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おかしな聖女は冷血王子に拾われて溺愛されます  作者: 藤七郎(疲労困憊)


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第15話 狼のお嫁さん探し


 領都に来て一週間が過ぎた。

 塩乾パンを配る方法論が確立され、領都や領内にスムーズに配給されていた。

 グランツから、そろそろ王都へ向かいましょう、と誘われていた。


 昼過ぎ。

 わたしはモモちゃんに乗って領都ヴァントを見て回った。これで見納めかなと思って。

 顔見知りになった人たちに挨拶していく。花屋のおばさんや、食堂のおじさんなど。

 もちろん教会にも顔を出してシスターや子供たちとも別れを惜しんだ。



 錬兵場では一回り大きくなったイチローたちが、数十人の兵士相手に戦っていた。

 兵士たちがイチローを取り囲むけれど、イチローは鼻先に魔法陣を光らせると青い炎の壁を出した。

 炎の壁で攻撃を避けつつ、壁の端から前に出てきた兵士に襲い掛かる。

 太くて白い腕でペタッと兵士の顔を触ると、赤い塗料がべったりと付いた。死亡判定らしい。


「やられたー」


 兵士が大げさに叫んで倒れる。その間にも、次々と兵士たちに触っていき、バタバタと兵士は倒れた。

 イチローの圧勝だった。


 サンダースも圧倒的に戦っていた。

 鼻先に魔法陣を生み出すと、ドンッと前足で踏み下ろす。するとサンダースを中心にして蜘蛛の巣のような電撃が地面を走る。


 飛んで避けた者は半数。半分はまともに電流を喰らって痺れて倒れていた。

 残った兵士も、サンダースの『雷瞬歩ライトニングワープ』という雷の速度で動く魔法? で、ばたばたと倒されていった。



 見ていたわたしは驚きの声を上げる。


「えっ、イチローもサンダースも魔法が使えたの!?」


「それだけじゃないですよ」


 隊長さんが補足してくれた。

 驚いたことに隊長が言うには、魔法だけじゃなくスキルも使えるらしい。


 白狼たちが戦うときに一回り大きくなるのは『野生解放ワイルドリリース』というスキルらしい。攻撃力や防御力が上がるそうだ。


 またキドニスのスキルは特にヤバいらしい。白毛というより透き通る毛になっていたキドニスは、風景に姿を溶け込ませることができた。『光学迷彩オプティカルカモ』と言うスキルらしい。

 腎臓パイしか食べない偏屈なキドニスらしいスキルだと思った。



 私は申し訳なくなって隊長さんに言った。


「なんだかごめんなさい。うちの狼たちが迷惑かけてしまって……」


「いえいえ、むしろ実戦形式で訓練できるので助かってます」


 隊長には感謝された。

 なんでだろうと思ったら辺境伯領の兵士は魔物と戦うことが多いからだそうだ。

 魔の森に接しているのでどうしても魔物との戦闘が重要になる。


 なので魔物と同じ形をした聖獣様と戦えてよかったとのこと。

 ……まあ、イチローたち全員、見た目は白くなったけど本当に魔の森の魔物なんだけどね。限りなく聖獣に近い何か。

 まあ、わざわざ言う必要もないと考えて黙っておいた。



 ――と。


「アリア様!」


 声に振り返ると、錬兵場にグランツとヴィーがマントを揺らして入ってきた。二人とも険しい顔をしている。

 だが、さすがは王国貴族。愁いを帯びた顔にも品があった。


「グランツ? ヴィーさん? どうしたんですか?」


「アリア様、すみません。王都への旅程は延期になります」


 グランツはわたしの傍へ来て頭を下げた。銀髪がさらりと垂れる。

 王子が頭を下げるのを見て、兵士たちが息をのむ。


 ヴィーが肩をすくめつつ困り顔で言った。


「魔の森から魔物があふれて近くの村を襲ったみたいなんだよ。倒しに行くから待っててくれないかな?」


「えっ! 危険な魔物なんですか?」


「ゴブリンと狼なんだけど、ちょっと変わっててね。ゴブリンライダーになってるらしいんだ」


「ゴブリンライダー?」


「そう。ゴブリンが狼に乗って攻めてきてるらしい。魔の森の変動によって、弱い魔物が生き残るために手を組んだみたいだね」


「そんなことが……」


 私は不安で眉を寄せた。

 グランツが兵士たちを鋭い視線で見渡して大声を上げる。


「さあ、皆さん! 力を試すときです。怖気づいているものは、私がより恐ろしい目に合わせてあげますが……そのような人はここにはいませんよね?」


「「「は、はい! いません!」」」


 兵士たちは敬礼をして叫んで答えた。必死な様子。



 あとなぜかイチローたちが遠吠えをして喜んでいた。

 わたしはイチローに尋ねる。


「あなたたちも行くの?」


「「「わぉん!」」」


 イチローたちが声を揃えて答えた。やる気満々らしい。

 その様子を見てヴィーが微笑む。


「白狼さんたちに助けてもらえるなら百人力です。では、すぐに用意して出立しましょう」


「「「おお~!」」」「「「わぉーん!」」」


 兵士と狼の声で錬兵場がどよめいた。

 それからすぐに軍事行動の準備をして、ヴィーの引率のもと出立していった。

 グランツが「一週間もアリア様に会えない日が続くと思うと、生きていける自信がありません」と悲しみに震えていた。

 フィナンシェやプリンを多めに持たせて、笑顔で快く送り出したのだった。



 けれど次の日。

 わたしは朝から本調子じゃなかった。

 

 おめざのジュースはベッドにこぼしてしまうし、服は裏返しに着てしまうし。

 倉庫での塩乾パン出しにいたっては、従者に指摘されるまでミスに気が付かなかった。


「聖女様! こちら焼き印が入っていません!」


「あっ、ごめん!」


 わたしは、この国の紋章を焼き印した塩乾パンをしっかりイメージして出した。

 ザラザラと音を立てて焼き印入りの塩乾パンが木箱に入っていく。


 塩乾パンを出しながら思う。

 ――どうしたんだろう、わたし? 何が気になっているんだろう?

 

 もやもやした心を見通すように、わたしはじっくりと自身の感情を探った。



 そして、予定の塩乾パンを出し終える頃、ようやく不調の原因に思い当たった。


「グランツのことが心配なんだ、わたし」


 そう口に出すと、ますます心配になってきた。

 初めて会った時、魔の森の魔物にやられて死にかけていた。


 今度の魔物も魔の森から出てきている。

 またグランツが死んでしまうかもしれない――そう考えた瞬間、胸が締め付けられるような痛みを感じた。


 ――大丈夫。

 落ち着いて、わたし。

 グランツにはクッキーやフィナンシェを渡してある。怪我をしたってお菓子を食べてくれたら回復する。

 だから何も心配する必要が――。


 そこまで考えてもっと最悪の事態を思いついてしまった。

 胸が苦しくなって思わず手を当ててしまう。


 ――もし食べることができないほどの怪我をしてしまったら?

 想像したくない事態。でも、ありえなくはない。


 私は心配のあまり、つい口に出して呟いていた。


「生きて帰ってきて、グランツ」


「ありがとうございます、アリア様。私なんかを心配していただいて。心から喜び申し上げます」


「えっ!?」



 声のした方に目を向けると、すでにグランツが倉庫内にいて、胸に手を当て片膝をついてかしこまっていた。

 わたしは、かあっと顔が火照るのを意識する。


「な、なんでここにいるの!? 魔物討伐は!? 村は!?」


「白狼たちのおかげでもう終わりました。アリア様のお力添えのおかげです」


 彼が振り返ったので、私も目を向ける。

 倉庫の入口辺りにイチローたちがお座りして待っていた。


 グランツ曰く。

 イチローたちが索敵や追い込みを頑張り、ゴブリンライダーを一網打尽にできたそうだ。

 またわたしの出した塩乾パンで村人の怪我も治ったそうだ。よかったよかった。



 ……よかったんだけれども。

 わたしは顔が真っ赤になっているのを自覚しながら、それでも言う。


「でも、無事に帰ってきてくれてよかった、グランツ」


「はい。私もアリア様に一秒でも早く会いたかったです」


 そう言うなり、グランツは立ち上がってわたしを抱きしめた。

 予想外の行動。

 細くても筋肉のある腕にギュッと抱かれて、わたしは心地よさと恥ずかしさに、頭から湯気を出して照れた。


「も、もう! ほんとはプリンが食べたいだけでしょっ!」


「それもありますけどね」


 グランツは苦笑しながら、わたしを解放した。

 赤い瞳の微笑みがどこか悲しそうで、胸に痛みが走った。



 私はいたたまれなくなって、入り口にいる狼たちをよく見た。

 というか、数が増えていた。


 白狼たちに交じって、黒い狼と灰色の狼がいた。二匹ともメスだった。

 黒い狼はサンダースに寄り添って座り、灰色の狼はキドニスと一緒にいる。

 どうやらお嫁さんらしい。


 オスの狼たちがいきり立ったのは強いメスと出会えるから、だったようだ。

 毎日の食事と雨露をしのげる寝床。生活が安定したら次は伴侶よね。



 わたしは新参の狼たちに尋ねる。


「噛みついたりしないよね?」


「わん!」「くぅん!」


 メス狼たちはかしこまって頷いた。


「じゃあ、ご飯出すから好きに食べてね」


 わたしがミートパイやらを出すと、みんな太い尻尾を振って食べ始める。

 どこからか青い鳥がやってきて、零れたパイのかけらをついばむ。



 ついでに名前を付けた。

 黒い狼を指さして言う。


「あなたは黒いからノワちゃんで」


「わん!」


「あなたはきれいな青みを帯びた灰色だからアイスちゃんで」


「くおん!」


 名付けたメス狼は嬉しそうに鳴いた。そして内臓パイや野菜卵パイをおいしそうに食べていた。

 一つだけ疑問に思ってミートパイを食べるイチローに尋ねる。


「イチローはお嫁さん、見つからなかったの?」


「ぐぅぅ……」


 悲しげな顔で呻くイチロー。なんだか可哀想な可愛さで、思わず笑ってしまった。

 グランツも釣られて笑う。


 その後、笑われたと感じたイチローは倉庫の隅で丸くなってふて寝をした。

 何度も謝ったけど、その日一日は許してもらえなかった。



 そして次の日、塩乾パンの配給データ収集も終わったわたしたちは、ヴィーと別れの挨拶をしたあと、馬車に乗って王都へ向かった。

 狼たちに馬車の周囲を警戒してもらいつつ。


 王都に向かうにつれて緩やかな上り坂となる。

 遠くには屏風のような山脈が聳えていた。


ブックマークありがとうございます。続きを読みたいと思ってくれる人が10人以上もいるなんて嬉しいです。

不定期ですが最後まで頑張ります。

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