みじかい小説 / 019 / 名もなき日
今朝、私は夫と大喧嘩した。
きっかけは最近夫がさぼりがちなゴミ出しについて、私がしつこく問いただしたことだった。
「お前の叱り方さ、嫌味や過去の事を持ち出して、なんかうっとうしいんだわ」
夫はそう言って仕事に出かけた。
家に一人残された私は怒りが収まらず、家事をしながらずっとむかついていた。
なぜ叱っている私の方が偉そうに言われなければならないのか。
何度考えても夫の言い分に腹が立った。
洗濯物を干し、家じゅうに掃除機をかけ終わり一息つくころになっても、私の怒りはおさまらなかった。
こんな時は、何か自分を甘やかすイベントが必要だ。
そう思った私は、ちょっと電車で遠出をして、高めのランチを楽しむことにした。
スマホでレビューを見て選んだ、はじめて入る店だった。
本日のおすすめを選んでみたところ、それはなんということはない、シンプルな唐揚げ定食だった。
多少がっかりしたものの、雰囲気だけは良い店だったので、私は勢い食後のコーヒーも注文した。
するとそのコーヒーが思いのほかおいしく、私はウェイターに感想を述べるまで上機嫌になっていた。
お腹のふくれた私は、来た道にこじんまりした映画館があったことを思い出した。
店を出て寄ってみると、果たしてブームが三周ほど過ぎた映画が上映されていた。
尖った映画を見る気分でもなく、泣きたいわけでもなかった。
恋愛に酔いしれたいわけでも、冒険したいわけでもなかった。
消去法から、私は動物の出てくる感動ものの映画をチョイスした。
映画自体は予想していた通り、動物と人間の交流を描いた心温まるものであった。
感情がささくれなかっただけで、今は十分。
私は帰りに本屋に寄り、積み上げられていた中から文庫本をいくつか選んで買って帰った。
それをSNSにあげたりしているうちに夕方になり、洗濯物を取り入れる。
夫が帰ってくるまでゆっくりと夕食の支度をして待つ。
夫の機嫌は直っているだろうか。
沈みゆく夕日をベランダから眺めながら、私はその写真をSNSにあげるのだった。
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