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おかしな聖女は冷血王子に拾われて溺愛されます  作者: 藤七郎(疲労困憊)


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第26話 フェンリル騒動


 次の日の朝。

 王都ルビンから山裾に沿って緩やかに下る道。

 フェンリルが出現したという王都近郊の森に向かって、わたしたちは行軍していた。


 わたしとグランツは馬車に乗り、第一王国騎士団の精鋭五十名が馬に乗って帯同している。騎士たちは全員、魔法剣を使う百騎士長クラスばかりだ。

 今回は狭い範囲の山の中ということで大軍だと逆に身動きが取れなくなる可能性があり、少数精鋭で戦うことになった。

 しかし相手がSランクモンスターのフェンリルなので、全員顔が緊張でこわばっていた。


 ――が。

 一方で同伴する白狼たち(アイスとノワも含む)は軽やかな足取りで道の脇を雑草を踏みしめて歩く。マミーだけは馬車の屋根の上に乗っているが。

 特にメスのニーナ、アフル、モモの様子が見違えていた。


 なんせ昨日の夜から、普段は嫌いな湯浴みについてきてお風呂に入るし、今朝はメイドのミーニャにメイクをせがんでいた。

 狼の顔に化粧できるのかと思ったけど、アイラインを引いてつけまつげを付けていた。

 結果、白い毛並みはふわふわと風になびき、お目々はぱっちりと印象的。



 聖女のような白い修道服と短いマントを着たわたしは、馬車の窓から見ながら呆れて呟く。


「ニーナたちにとってはフェンリル退治も婚活なのね」


「少し気が楽になりますね」


「確かにそうね」


 一緒に乗っているグランツが微笑んでいるので、わたしもなんだか楽しくなった。

 ひょっとしたら聖獣となった狼たちならフェンリルも倒せるのかもしれない。

 少し期待した。



 そのままわたしの馬車旅は続いた。

 大きな川に架かった橋を越え、木々に覆われた山へと進んでいく。

 昼を大分過ぎた頃、山間にある小さな村へ着く。谷間にある村というか。

 谷の両側にある山は緑の木々に覆われていた。


 三十代だが若く見える精悍な騎士団長ミュラーが村に入る前に号令を発する。


「皆のもの、村の外に陣地を築け!」


「「「はいっ」」」


 騎士五十人がテントを設営したり、簡易な柵で陣地を囲ったりし始める。


 グランツとわたし、それにミュラーは村へと入った。仔馬ぐらいに小さくなった白狼たちが後ろに付き従う。



 そして村の中央にある一番大きな平屋建ての屋敷へと来た。

 村長さんらしき老人が敷地の入り口で出迎える。


「は、初めてお目にかかります、私がこの村の村長でございます」


 村長さんは白いあごひげをブルブルと震わせて緊張していた。

 ――身分差以上に、グランツの噂を怖がっているのかも知れない。


 グランツは険しい顔で問いただす。

「挨拶はいい。フェンリルはどの辺りで見かけた? 詳しく話せ」


「は、はひっ」


 棒立ちになって震える村長。

 わたしはかわいそうになって修道服を揺らしつつ二人の間に割って入った。


「まあまあ、そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ。立ち話も何ですから、中に入ってから話しましょう」


 私が笑顔で言うと、村長さんは助けが来たとばかりに頬を緩ませた。


「ええ、そうですじゃ。ささやかながら歓迎の準備は出来ております」


「いや、先に情報だ。騎士たちを索敵に出さなければ」


 グランツは険しい顔のまま言った。

 落ち着きを取り戻した村長さんが頷きながら言う。


「この村から山頂に向かって左側の山がジャイアントスパイダーの縄張りで、右側の山がブラッディバイパーの縄張りになっておりました。ところがぬしとも言える大きさのクモと蛇の、食い荒らされた死体が見つかったのです」


「フェンリルの仕業か」


「その通りです。狩人が大きな灰色の姿を見かけたと」


「どちらの山にいるかはわからないのだな?」


「は、はい、すみません」


 顔を青ざめさせて頭を下げる村長さん。


 横で聞いていたわたしは、ぞっとした。

 ――ジャイアントスパイダーやブラッディバイパーはAランクのモンスターだったはず。

 それらを倒せるフェンリルは、やはり恐ろしい魔物だと改めて思わせられた。



 わたしは振り返って狼たちを見る。


「探してきてくれる?」


 すぐに行ってくれるかと思ったが、ニーナやアフルが後ろを振り返った。

 オス狼たちを脅すように唸る。


「ぐるるるぅ」


「わふんっ?」


「がうっ!」


「くーん……」


 オス狼たちが尻尾を丸めて歩き出す。しかたないとでも言いたげに、アイスとノワもついて行った。

 ニーナたちは動かないようだ。



 その後は村長さんの屋敷で少し豪華な食卓を囲んだ。

 ついでにミートパイを出したら、村長さん夫妻にとても感謝された。

 ――そうだ。騎士たちにも食べさせた方がいいかな?


 そこでわたしはグランツに断って、食堂を出た。


 広い玄関のエントランスで、ニーナたちは壁際にすました顔でお座りしていた。

 まるでドレスを着たご令嬢。スプーンより重いものは盛ったことございませんのよ、とでも言いそうなたたずまいだった。

 護衛としてついてきてくれそうにない。

 

 マミーが盛大なため息を吐きながら立ち上がり、わたしのあとについてきてくれた。

 そのまま屋敷を出て村の外に向かう。



 外は夕暮れ。西の空が赤く染まっている。

 村の堀の外に駐屯する騎士たちのところへ着くと、若い騎士たちが驚きながらで迎えてくれた。


「どうされました!? アリア様?」


「ううん、パイも食べたいかなと思って」


「本当ですか!?」「助かります!」「さすがアリア様!」


 大皿を持ってきたので、手のひらをかざしてミートパイやアフルパイなど30枚ぐらい出した。

 ほかほかの湯気が立つパイが山盛りになる。

 特に若い騎士たちが破顔して喜んだ。


「「「ありがとうございます! アリア様!」」」


「ううん、これぐらいしか出来ないから気にしないで」


 わたしは微笑みながら手を振って別れた。

 ――素直に喜んで貰えたのが嬉しかった。隣国に来て、みんなに受け入れられたように感じたせいかもしれない。

 意気揚々と村の真ん中にある屋敷へと歩いて行った。



 ――と。

 村の反対側から白い塊が駆けてきた。キドニスだ。

 わたしの前へ来るなり、太い前足の爪で地面に小さな○を器用に描いた。


「えっ!? ひょっとしてフェンリル見つかった?」


「くぉん」


 キドニスは肯定するように、誇らしげに顔を上げて鳴いた。


「ありがと、キドニス! ――グランツに伝えなきゃ」


 わたしは慌てて、小走りで屋敷へ向かった。

 キドニスのもたらした情報を話すと、グランツやミュラーは驚きつつも「これで作戦が立てられる」と喜んでいた。


次話は明日更新。

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