表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法が支配する世界でただ一人、剣で魔法を斬る男 ~ゼロ魔力でも世界を結び直す更新攻略~  作者: 夢見叶
第2章 冒険者としての証明

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/45

第29話 模擬戦、媒体を落とせ

 白墨で引かれた円が足元に横たわっている。薄い砂の上、白い線は檻じゃない。俺が進む角度を決めるためのピンだ。

 係員が砂時計を机に置いた。ガラスが木に触れて、軽いコトリ。会場の空気が、そこに固定されたみたいに静まる。


「規定の復唱。観客距離は3歩以上、致傷は禁止、媒体破損は不問」

 ノアが淡々と言って、救護の緑布と担架の位置を指さす。

「記録は行為のみ。暴言も減点」


「了解。1本でいく。ミア、弱点を出せ」


 相手はギルドの術士。灰色の袖、木の杖。短詠唱で簡易障壁を張ってから、押し切るタイプだ。杖に吊られた銀のタグが、揺れの周期を教えてくれる。

 詠唱の第1声が上がる前、ミアの瞳が透明になる。構造視が開く音は聞こえない。ただ彼女の声が、まっすぐ届く。


「合わせ目、左前。錨は右足元。詠唱は3拍子。タ、タ、タア」


「3、2——1」


 俺は剣帯を半歩ずらし、腰を折る。歩幅は半寸。伸びの逃げ道を先に置く。

 術士が息を吸う。タ。杖先がわずかに跳ね、障壁が皮膚みたいに張り始める。タ。合わせ目が白線に重なりかけた。ここが継ぎ目、ミシの音が潜む場所。


「待って。今の角度は誘爆する」

 ミアの声が鋭くなる。

「足、半寸ずれてる。右膝が甘い」


 相手が右へ送った足で、合わせ目の位置が半寸流れた。小さなズレだ。けど小さなズレほど、怖い。刃の角度ひとつで、障壁の張力は暴れる。

 観客席のどこかで、喉が鳴る。砂時計の砂がさらりと落ちる。

 タア——。


 詠唱が完成する半拍前。表の拍に穴があく。その空席に、俺は《無幻歩》で降りる。足裏が拍から外れ、影の一歩へ滑り込む。

 世界の目地が半目でずれた。ゼロ酔いの吐き気が喉に上がり、俺は一呼吸で押し戻す。


「今、詠唱が遅れた?」

「いや、あれは——」


 ざわめきが背中を撫でる。誤読してくれていい。読まれなければ、こちらの勝ち筋は太る。

 俺は正面。相手の杖手に逃げ道を与えるよう、柄頭をゆっくり撫で上げた。まずは固定。

 次に誘導。撫でる角度で、手首を合わせ目に寄せさせる。人は触れられた方向へ、わずかに流れる。


 そして、決着。

 支点だけを、コトリ。


 ほんの小さな音。けれど世界は音の小ささに弱い。張力は小さな外しに崩れる。杖の重心が座り、掌からすべり落ちた。木片が砂に刺さって、鈍い音をひとつ。

 障壁の光が、薄皮のように縮んで消える。


「反則なし、1本」

 審判の木槌が鳴る。俺は刃をわずかに下げ、剣帯を元の位置に戻した。


「今、合わせ目を抜いたぞ」

「いや運だろ。詠唱が遅れただけだ」

 観客席のコーラスは二極に割れ、混じり合わない。混じらないまま、音だけが天井に溜まっていく。


「終わり。次」

 俺が短く言うと、ミアが息を吐いた。

「危なかった。右膝の甘さで、張力が片寄ってた。あの角度で踏み込んだら、誘爆してた」

「だから半拍、裏に降りた。ありがとな」


 ノアが板書を読み上げる。

「記録。受験者勝利。致傷なし、媒体破損のみ」

 審判が頷き、救護係が担架の布を整える。術士は苦笑して、欠けた杖尻を拾い上げた。

「見事だ。握りが軽かったのは認める。勉強になるよ」


「媒体は貸与品。費用計上は不要」

 ノアがいつもの声に戻る。

「在庫、光タグは2。閾値は3だから、戻ったら補充。ピンは5でギリ」


「わかった。今日は使わずに済ませたい」

 俺は剣の柄を撫でながら、円の外に1歩出る。白線の手前で止まるのは癖だ。線は踏まない。線は読むものだ。


 砂時計の砂が、底で小さな丘を作っている。

 俺の耳は、まださっきのコトリを握っていた。支点だけを外す感触。指先が覚えた重さ。

 あれは運じゃない。構造だ。縫い目のどこに針を入れるか、その話だ。


「レイ」

 ミアが小声で寄ってくる。

「視えてた。合わせ目が、白線と重なった瞬間。怖かったけど綺麗だった」

「綺麗で終わればいい。次でもう1回やれと言われたら、嫌だ」

「それ、かっこつけ方のセンスが古い」

「うるさい」


 笑い合って、すぐ真顔に戻る。試験は連続だ。遊んでいる暇はない。

 係員が机の上の板を裏返した。太い字で新しい課題が出る前に、扉の蝶番が小さく鳴いた。


 ミシ。


 半拍遅れて、もう1度ミシ。

 黒い外套の裾が視界の端を横切り、観客席の奥へ消える。顔は見えない。だが、継ぎ目の音だけが残った。


「ノア。黒外套、運営か?」

「名簿にはない。出入り記録にマークしておく」


 審査官が木箱を運び、鍵を外した。蓋が開くと、冷たい光がふわりと上がる。

 箱の中には、3層式の魔導ゴーレム核が座っていた。外層は回転する術式盤。中層に安定化の錨。最奥に脈打つ光の珠。

 ミアが1歩、俺の後ろに寄る。視界の色がまた薄くなる。


「最終課題」

 審査官の声が、板に書かれる前に先に届く。

「魔導具を——壊さず、止めろ」


 観客がざわつき、すぐ静まる。誰もが息を呑み、砂時計の砂の音だけが残る。

 ノアが手帳をめくる。

「規定に追加。外装の傷は不問、核への損傷は失格。外部からの干渉具は貸与なし。場内使用は光タグのみ」


「光タグ2。ピンは5。足りる?」

「足りる。けど、本命は使わないはずだろ」

「もちろん」


 俺は箱の縁に指を添え、目地を探す。外層の盤に刻まれた線は、飾りじゃない。読みやすいように、わざと露出してある。

 盤の回転は一定ではない。3段階で速度が変わり、合わせ目が交互に浮く。ミシの合唱。

 錨は中層の3点。そこから最奥の珠へ、細い系が走っている。引けば千切れるが、押しても潰れる。

 壊したら負け。壊さずに、止める。


「なあレイ、顔が怖い」

 ミアが冗談めかして笑う。

「怖いのはいつもだ」

「うん、いつもだ」

 彼女の声は震えていない。俺も震えない。震えが必要なら、後でやる。


 審査官が砂時計をひっくり返す。コトリ。

 砂が流れ始めたところで、ノアが小声で耳打ちした。

「黒外套、まだいる。扉の影。視線だけ投げて、動かない」


「放っとけ。今は箱だ」


 俺は息を3拍で整える。タ、タ、タア。

 外層の盤がひとつ回り切る。合わせ目が左前に寄る。さっきと同じだ。世界は繰り返す。なら繰り返しに、別の針を入れればいい。


「読む。章だけ外す」


 俺は刀身を抜かない。柄だけを軽く持ち、盤の縁を一撫で。回転の癖が指に移る。

 外層が次の小節を迎える半拍前、俺は《無幻歩》の気配だけを作り、足の裏で影の拍を踏む。移動はしない。ただ世界に、裏拍の穴があることだけ知らせる。

 盤が体勢を崩す。崩れたのは、ほんの半寸。けれど半寸は十分だ。


「ミア」

「行ける。外、内、内。順を守れば安全」


 俺は柄頭で、支点だけを——


 コトリ。


 盤がわずかに座り、中層の錨の1本が、力の通り道を失う。最奥の珠が微かに明滅を遅らせる。

 止まってはいない。けれど、止まるための場所が生まれた。そこにもう1本、針を入れる。

 脳が少しだけ揺れて、ゼロ酔いの気配がくすぐる。一呼吸で戻す。


「レイ」

 ノアの声が遠くなる。観客の音は消えている。

 俺はもう一度、柄で縁を撫でる。誘導。錨が自分で寄ってくる。

 そして、3つ目。


 コトリ。


 箱の中の光が、ふっと薄くなる。

 まだ、止まってはいない。けれど、止め方はわかった。章だけ外して、物語を動かなくする。

 砂時計の砂は、まだ残っている。審査官の目は、まだ瞬きを我慢している。


 そこで、扉がミシと鳴った。

 黒外套の裾が再び揺れ、今度は1歩だけ前へ出る。観客の息が揺れるのが、背中でわかる。

 誰だ。何を見たい。俺が何を外すのかを、確かめに来たのか。


「続きは本試で出す」

 審査官が静かに言った。

「ここで止め切るかは問わない。方法の提示があれば可。だが——」


「壊さず、止めろ。だな」

 俺は箱から指を離し、剣帯を握った。

「次でやる。結果で黙らせる。規定内でな」


 ミアがうなずく。ノアが手帳を閉じる。

 砂時計の最後の砂が落ちる直前、会場の空気がもう一度固まった。

 俺は黒外套の気配を横目に、箱を見据える。縫い目は見えた。目地は半目だ。章は外れる。


 暗転の合図みたいに、最後の砂がコトリと座った。

 俺は息を吐く。

「読む。章だけ外す」


 次の拍で、物語は止まる。止めてみせる。壊さずに。


 最後までお読みいただきありがとうございます。


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるのっ……!」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークすると更新通知が受け取れるようになります!


ブクマ、評価は作者の励みになります!


何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ