振り上げる。すると猪の頭は、地面に対して垂直に、俺の眼前に持ち上がった。
俺は追撃の為に、左足を前にして腰を落し、利き手を、右手を後ろに、腰をねじ切る心構えで捻る。
奴の腹が俺の眼前に到達する。
「―――ッ!」
瞬間、俺は思いっきり、右手を遠心力に任せてフッた。
入った。右下腕部の、橈骨と尺骨を揺さぶるような確かな手応えと、青白い閃光のエフェクトが瞬く。
クリティカルだ。
そしてそのまま・・・・
「―――ッらァ」!
振り切った。
すると猪は、俺の左側に大きく飛び、多角形の粒子となって四散した。
なんだ。あったじゃん。戦い方。でもスマートとは、言えねぇよなぁ。
頭に、ポーンとでも言うべき音が響いた。
「―――スキル贈与だ。」
俺がそう言うと、唖然とした様子だったハンマとまくらは、ハッとなっていた。どうやら俺が素手でモンスターを倒してしまったことに、驚いていたらしい。
しかし彼らはすぐにこちらに駆け寄ってきた。
「どんなスキルもらったの?」そう問いかけて来る妹は、自分のじゃないにしても、初めてのスキル贈与に興味深々のようであった。
まあ、俺も楽しみではあるから、そのまま贈与されたスキル名を読み上げる。えーっと・・・
「・・・魔闘術」
うわ。名前だっせ・・・・。
「かっこいい!!」
心が現役中学二年生の妹は、目を輝かせていた。かっこいいのか。中学二年生な妹にとってはかっこいいのか。やはり男の子の中二病は、永遠のものではなかったらしい。
「で、どんなスキルなんだ?」
そう問いかけてくるハンマも、聞いたことがないスキルのようで、興味があるようだった。
つまりは、
「βの時には、なかったのか?」
「聞いたことはないな。」
「そうか。」
そう。ハンマはβテスターだったのだ。羨ましい。
「で、どんなだ?」
そう、奴は催促してくる。うるせぇよ。わかったよ。読み上げてやるよ。と、俺は不服そうな目で睨んでから、表示された分を読み上げた。
「魔法を纏う格闘術。としかないな。ダジャレ?いや、まて」
俺は気づいた。その魔闘術という文字を、クリックできることに。
俺は迷わずクリックする、
すると、こう書いてあった。炎の拳、炎の足、炎の額、炎の膝、炎の肘と。
「魔闘術っていう、スキルカテゴリらしいな。『炎の拳』」
すると、俺の両手に、ボウッと炎が灯った。ちなみにMP消費は1。
「「うおっ!?」」
と、二人は纏めて驚いていた。
シュシュシュッと、試しに軽くシャドーをしてみる。
「拳を振っても消えないな。モンスターに当てるまでが、効果適用時間なのか?もしくは時限強化の類か。」
「かっこいいぃ!!!」
妹そうして目を輝かせていた。妹よ。中二病は早めに卒業しろよ?
「へぇ面白いな。」
そういうのはハンマ。
「試しに、一人で戦ってみろよ。」
「了解。」
俺はあえなく了承する。
ちょうどPOPした、狼で試してみることにする。
狼は、俺に突っ込んできた。この辺のモンスターの思考ルーチンは単純だなぁ、と思いつつ、この牙を交わし、顎に拳を入れ、打ち上げる。まあ、この程度で死ぬとは思っていないので、更に一歩踏み込んで、追撃を入れようと、左の拳を引き絞る。
が、
パリィーンと、狼は、空中で四散してしまった。
「「「・・・は?」」」
えーっと・・・。俺たちはそのまましばらく、呆然と立ち尽くすのだった。
しばらく早足に、描写すくなめで行きたいと思います。