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「30歳童貞の俺、女の子を徴収する国家制度の本音が見えるようになったので潰します」  作者: 厚焼


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第二話 女性支援援助法

翌朝、村の広場は重苦しい空気に包まれていた。

白い馬車が三台、並んでいる。

一台だけでも異様なのに、三台。

逃げ場なんて、最初から用意されていないみたいだった。

昨日より多くの村人が集まっていた。

それでも、誰も声を上げない。

泣き叫ぶ者もいない。

ただ、見ている。

並ばされていたのは、ミーナだけじゃなかった。

年の近い少女が三人。

そして、その先頭に一人の女性。

背筋を伸ばし、他の子たちを庇うように立っていた。

薄めの化粧。

けれど、その奥にある覚悟は、はっきりと見えた。


「……マリアさん」


思い出す。

隣村から来た人だ。

家族の借金を背負っていると、聞いたことがある。

ほどなくして、役人が現れた。

昨日の男とは違う。

腹の出た中年。

制服は着ているが、着崩れている。


「では、徴収を開始する」


その一言で、空気がさらに重くなる。


「これは新法に基づく正式な手続きだ」


男は書類を掲げながら続けた。


「国が保護し、職を与え、報酬を支払う。感謝されるべき制度だ」


言葉は、正しい。

制度も、正しいのだろう。

けれど。

役人の視線が、少女たちの身体をゆっくりと舐めていた。

値踏みするように。

商品を見るみたいに。

そして


「ほう」


役人の手が、マリアの肩に触れた。

仕事だから、という顔で。


「スリムで良いなぁ……」


マリアの顔が歪む。

嫌悪、明確な拒絶。

だが、振り払えない。

その瞬間。

俺の視界が、歪んだ。

文字が浮かぶ。


【本質看破:発動】

――対象:中年役人ザガン

【制度があるから、好きに触れていい】


さらに、奥。

隠しているつもりの、本音が見える。


【若い身体に触れたい】

【権限で支配している実感が欲しい】


理解してしまった。

こいつは、

制度を守っている側じゃない。

制度を、利用している側だ。


「まずは確認する」


ザガンは書類を見ながら、一人ずつ視線を向ける。

マリア。

ミーナ。

サラ。

視線が止まるたび、口元が僅かに緩む。

そのたびに、文字が浮かぶ。


【誕生日を迎えれば、なんでもできる】

【いろんなところに触れたい】

【いろんなところの匂いが嗅ぎたい】


吐き気がした。

気づけば俺は、前に出ていた。


「……ザガン」


役人の眉が動く。


「それ、本当に仕事だからやってるのか?」


「何だ、この若造は」


ザガンの目が細くなる。


「これは法に基づいた――」


「違う」


言葉を遮る。

止まらなかった。


「触りたいからだろ」


空気が凍る。

誰も動かない。


「権限があるから、好きにしていいと思ってる」


ザガンの顔が赤くなる。

怒りか、それとも。

図星か。

だが次の瞬間。

男は、笑った。


「……馬鹿げている」


それだけだった。

それだけで、話が終わった。

証拠はない。

本質は、俺にしか見えない。

制度は正しい。

書類も正しい。

だから。

俺の言葉は、何の意味も持たない。


「連れていけ」


兵士が、少女たちの肩に手を置く。

文字が浮かぶ。


【俺たちも触れる】


拳を握る。

何もできない。

ミーナが、こちらを見る。

泣いていない。

助けも求めていない。

諦めている。

それが、一番辛かった。


『かずしお兄ちゃんバイバイ』


マリアが振り返る。

小さく笑った。


「……そんなこと言ってもね」


囁く。


「お金には、ならないのよ」


扉が閉まる。

音が響く。

終わりの音だった。

かずしは押さえつけられた。


「ではこちらが報酬になります」


村長は重苦しそうに、両手で受け取った。


「ありがとう、ございます」


馬車が、動く。

止められない。

止められなかった。

残ったのは、金と。

何もできなかった俺だけだった。

夜、部屋で、悶々としていた。

水晶板を呼び出す気にはなれなかった。

真実は見えた。

本質は見えた。

けれど、

見えるだけだ。

それだけじゃ、誰も救えない。

拳を強く握る。

血が滲む。


「……力が要る」


法律を動かす力。

金を動かす力。

世界を動かす力。

奪われる側じゃなく。

動かす側へ。


「……待ってろ」


小さく呟く。

今度は、自分から逃げない。


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