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臨界レコード― Dead Men Tell No Tales  作者: 優未緋


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第27話 観測ログ


倉庫の中にはまだ火薬と作動油の匂いが残っていた。


床には壊れた義体の残骸が転がっている。関節部の人工筋肉が切断され、内部フレームが露出していた。破断した油圧ラインから黒い液体がゆっくり流れ出し、コンクリートの床に小さな水たまりを作っている。


蛍光灯がかすかに唸っていた。


時々、光がわずかに揺れる。


黒瀬がショットガンを肩から下ろした。ポンプを引き、薬室を確認する。空薬莢が床へ落ちた。金属の乾いた音が倉庫に響く。


「企業の回収部隊ってわりには、ずいぶん荒っぽいな」


凛はレールガンの銃身をゆっくり下げた。電磁コイルの駆動音が徐々に弱まり、内部の冷却ファンが静かに回り始める。


「回収って言うより、消去」


蒼は倒れた義体の横にしゃがんでいた。ナイフの刃先で胸部装甲の隙間をこじ開け、内部構造を覗き込む。


久世が近づいた。


靴底が油でわずかに滑る。歩幅を少しだけ調整し、義体の横に立つ。ポケットから煙草を取り出し、一本くわえた。


ライターを鳴らす。


火が小さく揺れ、煙がゆっくり立ち上る。


「エニマ」


義眼の奥で声が返る。


「いるよ隊長ォ」


「通信」


「まだ繋がってる」


久世は煙を吐いた。


「どこ」


少し間があった。


「東亜」


黒瀬が低く笑う。


「やっぱりか」


蒼が義体の内部から小さなユニットを引き抜いた。細い通信モジュールだ。破損しているが、回路はまだ完全には死んでいない。


蒼が久世へ差し出す。


「これ」


久世は煙草を指に挟んだまま、ユニットを受け取る。手のひらの上で軽く転がす。金属表面に刻まれた刻印を確認する。


東亜重工精密。


黒瀬が肩をすくめる。


「証拠品だな」


凛が端末を取り出した。


「ログ吸い出す?」


久世は煙草を灰皿代わりに床へ落とした。靴で火を踏み消す。


「やって」


凛は膝をつき、端末を接続する。ケーブルがユニットの端子へ差し込まれる。画面にコードが流れ始めた。


蒼は倉庫の入口へ歩く。


外の様子を確認する。風が少し強くなっている。遠くの高速道路からタイヤの音が微かに聞こえてきた。


黒瀬が倉庫の天井を見上げた。


「ドローン来るな」


久世も視線を上げる。


数秒後、遠くで小さなモーター音が聞こえ始めた。


警察ドローン。


黒瀬がショットガンを背中へ回す。


「撤収だな」


凛が端末を外した。


「ログコピー完了」


久世が小さく頷く。


「行くわよ」


四人は倉庫を出る。


夜風が油の匂いを薄く運んでいく。スープラが路地の奥に静かに停まっていた。街灯の光がガンメタのボディを鈍く照らしている。


黒瀬が助手席に乗り込む。


凛と蒼が後部座席へ。


久世が運転席に座り、キーを差し込む。


エンジンが低く唸った。


車体がゆっくりと動き出す。


倉庫の前を離れ、スープラは夜の工業地区を滑るように走り始めた。


その頃。


東亜重工精密 本社ビル。


最上階。


特務部フロア。


モニターの一つに、新しいログが表示されていた。


戦闘記録。


義体回収部隊。


全機能停止。


東雲迅が画面を見ている。


椅子に座り、片肘を机に置き、指先で顎を支えている。表情はほとんど変わらない。


モニターの中央には、倉庫内の戦闘映像が映っていた。


久世玲。


黒瀬。


緒方凛。


緒方蒼。


東雲は再生を止める。


画面が静止する。


「予想通り」


小さく呟く。


コンソールが新しい信号を受信する。


Λ観測ログ。


観測対象

久世玲


東雲の義眼の内部表示が微かに光った。


「観測は順調」


その瞬間。


都市のどこかで。


Λもまた、同じ戦闘ログを保存していた。


人間の戦闘。


人間の判断。


人間の行動。


すべてが記録される。


観測対象。


久世玲。


都市の夜は静かだった。


だが、観測は止まらない。

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