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おかしな聖女は冷血王子に拾われて溺愛されます  作者: 藤七郎(疲労困憊)


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第36話 絶望と希望の夜


 深夜の平原。

 夜空に丸くない月が昇るころ。


 ツンツンと頬を突かれる感覚を受けて、わたしは目を覚ました。

 横になっているだけのつもりだったのに、眠ってしまったようだった。


 ふと目を向けると、檻の傍に黒いシルエットが目だけを光らせて、ぬぼーっと突っ立っている。

 思わず悲鳴を上げそうになったけれど、何とか堪えた。

 猫耳と尻尾のシルエットが見えたので。



 わたしは声を潜めて尋ねる。


「ミーニャ?」


「ん。時間」


「檻の鍵、開けられそう?」


「できる」


 ミーニャが音もなく動いて、檻の鍵の前に立つ。

 メイド服のスカートをめくって太ももを露わにすると、太ももにベルトで留めたナイフやフォークが見えた。

 その中から針金を取り出して、鍵に差し込む。



 すぐに檻が開いた。

 わたしは檻から出ながら尋ねる。


「グランツは?」


「すぐ動く」


 わたしとミーニャはテントの入り口まで行って、しゃがみこんだ。

 外の様子をうかがうと、入り口傍に兵士が二人ほど立っているようだった。

 ――見張りがいるのは当然か。

 

 しばらく入り口の傍で、時が来るのを待った。

 ものすごく長く感じる数分。



 ――と。

 遠くの方から「わぁぁぁ……」と、大勢の人が叫ぶ声が聞こえてきた。

 シュタールヴァルト軍が動いたらしい。


 その声と同時に、ミーニャが素早くテントを出た。

 続いて「ぐっ」「なっ」と鈍く呻く声が聞こえた。


 テントから顔を出すと、入り口傍に二人の兵士が倒れていた。

 傍にはひょうひょうとした表情で立つミーニャ。尻尾がゆらりと揺れる。


「こっち」


「うん」


 駆け出すミーニャの後に続いて、私も走った。

 突然の夜襲にアボンダンス軍は驚き戸惑っている様子。


 ――このまま行けるんじゃない?

 楽観的な予想が足取りを軽くした。



 しかし、うまくはいかなかった。

 逃げ出したテントの方で、兵士のわめく声が響いた。


「おい! 聖女が逃げたぞ!」


「なにぃ!? 探せ! 捕まえろ!」


 にわかに敵陣内が慌ただしくなった。

 兵士たちが丘の上を駆け巡る。

 わたしとミーニャは宵闇に紛れて移動していたけれど、どんどん行動範囲を狭められていった。


 ミーニャがボソッと呟く。


「もう無理。突っ切る」


「うん」


 逃げ場がなくなったわたしたちは、篝火が照らす陣内を走った。

 すぐに見つかって声が上がる。


「いたぞ!」「東に向かった!」「追い込め!」


 わらわらと兵士たちが包囲するように押し寄せてくる。

 わたしは焦りながらも、希望にすがった。

 ――なんとか丘の上の端まで行ければ!



 そして大勢の兵士に追い込まれつつも、望んでいた丘の端までたどり着けた。


「ここを降りれば――うっ」


 降りようとした途端、ミーニャに腕を掴まれた。

 追い込まれた場所は、なだらかな斜面ではなく垂直に近い崖だった。

 ――危うく投身自殺するところだった。


 半円状に取り囲む兵士たちの間から、馬に乗ったジャンが現れる。

 わたしを見ながらにやにやと笑う。


「おいおい、夜の散歩かぁ? 平民のくせに、いいご身分だなぁ?」


「うるさいわね! 絶対、グランツの下に戻るんだから!」


「諦めな。俺様から逃げられはしねぇんだよ! ――捕まえろ!」


 ジャンの号令と共に、兵士たちが襲い掛かってきた。

 ミーニャが太もものベルトに泊めたナイフを抜き放って、兵士たちの群れに突っ込んでいく。


「にゃ!」


「ミーニャ!」


「逃げて」


 ミーニャは最後の言葉と共に兵士たちの陰に隠れて見えなくなった。

 戦い続けているので死んではいないらしい。強い。


 ジャンが馬を走らせてわたしに向かってくる。


「逃がさねぇぞ!」


「それでも、逃げる!」


 わたしはミーニャの無事を信じて、踵を返すと崖へ向かった。

 背後でジャンの驚く声がする。


「なにしてやがる! 死ぬ気か!」


「死んだって死んでやるもんか! ――やぁ!」


 わたしは崖を飛び降りた。

 すぐに右手のひらを下に向けて気合を入れる。


「塩乾パン、出て!」


 ズンッ! と重たい音を立てて、巨大塩乾パンが足元に現れた。

 わたしは塩乾パンの上に乗り、ソリのように滑り降りる。ズザザァァァ――ッと激しい音ともに砂煙が立つ。

 崖の上からジャンの声が響いた。


「てめぇ! 待ちやがれ!」


 肩越しに振り返ると、ジャンが馬に乗ったまま崖を駆け下りてきた。


「嘘でしょ!?」


「鹿が崖を降りれるんなら、馬だって行ける! ――者ども、続きやがれ!」


「「「う、うおあぁぁ!」」」


 雄たけびか悲鳴かわからない声を上げて兵士たちが続いてきた。

 巨大塩乾パンは素晴らしい速さで駆け下りていくけれども、駆ける馬の速度にはかなわない。


 丘のふもとにつくころには、すぐ後ろにジャンが迫った。



「――あっ」


 後ろばかり気にしていた結果、すぐ前に大きな岩があるのに気が付かなかった。

 ドンッ、と塩乾パンが岩にぶつかってわたしは地面に放り出された。

 全身を強く打って、すぐには息ができない。


 地面に横たわっていると、すぐそばに馬がやってきた。

 金髪に月光を反射させて、ジャンが嗜虐的な笑みを浮かべて見下ろしてくる。


「観念しな。俺様からは逃げ――ちぃ!」



 その時だった。

 月光にプラチナブロンドを輝かせて、その光が尾を引くように流れて、横たわるわたしをすくい上げた。

 細くもたくましい腕。何よりも力強い優しさ。


 わたしは白馬に乗ったグランツに抱えられていた。


「アリア様っ!」


「グランツっ!」


 わたしはグランツの胸にしがみついた。

 グランツは片手でわたしを優しく抱きしめてくれる。

 その頼もしさが嬉しい。

 思わず目が潤んだ。


 グランツは頬笑みを浮かべて私を見下ろす。赤い瞳の輝きが麗しい。


「ああ、アリア様。守ると誓っておきながら、この体たらく。申し訳ありません」


「ちゃんと迎えに来てくれたんだから、もういいのよ」


「二度と離しませんから」


「わたしもよ、グランツ。絶対、離れない」


 わたしとグランツは、お互いが溶け合うほどに強く抱き合った。



 しかし、ジャンの耳障りな声が響く。


「おいおい、助かったつもりかい? 周りをよく見てみるんだな!」


「えっ?」


 わたしは周囲の地面を見た。

 そこにはいたるところに人が倒れていた。シュタールヴァルトの兵士たち。

 思わず息をのむ。


「な、なんで……」


「無理に下から攻めたからよぉ! こっちも対策してたから、甚大な被害が出たってわけだ! もう、お仲間はいないんだぜぇ? ひゃーひゃひゃ!」


 バカみたいに笑うジャン。

 わたしを抱くグランツの腕に力がこもる。

 周囲はアボンダンス軍の兵士に囲まれていた。


 グランツがボソッと呟く。


「最後の最後まで、一緒にいましょう。アリア様」


「……うん。わたしももう、離れたくない」


「ではっ!」


 私は死を覚悟して、グランツに強くしがみついた。

 グランツは片手で剣を抜き放ち、迫りくる敵を切り伏せる。闇の魔法も放ち、囲んでこようとする兵士をなぎ倒す。


 しかし多勢に無勢。

 どれだけグランツが一人で頑張ろうとも、包囲網を抜け出せない。


「ほら、右だ。次は左! くくっ――追い詰められた獲物の最期ってのは見てて楽しいなぁ? 酒が欲しくなっちまうぜ! ひゃーはっは!」


 ジャンの楽しそうな高笑いだけが響く。



 グランツが荒い息をして、馬も立ち往生する。

 絶望的な状況。

 でもわたしは諦めなかった。

 ――違う。彼と一緒なら死んだっていい!


 それでも微かな希望を胸に、わたしはグランツの腕の中で祈る。

 ――お願い! グランツを助けて!


 そう願った瞬間。

 周囲の平原にいくつもの光が灯った。


「え?」


「なんだ?」



 わたしもグランツも兵士たちも驚く中、光がますます強くなる。

 よく見れば、光っているのはシュタールヴァルトの倒れた兵士たちだった。

 癒しの光が全身を包み、傷をいやしていく。


 光が消える頃には、兵士たちが目を覚まして起き上がった。


「なんで!?」「まさか!?」「い、生きてる!?」


 全員が戸惑う中、グランツが良く響く声で命令した。


「立ち上がれ、兵士たち! 今こそジャン王子を打ち取れ!」


「「「うおぉぉぉ!」」」


 シュタールヴァルトの兵士たちがいち早く動いて襲い掛かった。

 驚き戸惑っていたアボンダンス軍は不意を突かれる形となる。


「野郎ども! 慌てるな! 陣を組め――ちくしょう!」


 ジャンが焦りで顔を歪めつつ急いで命令するものの、一度崩れた態勢は戻せなかった。

 シュタールヴァルトの兵士は倒されてもまた光りながら復活する。

 さながらゾンビの軍勢のような戦いぶりだった。



 そして、アボンダンスの兵士たちは次々と打ち取られ、あるいは降伏し、あっけなく戦闘は終了となったのだった。


「ちくしょう! 放せ! 放しやがれ!」


 遠くの方で、ジャンのわめく声が聞こえた。

 どうやら捕らえられたらしい。

 この後どうなるかわからないけれども、ようやく安心できると思えた。



 戦いの終わった後、グランツが何かを思いついたように呟く。


「まさか。アリア様のお菓子を食べると、胃で消化されるまでは無限に復活すると言うことですか」


「そんなに持続的だったんだ」


 ――それって、ヤバすぎる効果のような。

 ていうか、死者すら復活させるなんて。

 もうフルヒールポーションどころじゃなく伝説のエリクサーなのでは? と思ってしまった。


 グランツはわたしの背中を撫でながら、髪に頬を寄せてくる。


「勝てたのもすべてアリア様のおかげです。ありがとうございます」


「うん。グランツが無事でよかった」


 月光の照らす平原の下、グランツに抱かれたわたしは馬の背で寄り添い続けた。


次話は明日更新。

→『第37話 戦いの後で』

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