第33話 グランツ王子 Vs. ジャン王子
時間は少し戻って。
国境近くの平原に午後の日差しが降る。
ジャンの率いる軍勢6000人は村の中央に陣取っていた。騎兵が少なく歩兵が多い。
粗末な木の椅子に座るジャンの下へ、騎士が駆け寄る。
「ジャン様。村の食料は麦粒一つ、芋一欠片すらありませんでした!」
「やっぱりな」
「わかっておられたので?」
「ああ、教科書通りの焦土作戦だな。こっちを消耗させるつもりだ。弱ったところで魔法の遠距離攻撃が飛んでくるだろうよ」
「ええっ!?」「そんな!?」「戦う前から敗北ではないですか!」
「だから教科書を逆手に取るって寸法よ」
ジャンはギラリと青い瞳を輝かせて言った。
その眼光に部下たちは恐縮する。
――と。
ヒュゥゥ――っと、空を切る音が響いた。
ジャンは舌なめずりをしてから叫ぶ。
「野郎ども! まずは盾を頭上へ! 魔術師は防御結界を張れ!」
「「「は、はい!」」」
ジャンの指示を受けて兵士と魔術師が盾と結界を上空へ向けた。
ドゴォォォ――ッン!
村のすぐ上で猛烈な爆炎が上がった。
防ぎきれなかった火花が村のあちこちに落ちて白い煙を立て始める。
そのうえ、何十人かの兵士が地面に倒れていた。
「さっすが、数十人規模で唱える合成魔法。威力が半端ねぇな! ふっふーう!」
味方がやられたと言うのに、ジャンは楽しそうな笑みを浮かべた。
そこへドドドッと地面を揺るがす振動が轟いた。
砂煙を引き連れて騎馬の軍勢が村に迫る。その数、二千騎。
ジャンは嬉しそうに声を上げた。
「来やがったか! ――おい、お前!」
「は、はい、なんでしょうか、ジャン様」
ジャンは傍に控える魔術師の一人に命令する。
「――やれ!」
「ほ、本当によろしいのですか!?」
「ガタガタ抜かすんじゃねぇ! 俺様がやれって言ったら、やらねぇか!」
「は、はいっ!」
魔術師が杖を振るって、地面に向かって火炎を放った。
火炎はすぐに消えたものの、地面の上を小さな火が走っていく。導火線らしい。
時間にして数分後。
シュタールヴァルトの騎馬隊が村に乱入したと同時に、村のあちこちに火柱が上がった。
ジャンは味方ごと敵を燃やすつもりだった。
騎馬隊の先頭にいたグランツが、馬上で驚きの声を上げる。
「な、なに!? 捨て身だと!?」
「へへっ! シュタールヴァルトの王子が自ら来るとは、俺様も捨てたもんじゃねぇなぁ?」
馬上から馬をなだめていたグランツが声の主を見て驚く。
「き、貴様はジャン王子!」
「お久しぶりですねぇ、グランツ王子!」
「貴様だけは許さん――ぬぅっ!」
馬で突撃しようとしたグランツだったが、慌てふためくアボンダンス軍の騎士や兵士に阻まれる。
ただ、敵も味方も驚き戸惑っていた。混戦状態となる。
「うわぁ!」「火が、火が!」「敵軍までいるぅ~!?」「助けてくれぇ!」
「くそっ! 邪魔だ!」
グランツは混乱する兵士たちをよけながら進もうとしたが、なかなか身動きが取れない。
その隙にジャンが逃げ出した。
「あばよ! ぼんくら!」
「ま、待てっ! ――こうなったら!」
グランツは馬の腹を蹴った。馬は指示通りに大きくジャンプする。
さらにグランツが魔法を唱えた。
「闇魔法――暗黒の翼」
馬の背から黒い翼が広がり、空を飛んで一直線にジャンへと迫る。
逃げていたジャンが振り返って、驚愕で目を見開く。
「なにぃ!」
ジャンは横に飛んでかわした。
しかしグランツの振り下ろした剣の切っ先が背を掠める。
「くっ!」
「しぶとい奴め!」
「こんなところで死んでたまるか、ってんだ!」
ジャンは地面に手を突きながら、這うように駆け出した。民家の一つへと飛び込む。
グランツが追うものの、すでに屋内にジャンの姿はない。
「どこに行った!? ――ん?」
白い煙が外から流れ込んできた。
グランツは馬に指示して民家を出る。
すると村中に白い煙がたちこめていた。周囲が見えないほどに。
煙の向こうからジャンの声がする。
「俺様はここよぉ! かかってきな!」
「なにを! 覚悟しろジャン!」
グランツは馬を操って声の方へと飛び掛かる。
しかしジャンの姿はない。
大混乱の乱戦になる中、グランツはジャンを探して戦い続ける。
「どこだ、ジャン! 正々堂々と戦え!」
叫ぶグランツの下へ部下の一人が駆け寄る。
「殿下! このまま戦い続けては、いたずらに兵を消耗するばかりです!」
「くっ! 仕方ない――皆の者、本陣へ戻れ!」
「「「はいっ!」」」
グランツを先頭に騎士や兵士が村の外へと駆け出した。
その時、白い煙の中からジャンの叫ぶ声が上がった。
「今だ! グランツを逃がすな! 追え!」
「「「うぉぉぉ!」」」
アボンダンス軍は鬨の声を上げて、逃げ出したグランツの軍勢を追った。
グランツは両軍を隔てる小川を目指す。追撃するジャンの軍勢。
しかしグランツの軍勢は全員騎馬だったのに対し、ジャンの軍勢は歩兵が主体。
じわじわと両軍の間が開いていく。
グランツの軍勢は安全に小川を渡り切り、布陣している中央の軍へと向かう。
ジャンの軍勢は小川を渡ったが、とたんに魔法や矢の飛来してじょじょに数を減らしていった。
さらに本陣から追撃するための騎馬隊が出撃する。左翼からも騎馬隊が出撃した。
左翼の軍勢は、魔術師のローブを翻しながら走る魔術師の騎馬隊。
先頭を駆るのは緑髪の魔術師ヴィーだった。
「グランツばかりに手柄を取られてはたまりませんからね」
口の端を強気な笑みで釣り上げつつ、片手を前に出して強烈な風魔法を放った。
小川を渡ったジャンの軍勢の一端を吹き飛ばす。
吹き抜ける風が爽やかにヴィーの前髪を揺らした。
そしてジャンの軍勢は、ますます数を減らしていく。
その隙に、グランツ率いる騎馬隊は開かれた本陣へと戻っていった。
この初戦でもう戦いの趨勢は決まったかに思われた――。
次話は明日更新。
→『第34話 一瞬のスキ』




