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第9章 国会審議

我が国の少子化が問題視されてから30年間が経過したがその間子育て支援など色々な対策が講じられて来たが未だに少子化に歯止めがかからない。そんな中、衆議院議員森山克子は民民党党首に上り詰め総選挙を戦い抜き女性としては初めての内閣総理大臣に就任、以前から持っていた少子化対策の法制化を実現する。

第1章から第10章までは森山克子が新少子化対策の法制化を実現するまでの過程が綴られており第11章からは新少子化対策法施行後のドラマが展開する。ご期待あれ。


話は全てフィクションです。なので登場人物は全て架空の人です。

 森山はワーキンググループのメンバー一同中心にして新少子化対策に関わる法案を早急に作成させて、衆議院本会議に先立ち森山は【新少子化対策特別委員会】を立ち上げて各方面の専門家による審議を指示した。案の定委員会では議論が飛び交い騒然となったが森山が趣旨を説明してやや強引に会議を進め、その結果少子化対策素案で提案されている内容がほぼ織り込まれた法案が通過して本会議に上程する事となった。本会議では野党の保守党が加わり審議は特別委員会よりももっと紛糾すると予想されたが森山克子は自らを奮い立てて立ち向かおうと決意を新たにした。


 忘れもしない20××年8月1日、森山内閣は閣議で臨時国会召集を決定後新少子化対策に関わる法案の審議を本会議にかけた。


 本会議が始まると野党の保守政党党首の質問からは予想に反してあまり厳しい反対意見は出なかった。森山は今までの報道各社の報道内容から経済界や産業界が概ね賛同している事から強い反対意見が出なかったのだろうと思った。それに対して森山のお膝元の与党議員から強い反対意見が次々と飛び出した。これには森山も予想していなかったので驚いたが顔色には出さなかった。どうやら与党の支持母体である労働団体が裏側で動いている様子だ。

「最初に祝祭日についての質問ですが、休日は労働者にとって第一は日頃の厳しい仕事を離れて疲れた心身をリフレッシュするために必要なものです。第二に休日は残業続きの中で家族とゆっくり過ごす大切な時間ですがこれを削られたら困ります。第三に現在でも休日は少ないのにそれを大幅に削られたら労働者の健康問題が多く発生します。おまけに振り替え休日を廃止するなど許せない事です。是非考え直し頂きたい。また昭和の日及びみどりの日はご存じの通り昭和天皇のお誕生日に関わる日です。これを簡単に祝日から外すなどあってはならない事です。総理のお考えをお聞かせ頂き是非元通り休日として頂きたい」

 森山が率いる与党の中で労働組合出身の日頃何かと森山の力になってくれている塚田議員の質問だ。

 森山は身内からの反対意見にむっとしたが、「現在我が国の労働力不足は650万人を超えております。そんな状態ですから、子育てのために大勢の女性がビジネスの第一線から一時的に抜けますのは大変厳しい事ですが一方我が国の少子化は待った無しの状態でございますから休日を減らす事は皆様働いておられる方々に多大なご苦労をおかけしなければならない事を承知で提案した次第です。この国難とも言うべき少子化問題を乗り越えるためにどうぞご理解を賜りたいと思います。次に昭和天皇の天皇誕生日についてでございますが、既に宮内庁とご相談させて頂き現在の天皇陛下のご了解も賜っている次第です。天皇陛下におかれましても我が国の将来をご心配なさり是非強力したい意向だと伺っております」

 森山の答弁に対して、「それでも休日を削ってもらっては困るとはっきり申し上げて私の質問を終わります」と塚田は締めくくった。


 次に質問に立ったのは与党で日頃大企業に対して厳しい意見を述べている渡邊議員からの質問だ。

「現在の8時間労働制や年間の労働時間規制は我々が長年かけて勝ち取った基準であります。それをぶち壊して、1日10時間労働制にするなど逆戻りも甚だしくとても容認出来ません。おまけに土曜半日勤務など全ての労働者が猛反対するでしょう。なぜそこまでするのですか? 労働者の皆さんが納得できる答弁をお願いしたい」

 森山は「現在我が国はとてつもない労働力不足に見舞われております。これを解決するために安易な方策と致しましては外国人労働者の受け入れを大幅に増やす案があります。しかしながら我が国の国力低下とそれに伴う円安のために海外から優秀な働き手に来て頂く事は大変難しい状態です。こう言ってはなんですが、海外から色々な方々を大量に受け入れますと一番心配になりますのは治安です。ご存じの通り我が国では夜間女性がお一人で街中を歩いても怖い事は少ないですし手荷物を頻繁に盗られることもありません。そんなリスクを承知で海外から大勢の労働者を受け入れるのかあるいは私たち働く人々が頑張って1日の労働時間を増やして過ごしやすい治安の良い国を守るか、私は今まで通り皆様が安心して過ごせる治安の良い世の中を守りたいと思います。そのため皆様に大変なご苦労をおかけしますが、是非ご理解を賜りたいと思います」

 渡邊議員は、「治安が悪くなるとおっしゃいましたが、我が国の警察力は他国に負けていません。外国人が増えても治安はちゃんと警察が守ってくれます。現在インバウンドと申しますか海外から大勢の観光客が来日していますが、大問題にはなっていません」とさらに続けた。

 森山は「おっしゃる通り海外からのお客様は前年度6000万人を越えており、インバウンド需要は年間15兆円を超えております。2023年のデータですと来日者は2500万人でしたから、随分増えました。しかしながら、観光目的で海外から訪日される多くのお客様はどちらかと言えば富裕層の方々の比率が多いと聞いております。労働者として受け入れに応じて下さる外国の方々は残念ながら海外の現地で希望の職が見つからず現地で生活難の状態の方々で国際レベルで見た低賃金を承知で来られる方が多いと予想されておりますから、渡邊議員のご意見のように安易に考えてはいけないと思っております。そこのところをどうぞご理解賜りたいと思います」と答えた。


 次は第二所得税について与党の橘議員が質問に立った。

「第二所得税は金額そのものが従来の所得税に比べて倍以上、極めて重税です。総理はこんな無茶苦茶な重税を本気にお考えですか? 税率が富裕層に厳しいとのご説明ですが、低所得者層もこの案ですと従来より生活が相当厳しくなる金額です。私は第二所得税を現在の所得税並にして昔あった物品税を復活させて贅沢品に税金をかければ良いと考えております。是非物品税を復活させて第二所得税を大幅に軽減して頂きたい」

 森山は日頃目を掛けている橘議員からこんな質問をされて自分の説明、説得が不足していたと反省しつつ答弁した。

「ただ今の橘議員のご質問にお答えします。先ず第二所得税が極めて重税だとのお話しですが、従来の社会保険料を月々いくら払っておられるかお調べ頂ければお分かりの通り低所得者層では従来の社会保険料と消費税の支出を合算した金額より第二所得税額の方が少なくなっております。しかし所得が多くなるに従って相当重税となり従来支払っていた社会保険料の数倍もご負担頂く事になり高所得者にとっては確かに重税となります。私は高所得者には大変申し訳ないと思っておりますが国の将来を考えて是非ご理解を賜りたいとお願い申し上げる次第です。次に第二所得税額を半減して代わりに物品税を復活させてはどうかとのご提案ですが、私ははっきりとお断り申し上げます。何故か理由を申し上げます。昔我が国で実施されておりました物品税はご年配の方々はご存じの通り第一に貴金属や毛皮製品、第二に自動車をはじめテレビや冷蔵庫などの家電製品、第三に清涼飲料などに課税されていたもので贅沢品、嗜好品などに課税されていました。今は一部の高級車を除き自動車や家電は贅沢品ではなく必需品ですし、清涼飲料も贅沢品ではありません。ですから物品税を復活するなら課税対象品目を改めて選定する必要があり貴金属や装飾品など限られた贅沢品や嗜好品が対象となると思います。贅沢品や嗜好品は世の中が不景気になれば買い控えが発生し易いと考えられます。買い控えが起きて税収が極端に減った時、皆様はどうなさいますか? また赤字国債に頼って一時しのぎをされるお積もりですか? 1,200兆円を超える国の借金をさらに増やすリスクのある方策には私は賛成できません」森山はキッパリと言い放った。

 橘議員は、「物品税は一例です。是非第二所得税を減額するために別途良い案を考えて頂きたい」と締めくくったが、最初の勢いはなくなっていた。


 次に与党の米田議員が質問に立った。与党では若手の女性議員のホープだと言われている。

「連日テレビ等で報道されておりますが、私も女性の立場として街に出て子育て世代の女性の方々のご意見を聞いて参りました。その結果、【法律で女性を子育てと家事に縛り付けるなどとんでもない】とか【昭和時代に逆戻り】とか厳しい反対意見が多く聞かれました。現在は女性を子育てや家事に縛り付ける時代ではありません。女性は一社会人として自分のやりたい仕事や趣味を通じて人生の充実を図る時代で子育てや家事に縛られて自分の希望を捨てるなんて時代錯誤です。また男性からは【まったくひどい扱いだ。今まで通りの年金の仕組みを改善すれば済むことだ】とか【女性の立場から見ても子育てと家事に縛り付けるのは女性を虐待するのと同じだ】と言う意見が多く聞かれました。私はそんな大多数の意見を無視して新少子化対策を実行に移すのは難しいのではないかと思います。総理の率直なご意見を伺いたい。この際抜本的に原案を見直して頂けませんか?」

 米田議員は全女性を代表するかのように自信満々な表情で着席した。

 森山は米田議員の意見をはっきりと脳裏に焼き付けた。その上で答弁に立った。

「米田議員のご質問にお答えします。先ず最初に、法律で女性を子育てと家事に縛り付けるとのご意見ですが、子育てと家事につきましては強制ではありません。あくまでお若い女性の方々が老後経済的に安心して暮らせるために少なくとも3人程度しっかり子育てをなさるか、それとも子育てをしないで自己実現と蓄財に励むかはそれぞれご希望に従って選択すれば良い事で誰かが縛り付けるものでは決してありません。しかしながら少子化がどんどん進みますと、将来皆様の年金は今ほど頂けなくなり財テクに成功なさった方以外は厳しい老後生活が待っていると言っても過言ではありません。将来の不安を覚悟で子育てをほどほどになさるか、老後の安心を選択なさるかは皆様の自由です。次に昭和時代に逆戻りと言うご意見ですが、昭和時代にも良い事は色々あったと祖父母から聞いております。それも否定なさるご意見ですか? そもそも今のお若い方々は昭和時代の事をあまり良くご存じでない方もいらっしゃるように思いますが? 次に男性のご意見として、ひどい扱いだとのご指摘です。確かにご結婚なさらずに老後を迎えた男性の方々には大変つらい思いをさせてしまうかも知れませんが、ご夫婦揃って老後を迎えられる方々は今までより夫婦合算した年金額が増えて、また苦労して育てられたお子様や大勢のお孫さんに囲まれて楽しい日々をお過ごしされる場合が多くなると存じます。男性の方々には是非女性を大切にして幸せな老後を迎えられますようご努力をお願いしたいと思います。最後に私も女性です。自分たち女性を虐待するような世の中の仕組みは決して作りませんとお約束致します」


 代表質問が終わっていよいよ採決の段になり、森山は議長に採決を保留するように頼んだ。

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