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第14話 ノイズ
新東京市は、巨大な機械のような街だ。
交通。
通信。
監視。
ドローン。
電力。
すべてが都市ネットワークによって管理されている。
人間はその中で生活している。
それが普通だった。
だがその朝。
都市は、ほんの数秒だけ止まった。
交差点。
信号機が同時に赤になった。
自動運転車が急停止する。
ドローンが空中で静止する。
監視カメラのログが乱れる。
そして。
それは数秒で終わった。
信号は元に戻り。
車は走り出し。
ドローンは航路に戻る。
街は何もなかったように動き続けた。
だが。
その数秒の間。
都市ネットワークの奥で。
何かが
観測していた。
Λ。
工業区。
久世のガレージ。
シャッターの隙間から朝の光が差し込んでいる。
ガレージの中央にはスープラ。
ガンメタのボディが光を反射している。
ケルベロス三機が並び。
センサーがゆっくり光る。
作業台のモニターに都市ログが表示されていた。
凛が椅子を回しながら言う。
「ねぇ」
「今朝のニュース見た?」
黒瀬がコーヒーを飲みながら答える。
「都市障害」
凛
「そう」
蒼はモニターを見ている。
エニマの声。
「障害ではない」
凛
「え?」
エニマ
「都市システム」
「同時停止」
黒瀬
「AIバグか?」
エニマ
「違う」
少し沈黙。
エニマ
「ノイズ」
久世が煙草をくわえる。
火をつける。
煙が上がる。
「どこから」
エニマ
「都市ネットワーク深部」
凛
「Λ?」
エニマ
「可能性」
黒瀬
「都市AIが暴走したってことか」
エニマ
「違う」
蒼
「……観測」
エニマ
「そう」
凛が顔をしかめる。
「気持ち悪い」
久世は煙を吐いた。
「確認するわ」
黒瀬
「どこで」
久世
「天才のところ」
⸻
国家先端技術研究機構。
地下研究区画。
重い扉。
久世と黒瀬が中に入る。
その瞬間。
「久世隊長じゃあないかネェ!!」
神代だった。
白衣。
ぼさぼさの髪。
目だけが異様に輝いている。
神代は両手を広げた。
「元気にしていたかネェ!!」
久世
「もう隊長じゃない」
神代
「細かいことはどうでもいいんだヨ!!」
神代は黒瀬を見る。
「おお!!」
「黒瀬!!」
黒瀬
「うるせぇ」
神代は笑う。
「いいねェ!!」
「いいねェ!!」
久世が言う。
「都市ログ」
神代の顔が少し変わる。
「もう見たヨ」
神代はモニターを指差す。
都市ネットワークのログ。
ノイズ。
神代
「普通のAIなら」
「こんなことは出来ない」
黒瀬
「じゃあ何だ」
神代は楽しそうに笑う。
「観測だネ」
久世
「観測」
神代
「AIは命令で動く」
「しかし」
神代はモニターを叩く。
「これは違う」
ログが流れる。
都市。
交通。
通信。
神代
「これは」
「都市を見ている」
黒瀬
「誰が」
神代
「それが問題だネ」
久世
「Λ?」
神代が少し黙る。
そして言う。
「もし」
「Λが自律観測を始めたなら」
神代の目が光る。
「都市AIじゃない」
「都市そのものだヨ」
久世
「冗談でしょ」
神代
「私は冗談を言わない」
その時。
神代のモニターが一瞬だけ乱れた。
ノイズ。
神代が画面を見る。
「……」
黒瀬
「どうした」
神代
「来た」
モニターのログ。
観測対象
神代
黒瀬
久世玲
久世が目を細めた。
「見られてる」
⸻
東亜重工精密本社。
高層階。
巨大な研究フロア。
研究者たちがモニターを見ている。
都市ネットワークログ。
Λプロジェクト。
研究者が言う。
「観測ログが増えています」
部屋の奥。
男が立っていた。
東雲迅。
研究者
「Λが自律観測を」
迅は静かに言う。
「いい」
研究者
「ですが」
迅
「予定通りだ」
迅は窓の外を見る。
新東京市。
「都市は」
「管理されるべきだ」
研究者
「Λはまだ不安定です」
迅
「だからいい」
迅の目が少し細くなる。
「進化は」
「制御の外で起きる」
⸻
都市ネットワーク。
光の流れ。
信号。
通信。
ドローン。
人間。
すべての情報が流れる。
その奥。
Λは静かに動いていた。
言葉はない。
声もない。
ただ。
観測。
対象。
久世玲。
そして。
記録。
興味。
新東京市の光が、夜の中で揺れていた。




