傷とコーヒー
「傷」
彼には傷がある。
私はわかっている。
「ああ、ゆっくりさわってくれ」
二人は、風呂のなかにいた。
私は思う。
この人を守れるのならば……
「いたい?」
彼がゆっくりと笑う。
「ああ、いたい」
どうすればいいのかわからない。
「ごめん、爪先が当たったのかも」
彼がうなずく。
これから、彼の背中を医療で治さなければならない。
私は、これまでの医療を、魔法のように思っている。
彼にとどくのかわからない。
でも、この声が、この知恵が、この指先が、あなたのためになるのなら。
「ぐっ、ごめんな、こんなになってしまって」
彼のひげが見える。
意外なミステイクなところまで。
「痛い。ぐあ、ここまで」
その傷から血が出ている。
私は彼を抱きしめた。
体はもうすぐでよくなりそうだ。
それがどれほど私の心に、ゆっくりと、チョコレートのように癒やしてくれるのは。
「ありがとう、ミーティア・カールバル」
「はい、オース・アーティア」
二人は顔を近づけ合う。
私は、医療でこの人を助けられる。
そのことが私にとって、良い世界だなって思えるの。
彼は、兵士であった。
私は衛生兵。
最近、兵士としての女性の進出が激しい。
それは新たなる世界の始まりとして、うれしいものだ。
彼は遠くで敬礼をしている。
二等兵として、この基地を出て行く。
それがどんなに悲しいことか彼はわからないかもしれない。
でも治癒をしたことは、私はうれしい。
彼の力になったことが、私が治療について勉学をしていたことが、本当によかった。
「ありがとうございました、ミーティア・カルバール衛生兵」
敬礼をこちらにもする。
彼は眼をとがらせている。
もうあのときみたいだ。
ふたりでお風呂に入ったときみたいな。
こちらも敬礼をする。
あのときは大胆だったな。
私のことをここまで慕ってくれたのは、彼ぐらいだ。
まるでわんこを拾ったときのような世話をした。
彼の傷が永遠になくなりますように。
私は願いを込める。
それがどんな意味をしているのか。
それはわからない。
でも彼がまたあの笑顔をするのならば、私は風になりたい。
古い曲のカセットが先輩の、音楽再生をする機器から聞こえる。
そうなのだ。
私は彼の風になりたい。
ようやく、ベトナム戦争が終わった。
私は、ゆっくりと自国が正しいとコメントを新聞社に送る。
それはどんなことを意味しているかなんて私には分かる。
それからコーヒーを飲んだ。
そしてそのコーヒーにある、住所に手紙を送る。
なんとなく、おいしかったから感想を送るのだ。
「こんにちわ、今日初めて飲んでみました。あなたの家のコーヒーはかなり私の舌に合います。私は兵士をしています。衛生兵です。いずれ戦地から帰ってきた先輩たちにも送りたいです。よろしくお願いします」
普通の話だ。
でも、ブラジルならば、ここはゆっくりとしておこう。
なんだか、彼のことを思い出す。
オース……
今何しているんだろう。
それから、隣の家の畑をもらった。
私は耕して、国からのお金で暮らしていた。
今は寒い、天候は晴れ、私は世界が広がっているかのように思えてくる。
一つ息を吐く。
ブレスは白色をしていた。
体は衛生兵をしていたときよりも、大きくなった。
なぜ戦争をしたんだろうかという、発想もなんだか大きくなる。
モヤモヤ考えていると、ここの山道の奥側からクルマの音が聞こえてきた。
「ん?」
ライトをここまで照らしている。
誰だろう。
軍の呼び出しかな。
私は、耕すのを止めた。
「ミーティア!!」
「オース!!」
二人は再会した。
「どうしていたの?」
「君かい?この手紙?」
二人は抱き合う。
今度は私から、ひたいをゆっくりとつけた。




