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おかしな聖女は冷血王子に拾われて溺愛されます  作者: 藤七郎(疲労困憊)


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第25話 喜ぶ白狼たち

遅くなりました、すみません。

 王都の朝。

 グランツとデートをしてから三日後。

 お城の大きな倉庫で、わたしは塩乾パンを出す仕事をしていた。


 諸外国への援助分も出さなくてはいけなかった。

 わたしは、どばぁ~っと焼き印付き塩乾パンを出していく。

 従業員たちが、せっせと木箱に乾パンを詰めていく。


 仕事量は増えたけど、やること自体は変わらない。

 むしろ忙しい方がグランツのことを考えずにすんだ。気が緩むとつい彼のことを考えて頬がほてるのを感じるから。


 それに従業員たちとの交流も増えた。仲良くなった。

 栗色の髪をおさげにした若い女性が、塩乾パンを箱に詰めながら言う。


「アリア様。いつもありがとうございます」


「いいっていいって。自分にできることをしているだけだから」


「それでも、この非常食で村が助かるのですから、嬉しいです」


「それは良かった」


 若い女性は笑顔でお礼を言ってくれるので、わたしもやる気を出して答えた。

 その女性は王都から遠い村で暮らしていた。王都へ出稼ぎに出てきたものの、なかなか良い仕事が得られなかったらしい。塩乾パンの箱詰めの仕事が自分の為にも出身地の為にもなると知って、頑張ってくれていた。

 わたしも村娘なので気が合った。


 というか、倉庫にいる従業員たちは村出身が多いので、気さくに話せた。おばさんやおじさん、若い娘たち。

 わきあいあいと話しながら、お互いの仕事を進めていく。



 まあ、わたしは塩乾パンを出すだけなので、一番早く仕事が終わる。

 倉庫にいる人々を見渡して言った。


「これで足りるかな? ――じゃあ、皆さん、あとお願いします」


「「「は~い」」」


 みんなの返答を背に受けつつ、わたしは倉庫の隅に向かった。

 今は昼頃。白狼たちのおやつの時間だ。白狼の食事は朝晩二回で、昼はパイ一切れだけのおやつの時間としていた。


 ところが、隅まで来ると四頭しかいなかった。

 見たところメス狼たちばかり。


「あれ? イチローたちは?」


「くぉん」


 ニーナが答えつつ顎を東に向けた。


「まだ錬兵場で訓練してるのかな」


「わふっ」


 ニーナが吠えながら頷く。どうやら当たりらしい。

 わたしは出口へ向かいながら言った。


「じゃあ、合流してから昼ご飯にしよ~」


「わぉん!」「くぉん!」「わうっ」


 狼たちは白い尻尾を振って立ち上がった。

 わたしは白狼たちを引き連れて倉庫を出た。



 王城に隣接した練兵場。

 真上から降る日差しを銀色の鎧に反射させて、騎士たちが剣を打ち合っている。


 練兵場の隅では二十人ぐらいの騎士が小隊を組んで大きなイチローと戦っていた。

 イチローは多数相手にもひるまず奮闘していたが、わたしを見るなり激しく振る尻尾で砂埃を立てながら駆け寄ってきた。

 サンダースやキドニスも集まってくる。サイズが子馬ぐらいに縮みながら。


 わたしは右手をかざしながら笑顔で言った。


「さあ、お昼のおやつよ~」

 

「「「わぉ~ん!」」」


 白狼たちは嬉しそうに鳴きながら、それぞれに一枚出したパイにかぶりついていく。

 わたしも手のひらから野菜卵パイを一切れ出してかじった。

 しっとりした野菜の旨みが口に広がる。



 ――と。

 ロングコートの軍服の裾を翻して、足早にグランツがやってきた。

 焦っているのか、額に汗が光っている。


 わたしはパイの最後のひとかけらを頬張りつつ、小首をかしげて尋ねる。


「どうしたの、グランツ?」


「アリア様、緊急事態です――全員、整列ッ!」

            

 グランツの一声が練兵場に響き渡った。

 すぐに騎士たちが鎧をガシャガシャと鳴らしてグランツの下に集まり整列する。


 わたしは心に不安の雲が広がるのを感じながら尋ねる。


「なにがあったの?」


「王都近郊の森にS級モンスターが出ました」


「ええっ!」「なんですって!?」「S級……」


 私は驚きの声を上げ、騎士たちは絶句していた。

 ますます不安になり、胸を手で押さえた。



 グランツは険しい顔で言葉を続ける。


「このままだと王都に危険が及ぶ。いや近郊にある村々の安寧は一刻も争う。今こそ王国騎士団の力を見せるときだ!」


「「「お、おおー」」」


 騎士たちが頼りない声で答えた。

 ジロッとグランツが睨む。縮こまる騎士たち。


 わたしは不安に駆られて尋ねた。


「危険なモンスターなの?」


「ああ、フェンリルだ。しかも凶暴なオスらしい」


「わおん!?」「くぉん!」「がふっ!」


 白狼たちの中、三頭が勢いよく立ち上がって吠えた。

 ニーナとアフルとモモだ。メス狼たちが目を輝かせてわたしを見る。


「行きたいの?」


「「「わふん!」」」


 何度も頷くメス狼たち。

 狼が一緒に行ってくれるなら少しは安全かも知れない。

 でもフェンリルは劇や小説でもよく見かける、とても危険な魔物だ。

 森で戦ったなんとかベアーよりも強いはず。


 不安がぬぐい切れないわたしは、意を決してグランツに言う。


「わたしも行く! イチローたちも来て!」


「わんっ!」


 しかしグランツが美形な顔を美しくしかめた。


「何を言われるのです、アリア様。相手はフェンリル、危険すぎます。安全な王都で帰りをお待ちください」


「いやよ! またグランツが怪我をしたら」


「アリア様のお菓子をたくさん持って行くのでご安心を」


 グランツは微笑みながら拒否してくるが、わたしはふるふると首を振った。明るいオレンジの髪が乱れた。


「食べられない状況だったら?」


「それは……」


 一撃で気絶させられてしまったら……口へ運ぶための腕を失ってしまったら……わたしのお菓子は食べなければ癒やしの効果が発揮されない。

 考えれば考えるほどわたしは怖くなって、グランツの胸へ飛び込んだ。軍服にしがみつきながら上目遣いで訴える。


「お願い、グランツ……一緒に連れて行って……」


「うっ――」


 グランツは少しのけぞりながら言葉を詰まらせた。

 説得する言葉を考えているようだが、わたしたちに寄り添いながら取り囲む狼たちに邪魔されている。

 ――なんだろう? 狼たちが何か言いたそう。


「イチロー。わたしが一緒に行っても大丈夫って言いたいの?」


「「「わんっ!」」」


 白狼たちが声を揃えて嬉しそうに吠えた。

 グランツがついに苦笑する。銀髪を掻き上げながら白い歯を光らせて言った。


「仕方ありませんね――守護獣たち、よろしくお願いしますよ」


「ほんとに危険になったらグランツが守ってくれるわ。だってわたしの剣だもの」


「任せてください」


 こうしてわたしと白狼たちはフェンリル退治に同行することになったのだった。


苦戦中。


一応、更新は明日の予定。

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