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おかしな聖女は冷血王子に拾われて溺愛されます  作者: 藤七郎(疲労困憊)


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第27話 かわいそうな狼


 次の日の午前中。

 わたしたちは山の中腹にある洞窟にいた。

 天井近くに明かりの魔法が輝いていて、洞窟内の広間が照らされていた。

 広間の中では灰色の毛をした巨大な狼――フェンリルの悲鳴がワンワンと響いている。


「ひぎゃー! ごめん、オレが悪かったって! だからもうやめて、母ちゃぁぁんっ!」


「グラァァァ!」


 白狼のマミーが自分の二倍以上ある巨大なフェンリルに噛みつき、爪を奮っていた。マミーの目は怒りで釣り上がっている。全身の毛も逆立っていた。

 一方、防戦一方のフェンリルは涙目になっていた。



 そして洞窟の広間の床には、三頭のメス狼たちが死んだ魚のような目をして倒れていた。

 目の焦点は合わず、半開きの口からは赤い舌をだらりと垂らしている。

 生気が感じられなかった。


 わたしは肩をすくめると、広間の入り口に陣取ったグランツと騎士隊の下へ向かった。

 グランツが眉間にしわを寄せて困惑した表情で言う。


「アリア様。いったい、どうしたというのですか?」


「んん~。感動の、親子の再会みたい?」


「聖獣たちが倒れ伏してますが、大丈夫なのでしょうか?」


「うん、大丈夫。たぶんショックだっただけだから」


「というと?」


 グランツの問いかけに、わたしは顎に手を当てつつ考えながら言った。


「えっと、例えるなら。白馬に乗った王子様が村に来たと知った貴族令嬢が、最大限のおめかしをして村の広場に向かったら、王子じゃなく実の弟だった。みたいな感じ?」


「「「ああ~」」」


 グランツだけじゃなく、騎士たちもまた納得の相槌を打っていた。

 ――まあ、夫が欲しかったニーナやアフルにとっては、喜びから絶望へと急転直下だったはず。

 サンダースとキドニスが伴侶を連れてきたので、余計に結婚願望が高まっていたはずで。

 つけまつげまでして、おしゃれしてたのにね。かわいそう。



 その間にも、フェンリルの悲鳴は続いている。


「ごめん、母ちゃん! 悪かったって! 群れを勝手に飛び出したの、ほんと謝るから! ――誰か、助けて!」


 泣きながら謝るフェンリルを、マミーは残像する速度でバシバシと叩きまくっている。

 Sランクモンスターのフェンリルより、小柄なマミーの方が強いらしい。

 どうなってんだろ、うちの白狼たちは。


 ちなみに他の白狼たちは我関せずな態度を取っていた。

 マミーの怒りに触れたくないらしい。



 まあ、マミーが怒るのもわかる。

 フェンが口にする謝罪から、だいたいの事情が把握できた。


 そもそもの始まりは魔の森に異変が起こって凶悪な魔物が生まれたせいらしい。

 その魔物に襲われ、狼の群れのボスが死んだそうだ。

 そこでマミーの家族だけでも生き延びようと、一家でまとまって逃げ出したはずが、フェンリルだけが見えなくなった。

 別方向に逃げたのか、それとも死んでしまったのかもわからず、マミー家族はフェンリルを探し回ったそうだ。

 そのせいでみんな大小の怪我をして生き延びるのもぎりぎりになったらしい。 


 それなのにフェンリルは自分だけ別の場所に移って意気揚々と暮らしていたのだから、マミーが激怒している、と。

 群れを抜けるにしても、せめて一言ぐらい言っておけ、と。

 まあ、フェンリルはどうやら末っ子みたいなので、甘やかされて育ったのかもしれなかった。



 とりあえず、わたしは騎士たちを見渡して言った。


「んじゃ、しばらくかかりそうだから、今の間にお昼食べちゃいましょ」


「はいっ!」「やった!」「俺は内臓パイ、お願いしゃす!」


「はいはい」


 フェンリルの悲鳴が響く中、わたしたちは優雅にパイを頬張ったのだった。


       ◇  ◇  ◇


 夜。

 わたしたちは谷間の村へと戻ってきた。

 肩透かしを食らった形の騎士たちは元気な笑顔で歩いている。

 一方、メス狼たちはこの世の終わりのような重い足取りで歩いていた。かわいそう。


 あとボコボコにされた灰色のフェンリルは、子犬ぐらいの大きさになって気絶していた。マミーが首の後ろを噛んで連れ歩いている。

 死んだかな? と思うけれども、フェンリルのお腹がかすかに膨らんではしぼんではいるので生きてはいるらしい。



 騎士たちは村の外の陣地に戻り、わたしやグランツは村長の屋敷まで来た。

 年老いた村長が出迎える。


「グランツ王子様、これで村は救われました。本当にありがとうございます」 


「いや、気にするほどの事ではない」


 グランツは偉そうに言うものの、表情自体は困り顔だった。

 ――まあわたしたちは何にもしてないから、お礼を言われると微妙な気持ちになるのはわかる。


 しかし村長は泣きそうな笑顔で感謝する。


「今後は安心して左右の山に登れます。ありがとうございます」


 ――ん~、左右の山の主を倒したのはフェンリルだし。それもまた微妙な気持ちになる。

 わたしがグランツを見ると目が合った。お互い、肩をすくめて苦笑するしかなかった。



 ――と。

 マミーに咥えられた子犬のフェンリルが目を覚ました。

 周囲を見渡して状況を把握するなり、口の端を歪めて悪態をついた。


「って、人間の村かよ! 人間に媚びるなんて、母ちゃんたちは狼の誇りを忘れたのかよっ!」


 その瞬間、スウッっと周囲の気温が下がった。イチローを始め、狼たちの眉間にしわが寄った。

 しかしフェンリルは気付いてそうにない。


 わたしは一触即発の事態を回避するため、穏やかな声でなだめる。


「まあまあ。狼たちは媚びてないから安心して。でもフェンリルって言葉話せるんだね」


「ふんっ。オレはフェンリル様だからな。とんびが鷹を産むって奴だ。崇めてくれてもいいんだぞ?」


「イチローたちの方がすごいから間に合ってる」


「は? 人に従ってるのに?」


「対等な関係よ。ミートパイを食べさせる代わりに護衛してもらってるだけだから」


「それ、ただの下僕だろ」


 ブチッ! と白狼たちの血管の切れる音がした。

 まずマミーが首を振ってフェンリルを地面に叩きつけた。

 さらにイチローとニーナが飛び掛かって爪を振るう。


 フェンリルはぼっこぼこにされて、すぐに泣いて謝った。


「ごめん、許してぇ!」


 

 しばらくして折檻タイムが終わった。

 フェンリルはぼろ雑巾になりつつも、気丈に立ち上がる。


「今日はこのぐらいにしといてやらぁ……さあフェンリル様たるオレに、ミートパイとやらを寄越せ」


 わたしは内心、むっとしつつも提案する。


「護衛してくれるならね」


「ぐっ……じゃあ、オレに名前つけろ。それなら守ってやってもいい」


「偉そうに。あんたなんか、フェンリルから取ってンェリで十分だわ」


「呼びにくいわ! めちゃくちゃ呼び辛い名前だろ!」


「じゃあフェンで」


「安直だなぁ。頭悪いのか?」


「はあ?」


 思わず私はガラの悪い返事をしてしまった。

 だがわたしが何かする前に、再びニーナとアフルとモモが牙を剥いて襲い掛かった。

 フェンはまたまた悲鳴を上げつつ、さらなるぼろ雑巾になっていく。


「ギャー! ごめん、ねーちゃん! 悪かった、謝るから助けて!」


「学習能力ないフェンの方が、よっぽど頭悪い気がするわ」


 わたしが呆れて言うと、グランツも同意して頷く。


「人々の恐れる魔獣フェンリルが、このような性格だとは思いもしませんでしたね」


「あのぅ、そろそろ屋敷に入られては?」


 申し訳なさそうに村長さんが言った。

 その言葉に促されて、わたしたちは屋敷に入った。



 食堂へ向かう途中、玄関ホールの隅にミートパイやらを出しておく。

 白狼たちは目を輝かせてパイにかじりついた。

 フェンも一緒に食べる。そして叫んだ。


「うめぇ! なんだこれ! こんなにうまいもの食ってたなんて、にーちゃん、ねーちゃん、ずるい!」


「ぐらぁっ!」


 お前が勝手に群れから出たせいだろ! とでも言いたげに、フェンはマミーやイチローにしばかれていた。

 ――懲りないやつ。


 わたしとグランツは呆れつつ食堂に入り、ようやく静かな夕飯の時間を過ごせたのだった。


次話の更新は未定。

できれば近日中に……。

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