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おかしな聖女は冷血王子に拾われて溺愛されます  作者: 藤七郎(疲労困憊)


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第28話 ヒルダ公爵令嬢

 

 フェンリル騒動から一週間。

 わたしは朝から夜遅くまで塩乾パンを出しまくった。

 おかげでお城の巨大な倉庫は塩乾パンの入った木箱で埋まった。シュタールヴァルトの国民が数年以上飢えずにすむ量だった。諸外国にも出荷する分もある。



 仕事をやりきったあとの朝は目覚めが良い。

 窓から斜めに入る朝日が床に輝き、天蓋付きのベッドまで輝いて見える。


 わたしはメイドの猫獣人ミーニャが持ってきてくれたおめざを飲んで頭をはっきりさせた。

 ベッドの傍で白狼のミーナもおいしそうに深い皿のジュースを飲んでいる。


 ――と。

 ノックの音がして、どやどやとメイドさんたちがたくさん入ってきた。

 先頭に立つ年配のメイド長が真剣な顔をして口火を切る。


「アリア様、朝早くから申し訳ありません。謁見の間に出席するよう指示されましたので、今から着替えていただきます」


「こんな朝から!?」


「正装には時間がかかりますから――では皆さん。とりかかってください」


「「「はい!」」」


 気合の入ったメイドさんたちにベッドから連れ出されて、着せ替え人形にさせられた。

 最終的に、シックなドレスの上に聖女の証である白いマントを羽織る。


 また鏡台に座らされて余所行きのメイクをさせられる。

 今回は令嬢風ではなく、聖女風だと思われた。

 長い茶髪は整えられて艶やかに明るく光り、顔はナチュラルだけど隙の無いメイクをされた。


 ――鏡の中に清楚な美少女が現れる。

 いい暮らしをさせてもらったせいか、本当に血色がよくなったと自分でも思った。



 その後、迎えにきた若い騎士に案内されて部屋を出た。

 前を歩く騎士が銀色に光る鎧を着ているので、廊下を歩きながら少し不思議に思う。


 騎士とは言っても普通の公式の場では、軍服を着て腰に剣を下げているだけ。

 鎧を着ているなんて物々しいなと。



 玉座の間まで来る。

 広間の中を居並ぶ柱が高い天井を支えていた。入り口から壇上の玉座まで赤い絨毯がまっすぐ敷かれている。

 正面の壇上には王様と王妃様が玉座に座り、その傍で軍服姿のグランツが立っていた。


 ただ前に謁見した時とは、雰囲気が違った。

 前は、赤い絨毯の両側に貴族や騎士が並んでいたが、今回は向かって右側の人々が低かった。

 子供の背丈ぐらいだが、もさっとした髭を生やして、肩幅が広くてずんぐりした人たちばかりがいる。

 ドワーフだと思った。


 右側の一番前には幼い少女に見えるドワーフのヒルダ公爵令嬢が立っていた。

 釣り目がちの強気な視線で、胸を反らして私を見る。


「ふんっ。来たわね」


 わたしは嫌な予感を覚えつつ王様の下に立つ。

 胸に手を当ててお辞儀をする。片膝はつかない。


「国王陛下、ご機嫌麗しゅうございます、国王陛下。この度は――」


「聖女アリアよ、挨拶はよい。呼び出してすまぬな。過急の件があっての――ドワーフ公爵令嬢から奏上があるそうじゃ」



 わたしはヒルダを見た。

 ヒルダは扇をバサッと広げると、顔を少し隠しつつわたしを見下す。巻いた髪が揺れていた。


「ええ、そこの女とグランツハルト王子の婚約など、ドワーフ一族としては認められませんわ」


 玉座に座る王様が、身を乗り出して反論する。


「なぜじゃ? アリアは聖女として我が国を支えてくれておる」


「シュタールヴァルトを長年支えてきたのはドワーフの技術力ですわ」


「確かにそうじゃ。しかしそれは建国時の条文でお互い助け合うと決められたことでもある」



 ヒルダは幼い顔に勝ち誇った笑みを浮かべる。


「フッ。種を超えて手を取り合うという素晴らしい国。しかしその理念はないがしろにされているではありませんか?」


「な、ないがしろじゃと!? 我が国はドワーフたちの安寧を建国以来、おろそかにしたことはない」


「ですが国王よ! お互い助け合うと言いながら、歴代王族は人間ばかりですわ。ドワーフが王に選ばれたことも、女王に選ばれたことも一度もありません!」


 ヒルダは、ビシッと閉じた扇で王様を指した。

 謁見の間の右側にいるドワーフたちも騒ぎ出す。


「そうだそうだ!」「いつも人間が上にいる!」「横暴だ!」「搾取だ!」


「これがドワーフたちの総意ですわ」


 ヒルダが勝ち誇って胸を反らした。バサッと広げた扇で顔を隠しつつ。



 わたしは唇を噛んでうつむいたまま何も言えなかった。

 隣国を追放された野良聖女が、王子様に拾われただけ。

 シュタールヴァルト王国に必要なのはドワーフたち。

 わたしは足下が崩れるような不安に襲われていた。


 すると、グランツがロングコートの軍服の裾を翻して前に進み出た。

 わたしの傍へ来ると肩を抱くように寄り添って立つ。

 思わずグランツを見上げてしまう。凜々しい横顔が頼もしい。

 彼は迷いのない声を謁見の間に響かせた。


「なんと言われようと、私はアリア様から離れることはありません。私がこの世でお守りしたいのはただ一人アリア様だけです」


「あの冷血が!?」「女をかばった!?」「誰にも関心を持たなかったというのに……!」


 グランツの真摯な言葉に、貴族たちがざわめいた。

 しかしヒルダは扇越しの笑みを崩さない。


「では、ドワーフが国から離れてもいいと言われますのね」


「それは――」


 グランツが何か言いかけたとき、突然、謁見の間の扉が開いた。

 同時にのんびりとした声が響き渡る。


「それは話が違いますねぇ~」



 わたしは入り口の方を見て、驚きで言葉を詰まらせた。


「あ、アインさん!?」


 麦わら帽子をかぶり首筋にタオルを掛けた庭師のアインさんが、ひょうひょうとした足取りで謁見の間に入ってきた。


 壁際に控えていた騎士たちが一瞬、驚きながらも素早くアインさんを囲むように動く。

 しかしアインさんは和やか笑顔のまま麦わら帽子を脱ぐと、おもむろに右手を横に払った。

 その瞬間、ドンッとアインさんを中心にして黒い影が針のように床から丸く生えた。


「なっ、なんだ!?」「魔物だ! いや、魔族だ!」「敵襲だ!」


「あ、アインさん! いったいどうして!?」


 わたしは驚きの声を上げて駆け寄った。

 するとアインさんは苦笑しながら言う。


「あらら、この技を出してもわかってもらえませんか――わたくしは、アイン。アインシュタルク・ナハトルビン・フォン・シュタールヴァルトですよ」



 アインさんの自己紹介を聞くなり、壇上の玉座に座っていた王様と王妃様が慌てて立ち上がった。

 階段を降りつつ震える声で言う。


「ま、まさか! 初代国王様でございますかっ!」

 

「ええ、数百年も前に引退した身ですがね」


「「「えええええ~っ!?」」」


 わたしも含めて謁見の間にいた全員が驚きの声を上げた。

 グランツすら赤い瞳の目を見張っている。

 貴族たちがひそひそと話し出す。


「初代国王様だって!?」「そんな、本当に不老の吸血鬼だったというのか!」「いや、でも。城の回廊に飾られた肖像画とそっくりだ」


 わたしは呆然としながら尋ねる。


「アインさんて、そんなに偉い人だったんだ……なんだかごめんなさい」


「ええ、かつて百年ほど世界を旅して王城に帰ってきたら不審者扱いされてしまいましてね。それで名誉庭師という職を与えられたんですよ」


 アインさんは遠い目をして懐かしそうに言った。

 ――何してんの、アインさん。なんだか昔にいろいろあったようだ。



 アインさんはゆっくりと歩きながらヒルダの下へ向かう。

 そして優しく微笑みながら言った。


「はてさて、ドワーフのお嬢さん。わたくしの知っている話とは随分違う主張をされているようですが、大丈夫ですかね?」


「な、なにをおっしゃるの! 人間がドワーフたちを従えてるだけじゃない!」


 突然の初代国王出現に、ヒルダは取り乱しながら言った。

 しかしアインは微笑みをたたえつつ顎を撫でる。目が笑っていない。


「いいえ。建国時、領土の安寧や行政など面倒なことは人間に任せる、と初代ドワーフ公爵と約束したのですよ」


「そ、そんなの嘘よっ」


「嘘じゃありませんよ、お嬢さん。なぜなら国を支配しようとすると諸外国との折衝や内政の仕事に忙殺されて鍛冶場に立つ時間が無くなります。初代公爵は一生職人でいたいと、王族になることを拒否したんですよ。面倒事を全部わたくしに押し付けてね」


「な、なんですって――っ!」


 ヒルダの悲鳴のような叫びが、天井の高い謁見の間に響いた。



 アインさんは謁見の間にいるドワーフたちをぐるりと眺める。


「で、ドワーフの皆さん。国政に参加すると言うことは鍛冶仕事をする時間が大幅に減りますが、よろしいんでしょうか?」


「うっ!」「そいつは嫌だな」「ああ、鍛冶しかしたくねぇ……」


 ドワーフたちは暗い顔をして、ひげをもさもさ動かしながら暗い顔で俯いた。

 ヒルダが焦って声を尖らせる。


「ちょ、ちょっと! なんですの! 急に手のひらを返さないでくださいまし!」


「そう言われてもなぁ……」「鍛冶ならいくらでもやるが」「書類仕事はなぁ」


 ドワーフたちの反応に、ヒルダは地団駄を踏んで悔しがった。フリルのついた可愛らしいドレスが乱れる。

 アインさんは頷きながら言う。


「では、初代ドワーフ公爵との約定は継続ですね」


「……も、もう知りませんわっ!」


 涙目になったヒルダはドレスの裾を翻して、足早に謁見の間を出て行った。

 その後姿を見ながらわたしは、なんとなく思った。

 ――勝った、と。



 進み出たグランツが、胸に手を当ててアインさんに向かってお辞儀をする。


「初めまして初代国王様。お騒がせして申し訳ありませんでした」


「いやいや。なにぶん昔のことだからねぇ。役に立てたようで良かったよ」


「では皆さん。アイン様を迎えて歓迎会をしましょう――よろしいですね、父上?」


「ああ、当然じゃ。酒を酌み交わしつつ、建国時のことなどを語っていただこうではないか……ドワーフたちも飲んで騒ぐがよいぞ?」


「「「よっしゃぁ!」」」


 ドワーフたちは拳を上げて喜んだ。

 彼らは酒が大好き。酒が飲めるなら、どんな宴会でも大歓迎らしかった。



 その後、急遽お城の大広間に宴会場が設営されたのだった。


次話は……。


再構築したプロットは、最後まで書き上がりました。

あとはやる気を出して本編を書くだけです……。

応援よろしくお願いします(´;ω;`)ウッ…

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― 新着の感想 ―
いつも楽しく読ませていただいております。どうかご無理をなさらないようにしてくださいませ。次回も楽しみにしています。
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