第2話 風のひも
第2話 風のひも
灰色の谷に、不穏な知らせが届いた。
遠い隣国で争いが起こり、炎が町を包み、人々の心に怒りが渦巻いているという。
リリィの兄、ルドルフは緑の帽子をかぶり、そのつばに鳥の羽を差し込んで立ち上がった。
「俺たちが行かねばならない。争いを鎮め、少しでも平和を取り戻すために」
仲間たちとともに旅立つ準備を進める兄の姿は、凛としていて、まるで風に導かれる旅人のようだった。
けれどリリィは、胸の奥にしめつけられるような不安を感じていた。
「兄さん……どうか、無事で帰ってきて」
その夜、リリィは机に向かい、編み棒を握りしめた。
灰色の糸に、森の奥で見つけた一筋の光の糸を混ぜる。
ひと目、ひと目に祈りを込め、細く長い「ひも」を編んでいった。
それはただのひもではない。解けば必ず「追い風」が吹き、旅人の背を押してくれる。
リリィはその願いを、編み込む糸に託した。
朝日が谷を照らす頃、ルドルフが馬にまたがり、仲間とともに出発の準備をしていた。
リリィは駆け寄り、小さな包みを差し出す。
「兄さん、これを持っていって。風のひも……旅を助けてくれるはず」
ルドルフは驚いた顔をしてから、やわらかく微笑んだ。
「ありがとう、リリィ。お前の願いがあれば、きっとどんな嵐も越えられる」
彼はそのひもを胸に収め、仲間とともに谷を出発した。
その瞬間、不思議なことが起こった。
背中を押すように、柔らかな風がふわりと吹いたのだ。
リリィはその風に向かって、心の中でつぶやいた。
「どうか必ず、無事に帰ってきて……」
風はまるで約束を運ぶように、ルドルフの背を押し続けていた。




