第20話 回り巡る夜
前話の、舞踏会のシーンが全体的に納得いかなくて、大幅に改稿しました。
文字数が倍以上に増えたので、前後編になりました。読んでくれた方、すみません。
舞踏会でヒルダ公爵令嬢がアリアにちょっかい掛けてグランツにぎゃふんと言わさせられる流れは変わっていません。
夜。
初めて参加した舞踏会。シャンデリアの下がる大広間の中、わたしは壁際にいた。
気配を消して壁の花になろうとしているのに、グランツはまっすぐ私に向かって歩いてくる。
――と。
赤いドレスを着た少女が、スカートの裾を豊かに揺らしつつ、わたしとグランツの間に出てきた。
幼さの残る顔に強気な笑みを浮かべながら立ち止まると、優雅な仕草で手を差し伸べる。
まるでグランツの迎えを待っているかのように。
幼い頃から貴族の令嬢としての振る舞いを叩き込まれたであろう少女は、わたしが見てもグランツとお似合いに見えた。
貴族なら年齢差は関係ないだろうし。
しかし――。
グランツは長い足を動かして、少女の横を通り過ぎる。
「えっ!?」
少女が驚きの顔で通り過ぎたグランツを振り返った。顔も声も、令嬢の振る舞いを忘れるぐらいに。
そしてグランツは壁に張り付くわたしの前まで来ると、膝をついて頭を下げた。
優雅に手を差し伸べつつ、心奪われるような微笑みを浮かべる。
「素敵なお嬢様、一曲踊っていただけませんか?」
わたしは彼の赤い瞳に吸い込まれそうな気持ちになって一瞬、息を飲む。
周囲にいた令嬢たちまで息を飲む。
「う、うそ!?」「なんですって!?」「ありえませんわっ!」「きぃ、悔しい!」
驚きや嫉妬でざわめく令嬢たち。悔しげにハンカチを噛む人までいる。
わたしを刺す周囲の視線が痛い。
一方グランツはわたしが手に取るものと思い込んでいる様子。待てをした犬のように手を差し出している。
「う……はい」
わたしはおずおずと彼の手を取った。しなやかな手が、指が、わたしを広間の真ん中へと誘い出そうとする。
――が。
「お待ちになって――!」
突然、鋭い声がわたしとグランツを制止した。
目を向けると、真っ赤なドレスを着た背の低い少女が腰に手を当てて立っていた。
正面からじっくりみると、十代前半に見える。ツインテールにした艶やかな黒髪に幼さの残る可愛らしい顔立ち。
間違いなく良いところの貴族令嬢と思われた。
グランツが冷ややかな目で少女を見下ろす。
「失礼ではありませんかね? ヒルダ」
ヒルダと呼ばれた少女は憤りで目を吊り上げ、震えながら言った。
「グランツ様、わたくしと言うものがありながら、どういうことですの?」
「なんのことでしょう? 私は自分にとって一番大切な人を選んだだけですが?」
「ただの客人でございましょう? それにこのような場は慣れておられぬ様子。まずはわたくしと手本を示して差し上げるべきでは?」
「その必要はありませんね。彼女は私にふさわしい女性ですから」
「な、なんですって!?」
すみれ色の瞳に強気な光を宿してわたしを見てきた。わたしの頭からつま先まで見ていくうちに、嘲りの笑みを浮かべた。
「あら、気付きませんでしたわ、ごきげんよう。わたくしはヒルデガルド・ベルクヴェルク・フォン・ドワーフですわ」
「は、初めまして。アリア、です。ヒルダ様はドワーフなのですね」
わたしは途惑ってしまい、言葉につかえつつ答えた。ただの少女かと思っていた。
ドワーフならこの見た目でも成人しているのだろう。
ヒルダは誇らしげに胸を反らしながら言った。
「そうですわ。わたくしはドワーフ領を統べるドワーフ公爵の娘でしてよ。こう見えて18歳ですので、よろしくお願いしますわ」
おほほほほっと頬の横に手を当てて高笑いした。器用に目だけはわたしを見下しつつ。
それから、ずいっとわたしに一歩近づいて言った。
「ですのでアリアさんとやら、お下がりなさいな。グランツ様の隣はわたくしの居場所でしてよ」
「えっ――は、はい――」
恥ずかしくて俯きながら離れようとしたわたしを、グランツが腕に力を込めて抱き寄せた。
彼の強い力に守られて、わたしは頬が熱くなる。
グランツがわたしを抱きつつ鼻で笑いながら言う。
「フッ。私の隣に誰が立つかを選ぶのは私です。ヒルダではありませんよ」
「だからと言って、その女を選ぶと言うんですの? 下に見られますわ」
「私の隣にふさわしい、素敵な女性でしょう?」
「どこがですの? たたずまいも身の振る舞いも淑女たり得ていませんわ。自信なさげにおどおどして、見苦しい」
「あなたの言い分の方が、よっぽど聞き苦しいですね」
グランツは全く笑っていない目で言い切る。
ヒルダはいらつきながらわたしを睨む。
「それにその庶民。王族の色のドレスまで着てますのよ。恥知らずにもほどがありますわ」
わたしは、はっと息を飲んだ。確かにドレスの色がかぶっているのが気になっていた。
赤いドレスが王族の色だったとは。
――なんてものを着せるのよ、グランツ。
不安になるわたしをさらに強く抱きしめて、彼は言う。
「何が問題なのでしょうか、ヒルダ。私が着て欲しいドレスを、アリア様に着ていただいているだけですよ?」
グランツの何気ない言葉に、ヒルダは悔しそうにわたしのドレスを睨む。
「黒と赤は王族の色ですのに……こんな女に着せるなんて」
「似合っていますでしょう? 何度も言いますが私の隣にふさわしいのはアリア様しかいませんので。お引き取りください、ヒルダ」
グランツがとりつく島もなく言い切った。
ヒルダは怒りで燃える瞳でわたしとグランツを交互に見た。
「わたくしをないがしろにしたことを、絶対許しませんわよ。あなたもグランツも――では、ごきげんよう」
ヒルダはちっちゃな体でぷりぷりと怒りながら大広間を大股で歩いて去っていった。
一瞬の静寂が訪れる室内。
どうなることかと思いながら、大広間の真ん中まで来た。
わたしは彼に寄り添いながらささやく。
「大丈夫なの、グランツ?」
「ええ、何も問題ありません。私に必要なのはアリア様、ただ一人です」
至近距離で見下ろす赤い瞳が、微笑むように優しい。
見つめているだけで頭が、ぼーっとしてくる。
静かに曲が流れ出す。
互いの背中に手を回して、見つめ合って踊り出す。
彼の細い指先に導かれながら、わたしは大広間の真ん中でくるくると回って踊った。
彼の指が、足のステップが、次の動きへ導いてくれる。
抱き寄せられては、くるっと一回転して離れる。片手は繋いだまま。
わたしの赤いドレスの裾が薔薇のように広がり、彼の黒いロングコートの裾が黒百合のように広がる。
彼の思うままに動かされて、なんだか逆に楽しくなってくる。
それは、まるでわたしがグランツのものになったような感覚――。
そう考えると、急に恥ずかしくなってボッと頬が火照るのを感じた。
彼の細くてたくましい腕の中で俯いていると、グランツは微笑んだ。
「ふふっ、素敵ですよ、私のアリア様」
「あ、ありがとぅ……」
顔を上げると、微笑む赤い瞳と目があって、ますます顔が火照る。
美形との距離が近すぎるっ。
――ああ、もう。どうにでもなれ!
わたしは彼にしなだれかかるように身を預けて、くるくるとダンスの波に翻弄され続けた。
その後、遅れて現れた国王夫妻にも会った気がするけど、頭が沸騰していたので何話したかほとんど記憶に残らなかった。
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――迷惑かけましたので、次話は夜更新します。




