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おかしな聖女は冷血王子に拾われて溺愛されます  作者: 藤七郎(疲労困憊)


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第23話 グランツの秘密


 夕暮れ時。

 街を見下ろす高台の公園に、わたしとグランツがいた。

 王都ルビンは山のふもとにあったが、街の一部は山裾にまで広がっている。

 公園からは王都の町並みが一望できた。


 柵にもたれて街を見ていると、強くはない風が吹き上げてわたしの明るい茶髪を揺らしていく。

 隣にいるグランツの銀髪も風に流れていた。


 ちなみに狼たちは全員、公園の隅っこにいた。丸くなってしょんぼりしている。

 警備というより、お腹がすいたんじゃないかと思った。



 でもわたしはグランツとの時間を優先して、二人並んで街を眺めていた。

 二人の時間がゆるやかに流れていく。

 わたしはぽつりと言った。


「今日はありがと、グランツ。楽しかった」


「それはよかったです。この国を、この街を、少しでも好きになって貰えたら光栄です」


「グランツが生まれ育った街だものね。なんだか少しグランツのことがわかった気がする」


「気にかけていただいてありがとうございます、アリア様」


 吹く風に、前髪で隠れがちになった赤い瞳で見つめてくる。微笑む眼差しが優しい。



 今なら気になっていたことを尋ねても大丈夫かなと思った。

 わたしは風に吹かれながら尋ねる。


「そういえば、グランツって魔法が使えるんだってね。最初に会った時すら使ってなかったけど」


「ええ、できれば使いたくありませんね」


「なんか見た目が恐ろしい魔法って聞いた」


「誰が言ったのですか、そんなこと」


「ヴィーさん」


「あいつ……」


 グランツは苦笑交じりに悪態をつく。そんな態度を見ただけで心から気を許してる親友なんだなと思えた。

 わたしは気軽な口調で言う。


「じゃあ嘘だったんだ」


「嘘……とまでは言い切れませんね。珍しい魔法なので」


「見てみたい」


「まあ、そのうち。機会がありましたら」


 グランツはニコッと笑って答えた。いつも以上の爽やかな笑顔の中に、微かな拒絶を感じる。

 ――使いたくないってことかな。無理にお願いすれば使ってくれそうだけど、そこまでしなくてもいいか。


 わたしは一つ頷いてから言う。


「じゃあ次、魔法を使いそうなときはついていくね」


「はい。命がけで守りますから、安心してください」


 またグランツが微笑みながら答えた。今度は心からの笑みだった。


 

 しだいに日が暮れていく。

 眼下に広がる街はすでに夜の装いで、街のあちこちに暖かい灯火が光り始めた。

 きっと家族の団欒や、仲間との飲み会を照らす灯だろう。


 人々の暮らしや喧騒の幻灯を見ながら、わたしは囁くようにそっと声を出す。


「もう一つ聞いてもいい?」


「なんでも聞いてください。できるだけお答えします」


「グランツの本当のお母さんって、どんな人?」


 彼は苦しそうに眉間にしわを寄せ、何か言おうとして口を開いたけど、結局黙り込んだ。

 わたしは慌てて慰撫する。


「無理に言わなくてもいいからね」


 でもグランツは苦し気な表情を浮かべながらも、無言で首を振った。癖のない銀髪がさらさらと流れる。


「いえ、言わせてください。先ほどの魔法を使わない理由にも関係しますから」


「えっ?」


 わたしは驚いてグランツを見つめた。

 グランツは目を閉じて深呼吸をする。伏せられた二重の目を縁取る長いまつ毛が震えていた。



 そして――。

 意を決したように目を開き、赤い瞳でわたしを見つめて言った。


「聖女アリア様、懺悔させてください」


「ざ、懺悔!? ――う、うん。わたしでよければ……」


「ありがとうございます、アリア様。――実は私、母を殺してしまったのです」


「ええっ!? どうして……?」


 グランツは確かに厳しいところがあった。人々に対して冷酷な対応をする人だった。

 でも、母をあやめるようなことする人には思えなかった。


 彼はとつとつと言葉を紡ぐ。


「普通の人は一晩寝れば、魔力は回復します。しかし私は回復しません。初代の力が強く出た私は、周りから魔力を奪って自分の力にしてしまうのです。でも子供の私は知らなかったし、周りも気付かなかった」


「それで、お母さんを?」


「子供の頃は病弱気味で、いつも母に甘えていました。そのせいで必要以上に魔力を奪い続けて。何度も体調を崩した母は、私が六歳の時、帰らぬ人となりました」


「それは……グランツ悪くない。不幸な事故じゃない」


「私の存在が間違っていたのは変わりません」


 苦しそうに言うグランツ。



 わたしは半歩近づいて肩を寄せた。少しでも彼に寄り添いたくて。

 柵にかかっている大きな手を包むように握る。


「なんて言葉をかけていいかわからないけど、存在が間違ってる人なんていないよ。わたしだって村娘なのに聖女に選ばれて、最後は追放されて。でも、グランツに会えた。グランツが間違ってたというなら、わたしだって間違ったことになっちゃう」


「そんな――っ。アリア様はすべてが正しい存在です。間違いであるはずがありません!」


「だったら、もう苦しまないで」


 わたしは強く手を握った。彼の手から震えが伝わってくる。

 それでも彼は苦しそうに顔を伏せた。さらさらの銀髪が目を隠す。


「今のところ私が間違ってないように見えるのは、ただアリア様がいてくれるからに過ぎません」


「わたしが? ほとんど何も出来てないと思うけど」


「とんでもない。魔力が減ったままだと感情を抑えられなくなります。イライラして八つ当たりするようになります。アリア様のお菓子を口にすることで常に魔力を最大に保っていられるようになりました」


「そんなことが……やっぱりグランツは悪くない。ある意味病気みたいなものじゃない」


「しかし人々に八つ当たりをして遠ざけました。それに……」


「それに?」


「母が亡くなってすぐに新しい王妃が決まりお城に来ました。そしたら私の母なんていなかったかのように、母のベッドも母の机も、母の使ったペンや鏡や化粧台、衣装も花瓶も全部、みんな新しいものになって。母なんて最初から存在しなかったかのようにみんなも振る舞って……私には母を大切にしてくれる人が誰もいないような気になり……」


「グランツ……」


「誰も信じられなくなって。誰も傍にいてほしくなくて――それで――えっ!?」


 苦しそうに顔を歪めながら過去を語るグランツ。

 わたしはもういたたまれなくなって、思わず彼の体を抱きしめた。


「わかった、わかったから。もういいから、グランツ」


「――アリア、様……」


「全部わかった。グランツは何も悪くない。魔力を吸うからみんなを遠ざけたこと。魔力が減ったらイライラしてみんなに強く当たってしまうこと。――きっと、魔法を使わずに魔の森に一人で挑んでたのも、魔力を回復したかったからじゃない?」


「その通りです、アリア様。魔物を倒せば少しは魔力が回復するので」



 わたしはグランツの体を抱き締めながら呟く。


「グランツ」


「はい、アリア様」


 彼はかすれた声で答える。

 わたしは彼が消えてしまわないように、強くしがみつく。


「もうわたしがいる。わたしのお菓子があれば魔力には困らない。だからずっと傍にいて、グランツ――」


「アリア様――ッ!」


 グランツは大きく腕を広げて、わたしを正面から抱きしめた。

 力強い彼の胸の中、わたしも彼の背に腕を回して抱きしめる。ぴったりと体の凹凸が重なり合って、暖かな体温を伝え合った。

 彼はわたしの頭に頬ずりをしながら呟く。きっと泣いていた。



「アリア様! 私をお救いになる、アリア様! あなたに出会えたことを幸せに思います! 一生大切にしますから――っ!」


「うん、もう大丈夫だから。あなたは一人じゃないから――」



 夜空に星が輝き始める黄昏時。

 そよ風が吹く中、わたしはグランツに強く抱き締められた。

 痛いぐらいに強く抱き締められたけど、その痛みがなぜか心地よくて、わたしは彼に身を任せ続けた。


 ――狼たちがお腹を鳴らしながら可哀想な声で「くぅ~ん」と鳴くまで、わたしとグランツはぴったりと体を密着させて抱き合っていた。


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これからも応援してもらえるよう、更新頑張ります!


次話は金曜日更新。

→『第24話 あの国この国の裏側』

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