第31話 軽やかな行軍
次の日の朝。
晴れ渡る青空の下、急遽準備を終えた軍隊が王都を出発した。その数8000人。内訳は騎馬隊7000人に、工作兵や伝令兵などの歩兵が1000人。
騎馬隊がほとんどで馬車はない。馬は軽やかな足取りで走る。
歩兵たちは重い鎧や工作道具は馬に乗せてもらい、空身で走った。
わたしは白狼のイチローに乗って最後尾をついて行った。他の狼たちも長い列となる行軍を見張るかのように、軍の先頭から最後尾まで点在しつつ併走していた。
もこもこの狼に乗っているからわたしは疲れはしないけれども、馬の小走りについていく兵士たちは大変そうだった。
昼になって行軍は止まり、昼食となった。
街道沿いの森を切り開いた開けた場所。部隊ごとに集まっている。
わたしはイチローの背に乗りながら、各部隊を回って食料をドカッと出していった。
計算上、一人当たり肉系のパイが二切れ、フルーツのパイは一切れ配布されている。
今回は騎兵主体なので騎兵に乗った騎士たちは疲れた様子はなかった。
馬たちも全力の半分ぐらいで走っていたから大丈夫そう。疲れた様子は見えない。
ただ歩兵たちがヤバかった。
息を切らせ、汗だくになっている。
――これが一週間も? 脱落者がかなり出そう。
わたしは広場の中央で昼食を取るグランツに駆け寄った。
グランツは爽やかな笑顔で出迎える。
「アリア様、食糧の配給ありがとうございます」
「いいのよ。わたしから言い出したんだから――それより」
「なんでしょう?」
「歩兵の人たちがすでに疲れてる様子なの。このまま一週間は耐えられないんじゃない?」
グランツが眉間にしわを寄せてチッと舌打ちをする。
「鍛え方が足りてませんね。遅れる者は随時処刑――」
「待って待って! そんなことしたら兵士がいなくなっちゃう! それよりいいこと考えたのよ」
「いいこと、ですか?」
「わたしの出すお菓子は怪我だけじゃなく疲労も取るから、食べやすいお菓子――フィナンシェとかを事前に配っておいて食べながら走って貰えば疲れないと思うの」
「なるほど、確かに! それなら誰一人脱落しないでしょうし、馬にも塩乾パンを与えれば行軍速度はもっと速くなりそうですね」
「でしょ? じゃあ配っていいかな?」
「むしろ私の方からお願いいたします」
グランツの許可を得たわたしは、各歩兵部隊に説明しながらお菓子を配って回った。
「ありがとうございます、アリア様!」「さすが聖女様!」「助かります!」
お菓子を受け取った歩兵たちは、口々に感謝の言葉を述べてくれた。
わたしは役に立っている実感がして、とても嬉しかった。
そして。
午後からの行軍は、それはそれは早くなった。
兵士たちが全力で走る。馬が並足なら追い抜き、馬が速足なら並んで走る。
「グランツ。歩兵さんたちみんな、ついてこれてるわ」
「それはすごいですね。これなら予定をさらに短縮できそうです」
「ほんとに? 被害減らせそう?」
「もちろんです。ほんと、アリア様の発想やお力には感服いたします」
笑顔のグランツに褒められて、わたしも思わず笑みを返した。
夜の宿泊地に着く頃には、予定を大幅に短縮できていたのだった。
◇ ◇ ◇
王都を出立してから三日後。
街道の分岐点にある町で、ヴィーさん率いる辺境伯軍と合流した。2000人ほど。騎兵は少なく、魔術師と歩兵が主体。歩兵も戦いよりも木材の運搬をしているので陣地を作る工作兵がほとんどだと思われた。
一応これでシュタールヴァルト王国軍は総勢一万人の大部隊になった模様。
町の外で野営している辺境伯軍に近づくと、緑髪のヴィーさんがにこやかに微笑んで出迎えた。
「グランツ、最近ぶり」
「会いたくなかったな」
「こんな形ではね。でも早かったよね?」
「アリア様のおかげ――ですよ」
グランツがわたしを見る。
わたしは挨拶をする。
「こんにちは、ヴィーさん。お菓子は疲労も回復するから、食べながら走ってもらってるの」
「あははっ。それはすごいね!」
ヴィーは意表を突かれた様子で、腹を抱えて大笑いした。
グランツが冷ややかな目でヴィーを見る。
「辺境軍にもやってもらうぞ」
「わかってるよ」
ヴィーさんは笑いを堪えつつ苦笑気味に頷いた。
わたしは兵士たちを見渡しながら言う。
「じゃあ昼食のパイを配りながら、午後からの行軍用のお菓子も配りますね」
「頼みます、アリア様」
「アリアさんは勝利の女神だね」
「大げさですって」
褒められ慣れてないわたしは、照れた顔を背けながら部隊の下へ走って逃げた。
午後からは辺境軍も加えて国境の平原地帯へと向かった。わたしは白狼たちに交代して乗りながら。
予定を大幅に短縮できたので、村人を避難させたり、有利な陣地を築いたりできるらしかった。
全38話になりそう。37話まで下書きが書けました。
あとはエピローグが……。頑張ります。




