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影法師  作者: 桜柚
第一章
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壬生浪士組という存在【肆】


芹沢派の狼藉には、近藤派を含む他の浪士組の皆もほとほとに困り果てているが、良き打開策がないのが現状だ。何せ、芹沢は壬生浪士組の筆頭局長。代表が、そのような事をしていれば、組織全体が白い目で見られるのは必然。このままでは、組織全体の存続が危ういと、皆感じていた。


だからこそ、土方や斎藤が暗躍し、どうにか打破しようとしているのだが。

沖田は最近、煙管を吸う回数が増えた土方の姿を思い出し、小さく息を吐いた。


「頭の痛い問題なのは、重々承知なんですよ。でも……、色々と、芹沢さんのお陰で助かった事があるのも事実で。そう簡単には切り捨てられない関係なんですよねぇ」


何より、芹沢さんは任務以外では気の良いお兄さんなんですから、と沖田は何処か楽しげに笑う。その様子から、沖田と芹沢が親しい間柄である事が伺えた。


芹沢鴨という男。確かに背が高く、でっぷりとした体格から威圧感があり、怖さもあるだろう。そこに常に持ち歩いている鉄扇、臭う時がない程に飲んでいる酒。

そして、浪士組という組織の筆頭局長という肩書。


畏怖しない方がおかしい。だが、それは大人達からの目線の話である。童達からは違う印象を持たれ、随分と慕われているようだった。


「知ってる。壬生寺で、童達とよく遊んでんだろ。芹沢が、大人気なく騒ぐ沖田の方が童のようだって、ぼやいてたよ。あと絵心がないんだって?」


「うわあ、芹沢さん酷い! 内緒にして下さいと、あれ程お願いしてたのに! この間鬼になって走り回した件、まだ根に持ってるんですかねぇ」


「ははっ、どうだか」


童に好かれている奴に悪い奴はいない。

そう思いたいが、芹沢には二面性があるのも事実。陽気でおどけた一面がある一方、酒が入ると豪傑さが増し、直ぐに手が出る。それで救われた人もいるし、傷付けられた人も多数いた。


だが、どちらにしろ、もう流れは止まらない。


「まあ、知己として言っておくが、芹沢の行動には気をつけときなよ。アイツは歩みを止める気はないぞ」


「……忠告、ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。佐伯の件以降、芹沢さん、珍しく大人しいんです」


「大人しい、ね」


芹沢は、まだやることがあると言った。

市中や花街を彷徨いてはいるのだろう。だが、やるべき事に至っていない()()があるのだろう。壬生浪士組の知名度は悪い意味で上がった。壬生狼と蔑称で呼ばれる事が多いが、今や京の都で知らない人はいない。不逞浪士達も、多少は警戒する存在となりつつある。


一体、何をやろうとしているのか。


まだ起きてもいない事を悶々と考えても埒が明かない。そういえば、腹が空いてたな、と気が付き、東雲は厨のある方へ足を進める。


「沖田、朝飯は? 食べたの?」


「え、まだですよ。起きて直ぐ、此方にやってきたので。まだ仕込み中だった様ですし、戻ってから貴方と一緒に食べればいいやと思いまして」


「せめて、飯ぐらい食って来いよ……」


いや、そもそも早朝に来るなという話なのだが。やはり、沖田と話すと酷く疲れる。早々に決着を付け、出来れば沖田とは金輪際関わりたくない。


「僕を、迎えに来たのは分かった。だが沖田、お前、今日非番なんだろうな?」


ビクッ、と分かりやすく沖田の身体が跳ねた。だが、瞬時に何もなかったように貼り付けた笑顔を見せる。胡散臭さが増したな、と東雲は思わず呟いた。

つまりは、そういう事である。


「帰れ。仕事しろ」


「い、嫌ですよ! 今の私には、東雲さんと死合するという使命があるんです! 是と言うまで帰りませんよ!」


「ちょっと待て、おかしい。僕は、お前と殺し合うつもりはねえからな!? 単なる手合わせの筈だろうが!」


「いーえ! 東雲さんは私と真剣で試合をして頂きます! これは、決定事項です!」


「話の流れからして、お前の独断だろ! 勝手に決めんな!!」


東雲が認めないとばかりにぎゃんぎゃん吠えていれば、開いていた戸からひょっこり訪問者が顔を出した。


「ごめんくださーい! 朝早くにすみません。此方に、」


小柄の、総髪姿の少年である。少年は沖田の姿を捉えると、ホッとした表情と共に声を更に上げた。


「ああーー!! 沖田くん、いたぁ! やっぱり彼の所に行ってたんだね!? 土方さんが、もうカンカンなんだよー! 直ぐに! 戻ってきて!!」


「えぇー、それくらい平助が何とかしてくださいよー」


「何で俺!? 怒りの原因は俺じゃなくて、沖田くんだからね!?」


「土方さんの説教長いから、聞きたくないんですよ。なので、嫌です」


「だから! 原因は沖田くんだから、君が帰らないと、土方さんの沸点いかりも下がんないの!! 既に、左之さん達が代わりに犠牲になってるんだよ!」


「あらら、御愁傷様です」


「他人事みたいに言うなよ、お前の所為なんだからなっ!!!!」


目の前で繰り広げられる軽快な会話に、東雲は内心拍手を上げたくなった。

あの沖田相手に、よくもまあ、怯む事無く口撃を出来るものだ。


恐らく長い付き合いの賜物だろうが、疲れが酷いのは東雲と同じようである。沖田はけろりとしているのに対し、少年は何処か疲れ切っていた。


平助、と呼ばれていた彼は恐らく藤堂平助とうどう へいすけ。沖田と同じ、壬生浪士組の一員であり、近藤派に属する組内での最年少幹部である。






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