シキ武具店。
2019年6月19日午後17時32分。俺は少女に導かれるままに、ルーシーと軽くじゃれあいつつ、一つの店舗に来ていた。発売二日目でもう店舗持ちか!?いや、そう言えばβテスターの特典に、購入した店舗の内1軒をそのまま引き継げるというのがあったはずだ。内装もリセットされてしまうはずだったけれど、そこは既に立派な店舗であった。まあ一日でよくやったもんだと思う。ていうかどうやったマジで。
『シキ武具店』それがこの店の名前だった。恐らくシキというのが、彼女の名なのだろう。この安直なネーミングには、正直好感が持てる。『宵闇の覇者』とかいわれても、はぁ。としか言えないし。
ていうか、
「てっきり布装備を扱う店かと思ったが、金属装備も扱ってるんだな。」
というか、店には金属装備しかおいていないようだ。どこだよ布装備。
「ああ。布装備はあまり売れないからなぁ。店には出さないんだよ。」
「じゃあなんで作ってんだよ。」
「装備であればなんでも揃う!が、この店のモットーだからね!初心者用からワンオフまで!剣士用から魔物用まで!なんなら、その猫ちゃんのも、つくっちゃうよ?」
「発売二日目で、職人レベルがいくつだよ・・・。見てからに学生のくせに、学校はどうしたよ。」
まあ、この質問がマナー違反なのは分かっているが、なんとなくこいつには、言っても大丈夫な気がした。
「―――サボった!」
と、彼女はない胸を張って言った。ほらね。こいつとはリアルで会ったも仲良くなれそうだった。
「胸張っていうことじゃあねぇだろそれ。」
俺は呆れつつそう言う。
俺も人のこと言えないけどね。
「ちなみにこいつは魔物じゃなくて眷属だそうだ。それでもあるかい?」
「―――あるっ!」
「あるのかよ!?」
「いやぁ。眷属って何なのか分かんなかったんだけどね?その猫ちゃんがかぁ。へぇ。」
ルーシーが俺の肩の上に座り、俺の眷属であることを誇るように胸を張る、流石『『プラウド』キャット』愛いやつめ。あとで撫でくりまわしてやろう。
シキと思わしき少女は、興味深そうな目を向けたあと、それを抑えるようにして俺に目を向ける。
「で、この子の装備も作る?」
「できるなら頼む。ってその前に、サンプルあるか?あるなら首輪を貸してもらえると嬉しいんだが・・・・。」
「ん?あるわよ。ほら。」
そう言って彼女は、直様眷属用の首輪らしき物をアイテム化し、俺に投げる。
で、俺がそれを受け取る。これでアイテムの『譲渡』の完了である。
ていうか、
「そんな簡単に渡していいのかよ。俺がパクったら、どうすんだ?」
普通こう言う時は『借用』つまりは貸すもんだろ?
「商売は信用が第一ってね。盗られたら盗られたで、晒しスレに晒されるだけなのさ。ていうかそんなこと言うやつが、盗むわけないだろ?」
商売人こえぇ。
「・・・そりゃどうも。」
俺はウィンドウを開き、譲渡されたアイテムを、ルーシーのステータス画面に放り込む。
が、
するときちんと装備された。
予想は外れたか。てっきり『プラウド』って付くほどだから、首輪なんて付けられないのかと思ったのだが。いや、それだったらまず『眷属』になんてならないか。
俺は彼女から首輪を外し、少し癪だったが、少女にお礼を言うとともに投げ返した。
ルーシーが投げられた首輪をジーッと名残惜しそうに見つめていたのは、猫の習性故なのか。
彼女はやはり「ほらね?」とでも言わんばかりの顔をしながら受け取り、それを出現させたウィンドウに放り込む。
「・・・んじゃあINTに上昇効果のある防具を頼む。VIT無振りだから、所々に鎧があるだけでも着れなくなるだろうから、注意してくれ。あとこいつには首輪と、王冠的な意匠の頭装備を頼む。」
ちなみに王冠的な意匠と言ったのは、こいつが『『プラウド』キャット』だからである
「え?VIT無振りでも、多少の金属なら大丈夫だと思うけど・・・?」
「ああ。悪い。説明が足りなかったな。何故か俺のVITにはマイナス補正がかかってるんだ。」
「あ、もしかしてINTに極振りとかしちゃってる?」
「ん?よく分かったな。」
「そりゃ布装備以外つけらんないわ。知らないようだから教えとくと、極振りすると、その極振りした以外のステータスにマイナス補正がかかるんだよ。ていうか、INT極振りなのに、杖とか持ってないんだね?」
「ん?ああ。まあ、それは見せた方が早いな。これから防具を見繕ってもらうわけだし、」
見たところ、彼女の店の物は、かなり良質のようで、俺は彼女に任せるという意志を、今更変える気もなかった。
「―――【炎の拳】」
そう呟くと同時に、俺の拳に炎が灯る。まあ、当然、彼女は驚き、俺の右手をまじまじを見つめるわけで。
「―――解除。これで相手殴って戦ってんだ。ついでに言うと、足と膝と肘と額にも灯せる。まあ格闘家みたいな戦い方をしている。まあ、それに遭った装備を頼む。」
「・・・分かった。だとすると流石にローブ系は動きづらいだろし、眷属の装備なんてサンプルしか持ってなかったから、新しく作ることになるから少し高くなるけどいい?」
「問題ない。料金はこれぐらいでいいか?」
と、ウィンドウを可視モードにし、彼女にまとめた各種アイテムと、料金を提示する。
彼女は口をヒクつかせたあとに言う。
「ず、随分と多いね?」
「足りないか?」
「いや、充分よ。ていうか、そう簡単に、他人に自分の手の内見せるもんじゃないわよ?」
「まあ、お前なら大丈夫だろう。商売は信用、なんだろ?」
「まあ・・・ね。」
「あ、あと眷属のことは秘密な。まだあまり情報集まってねぇから、公開するならもっと後にしたい。」
「了解したわ。明日渡せるけど、来れる?」
「ああ。」
「んじゃ、決まりね。!」
そう言って、彼女笑った。
「んじゃまたあし・・・・って、お前って、名前なんての?」
俺は踵を返そうとして、思い至って聞く。
「シキ!あんたは?」
そう彼女は、堂々と言った。俺は笑をこぼさずには、いられなかった。
「―――ハカマ、ハカマだ。また明日な。シキ。」
「ああ!また明日な!ハカマ!」
こうして俺は、「シキ」という職人と、ネット上ながら、友達にになったのだった。