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「俺が勇者一行に?嫌です」(連載版)  作者: 東稔 雨紗霧


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勇者サイド


 「嫌です、無理です、お断りします」


 そう言って僕からの誘いをにべも無く即座に断った彼はそのまま僕に視線も向けずに紅茶を飲む。

 そんな彼をジッと見つめてみるけれども、彼は僕とは頑なに視線を合わせようとしなかった。

 他の人達なら僕がこうやって見ていると直ぐにソワソワしだしたり、照れたり、うっとりと見つめ返してきたり、僕に近付こうとしてきたりするのだけれども、彼の行動はそのどれにも当たらない。

 本当に僕に興味が無いのだと全身と態度で示してくれる彼に嬉しくなって自然と笑みが零れた。


 「やっぱり、君は他の人とは違うね。僕の気のせいかなって思っていたんだけどそうじゃないみたいで良かった」


 僕がそう言うと彼は眉を顰め、手にしていたカップをソーサーに置く。


 「俺に何を求めているのかは知りませんが、俺は勇者様の期待に応えられる様な人間じゃないですよ」

 「ううん、君は僕の期待以上の人間だよ!やっぱり、君に仲間になって欲しいな」

 「嫌です」


 彼がどれだけ拒否をしようと僕の希望を周りの人達は叶えてくれるし魔王討伐に絶対に必要だからと言えば反対する意見も出ない。

 だから本人の意思に関係無く彼は僕と一緒に勇者パーティーのメンバーとして魔王討伐の旅に出る事になった。

 もの凄く嫌だと態度で示されたし本人にも直接言われたけれども、悪いけれど僕の中には彼を手放すと言う選択肢は存在しない。

 彼の様な人ともう二度と出会えるとは思えなかったからね。

 出発前に見た訓練で彼の戦闘センスの無さを目の当たりにした僕は世の中にはこんなに戦いに向かない人間が居るのかとびっくりしたし、僕の希望で一緒に行く事になったんだから僕が絶対に守ってあげようと決意した。

 元々、僕は一人で魔王討伐に行く気だったんだけど、仲間になった彼の戦闘センスの無さを見た国の人がそれならばと国が餞別した人を仲間にする様にと言ってきた。

 戦いで多勢に無勢になったら彼を守れなくなるだろうと言われ、勇者の仲間と言う肩書を持った人が欲しい偉い人達の方便だとは分かっていても、確かに一理有るなと思ったからそれを受ける事にした。

 そうしてパーティーメンバーになった聖女、聖騎士、魔術師は国が餞別した人選なだけあってそれぞれのエキスパートで凄い人達だったからこの三人もいれば問題無く彼を守れるなと安心した。

 この三人のせいで僕から彼が離れる事になるとは思わず。


 彼は自分が戦えない事を気にして役に立たない自分をパーティーから追放した方が良いって度々言ってくるけれども、僕からすれば彼こそが替えの効かない唯一の存在だ。

 旅をする内に崇拝に近い眼差しで見てくる様になった三人と違って彼は過剰な好意を含まない目で僕を見てくれる。

 僕は彼に出会うまで好意の眼差ししか向けられてこなかったから、好意を含まない視線を向けてくれる彼が一体どんな気持ちを抱いて僕の事を見ているのかは分からない。

 出会った時の様な暗く諦念した強い拒絶を感じさせる眼差しを見せる事は無いけれども、それでも彼が僕の事を過剰に素晴らしい人間だと褒め讃えたり過剰に尽くそうとしないだけでも僕は嬉しかったし、僕が好意を利用して人から何かを貰おうとした時に彼から諫められた時には僕を普通の人間として見てくれているんだと泣きそうになった。

 彼に興味を抱いたきっかけは僕への好意を感じ無いからだけれども、だからと言って彼と仲良くなりたくない訳ではない。

 一緒に旅をして交友を深めて、その時々の彼の視線にはどう言う感情が込められているのかを分かる様になりたいし、いつか出会った時に何故あの目をしていたのかを知れたら良いなって僕は思っていた。


 仲間に入れて欲しいと媚びを売って来る他の人とは違い、寧ろパーティーから追放されたがる彼は本当に面白いし彼に呆れられたくないから好意を利用してタダで物を貰おうとか悪い事をするのを辞めた。

 彼が居るから僕はちゃんと人として剣を振るえる。

 他の三人は彼をパーティーから追放すべきだと言ってくるけれども、元々彼を見つけるまでは魔王討伐には一人で行こうと思っていたから別に彼が足を引っ張っているとかお荷物だなんて考えた事は無い。

 むしろ僕からすればこの三人の方が邪魔だしね。

 彼は僕にとって大事な存在だから彼を無下にする事は許さないと三人に伝えたら納得してくれたのかそれからは彼を追放なんて言わなくなった。

 僕は彼を追放する気は無いし、僕には彼が必要だ。

 ちゃんと彼にもそれを伝えていたのに僕の気持ちは三分の一程も彼には伝わって居なかったみたいだ。


 あの日、珍しく彼の方からみんなで飲もうと誘ってくれて僕は本当に嬉しかったんだ。

 本当は二人きりが良かったんだけど、彼はみんなでと言っていたしここでごねて誘ってくれなくなったら困るから今回は我慢して次は二人で飲もうとか僕は考えていた。

 上機嫌でエールを注いでくれる彼と肩を組みながら笑っていたのを覚えている。

 嬉しくって、楽しくって、いつもよりも多くエールを飲んでしまった僕はそのまま酔いつぶれて、目が覚めたら彼は居なくなっていた。

 ショックだった。


 「彼は元々勇者様の様な特別な存在とは違うのです、凡庸な者には魔王討伐と言う使命は重すぎました。だから彼は逃げ出したのです」

 「聖女様の言う通りだ。重大な使命を投げ出す様な者は勇者様には相応しくない。彼の事は放って我々は旅を続けましょう」

 「元々居ても居なくても同じ何の役にも立たない存在だったのですから気にする事はありませんよ」

 「魔術師の言う通りです。戦う皆さんとは違っていつもわたくしの背で震えているだけでしたもの」

 「そうだな。戦えない、獲物を狩る事も出来なければ料理も出来ない。はっきり言って彼は足手纏いだった」

 「そうですよ。我々の様な優秀な人間とは格が違うのです」


 そう口々に言ってくる三人に僕はこいつらが彼を追い出したのだと確信した。

 僕は自分に好意を向ける人間の行動をもっと良く考えるべきだったのだ。

 好意があるから僕の嫌がる事はやらないだろうと高を括っていた。

 僕から特別扱いを受ける彼が気に喰わないから、こっそり彼を追い出そうと考えるなんて想像だにしていなかったのだ。

 混乱状態を付与してくる敵に遭遇して全異常状態を解除できる聖女も混乱状態に陥り同士討ちをしそうになった時、彼の用意してくれていた状態異常解除のポーションで助けられた事があった。

 他にも彼の細々とした気遣いで旅の間はとても助けられたし、彼が何処かから仕入れてくる噂話とかの情報も凄く役に立っていた。

 今だって彼が最初に言っていた防護力大アップのマジックアイテムを手に入れる為に王都近くまで引き返している。

 あの時は他のみんなが確かでも無い噂話の為に時間を割くべきじゃないと言うからそのまま旅に出たのに、結局は彼の言っていた場所へと引き返す事になり時間を無駄にしている。

 何の役にも立たない?とんでもない!

 彼の素晴らしい価値をどうしてみんな理解出来ないんだ!


 三人が何か言っていたけれども、何も耳に入らず僕は何とかして彼を取り戻す事だけを考える。

 一緒に旅をした日々で出会った頃よりも彼に対する僕の気持ちも当初より強くなった。

 やっと見つけた他の人とは違う僕の、僕だけの光。

 それをここで永遠に失ってしまうのか?

 そんなのは耐えられない。


 「あんな方の事など忘れて旅を続けましょう、目的地まではあと少しですもの。魔王城への道のりもやり直しになりましたしここから更に頑張らなくては!」


 僕の唯一をあんな方と言い放つ聖女に不快な気持ちになる。

 いつだって世界は僕に優しかったから、人に対してこんな感情を抱いたのは初めてだ。


 「そうだね、じゃあ君らはこのまま王都に戻って良いよ。もう必要ないから」

 「……え?」


 僕の言葉に聞き間違いかと首を傾げる聖女に僕の方が不思議になる。

 元々僕は一人で魔王討伐に向かうつもりだった。

 それを彼が居るからと他の三人をねじ込んできたのはそちらの方だ。

 彼が居ないのにこの三人といる意味は無い。


 「我々は今まで勇者様のお役に立って来たではありませんか!?それなのに何故その様な事を?!」

 「え?君らを戦いの最中に助けた事はあったけれども、別に僕は君らに助けられた事は無かったよね?怪我をした事も無いから回復された事も無いし、そもそも僕は自分で回復もバフも掛けられるから聖女はほぼ君達の為に居た様なものじゃないか」

 「それは……」

 「魔術だって僕は全属性の初球から上級までの魔術を使えるし、魔術師は聖騎士の君が撃ち漏らした魔物を倒す事しかしていなかったよね?」

 「わ、私は偶々活躍の場が無かっただけで……」

 「正直に言って君らの事は邪魔だなと思っていたんだけども、彼を守る為には居てくれた方が万全かなと思って受け入れていただけだし、彼が居なくなった今ではもう君達も必要ない」

 「そんな……!」

 「待ってください!それは今まで彼と言う守る対象が居たからであって我々の本領はこれからです!」


 聖騎士の言葉にテーブルを爪先でコツコツと叩く。


 「彼が居るから受け入れたのに彼が居るから本領発揮出来ないって本末転倒だよね?そもそも、聖騎士は人々を守りながら戦うのが本職なのに守りながら戦えないのは実力不足じゃないかい?どの道、そんな人をパーティーに入れておく必要は無い」

 「それは、言葉の綾で」

 「綾?君の聖騎士としての誇りはその程度なの?」

 「いえ、そんな事は」

 「話にならない」


 コツコツとテーブルを叩くたびに蒼褪めて行く三人に溜息を吐く。


 「そう言う事だから君達とはこれで終わりだね」

 「ま、待ってくださいませ!」


 席を立とうとする僕を決死の表情で聖女が止める。


 「何?僕は忙しいんだけど」


 これから彼を探しに行かないといけないんだ。

 ぐずぐずしてたら彼を見つける手掛かりを失ってしまう。

 この三人も居なくなるし、彼を見つけたらマジックアイテムを取りに行って彼に付けよう。

 そうすれば彼も安心して旅に付いてこれるだろうしね。

 うん、それが良い。

 そうしよう。


 「わ、わたくし達が居れば彼を探す事が出来ます!」

 「手配された馬車の行き先を調べれば直ぐに分かるでしょ」

 「か、彼はそこから徒歩で移動するとおっしゃってました!その調べ方では直ぐに見失ってしまいますわ!」

 「……へぇ、それで?」


 続きを促す。


 「わたくしの父の伝手を使えば彼を探すのも容易くなります!このままマジックアイテムを探しに行く者と王都へ行き捜索願いをする者に分かれれば効率良く旅を続けられますわ!」

 「別に僕は効率とか求めていないからこのまま彼を探して見つけてからマジックアイテムを取りに行っても何も問題はないよ」

 「それは、」

 「ああ、魔王はちゃんと倒すから気にしなくて良いよ。それが何時になるのかは断言出来ないけどね。話はそれで終わり?じゃあ僕は「待ってくださいお願いします!もう一度チャンスを下さい!!」


 聖騎士が土下座をし、額を床へと擦り付ける。


 「勇者様が魔王を倒すのが遅くなればそれだけ無辜の民が傷付き、被害が増えて行くのです!我々の愚かさのツケを民に払わせる訳にはいかないのです!」

 「お願いします、彼の事は価値を見誤った私達の責任なのです!どうか、どうかこの通りです!」


 魔術師も聖騎士の隣で同じ様に土下座をして嘆願してくる。

 僕も悪魔では無いからそこまでされると流石に少し考える。

 でも、それはそれとして。


 「君はそのままなんだね」

 「っ!」


 僕の言葉に肩を震わせた聖女は服の長い裾を握りしめる。


 「わ、わたくしは……」

 「別に良いよ、土下座して欲しい訳じゃないし。ただ、君の反省はその程度なんだねってだけだから」

 「……っ!」


 本当に土下座させるつもりは無かったしそう伝えたのに震えながら聖女も二人と同じ格好になった。

 いくら土下座されようと今ここに彼が戻って来る訳では無いから別に意味が無いのになんでみんなして土下座するんだろう?

 これで無碍にしたら僕が酷い人みたいじゃないか。


 「はぁ、分かったよ。このまま王都に寄って彼の捜索を手配、その後にマジックアイテムを確保しに行くから。その代わり、彼が見つからなかったら……分かっているよね?」

 「「「はい!」」」


 そうして王都で彼の捜索依頼を出した。

 その過程で聖女が実は姫君だとか判明したけれどもだから何?って感じだし、王族ならその力で全力で彼を見つけて欲しい。

 依頼後に当初の予定通りマジックアイテムを入手する為にダンジョンへ向かう。

 そのダンジョンで魔王城に入る為の重要な手掛かりを発見して顔色を悪くする三人にそら見た事かと僕は呆れかえった。

 最初から彼の言葉の通りにしていればここまで戻る事も無く、円滑に魔王城へ入って戦えただろう。

 僕が魔王を倒すのが遅れればそれだけ被害は増えていく。

 そう言っていた自分達が一番僕の足を引っ張って被害を増やしていた事に気付いた三人は蒼い顔になる。

 彼を蔑ろにしなければ一体どれほどの命が救われたんだろうね?

 自分達がどれ程愚かだったのかを漸く理解出来た様で何よりだよ。


 旅を続けながら彼に関する情報の一報を待ち、遂に彼と思わしき人物の情報が入った。

 魔王城とは全然違う地域に向かい、街の中を必死で探して漸く彼の姿を酒場で見つけた時、嬉しすぎて僕は膝から崩れ落ちそうになった。

 そんな僕の事を露知らず彼は新聞を見ながら美味しそうにジョッキを傾けている。

 その呑気な姿に笑い出しそうになった。

 折角、僕から逃げようとしたのに可哀想にね。

 彼に逃げられそれを追っている内に僕の中にあった彼へ向ける感情はいつしかドロドロとした重い執着へと変わっていた。

 僕から逃げたせいで彼は二度と僕から離れられなくなった。

 僕から逃げたかったのに可哀想にね。


 相席を頼むと彼が新聞から顔を上げ、僕の姿に目を見開く。

 ああ、その表情は初めてみた。


 「こんな所にいたんだね、探したよ」

 「は、はあ」

 「僕に黙って居なくなるなんて酷いんじゃないかい?」

 「……」

 「みんなに聞いたよ、旅に同行する事を気に病んで居なくなったって。何度も言ったけれども、君の事は僕が絶対に守るし君は何も心配しなくて良いんだよ。僕と一緒に居てくれるだけで良いんだ。みんなも協力してくれるってさ!」


 エールの入ったジョッキを黙って傾ける彼に如何に君が必要なのかを語り、もう君を邪険にする者は居ないし戻ってきても大丈夫だよと説明をする。


 「だから安心してパーティーに戻ってきて!僕は絶対に君を手放したりしないから!」



✻✻✻



 喜んでくれるかなと思いながら再び彼を勧誘すると、最初に仲間になって欲しいとお願いした時に見せた暗く諦念した強い拒絶を感じさせる眼差しで彼は僕の勧誘を素っ気無く断った。

 いつぞやの再演の様なやり取りに思わず笑みが零れる。

 あの頃は拒否されるとは全く考えていなかったから面食らってしまったのだっけ。

 でも、今の僕は違う。

 彼が自分の意思をしっかりと持つ人間なのだときちんと理解している。


 彼本人が拒絶した所で最終的には僕の希望が叶えられる事は分かっているけれども、結果的に同じだとしても過程は大事だよね。

 僕は彼の前で跪いて手に入れたマジックアイテムを差し出す。

 ビロード箱の中で銀の輝きを放つ指輪型のマジックアイテムに彼が困惑しているけれども関係ない。


 「絶対に君を守る。君の髪の毛一本だって敵には傷付けさせないと誓うから僕と一緒に居て欲しい」


 どうして彼が他の人間と違うのか、それはまだ分からないけれども僕は彼が傍にいてくれるのであれば理由など最早どうでも良かった。


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