プロローグ
ひとり、部屋に佇む女性。
豪華な部屋に、美しいドレス。
たくさんの宝石や財宝に囲まれ、恵まれたように見える彼女の心は、悲しみに包まれていた。
(こんな結婚、望んではいなかった――)
女性の名前は、テレーゼ。
オストシュテルン帝国の皇女である。
テレーゼは、政略結婚によって敵国――ブルメ王国の王子・フレッドに嫁いだ。
この結婚によって、両国の戦争は終結した。
だが夫婦仲は破綻していた。
フレッドは大の女嫌いで、テレーゼを徹底的に無視したのだ。
政略結婚とはいえ夫婦となった縁だ。
テレーゼはフレッドと親しくなろうと努力した。
手紙や花を送ってみたり、お菓子を作ってみたり。
しかし、結婚してから一度も、フレッドはテレーゼと目すら合わせない。
――いや、一度だけ目を見て言われたことがある。
「戦争が終結し、お前の役目は終わった。無論、私にとっても無価値だ」
無価値。
テレーゼはその言葉に傷つき、心を閉ざした。
フレッドはテレーゼの生活だけは保障してくれた。
衣食住には困らない。
だが、用意された豪華なドレスも家具も宝石も、テレーゼの孤独を癒すことはなかった。
彼女の心に残るのは、幼い日の温かい思い出。
帝国で、皇帝である父や母と過ごした日々。
そして、強くて優しい、あの騎士の青年――…
(ああ、もしあの人と結婚していたら……今頃私は幸せだったのかしら)
ひとりぼっちの皇女は、幼い日の淡い初恋に思いを馳せるのだった。




