1話
目覚めると、そこは懐かしい部屋だった。
結局テレーゼは、ブルメ王国で死んだ。
テレーゼが病に倒れても、フレッドは見舞いにも来なかった。
「お前が弱いから、病になどかかるんだ」
これが最後にかけられた言葉だった。
たとえ嘘でも、たった一言でも、心配していると言ってくれたなら、テレーゼは頑張れたかもしれない。
けれどそれは叶わなかった。
死の間際、テレーゼは涙を零しながら願った。
(どうか、どうか、次は愛する人と幸せな人生を送れますように――)
「――本当に、酷い結婚生活だったわ」
悪い夢でも見ていたような気がする。
「私は……生まれ直せたのかしら」
子供の頃に過ごした、懐かしい宮殿。
テレーゼの体は12歳程度だろうか。
「これはきっと、神様からのプレゼントね!」
テレーゼはベッドから起き上がると、バルコニーに出て朝日を浴びた。
「なんて気持ちがいいんでしょう。やっぱり実家が一番!なんてね」
「ははは!そんな言葉、どこで覚えたのですか?」
バルコニーの下から爽やかな笑い声が聞こえた。
テレーゼの頬はパッと赤くなった。
「いつからそこにいらしたの、イシュトヴァン…」
「お嬢様がバルコニーに出てこられた時からですよ」
バルコニーの下には、よく手入れされた馬に跨った、端正な顔立ちの騎士――イシュトヴァンがいた。
イシュトヴァンは帝国に属する公爵家の長男だ。
帝国の貴族達には、若いうちは宮廷に仕え、礼儀作法などを学ぶという慣習がある。
そのため、今は皇帝であるテレーゼの父に仕える騎士をやっている。
明るく礼儀正しいイシュトヴァンは、皇帝からも大層気に入られている。
テレーゼもイシュトヴァンに懐き、使用人にも毎日イシュトヴァンの話ばかりしていた。
そう、彼はテレーゼの初恋の人。
「テレーゼ様、まだ朝は冷えます。朝食の時間まで温かくしてお過ごしくださいね。では」
イシュトヴァンは馬を巧みに操り、城門の方へと駆けていった。
その姿を、テレーゼはいつまでも見つめていた。
「イシュトヴァン……私はやっぱり、あなたのことが――」
冷たい結婚生活で忘れかけていた、人を想う心。
テレーゼはそれを思い出したのだった。




