第3話 和解のショール
第3話 和解のショール
灰色の谷には、今日も冷たい空気が流れていた。
村の広場では、二人の男たちが水の分け前をめぐって声を荒らげている。
「お前の桶は多すぎる!」
「いや、こっちだって家族がいるんだ!」
互いに譲らず、周りの人々も困った顔をしている。
リリィは胸を締めつけられるような思いで、その光景を見つめた。
——どうして、みんな争ってしまうの?
その夜、リリィは灯りの下で編み棒を取り出した。
「争いを和ませるもの……みんなが肩を並べられるようなものを……」
思い浮かんだのは、一枚のショールだった。
リリィは灰色の糸に、虹色の糸を少しだけ混ぜ込みながら編んでいった。
左右から編み進めたショールは、まるで二つの流れがひとつに重なるように中央で結び合った。
その形を見たとき、リリィは直感した。
——これは、二人で分け合うための布だ。
翌朝、再び広場で言い争う二人に、リリィはそっと歩み寄った。
「これを、一緒に掛けてみてください」
戸惑いながらも、二人は渋々ショールを肩にかけた。
すると、不思議なことに胸のざわつきが和らぎ、怒鳴り声は消えていった。
「……あれ、なんだか落ち着くな」
「お前の苦労も、少しわかる気がする」
二人は目を見合わせ、ゆっくりと笑みを交わした。
周りの村人たちもほっと息をつき、広場には久しぶりに柔らかな空気が流れた。
その様子を見つめながら、リリィは心の中でつぶやいた。
「編み物ひとつで争いを和ませられるなら……兄さんが行った先の争いも、きっと鎮まるはず」
遠くへ旅立ったルドルフの背中を思い浮かべながら、リリィは編み棒を握る手に力を込めた。




