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「30歳童貞の俺、女の子を徴収する国家制度の本音が見えるようになったので潰します」  作者: 厚焼


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第4話 守る覚悟の行き先


村の門が新しくなったのは、

ミーナたちが連れ去られて、三ヶ月後だった。

鉄の補強。

見張り台。

交代制の警備兵。

すべて、金で買い、雇った。

制度で得た金で。

いや、

ミーナたちを売って得た金で。


「これで、もう大丈夫だ」


村長はそう言って笑った。

誰も反論できなかった。

守れるならいい。

これから、これ以上、連れて行かれないならいい。

そう思うしかなかった。

しかし、

その金で得たものは、

実際の“守る力”ではなかった。

午前、

森の奥から、音がした。

ぐちゃり。

ぐちゃり。

湿った足音。

次の瞬間、


「ブラックゴブリンだ!!」


悲鳴が村を裂いた。

数は五十を超えていた。

武器を持った群れ。

棍棒。錆びた剣。骨の槍。

飢えた目。

警備兵たちは動揺した。

いつもなら、夜に奇襲が来る。

明るい時間に来るなんて、想定していなかった。

さらに、ただのゴブリンではない。

ゴブリン最上位のブラックゴブリンだ。


「冗談じゃない! ブラックゴブリンなんて聞いてないぞ!」


兵の中には、数合わせの男たちが多くいた。

金で雇われただけの男たちだ。


「囲まれるな!」


「くそっ、数が」


一人が倒れた。

引きずられる。

叫びが途切れる。

門が――破られた。

鉄の補強が軋む。

蝶番が裂ける。

金で築いた防壁は、

ブラックゴブリンの覚悟の前では、

あまりにも脆かった。

俺はその頃、森にいた。

丸太を担いでいた。

一本。

二本。

三本以上を、束ねて両肩に乗せている。

重い。

だが、耐えられる。


「……まだまだ」


そのときだった。

村の方角から、兵士が走って逃げていく。

一人。

また一人。

顔色が違う。

恐怖。


「なんだ……?」


胸が騒いだ。

嫌な予感。

鼓動が速くなる。

俺は丸太を落とした。

同時に、

自分にかけていた魔力遮断を、解いた。

溢れる。

身体の奥から、熱が戻ってくる。


「――肉体強化」


脚に魔力を流す。

地面が、弾けた。

走る。

風が裂ける。

間に合え。

間に合え――!

村が見えた。

煙。

叫び。

血の匂い。

家の前を通り確認する。

無事だ。

扉も、壁も。


「……よかった」


だが、安堵は一瞬だった。

門の方へ走る。

角を曲がった瞬間、

地獄があった。

血。

炎。

倒れた人影。

そして。

一人の剣士。

短い髪。

泥と血で汚れた顔。

少女だった。

剣が閃く。

一太刀。

ブラックゴブリンの首が落ちる。

速い。

だが。

数が多すぎる。


「……っ、くそ! 数が多い!!」


少女は歯を食いしばり、前に出る。

退かない。

守るために。

そのとき。

一体のブラックゴブリンが、横から抜けた。

子どもに向かって走る。


「――!」


間に合わない。

俺は手を伸ばした。

だが、

身体が、止まった。

見えたからだ。

ブラックゴブリンの顔。

牙。

濁った目。

あの日と、同じ。


【本質看破:発動】

――対象:自己

【ゴブリンが怖い】


知っていた。

分かっていた。

それでもなんとかできると思っていたんだ・

足が、動かない。


「……くそっ」


震える。

逃げたい。

だが。

逃げた先に、何がある。

また失う。

また守れない。

それだけは、嫌だ。


「ああぁぁぁぁあ!!!!! ――いけぇ!」


叫びながら、魔力を解放した。

【水球】

巨大な水の塊が生まれる。

不格好な球。

揺れる。

崩れそうになる。

それでも。

飛べ。

一直線に。

ブラックゴブリンの目の前で――弾けた。

圧縮された水の刃が、散る。

ブラックゴブリンの目を裂いた。

悲鳴。

止まる。

その隙に、親が子を抱き、逃げた。


「助かった……!」


声が聞こえた。

だが、俺はそれどころじゃなかった。

手が震えている。

偶然だ。あんなの狙っていない。

少しズレていたら。

子どもを巻き込んでいたかもしれない。


「……こんなの戦えない」


そのとき。

横を風が抜けた。

剣士の少女だった。

一閃。

ブラックゴブリンが倒れる。


「魔法使い!」


振り向きざまに叫ぶ。


「群れに向かって、もう一度!」


「待ってくれ! さっきのは――」


「早く!」


迷いがない声だった。


「私が、全部斬る」


彼女は、かずしを信じているのではない。

任せているわけでもない。

使えるものを、使う。

それだけの声だった。

俺は目を閉じる。

恐怖がある。

消えない。

なら。

抱えたまま、やる。


【本質看破:発動】

――対象:自己

【できる】


精密じゃなくていい。

美しくなくていい。

ただ。

届けばいい。


「――いけぇ!!」


巨大な水球が生まれる。

歪な球。

だが、

前へ飛ぶ。

群れの中央で弾けた。

水の刃が、降る。

悲鳴。

止まる。

その瞬間。

剣士が、消えた。

速い。

次の瞬間には、ブラックゴブリンの中にいた。

斬る。

斬る。

斬る。

無駄がない。

最後の一体が逃げた。

森の奥へ。

剣士は追おうとして、一瞬立ち止まった。

血。

倒れた人。

泣き声。

静寂。

戦いは、終わった。

村長が、膝をついていた。


「……こんなはずじゃ……」


誰も答えない。

答えは、もう出ている。

そのとき。

剣士が言った。


「金は、盾にならない」


冷たい声だった。


「覚悟のない場所に、剣は集まらない」


村長は何も言えなかった。

剣士は、俺を見る。

鋭い目。

測る目。


「名前は? 」


俺は聞いた。

剣士は少しだけ黙り、


「……名乗るほどの者じゃない」


そう言って、背を向けた。

去ろうとする。


「待ってくれ!」


声が出ていた。

剣士は止まらない。


「どこに? 」


答えは、短かった。


「逃がした一体を、追う」


当然のように言う。

それが当たり前のように。

剣士は、森へ走り出した。

迷いなく。

一人で。

俺は、その背を見た。

強い。

本当に強い。

だが、一人だ。


「……」


気づけば、

俺も、走り出していた。

恐怖は、消えていない。

それでも。

止まらなかった。


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