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「30歳童貞の俺、女の子を徴収する国家制度の本音が見えるようになったので潰します」  作者: 厚焼


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第一話 選ばれたのは君だった

魔法水晶板が、淡い光を放っていた。

空中に浮かぶ映像の中で、笑顔の女の子が振り返る。

白い浜辺。揺れる金色の長い髪。水着。

「……はあ」

俺――かずし、30歳は、思わずため息をついた。

今日は誕生日だ。

童貞のまま30歳になると魔法使いになれる――

が、俺には関係がない。

なぜなら。

パチン、と指を鳴らす。

空中に魔法陣が浮かび、水晶板が反応する。

映像が拡大され、少女の笑顔が、目の前いっぱいに広がった。

もう一度、ため息をつく。

俺は、魔法が使える。


「今日も平和だなぁ……」


「平和じゃないよ!」


背後から飛んできた声に、水晶板が揺れた。

映像がぶれ、霧のように散る。

振り返ると、母さんが腰に手を当てて立っていた。


「入るときはノックしてって!!!」


「ごめんごめん」


水晶板は完全に消えた。


「またそんなの見て! 魔力の無駄遣いだって何度言えば……」


「いや、研究だよ研究。人類美学の探究」


「嘘おっしゃい!」


母は呆れたようにため息をつき、食事の皿を机に置いた。


「……前は、」


そこまで言って、言葉を止める。

俺も、何も言わなかった。

いや、言えなかった。

俺は、村では有名な落ちこぼれだからだ。

幼い頃は、“天才魔法士”と呼ばれていた。

だが、

モンスターを前にすると、身体が動かなくなる。

動悸が止まらない。

詠唱が乱れる。

集中が、霧散する。

魔法が、使えない。

つまり。

【期待外れ】

その言葉を、何度も聞いてきた。

だから。

こうして女の子の映像を見て、現実逃避していると、

そう言われても、否定できない。

外に出る。

空気が重い。

畑の一角が踏み荒らされ、木柵には新しい爪痕が残っていた。


「また……ゴブリンか」


今年に入って三度目だ。

討伐依頼を出すには金がいる。

だが、この村にそんな余裕はない。

村の猛者を集めて、どうにか対処する。

その繰り返しだ。


「……限界が近いな」


世界は、少しずつ壊れていた。

その日の昼過ぎだった。

白い馬車が、村に現れた。

光沢のある外装。

汚れ一つない旗。

国の紋章。

ざわめく村人たちの前で、役人は穏やかに頭を下げた。


「皆さまの生活を支援するため、新たな制度が施行されました」


柔らかい声。

整った笑顔。


「若い女性を国で保護し、食住を提供します。そして報酬を支払います」


村がざわつく。


「……どういう意味だ?」


村長が問う。

使者は答えた。


「説明しましょう」


その説明を聞いたとき。

村長の顔から、血の気が引いた。

そして。

震える声で、名前を呼んだ。


「……ミーナ」


村一番の可愛い子だった。

いつも笑っていて。

誰にでも優しくて。

家族のために働いていた。

視線が集まる。

ミーナは一瞬だけ目を伏せ――

そして、微笑んだ。


「大丈夫です。私、行きます」


強がりだった。

誰の目にも明らかだった。

だが、誰も止められなかった。

金も力もない。

拒否する資格すら、この村にはなかった。

夜になり俺は一人、部屋で寝転がっていた。

魔法水晶板を呼び出す。

いつものように、女の子の映像が浮かぶはずだった。

けど、何も見たいと思えなかった。

頭に浮かぶのは―、

ミーナの横顔。

血は繋がっていないが、妹のような存在。

こんな状態の俺に変わらず、お兄ちゃんと呼んでくれた。

だが、ミーナのその目は、諦めていた。

その瞬間、

胸の奥が、熱くなる。

視界が歪む。

光が浮かび上がる。

【本質看破:発動】


「……なんだ、これ」


文字が現れる。

――対象:女性支援援助法


【王族が、若い女の子を好きにするための制度】


理解が、流れ込む。

これは。

“本音”を見る力だ。

拳が震える。


「ふざけるなよ……」


生まれて初めて、本気で思った。

守りたい、と。

笑っていた彼女を。

諦めていた彼女を。

奪わせたくない。

そのための力が、欲しい。

その夜、俺は決めた。

現実から逃げない。


「待ってろ、ミーナ」


俺は立ち上がった。

これは、かつて天才といわれた魔法使いが

本物になる物語の始まりだった。


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