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内報

 出禁を食らって1週間ほどしたころ、家に封書が届いた。今どき古風だなと思って中を開けてみると、手書きの文字で「連絡ください」と、履歴の残らない匿名性の高いアプリの名称とIDが記載されたメモが入っていた。送り主の名前なども書いていない。どう考えても怪しいが、メッセージのやりとりだけだから害はないだろうと思い、送ってみた。


『どなたですか?』


『唐雛セイナです。ごめんなさい。わたしのせいで』


 まさかと思った。もちろん最初は半信半疑、いやほとんど信じていなかった。言われてみれば、メモの筆跡は彼女の文字に見えなくもなかったが、メッセージは興味本位で送っただけだ。しかし、初めてあいさつした日のことを覚えていてくれていたり、まだ発表されていないライブの予定を教えてくれて、それがそのあとに正式に発表されたり、SNSに写真を上げる直前に、今からこういう写真、こういう内容を載せるっていう連絡が来て、実際にそのとおりの投稿がされたり、いつしか、当然に相手が唐雛セイナであるという認識で、メッセージのやり取りをするようになっていた。


 彼女によれば、俺の出入り禁止処分は彼女の本意ではなくて、事務所の方針であり、それを解除してもらえるように、事務所に働きかけているから、それまでは大人しく待っていて欲しいということだった。俺としては無理やりライブに行くつもりなど当然なかったのだが、彼女に後押ししてもらえたようで嬉しかった。


 また、彼女が動画投稿サイトに、名前を隠して、『spicy_chick』というチャンネルで歌っている動画を上げていることも教えてもらった。女性が弾き語りで歌っている動画、顔は写っていないし、歌い方も全然違うのだが、彼女の優しく透き通る、それでいて力強くてどこか儚い歌声は、間違いなく本人のものだとわかった。




 1か月ほど、ライブ動画がどうだったとか、写真見たとか、そういったやりとりが続いたあと、彼女が本心めいたメッセージを送って来た。


『アイドルとしてのわたし、唐雛セイナが好きだったらごめんなさい。でも、本当は一人のアーティストとして、動画みたいに弾き語りとかやって、ソロ活動がしたいんです。


 だけど、事務所に反対されてて、事務所から監視されているみたいなんです。今、わたしの部屋の棚に、事務所の社長が部屋に飾るようにって渡して来たぬいぐるみがあるんですが、これにカメラが内蔵されている気がするんです。何か不自然に重くて。でも自分で壊すと疑っているのが事務所にばれちゃうからできなくて。だけど、どうにかしたくて、わたし、両親もいなくて、事務所の社長のおかげで生きているようなものだから、逆らうことができなくて。もし協力してもらえるなら、自宅の合鍵を送ります』


 要領を得ないが切羽詰まっている感じはした。もちろん、二つ返事でOKした。数日後、鍵が送られて来たので、その旨を伝えたところ、すぐに返事が来た。


『ありがとうございます。次7月3日のライブ中、わたしがいるはずもない時間に、かわいそうだけど鳥さんのぬいぐるみの中の隠しカメラを壊して欲しいです。落し物とかしちゃうとまずいので、なるべく手ぶらでお願いします。台所に包丁があるからそれを使ってください。


 あと、できればなんですが、別で盗聴器もあるみたいだからもし見つかればそれもお願いします。なくても事務所の人がマンションに送りに来ちゃうから、22時までには帰ってください。あと、わたしがお願いしているので、配達のときみたいに普通に入ってきてくださいね』


 首尾は理解した。緊張はするが彼女の言う通りにすれば大丈夫だろう。当日の日中、メッセージが来た。


『いよいよですね、こっちも緊張します。玄関脇の靴入れの中に黒いナイロンの袋が入ってますので是非持ってってください。お土産です。あと、暑いので冷蔵庫の中のペットボトルの水とよかったらレモンサワーもどうぞ。お酒はここだけの秘密ですよ。あ、全部秘密ですね。では、お願いします』


 あとは、仕事をこなすだけ。誰かに頼りにされるのは悪くない。これこそ幸せだと思った。


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