デュエル!
2019年7月20日14:12
戦闘開始から30分後、さすがに戦闘に疲れたのか、妹の【災禍の中心】切ってという発言から、戦闘は終了した。そう言えばPSってオンオフ効くじゃんと、今更ながらに気づいた俺である。
「で、兄ちゃん。さっきのド派手なのは何?」
「何と言われても。さっきまでのスキルに、いくつか追加しただけだけど?」
「それがどうしたらあんな禍々しくなるのよ・・・・。」
「まあ。自分で探してみるんだな。」
もっとも、お前のその勇者ルックで似合うかどうかは別だけど。
「いいなぁ。あたしもそういうのやりたい・・・。」
「まぁ。あとでどうやってるのか教えてやるから、それと似たスキル探してみろ。」
エフェクトを禍々しくする奴があるのなら、神々しくするのもあるはずだ
「・・・そうする。」
「んじゃ、ウチのホームでも行こうか。」
「ん?ホームって何だ?」
「ギルドホームのこと。」
「ギルドって、もう解禁されてたのか!?」
「うん。第二の街に、ギルド登録できるところがあってね。」
「ってことは建物ももうあるってことだよな?おいおい。まだ発売三日目だぞ?」
「まぁ夏休みだし。βからお金も引き継いでるし。」
「夏休みは今日からで、前二日はきちんと登校日だったけどな。」
「あたしにとっては休みと変わらん!」
「・・・妹が不良化だなんて、お兄ちゃんは将来が心配ですよ。」
他の子はコイツよりレベルが一段下なことから、恐らくきちんと学校にも行ってただろうに・・・。
「それを言うなら、貴方も変わりありません。」
と、ユキノさんから唐突に冷ややかなツッコミが入る。ていうか、はじめてアカリちゃん以外と会話した。
「・・・お兄さんは元から不良なんです。」
大変不本意ながら、”白津の魔人”なんてよばれちゃうくらいには・・・・。ていうか、この仇名つけた奴、絶対中二病だっただろう?
「入学試験とその後の全ての試験において学年一位を取る人が何言ってるんです?」
「ちょっと待って。なぜ君はそんなことを知っている。」
不良やめて、高校デビューしようと頑張った結果である。
「いや、そんなことをすれば有名にもなるでしょう?あと、妹さんがしょっちゅう自慢してムグッ・・・・・。」
と、言いかけたユキノさんの口の動きを、まくらの手がインターセブトする。
「へぇ。お兄ちゃんのことで自慢してくれたんだ。そりゃまた誇らしいねぇ。」
俺はニヤニヤしながら、妹をいじりにかかる。そうでもしないと、真面目に照れてしまう。
「そりゃあもう。あたしたちの耳がタコになるほどに聞かされました。」
「っていうか、まくらちゃん、ハカマさんのことになると、性格変わるよね?」
「ねぇー。」
そこでアカリちゃん、ユイさん、アズサさんが急遽参戦。
みんなでまくらをイジリにかかる。言わば五面楚歌。逃げ場はない。
「だぁ!もぉ!うっさい!うっさい!うっさい!」
と、暴れだしたので、俺が急遽なだめにかかる。
「よーしよし落ち着け落ち着けー。」
まあ、具体的に言えば、彼女を抱きしめ、右手で頭を撫でるのだ。
「・・・はふぅ。はっ!」
と、まくらの体から力が抜けた瞬間。ユキノさんを除く3人からニヤニヤ攻撃がかかる。ちなみに俺はしない。被弾する恐れがあるから。このPT、まくらイジる時の結束力が強すぎる・・・。
どうやらまくらは、いじられキャラのようだった。そのダシにされてるって思うと、少し複雑だけれど、まあ、それがまくらの人間関係なのだからと、顔にも口にも出さない。
「まくらちゃんは『お兄さんに抱きしめられた上になでなでされるとはふぅとなる』っと。ふふふ。いいこと知っちゃった。」
と、悪い顔をするのはアカリちゃんである。まくらイジリの主犯は、彼女のようだった。
「うぅうううああああああああああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・」
と、まくらは顔を真っ赤にしながら唸る。
が、
「はふぅ・・・・。はっ!」
俺が頭を撫でると、またしてもはふぅとなり、周りの視線に気づき、ハッとする。
「・・・・あっ。」
あー。どうしよう。何かめっちゃ見られちゃってんじゃん。
とりあえず、さすがに恥ずかしいので、まくらの体をリリースする。
「―――あっ・・・。」
解放されたことに驚いていたのか、まくらはそんな声を上げた。
このままでは俺も纏めていじられてしまいかねないので、迅速にまくらを囲んでいた四人を同じ距離まで離脱を試みるが、
「だぁあああああああああもう我慢ならねぇ!」
そんな声が聞こえた為、直様移動を中止し、声のした方に振り返る。
「てめぇら公衆の面前でイチャイチャしやがって!ざけんなよぉおおおおおおお!?見せつけられる側にもなってみやがれよ!」
と、そんな悲痛な叫びを上げている。
どうやら、その叫びは俺に向けられていたらしかった。なぜ分かるかって?俺の視界に、デュエル、つまり決闘を求めるウィンドウが映っていたからだよ。
「・・・・このMattってのはお前か?」
一応、悲痛な叫びを上げていた男に問いかけておく。
「あぁ!そうだよ!見せつけてくれやがって!」
うわぁ。何こいつめんどくせぇ。このまま『NO』を押して逃げてしまいたいが、こりゃ断ってもあとがめんどくさそうだなぁ。
「あぁもう。わかったよ。受ければいいんだろ?受ければ。」
そう言うと、Mattとやらは安堵したような表情をする。こりゃ断っても、この場は逃げられたかな?
まあ、叩きのめされてやれば、向こうもスカッとして、帰ってくれんだろ。
「勝利条件は、HPが半分以下になる、もしくは五回、体に攻撃を与えるでいいか?」
「いいや。死ぬまでだ。」
うぇ。マジか。やる気なくなってきた。因みにデュエルの勝利条件には他に、HPが0になるまでだとか、30秒逃げ切れば勝ちなどの様々なモノがある。
「お兄さん頑張れー!」
と、アカリちゃんから野次が飛ぶ。人の気も知らないで。
そう思い、振り返ると、まくらから、負けたら殺す的なニュアンスの視線がぶつけられる。いや、なんでだよ。こえぇよ。
しかしそう示された以上、負けるとまくらに強制的にデュエルを受けさせられ、そのバカみたいなSTRを使った俺よりリーチで勝る剣で、蹂躙されることになりそうだ。しかも痛みレベルマックスでだ。
うわぁやだなぁ。
負けることができなくなってしまった。仕方がない。本気でやろう。
俺は歯ぎしりしている男に振り返りなおして言う。
「はぁ。分かったよ。死亡判定が出るまでだな。分かったよ。」
そう言いつつ、ウィンドウの『YES』のボタンをクリックする。はぁ。メンドくさい。
俺とMattとやらの間に、青白い線が走る。恐らくそれは視界に移るカウントが0になるまでは、越えられないのだろう。
29となってなお減り続けるカウント。
奴は剣を両手に構え、その手を顔の横に持って行っている上に、明らかに俺に近い方の足に、全ての重心をかけていた。
恐らく、両手剣の突進技でも使う気なのだろう。
俺にいきなりデュエルを仕掛けて来た上に、あんなあからさまな構えをとっているわけだから、彼奴がかなりの実力者で、あの構えがフェイクという可能性もデカイが、俺はいつも通りに、相手の動きに対して受動的に、カウンターを決められる様に、半身になり、左脚、やつに近い方の足に、重心をかける。モンスターは一撃で倒せても、プレイヤーを一撃で倒せる保証はない。その上俺は相手にあるSPDやSTR、VITによる身体能力への上昇補正がない。つまり向こうの動きについていけないかも知れないのだ。故に、例え一撃で倒せなかろうと、初撃に対するカウンターに賭けるしかないのだ。それで倒せなければ、向こうの身体能力に翻弄され、何もできなくなる可能性が高い。一応、遠距離攻撃は、『ファイラ』と、【魔闘術】スキルの『禍炎星弾』などがあるが、それらも必中ではない。むしろ直線にしか飛ばない。
カウントが10を切るとともに、俺の頬を、汗が伝う。VRで汗が頬を伝うことに、感心する余裕もない。背後から、熱い視線を感じるからだ。それはもうミスでもしたら殺されそうな視線だ。
すまんなMatt。本来なら俺もぼこられてやるところだが、さすがに俺もまだ、死にたくはない。悪いが、本気でいかせてもらう。
カウントが5を切る。
「―――ブースト【禍炎の心臓】【最後の一撃】。」
それとともに、各種ASを起動させる。野次馬どものざわめきも、遠いところで起こっているように聞こえる。
視界の端の数字が、残り時間が4秒であることを示す。
カウントが妙に遅く感じる。
人が命の危機に瀕すると、思考が加速するという話の信憑性があがってしまった。
もしくはこれが、IIOのデュエルの仕様なのか。
3
相手も自身のASを起動したようで、彼の周りに、オーラのようなモノが見えた。
スキル名は聞いてもどうせ俺にはわからないので、聞き流す。
2
聞こえていたヤジが最早聞こえなくなり、相手の動きの機微すら、手に取るようにわかるようになる。
確信が持てた。これはIIOのデュエルの仕様ではない。
過去に中学時代に、白津の魔人と呼ばれていた時にも、こんな感覚はあった。つまりは、
1
今俺は、確実に命の危機に瀕している。
・・・0
瞬間。奴は右足を踏切、こちらに一息に突進してきた。どうやら、あの構えは、フェイクではなかったらしい。
奴は俺の頭に組み立てていた通りに、両手に持った剣を、俺から見て、右から左へと振り下ろす。
剣道経験者なのかなんなのか、その剣の振り方は、中々様になっていた。
が・・・。
俺はそれをダッキングのみで躱す。
例えどれだけSTRのおかげで剣が速くとも、どれだけSPDのおかげで突進速度が速くとも、それとそれの通る道筋さえ予測してしまえば、例えVITによる庇護がなかろうが、SPDによる補助がなかろうが、体を動かすだけなのだから、問題はない。
剣を振り下ろした奴は、驚愕に顔を歪めていた。どうやら今の俺には、周りを見渡すだけの余裕があるらしい。
つまりは、
「俺の勝ちだ。―――『禍炎星拳』。」
そうして、彼の体は、俺の黒炎を纏った拳を纏った、六芒星を中心にした魔法陣を宿す拳にしなだれかかり、ポリゴン片となって四散するのだった。
『炎征拳』BS
要するに唯の正拳。【魔闘術】では貴重なシステムアシストだが、Bsであるが故にBPを消費するため、結局システムアシストに頼り切ることは【魔闘術】では不可である。普通に正拳を撃てる人にとっての利点は、システムアシストのおかげで、打撃点の設定に、つまりは狙いを付けるのに集中できることと、スキルであるが故に、通常の攻撃より威力が高いこと。
【混沌化】が適用されている時は『禍炎征拳』に、【虚栄の魔法陣】が適用されている時は『炎星拳』にになり、両方ついていると『禍炎星拳』になる。
『ジェットパンチ』との違いは、【炎の肘】が【炎の拳】とともに発動されていなくてもいいことと、突進の有無である。
『炎征弾』BS
一分間、目の前を攻撃すると、与えた力のベクトルの矢にそって、炎の弾を発射する。
【混沌化】適用時は『禍炎征弾』に、【虚栄の魔法陣】適用時は、『炎星弾』になり、両方適用されている時は、『禍炎星弾』になる。
ちなみに『炎星弾』と『禍炎星弾』では、目の前に出現した、自身の身長ほどの半径をもつ魔法陣を、殴る形になる。
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技各種の名称を変更。また、浮かび上がるものを六芒星に変更。