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おかしな聖女は冷血王子に拾われて溺愛されます  作者: 藤七郎(疲労困憊)


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第16話 王都ルビン


 わたしたち一行は、領都ヴァントから一週間以上かけてシュタールヴァルト王国の王都、ルビンについた。


 王都ルビンは大きな山の麓に広がる街で、すぐそばには山から流れてきた大きな川があった。

 シュタールヴァルト王国は国土の多くが山岳地帯。平地が少ないため食料自給率は低いけど、鉱山と鉄製品がおもな輸出品で、それらを売って食料を輸入していた。


 王都を囲む高い外壁をくぐって街へと入る。

 大通りには人々が詰めかけていた。ちょっとしたパレード状態だった。

 王子であるグランツが帰ってきたからパレードになったのかなと思ったけど、人々の叫ぶ声を聞くうちに違うみたいと気付いた。


「聖女様~!」「アリア様~!」「我々にも慈悲の手を~!」


 どうやら塩乾パンの配布を聞き及んでいたらしい。

 ここのところ各国で作物が不作で、輸入に頼るシュタールヴァルトは、食料不足ではないが高値になっていた。


 そこで塩乾パンが欲しいらしかった。

 思わず呟く。


「わたしの塩乾パンか……」


「ええ。国民全員、聖女アリア様の慈悲にすがりたいのでしょう。私も常に同じ気持ちです」


「グランツはちょっと心酔しすぎだけどね」


「何をおっしゃいますやら。まだまだアリア様に対する愛は百分の一も伝えられていません。疑うのでしたら、いつでもこの命を捧げますから」


 そういってグランツは剣を抜いて首筋に当てた。

 わたしは慌ててその手を止める。


「だから潔く死ななくていいんだってば!」


 私の言葉に、グランツはうっとりとした笑みを浮かべて言う。


「ああ……生きる価値のない私にすらも救いの手を差し伸べてくださると言うのですね。アリア様はまことの聖女様です。一生お慕い申し上げます」


「もう~っ、なんなのこいつ!」


 わたしは頬を膨らませて怒ったふりをして窓の外を見た。

 嬉しいやら恥ずかしいやらで彼の目をまともに見れなかった。

 


 パレードのような歓迎を受けつつ、馬車はお城についた。

 分厚い外壁と深い掘、そして高い尖塔をいくつも持つお城。


 堀に横たわる跳ね橋を通って城内へ。

 床は赤いレンガが敷かれていて、壁にはタペストリーが掛けられている。

 堅牢な作りの中にも美しい豪華さを感じた。



 それから玉座の間へと通された。

 広間は太い柱が何本も並んでいて高い天井を支えている。床全面はレンガだけど、入り口から玉座のある段の下まで赤い絨毯が敷かれていた。


 わたしはグランツに伴われて王様の前へと進む。

 広間には着飾った貴族や騎士たちがいた。


 王様のすぐ下の段まで来ると、わたしは片膝をついて頭を下げる。

 まずはグランツから言葉を発した。


「父上、この国を救う聖女様をお連れしました。私にとってもかけがえのない女性です」


 どよどよっと貴族たちが口々に何かを言った。

 うまく聞き取れない。でも驚いているようだった。


 歳の頃50代に見える、頭に白いものが混じった王様すら、片方の眉を上げて驚きを示していた。


「グランツハルトがそこまで言うとは、さすが聖女と噂されるだけある。特に、辺境伯領でおこなった食料配布の支援活動は聞き及んでおる。まことに大儀であった。シュタールヴァルト王国はアリアを正式な聖女と認めよう。また供給してくれた分の報酬を支払うことを約束する」


「ありがとうございます、王様」


 わたしはもう一度、頭を下げた。

 わたし的には何も言うことない。

 それどころか、スキルで出し放題のお菓子で報酬がもらえるなら願ったりかなったりだった。



 しかし貴族が騒ぎ出す。


「お待ちを、国王陛下!」「そやつは聖女とはいえただの庶民!」「聖女は国王と同じ立場になるのですぞ!」


 ああ~、そう言う問題も出てくるのか。

 わたしは別に地位とか名誉とかいらないんだけど。

 ただ、もう一度ぐらいは両親に会いたいというのが望みだった。



 どうしようかと思っていると、鋭い音が響いた。


 ――キンッ!


 グランツが剣を鞘にしまう鍔なりの音を響かせた。

 一瞬にして静まる広間。


 グランツは赤い瞳に冷酷な光を宿して貴族たちを睥睨する。


「誰かがそう言いだすであろうことは承知しておりました。よって私からもさらに付け加えます。まずはアリア様を領地を持たない貴族に列した後、私の婚約者にいたしましょう」


「な、なんと!」「あの冷血が!?」「妻を娶るだと!」


 

 ずんぐりした体格の髭面の男が野太い声を張り上げる。


「グランツハルト王子。我が娘ヒルダとの婚約は破棄されると言うのですかな?」


「承諾した覚えはありませんね。ドワーフ公爵」


 グランツは冷たい視線で言い返した。

 ――わたしと同じぐらいの背丈だと思ったら、ドワーフだったらしい。

 てか、ドワーフが公爵って。シュタールヴァルトは鉄器生産が主産業だから、ドワーフの助力が大きいのかもしれない。



 王様が片手を上げて制止する。静まり返る広間。


「そのことはまた追って話し合おう、ドワーフ公爵よ。今は聖女アリアを称える場だ。そしてアリアを貴族に列すると言う提案も受け入れよう――何か案があるのか、グランツよ」


「はい。アリア・フラン・フォン・ジューシヒカエテンではどうでしょうか?」


「ジューシヒカエテン……ぶふっ」


 王様が顔を横に逸らして吹き出した。

 他の貴族の中にも吹き出す人がいる。

 ――なんか嫌な予感がする。言葉の意味はわからないけど。


 王様は笑いを堪えつつ、厳かな声で言う。


「よかろう。聖女アリアは今日からアリア・フラン・フォン・ジューシヒカエテンと名乗るがよい――ぶふっ」


 また堪えきれずに笑った。

 なんなの? とても気になるんですけど。



 わたしは隣に立つグランツを睨み上げた。

 グランツは赤い目を細めて、ニコッと微笑み返してくる。


「アリア様にぴったりのお名前ですよ」


「……あとで意味を聞くからね?」


「はい。お待ちしております」


 グランツはどこまでも素敵な笑顔で答えるのみだった。



 その後、わたしはお城で暮らすことになった。

 豪華な一室があてがわれて、専属のメイドさんも一人付いた。同い年の若い女性。黒髪をした可愛い感じのするメイドさんだけど、無表情だった。


 喋りかけても無口すぎて返答がない。

 嫌われているのかと思ったけど、どうやら無口無表情な性格のようだった。


 しかし何を考えているのかはよくわかった。

 無口だけど、猫耳と猫尻尾がある猫獣人だったから。

 黒い耳と尻尾が感情を良く出していた。


「朝食の用意、できた」


「あ、うん。ありがと。ミーニャさん」


「さん、いらない。メイドだから」


「ミーニャ」


「ん、それでいい」


 偉そうなのか不愛想なのか、よくわからない。

 とりあえず部屋のテーブルに朝食が用意されていた。


 ベッドを降りると、てきぱきと着替えを手伝ってくれる。無言のまま。

 着替えが上手くいくと、ミーニャの尖った猫耳がぴんと立つ。失敗するとへにゃっとなる。

 鏡を見るより、よくわかった。

 耳と尻尾の反応は信用してもいいかな? とちょっと思った。



 毎日、朝食を食べるとお城の裏手に向かった。裏手には物資搬入口があり、近くには大きな倉庫が幾つか建っていた。

 王都でもやることは変わらない。

 塩乾パンをたくさん出す。


 わたしは腕まくりしつつ、空いた木箱へと向かっていった。


続きを一万字ほどかけたので、明日も更新。


……ジャン王子のsideを、どの話の最後にくっつけようかで悩んでいます。

そのせいで不定期更新、申し訳ないです。

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