露店の通りと俺
2019年7月19日午後17時15分。ルーシーと遊んでいたらいつの間にか17時を回ってしまっていたのだ。猫の肉球というのは、恐ろしきものだ。
俺はルーシーをいつの間にか彼女の定位置となっていた肩に彼女がしなだれかかるように乗せて、露天に来ていた。厳密に言えば、露店の並ぶ通りへだ。まだサービス開始から二日目なのに、もうこんなにも露店持ちの職人がいやがるのかとも思う。
やはりlv11にもなって初期装備とはいかがなもんかということだ。金はソロで狩りまくったから、いくらかあるし、無ければないで、素材でも売ろうと思っているのだが、
「無い・・・・。」
良質な布装備を打っている露天が一切ない。いや、普通に使用に耐えるものならあるのだ。あるのだが、ただでさえ紙防御な、ルーシーから【譲渡】してもらった【驕り】(PS)のせいでさらに紙耐久な俺が、今更布装備を付けたところで紙を二枚重ねるようなものなので、SPDやMATKに上昇補正のかかるものを探しているのだが、これが中々にない。
ていうか、どうやらこのゲームではそもそも『魔術師』には、さほど人気がないようだ。
道行く人は鎧鎧鎧。剣士剣士剣士。
やはり世界を自分の身体で駆け回れるVRMMOでは、フレキシブルに動ける剣士などの近接職のほうが、厳密に言えば機動力のあり、近接戦闘のできる職業が、人気を集めるらしい。従来のゲームだと、機動力重視の近接職って、基本的に不遇だったもんな。近接職だと防御もあげろ!みたいな感じだったし。VRだと、プレイヤースキルとかでまだカバーしやすいけど。システムアシストもあるし。
ていうか、このゲームに魔法いらなかったんじゃね?とか言われる始末である。
まあ、、魔剣士なんてやろうとしても器用貧乏になることがほとんどだし、剣使いの方だたはそうなのかもしれないけれど、俺は魔法なくなったら活動不能だし、ていうか、剣と魔法ってとこにロマンかんじるだろ?
閑話休題。
まあ要するにこのゲーム、布装備を作れる人口が圧倒的に少ない。
まあ、需要が少ないのだから仕方がないのだけれどさ・・・・。
「・・・・はぁ。」
とため息をついていると、左肩をトントンと叩かれた。ちなみにルーシーが乗っているのは右肩である。振り向くと、見るからにも活発そうな女性が立っていた。
皆さん真っ先にネカマか!?と思うだろうが安心して欲しい。このゲームというかVRゲーム全般において、ネカマはいない。というか出来ない。何故なら骨盤の形が違う。例えば現実で男性なら、男性の骨盤の可動域で動くことになれた男性は、女性の骨盤で歩くのは、些か難しいのである。逆もまた然り。もし慣れてしまったら、それは現実世界での生活に支障をきたすこととなるため、売上のためといえど、運営もやらせることはできないのだそうだ。ちなみに同じ理由で、大きく体格を変えることもできないのだが、それはまた別の話だろう。
本日二度目の閑話休題。
で、その活発そうな女性は、笑顔で俺に言う。恐らく、顔はあまりいじっていないのだろうに、結構な美少女と言えるのではなかろうか。
「あんた、布系のいい装備探してんだろ?」
と。
「まあ、そうですけど・・・。」
一応警戒はしつつ返答する。
まあ、裏路地に連れられて、無理やりPvPに持ち込まれようが、対処できるのでさほどの警戒はしないでおく。不敬だしな。あ、でもどうなんだろ?向こうはシステムアシストと、ステータスによる恩恵を受けられるから、やはり負ける確率の方が高いのかもしれない。
「ならウチに来な!ここのよりは、いいもんが揃ってるぜ?」
こんな大通りで、堂々と宣戦布告とは、いい度胸である。
と思い、周りを見渡すが、大顰蹙どころか、皆畏敬の念を抱いているような、そんな感じがする。
恐らくは有名プレイヤーなのだろう。そんな人に仕立ててもらえるとは、至極光栄のいたりである。まあ、もしこれが全部サクラだとするなら、それはそれで彼らの策に弄されたと、潔く負けを認めるとしよう。
「―――分かりました。ではお言葉に甘えて、お邪魔させていただきましょう。精々その自信に見合うものを期待しときます。」
「おう!期待しとけ!」
そう彼女は笑い、ついてこい!と言わんばかりに、身を翻した。もし将来、職人ギルドが出来たら、ギルマスはこの人だなと思わせる頼もしさと風格があった。
俺はこの人を信用し、付いて行くことにした。