第8章 少子化対策の提案
我が国の少子化が問題視されてから30年間が経過したがその間子育て支援など色々な対策が講じられて来たが未だに少子化に歯止めがかからない。そんな中、衆議院議員森山克子は民民党党首に上り詰め総選挙を戦い抜き女性としては初めての内閣総理大臣に就任、以前から持っていた少子化対策の法制化を実現する。
第1章から第10章までは森山克子が新少子化対策の法制化を実現するまでの過程が綴られており第11章からは新少子化対策法施行後のドラマが展開する。ご期待あれ。
話は全てフィクションです。なので登場人物は全て架空の人です。
20××年4月1日午後8時、森山は記者会見を行い、関係省庁からの推薦者10名を含む拡張ワーキンググループが練り上げた【新少子化対策】を発表した。森山がメディア界の記者に映像を介して説明を開始したタイミングに合わせて、ワーキングメンバーが政界、産業界、経済界、SNS等に向かって一斉に配信して公開に踏み切った。
新少子化対策の提案内容があまりにも極端な部分があったため、一瞬静まりかえった後、記者会見の会場は騒然となった。森山は予想はしていたものの労働基準法の改定や国民の祝日に関する法律の改定が含まれており、さらに消費税が全廃される事から株式相場の先物が急落し、財源確保を予測してか国債の先物価格が急上昇したことまでは十分に予測していなかった。
有力紙の記者が「消費税を廃止して財源は大丈夫ですか?」と質問した。森山は「現在我が国の労働人口つまり就業者数は約6,700万人ですが子育てで抜ける女性数を勘案して約6000万人と仮定します。就業者の平均年収はざっと見て現在年平均550万円です。第二所得税が平均30%課税されると致しますと概ね100兆円の税収になります。これに第二法人税の税収約40兆円を加えますと合わせて概ね140兆円となり、十分とは言えませんが財源は継続的に確保可能と考えております。もしわずかでも余剰金が出れば将来予期せぬ不景気に供えて積み立てを行う予定です。今まで色々な形で摘まみ取られていた税金や保険料を一束ねにしましたので大変な重税に見えますが、国民の皆様のご負担は低所得者に優しくなっておりますので所得が多い方々には重税で大変申し訳ございませんが国の建て直しのためご理解の上お許し頂きたい」と答弁した。
最後に有力紙の記者山田大輔が質問した。「第二所得税の税率を見ますとムチャクチャな増税です。こんなもんじゃ国民が納得するとはとても思えません。どう見ても可笑しくないですか?」
森山は山田記者の顔をじっと見た。「山田さん、でしたね。では私の方からご質問します。我が国では現在社会保障費用に概ね毎年140兆円は必要です。今まで足りない分は赤字国債を発行して将来につけを回した結果貴方も良くご存じの通り国の借金は1,200兆円を超えています。もしも将来国が財政破綻して年金が払えなくなったらあなたならどうやって責任を取られますか? 将来の年金に希望を持って一生懸命子育てをなさった女性の方々にですよっ!」話終わって森山はキッとなって山田を睨み付けた。
森山に睨み付けられた山田記者は「そんな事は政府が考えるのが当たり前でしょう」
と言い返した。森山は「貴方ねぇ、天下の有力紙の記者さんがそんな無責任な発言をされちゃダメでしょっ。国民の皆様は誰も大声は出しませんが今までバラマキばかりやって借金をどんどん増やしてきた政府を心配してましたわよ。ですからキチッとご説明すれば国民の皆様はご理解下さるわよ」と叱った。
そのやりとりを聞いていたその場に居た記者たちは皆そうだそうだと言う顔をしていたのであたりを見回して山田は引き下がった。
午後9時のニュースで新少子化対策が詳細に報道されて、各界のコメンテーターが色々な意見を述べ、ニュース番組は予定を変更して2時間番組に組み替えられ午後11時まで続けられた。
翌朝の株式相場は労働不足対策と倍々運動を評価して急落から一転上昇に変わり日経平均は1,500円を超えて高騰、経済界は【森山ショック】と名付けた。各界の評価を見ると、産業界、経済界共に概ね好感が報じられたが民民党の支持母体である労働界からは絶対反対の狼煙が上がった。
ニュース番組では子育て中の若い女性のコメントをリポート、各放送局が大きく取り上げた。その結果、「女性を子育てと家事に縛り付ける」、「それまでして子供なんて欲しくない」、「大学生が可哀想」などなど侃々諤々色々な意見が飛び交い若い女性たちから全体的に反対の意見が多く飛び交った。しかし、年配の男女からは「やっとまともな案が出た」、「母親が自分の子供を自分で育てるのが正しい」、「自分たち年寄りの女性と違って沢山年金がもらえて羨ましい」など概ね好感が持たれた様子だ。働き盛りの40代の男性は「これからは老後を考えると簡単には離婚できないなぁ」とか20代の男性は「女性が強くなりすぎるかと心配だなぁ」などの意見が報道されていた。
森山は報道された内容をじっくり精査して次の対策の準備に取り掛かった。