勇者まくら。
2019年7月20日土曜日午前10時36分。
「悪い。待たせたな。」
と、声をかけたが、我が愚妹以外は呆然としていた。
「あはははは。はやかったね。」
そう言って笑い飛ばすのは我が愚妹である。
「ま、殴ったのは四発だけだからな。」
「いや、四発で倒せる時点でもうおかしいでしょう?」
「いや、多分お前も似たようなことできるぞ?STR極だし。」
「いやぁあたしの場合は、属性ダメージが無いから、ああはいかないよ。」
「そういうもんか?」
「そういうもの。ほら皆起きてー。狩り行くよー。」
まくらがそういって、パンパンと、二回手を叩くと全員はっとなっていた。
最初に口を開いたのは、アカリさんだった。
「えっと・・・あー。討伐おめでとうございます。」
「あぁ。ありがとう。皆より大分遅れちゃったみたいだけどな。」
「いや、あたしたちもたおしたの昨日ですし、気にしなくていいと思いますよ?」
「そうか。それなら良かった。んじゃ、行きますか。第二の町へ。」
そうして、フィールドの中央に現れていたボスゲートを、皆で潜るのだった。
ボスゲートを潜ると、アラビアだった。いや、これでは少し語弊があるな。正確に言えば、アラビアンナイトの世界だった。盗賊アリババとか、アラジンとかが出てきそうな感じって言えば、わかりやすいだろうか?オアシスの近辺に栄えているようで、所々にヤシの木のような高木が見受けられた。
「んじゃれっつごー!」
「ういうい」
無駄に元気だなぁこの妹。
そうして俺たちは歩を進めた。
「って、皆俺のスキルのことは聞いてる?」
道すがらに、そんなことを聞いた。
「聞きましたよー。随分と規格外なスキル持ってますね?」
「まあね。」
ちなみにこのスキルというのは、【災禍の中心のことである。
「なら話が早い。俺は十秒間、セーフティエリア外で吊っ立っていると、大量のモンスターがPOPする。んで、そのでてきたモンスターは、俺以外は攻撃しないから。俺が捌いている間に、横合いから攻撃してくれ。おーけー?」
「「おーけーおーけー!」」そう返事したのは、アカリとまくらだった。仲良いなこいつら。
「ところでハカマさん?」
そう問いかけてくるのはアカリさんである。
「何ですか?」
「その子はなんですか?」
恐らくルーシーのことだろう。
「あぁ。ルーシーってんだ。ゲーム内での扱いは『眷属』ってやつらしい。詳しいことは、分かってないから開示できないけどな。」
「へぇ・・・。触ってみても?」
「できるもんなら。」
「ムっ。なんか挑発的ですね。いいでしょう!やったりますよ!」
そう言って、アカリさんはルーシーに手を差し伸べるが、ルーシーは俺の左肩から、右肩へ移ることで回避した。
「むっ!?」
そう言って、もう一度俺の肩へと手を伸ばすが、またしても回避される。
「むむむーっ!?」
「ダメみたいだな。」
流石『プラウド』と名に冠するだけのことはあるようだ。
「「むむむむむむむーっ!」」
いつの間にか、我が愚妹も参戦していたことをここに追記しておく。
2019年7月20日午前10時46分。俺たちは、アビアラの町(さっきの砂漠の町)からでて、タイカイ砂漠に来ていた。
「・・・暑っ!?」
暑かった。めちゃ暑かった。
ていうか、HPがゴリゴリ減るんですけどナニコレ!?ちょ死んじゃう死んじゃう!?
「ってああ!ヤバっ!?ほら!兄ちゃん早くこれ飲んで!」
そう言ってまくらがガラスのボトルをアイテム化し、俺に投げてきた。
「お、おう!」
取り敢えず言われるがままに、それを飲み干す。
「・・・・うめぇ。」
普通に上手かった。なにこれ、三ツ矢サイダーみたいな味がする。色も無色透明だし、炭酸も強めだし。
ていうか、
「・・・暑くない?」
「ここ、地形効果ダメージで、体力ガリガリ削られるんだよねぇ・・・。ウィキ曰く1秒1パー持ってかれるんだって。」
「うわ。何その鬼畜仕様。100秒いたら終了かよ・・・。で、これはクーラードリンクってとこか。」
「そういうこと。名前は三ツ矢サイダー!」
「ってマジで三ツ矢サイダーだったのかよ!?」
「いや、ボトルにマークついてんじゃん。」
「・・・ほんとだ。」
マジかよおい。
「因みに、別に『クーラードリンク』もありますよ。」
「へぇ。それも飲んでみたいね。」
「なんなら今ありますよ?」
「おぉ。じゃあ一つ貰おうかな。代金は払うよ。」
「いいえ。いいですよ。これからかける迷惑料とでも思って頂ければ。」
そう言ってアカリさんは、俺に薄く白い液体の入ったボトルを投げてきた。
「俺の方が迷惑掛けちゃいそうだけどな。まぁ。そういうことなら、ありがたく受け取っておくよ。」
丁度装備も新調しちゃって、金もないし。
試しにボトルを人差し指でタップしてみると、
「・・・カルピス?」
アイテム名は『カルピスウォーター』だった。
「あ、すいません間違えました。本当はこっちです。」
と、彼女はインベントリからボトルをアイテム化し、俺に投げ渡す。
「やれやれ頼むよアカリさん。こういうことはもう無いようにしてくれよ?」
そう言いつつ、俺はその投げられたボトルを受け取り、アイテム名を確認する。いや、まあ、もうボトルのロゴでわかっちゃあいるんだけど・・・・。
「ってこれコカ・コーラじゃねぇか!?」
中々できるぞこの女!?流れというものを心得ていやがる。しかもペプシでなくきちんとコカであることが、俺的には中々ポイント高い。
ていうか、どんだけ食料会社と提携してんだこのゲーム。もうサイゼリヤとか、探せばあるんじゃないだろうか?
「あっはははははははは。お兄さんは面白いですね。」
「アカリさん、そのセリフ、無闇矢鱈に使うなよ?少なくともそのセリフは、男が勘違いしてしまうセリフBEST10には、確実に入ってるから。」
少なくとも彼女に、見た目をイジっているような気配は感じられない。つまりリアルでも美少女なのだ、その分勘違いしてしまう奴も多いだろう。
「さんづけは要りませんよ。後輩何ですから、呼び捨てでも結構です。」
「って言うと、アカリさんはウチの生徒?」
「っていうか、このPTは全員がそうですよ?皆まくらの同級生です。」
「マジか。」
「マジです。」
どうりで仲がいいと思った。
「んじゃあ、遠慮なく呼び捨てにさせてもらうとするよ。」
「全員ストップ。」
そう、まくらが全員の歩みを止めさせる。視界の端に、『Encounter!』という文字が見える。
「どうする?【災厄の中心】のために、ここで吊っ立っとく?」
「そうして。」
「了解。」
んじゃあ、10秒間、お手並み拝見と行きますかね。
因みに敵は、トカゲが3体である。
「―――はっ!」
と、息を吐くとともに、まくらが一撃で、一体を沈める。
その時点で、アカリさ・・・アカリはもう一匹のトカゲに襲いかかっていた。魔法剣士という名乗っただけは有り、剣でトカゲの攻撃を捌きつつ、魔法を撃つ様は、中々に隙がなく、上手いと言える。。というか、普通にトップレベルの実力ではなかろうか?
まくらは仕事は終わったとばかりに佇んでいた。おい働け愚昧よ。とも思ったが、残りの一体は既に既にユイさんによって足止めされている内に、ユキノさんが氷魔法で屠っていた。この間わずか十秒にも満たない。
「いや、強すぎるだろお前ら・・・・。」
しかし現実はゲームの中だろうが非情であった。サメと思しきモンスターが、アカリの後ろからいきなり現れたのである。
が、
アカリは後方から飛来してくる鮫に、ノールックで、剣を突き刺し、それをユキノさんが氷の第一魔法、『レイス』で打ち抜いた。
・・・やっぱり、俺いらねぇよ・・・。仕事ねぇよ手持ち無沙汰だよ。
だって、
「さぁ皆!こっからが本番だよ!」
俺の【災禍の中心】でモンスターが更に追加でPOPしてしまうのだから。
その数凡そ10ってとこか?やはりあの数は異常だったようだ。
「ルーシー、ブースト。【炎の拳】」
俺はそう言いつつ、奴らの元にダッシュで向かおうとするが、
「【決死の特攻】【一撃削命】【千里の長剣】」
そう言うが早いか、早いか、まくらは、モンスターから3mは離れた状態から、目にも止まらぬ速さで、剣を水平に振る。
すると、出現したモンスター10対は、全員まとめて、真っ二つになり、ポリゴン片となって、散ってしまった。
「・・・は?」
いや、待て。どういうことだ?見れば我が妹からは、赤いオーラが立ち上り、心臓のあたりに、十字架のようなマークが浮き出ていた。ちなみに剣の長さは3mもなく、80センチ程度のワンハンドロングソードである。
PTプレイヤーの方たちを見れば、なれているのか、呆れた顔で、諦めてくださいとでも言う様に、両手の平を上に向ける。
「・・・んなアホな・・・。」
「少なくともお兄さんの言えることでは無いと思いますよ?」
「いや、俺は一撃で10体も同時に倒せたりはしねぇよ。」
「いや、一撃で倒せる時点で、おかしいんですけどね?」
「ていうか、お前も大概だろう?何でノールックで背後の敵攻撃できるんだよ。ニュータイプなの?」
「いや、確かに髪とか赤いですけど、あれは【索敵】スキルの応用みたいなもんですよ。索敵って言っても、このゲームはレーダーが画面右上に表示されるわけじゃないですからね。」
「なるほどその手があったか。後で取ろう。」
「これ以上化け物になる気ですか・・・?」
「っておっとそう言ってる間にもPOPして来ちまったぜ?またまくらのやつが、一掃してくれんのか?」
「いいえ。【千里の長剣】は、BSと言った方が近いASなので、次打つまでにクールタイムがあります。」
「何かよくわからんが、俺らでやれってことね。了解した。」
そうして俺たちは、昼飯で落ちるまで、狩りを楽しむのだった。
Makura lv。14
称号 『一撃必殺』
HP 120
MP 36
ATK 1316(+100)
DEF 0(+6)
MATK 0
MDEF 0(+6)
SPD 0
DEX 0
【長剣使い】
【攻撃力上昇(微)】
【背水の陣】
残りHPが1の状態の時、ATKが1.3倍。
【決死の猛攻】AS
DEFが0.5倍になる代わりに、ATKを1.3倍にする。
【一撃削命】AS
与ダメージを1.3倍にする。ただし、一度剣を振るごとに、HPを10%削る。HP1以下にはならない。HPが残り10%未満の場合、解除される。
【千里の長剣】AS
剣のリーチを5m程に伸ばす。ASってよりBS
『一撃必殺』
相手のHPが100%の時、その相手への与ダメージが1.3倍になる。
ちなみにまくらちゃんがPTを組む必要性は、ほぼありませんw
称号は、スキル枠を裂かないパッシブスキルみたいなものです。