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魔法が支配する世界でただ一人、剣で魔法を斬る男 ~ゼロ魔力でも世界を結び直す更新攻略~  作者: 夢見叶
第1章 零の少年と一本の剣

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番外編 ノアの補給戦《オープン・ストック》

 朝の光は白かった。帳簿の紙も、私の指も、少しだけ青く見える。砂時計を横に置き、在庫表を声に出して読み上げる。


「松明、6。退路標リボン、30。応急キット、4。白墨、3袋。油、2本。食料、1日半」


 数字は落ち着く。目に入った順に線でつなげて、頭の中の倉に並べる。3日前倒しで動くのが基本。補給は私の役目だ。


「ノア、飲み水の袋は?」


 横でミアが毛布から顔を出す。声は眠そうだけど、瞳はもう仕事の色をしている。


「袋は3。今日はもう1を買い足す。ついでに退路標の新色、半分だけ。あと角砂糖」


「角砂糖は任せて。帰ってきたら、ひとつもらう」


「了解。3日前倒しで用意する」


 私は笑って、荷を背負った。収納箱は小型を2つ。タグは色で分ける。食料は黄、消耗は白、救急は赤。商人は色を見て動く。色は言葉より早い。


 市場は、いつもどおり賑やかだった。風見の旗が西へ倒れ、客の流れが同じ向きに寄る。人の線が縒り合い、ほどけ、また結び直される。私は歩幅を半寸だけ狭め、肩の角を避ける。ぶつからない。ぶつからないのは、互いに気持ちがいい。


「水袋は0.06G。今朝は皮が柔らかいよ」


「2つ。合計で0.12G。針仕事の目地がきれい。長持ちする」


 店主は目尻を下げ、針先を誇らしげに見せた。私も小さく親指を立てる。こういうところで、町はまっとうに回る。


 白墨屋では0.02Gで1袋。油は2本まとめて0.1G。食料は干し肉と乾パン、合計0.06G。数字は並べながら払う。財布の位置は腰の内側、紐は2重。ここは涙を出す場所じゃない。


「退路標の新色、半分だけ。青を混ぜたい」


「お、冒険者の子。青は目立つぜ?」


「夜の岩場では、青が一番落ち着く。赤は血と混ざる。白は霧で消える。青は、戻る線に見える」


「なるほど。じゃ、半分な。0.04Gだ」


「ありがとう。糸の切れ目、今度直しておく」


 男は笑って、巻き取り枠のはぎ目を隠しもせず差し出した。私は指で軽くなぞり、どこを締めれば良いか目で記憶する。帰り道、余裕があれば寄る。余裕がなければ、次。段取りは重ねられる。


 露店の角を曲がった時だった。私の腰の軽い紐が、妙な引きを見せた。遅れて、背後で誰かが足を滑らせる音。キュ、と短く鳴り、布が吸われる風が私の耳の裏でざわついた。


 収納具の匂いだ。しかも、安物の改造。


 振り返ると、小さな手が往復しているのが見えた。少年だ。12か13。肩の小袋から、風のように手が伸びては戻る。間にぶら下がるのは小型収納具——口の枠が不揃いで、はぎ目が見える。


「おい、小僧!」


 露店の主人が叫び、台の上のスプーンが2つ、宙で消えた。どよめきが膨らむ。入口の警備が走り、反対側から人の波が押し返してくる。線が絡まる。最悪の方向だ。


「ノア、混んでる。線がからまってる」


 ミアの声が耳の奥を撫で、私は頷いた。視界の端で、彼女が距離を測っている。走らない。走らないのは、ぶつからないためだ。


「少年、止まって」


 私の声はあまり届かない。風と叫びが邪魔をする。なら、先に道を作る。


収納解放オープン・ストック


 私は小型の収納箱を腰から引き出し、即座に開いた。口を広げ、布袋を重ね、風の逃げ道を作る。空にひとつ、地にひとつ。吸引の流れは、口が多い方へ逃げる。吸うだけの流れは、吐ける場所さえあれば落ち着く。


 台の上のスプーンが、私の布袋へカンと落ちた。干し草の束が、私の箱へふわりと落ちる。吸われていたのは少年の袋だけじゃない。周囲の魔導具から、少しずつ物がこぼれていたのだ。違法改造の口は、次の口を欲しがる。


搬送索ライン・リフト、上」


 私はロープを柱にかけ、布袋と箱を上へ持ち上げた。落下の勢いを消し、重さを分散する。下にいる人の肩から荷が降りる。ミシ。継ぎのきしみが減る。


 少年は立ち尽くしていた。彼の肩の小袋は震え、口が開いたり閉じたりを繰り返す。枠が歪んでいる。錨が狂って、口だけが動いている。


「ミア」


「式、見える。右下、錨!」


 彼女の指が示す。私は駆け寄り、少年の肩に手を置いた。怖がらせないよう、言葉を短くする。


「大丈夫。外すだけ。痛くしない」


 タグの位置は右下。青い糸が目立つ。私は指先で糸をつまみ、結び目を一度だけ緩める。ピン。錨が外れ、口の震えが止んだ。袋は沈黙し、少年の腕の中でただの布に戻る。


「動かないで。全部、戻す」


 私は高い位置の布袋を少しずつ下ろし、落ちた物を店ごとに返していく。干し草は干し草屋へ。スプーンは鍋屋へ。こぼれたボタンは仕立屋へ。受け取る手はさまざまだが、みんな指先が真剣だ。間違えないように。私も間違えないように。


「これはうちのだ。あんた、助かったよ」


「代金は要らない。仕事だから」


「仕事なら、なおさら受け取りな」


「じゃあ、次の時に。糸のはぎ目、直すから」


 店主が笑い、人垣が少しずつ解けていく。警備の見習いが走って来て、私と少年の前で足を止めた。肩で息をしながら、真っ直ぐこちらを見る。


「状況、説明を」


「収納具の暴走。改造の錨が粗悪。悪意は薄い」


 少年は顔を上げて、泣きそうな声で言った。


「違う。盗むつもりだった。借金で、やらないと殴られるから。だから、袋を持たされた。使い方も教わってない。逃げる道も、なくて」


 言葉が崩れる。涙は我慢しない方がいい時もある。私は頷き、短く呼吸を合わせた。3、2——1。心の線を一度、張り直す。


「罪は消えない。謝ることと、返すことは必要。けど、次の段取りは作れる。今すぐ」


 私は露店の主人を2人、見習いの警備を1人、そして少年を指で結び、それぞれの位置に立たせた。説明は短く、順番は簡単。


「少年は今日、荷運びを手伝う。夕方まで。報酬は1日の半分でいい。その代わり、背負い方を教える。見習いは監督と記録。私は在庫表と割り振りを書く。返済は、今日の分から始める」


 露店の主人は腕を組んで、私を見た。眉を少しだけ上げ、それから笑った。


「働く気があるなら、うちは手伝いを断らない。背は軽い方がいい」


「監督、記録、了解」


 見習いが頷き、紙と墨を準備する。私は収納箱からタグを1枚取り出し、そこに〈人手〉と書いた。タグの色は白。これでいい。白は、今から意味が付く色だ。


「ノア」


 ミアが袖を引いた。少しだけ疲れている。私は水袋を渡し、角砂糖を1つ手に乗せる。


「ありがとう。式、もう見ない」


「見ないでいい。見なくていい時は、見ない。次は甘いものを見よう」


 彼女は笑い、角砂糖を舌の上で溶かした。目の焦げが薄くなる。私は心の中でタグをもう1枚足す。〈休息〉。


 昼過ぎ、仕事は区切りを迎えた。拾い物は全部戻り、代金の誤差は出なかった。少年は肩で息をしながらも、足の位置が少しだけ良くなっていた。荷の重さを腰で受ける。手は突っ張らない。背筋が伸びる。覚えるのが早い。伸びる子だ。


「終わり。次」


 私が言うと、少年は目を丸くした。


「次?」


「荷運びは道の途中。帰り道はいつもある。今日はギルドに寄る。見習いの君、用紙を1枚」


「はい。臨時雇用の記録用紙。二印で処理?」


「二印で。私の印と、露店側の印。医務の印は不要。怪我はない」


 紙は角が揃っていた。私は印を押し、露店の主人に渡す。ピン。紙が呼吸を始める。今日という日が、少しだけ街に残る。


 夕方、荷運びを終えた少年が、私に頭を下げた。


「ありがとう。ごめんなさい。次、盗まない」


「次は働く。返す。借金は、返し方の段取りを先に作る。人の手を借りる。今日の見習いみたいに」


 見習いは照れて、頭をかいた。少年は笑った。笑い方が下手だ。でも、目が生きている。目が生きているなら、大丈夫だ。


 私たちはギルドへ向かった。角を曲がるたびに、看板が短く鳴る。ミシ。半拍おいて、ミシ。二度のきしみは、どこにでもいる。見ている誰かの代わりに、私たちが段取りを置いていけばいい。


「ノア」


 角の向こうから、聞き慣れた声が来た。レイだ。剣帯を半歩ずらし、歩幅は一定。周囲の線を見ている目。


「補給は?」


「完了。在庫表、更新。白墨1袋、油2本、退路標は青を半分。水袋は2。食料は1日半」


「数字で言えるの、助かる」


「数字は嘘をつかない。人は嘘も言うけど、段取りは嘘をつかない」


「いつものやつだな」


「いつものやつ」


 レイは少年に目をやり、何も聞かずに頷いた。それでいい。説明はいらない時がある。結果だけで十分な時がある。


「出費は?」


「合計0.3Gちょっと。賠償はなし。収支は、君が拾ってきた依頼次第」


「拾う。規定の中で、勝つ」


「了解。帰ったら、在庫箱にタグを1枚足す」


「何のタグだ」


「人手。白」


「白、いいな」


 レイは笑って、扉を押した。ギルドの蝶番が鳴る。ミシ。半拍。ミシ。受付にセシルがいて、紙の角を揃えている音がピンと響いた。


「おかえり。補給は?」


「完了。二印は後で。まず、水」


 私は水袋を机に置き、在庫表を差し出す。セシルは目を走らせ、印を押した。ピン。紙は呼吸を始める。今日が、街に残る。


 夜、宿に戻ってから、私は在庫箱を開けた。タグの束に、白い札を1枚追加する。〈人手〉。書いて、指で撫で、端を半寸だけ切る。触った時に違いが分かるように。次に手が伸びる時、迷わないように。


「ノア。角砂糖、1つ」


 ミアの声。私は笑って、包み紙ごと彼女の手に載せた。角砂糖の重さは軽い。軽いけれど、線は強い。甘さは、線を張り直す。


「明日の段取りは?」


「朝、出発前に3行で。馬車0.2G、宿0.05G、補給は前倒し。退路標は青。今日はもう寝る」


「了解」


 灯を落とす。窓の外で風が鳴る。ミシ。半拍。ミシ。2度のきしみは、眠りの前の合図みたいだ。私は深呼吸をして、目を閉じた。


 段取りは力。殴らないで勝つ方法は、いつでも用意できる。用意しておけば、誰かの明日は少しだけ軽くなる。明日も、3日前倒しで動く。私はそう決めて、枕に顔をうずめた。



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