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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第四章 魔王領アルヘイム編
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90:殺気



 一時三人の抱き合う様を見守る時間ができた。

 魔王さんも気を利かせてくれ、身を下げると目を瞑っていた。

 ティアちゃんは暇そうに欠伸している。

 リリスはと言うと真剣な表情でマリン達の方を凝視していた。

 次第三人も落ち着きを取り戻した頃に。


「あ、あの。どうしても気になる事が一つ。私には、いえ私達にはマリンの呪いが効きませんでした。これはどういった事なのでしょうか?」


 と、そうリリスが魔王さんへと問うた。

 三人も魔王さんへと向き直る。

 魔王さんはリリスの姿を長身から見下ろし。


「君には記憶と思考を司る神によって加護が掛けられているね。それも魂に。それの影響だろう」


 その答えにリリスは目を丸くする。


「加護の効果はその殆どが精神干渉からの防護。よって君は呪いの影響を受けなかった。他もそうだろうな」


 そしてその内容は僕らにまで及ぶ。


「加護と言うのは独り善がりな祝福と違って周囲にも影響を及ぼす。つまりは周囲も多少加護の影響が出ると言う事だ。その影響力は単純に物理的距離と、主神の信仰度合いが影響するな」


 その言葉に、リリスは何か思い当たる節があったかの様に反応していた。


「私に、加護が……」


 次いで思慮に耽る様、視線を落とし呟いた。

 リリスに加護か。納得である。周囲にも影響を及ぼすならクレナ達が耐えられた事にも説明がつく。

 だが、僕はどうだろうか。

 確かにリリスとは殆どの時間一緒に居るが、それは影響力の差に繋がるのだろうか?

 何よりマリンと最初あった時は随分リリスと距離は離れていた筈だ。

 そうなるとやはり僕単体で見ても、マリンの呪いの影響を受けないと見るのが自然な気がする。

 珍しく冴えてる考えを胸に僕は魔王さんを向く。


「あの、僕もその影響って事ですか?」


「君のは簡単だ。魂のレベルが高いのさ」


「魂の、レベル……?」


「ああ。通常の輪廻ではあり得ない程にな」


 魔王さんと話していると隣からリリスの視線が刺さった。


「えーと、その魂のレベルが高いと、呪いの影響を受けないって事ですか?」


「そうなるな。正確には、精神干渉への耐性が付く、と言った方が正しいがな」


 なるほど。


「単体で見た時、君達の中で最も精神妨害耐性が強いのは加護を受けてる君だろうな。次点で君か、そこのむすめだろう」


「あ、へへ。どうもぉ」


 リリス、僕と続いて魔王さんは奥のエリィへと視線を向けた。緩んだ笑顔を向けるエリィ。

 そう言えば居たな。

 その話を聞いてマリンが少し、気まずげに視線を漂わせていた。


「ちなみに、精神干渉の魔法を長期間に渡って受け続けた場合、無意識に抵抗できるようになる場合もある。ま、余談だが」


 と、魔王さんは顔を澄ませる様に付け加えた。

 気を遣ってくれたのだろうか?


「そして、君は随分と変わっているな。魂もそうだがその肉体。君は君の持つ力を全くと言っていい程使い熟せていない」


 そして視線は僕に止める。


「恐らくは生前の感覚を基準に身体的制限が掛かっている。人の身から悪魔へと転じた者の中には君の様な例も居るが随分稀だな」


「え、えっと。つまり?」


 僕は魔王さんに問い返す。


「空腹は感じるかね? 痛みや疲労は」


「は、はい」


「それらは生前のそれを思い出してるにすぎん。それと同じ様に、君は生前の身体的制限に囚われ、自己の能力を出し切れていない状態にある。ま、要は本来の能力はずっと高いと言う事だ」


 な、なるほど。

 そして僕が精神体生命体である事は当たり前に見抜いてるな。


「その制限を取り除くには自己鍛錬により力の解放を促すか、生前よりも強かった時……つまりはその姿で生きていた前世の感覚を取り戻す他あるまい」


「え」


 僕はその言葉に息を呑む様だった。


「し、知ってるんですか!? 僕の前世の事!」


 つい大声を出してしまった。

 ティアちゃんがちょっと驚いてる。


「魔王アルディ=フェイトとして言わせてもらおう。君の前世の事は知らないと」


 対して魔王さんはそう冷静に告げた。

 僕はそれに落胆を隠しきれずに居た。

 正直、呪いを解く目標の次点か同じくらい今回の旅で僕にとって重要な目標だったから。


「君の魂は強い。前世の姿を形取る程にな。君の事情もなんとなく分かっている。ロビアやルンバスの件で事の顛末てんまつを聞かされたからな」


 こ、この人一体どこまで知って……

 情報力の差と言うべきか、僕は漸く今話してる相手が只者でない事を実感する。


「そして、君には後者の方が良さそうだ」


 と、魔王さんは言いながら一歩出ると腰の剣を引き抜いた。

 曝け出る白銀の刀身。細身の直刀である。


「パパが剣を抜いた!」


 驚いた様に言うティアちゃん。


「な、何を」


「手合わせ願おう。こちらの方が緊張感があって良かろう?」


 慄く僕に魔王さんはそう言う。

 皆んなも少し戸惑ってる。が、僕はこれが貴重な機会に思えてならなかった。


「お、お願いします」


 僕も前に出つつ紅の刀身を出す。久々に身を出した相棒は相変わらず燃える様に赤かった。

 皆んな心配気に見つつも、何も言わずに距離を置いてくれる。

 皆んなも今まで話した感じ、魔王さんが僕を本気でぶった斬ってしまう様な人ではないと信頼してるのだろう。

 そもそもここは法治国家だ。


「では、参ろう」


 魔王さんのその言葉で真剣による打ち合いが始まった。

 耳を劈く金属音が轟く。剣を人に向けるのは抵抗があるが、これ程自力の差を感じる相手であれば逆に遠慮は要らない。が、実際は防戦一方だった。

 まるで僕の技量よりほんの少し上に調整したかの様な剣技。それも死力を尽くしてやっと対処できる様な。

 視覚、視力、体力、力、関節の可動域、反応速度、果ては感や運なども総合的に計算せしめられたかの様な剣技により、僕は全力以上の力を持って対処せざるを得なくなった。


「──ッ!」


 目が合った。

 まさかずっと見ていたのか。


 動揺により更に隙を突く様な剣撃が激しくなる。だがそれも僕の技量に合わせた物に思え、力み歯を食い縛る程の全力を持ってすれば対処は可能であった。実際はそんな余裕のある事ではないが。

 これが殺し合いであれば既に何十、いや何百と死んでいるのを察した。それ程の技量差を感じた。

 左脚へと向かった剣を打ち返す。次いで右から来る斬撃を往なし、頭上からの剣を受け止める。間入れず三連で続いた剣撃の後、気づくと首筋のすぐ傍に剣が止められていた。


 お互いに剣を下ろす。僕は荒く肩で息をしていた。

 一体、どれくらい打ち合っていた。

 実際は1分にも満たないかもしれないが、今までのどの戦いより疲労感があった。


「君の目は分かりやすいな。ま、無理もないか。だがその視線が仇となる時が何れ来よう」


「は、はい」


 息の合間に僕は頷く。


「一つ、試してみよう」


 そう呟いて、魔王さんは徐に剣を振り上げた。

 瞬間。

 何か総毛立つ様な、肝を氷水にでも落としたかの様なゾッとする感覚を覚え、僕は弾かれた様に剣を胸の前に構えた。

 一際大きな金属音が響く。圧される剣。衝撃に一歩下がった。

 相棒の平らな腹で、白銀の剣の刺突を受け止めていた。


 どっと汗をかく。

 今のはヤバかった。

 対処しなかったら本当に死んでいただろう。

 質量を持ったかの様な威圧感。濃密な。そう、これは──殺気……


「ふむ。記憶を取り戻すには何かのきっかけがある物だ。君は殺意……つまりは殺気と言った感情にとても敏感なようだ。そして向けられたその感情が君の前世の感覚を引き出してる様に見受ける」


 と、互いに剣を下ろし魔王さんが語る。


「つまりは、君は殺気を感じる程前世の感覚を思い出し強くなる……と言う事だ」


 殺気を、感じる程……

 僕はグゼンとの戦いを思い出して居た。

 そうか。あの時の研ぎ澄まされた感覚はそう言う事か。


「前世還り……って、やつですか?」


 僕もあれが全部天性の才による物などと思っちゃいない。

 ただの確認程度のつもりで僕は訊いた。


「何か、前世に心当たりでも?」


 と、思っていたよりも真剣な様子で問い返えされる。

 僕はその真っ直ぐな瞳を受け取る。


「いえ」


 そして一言答えた。

 次第魔王さんを纏う真剣な雰囲気が軟化したかの様に思えた。


「死に際に記憶が還る事は最も基本的な前世還りであるが、君のは殺気その物がきっかけとなっている様だ。であれば、君の前世は死に際に強烈な殺気を浴びたか、それが感覚に伴う程の殺気を浴び続ける生涯だったのか……やも知れぬ。もしかしたら、その瞳と髪の色を染め上げてしまう程のね」


 魔王さんの話を聞いて、僕は一人でにレミリアから聞いた話を思い出していた。

 感情にはそれぞれ色がある。それにより髪色や瞳の色彩が変わると言う話を。

 そして、その赤色の感情を。


 ──ねぇ、レミリア。赤色は、どんな感情なの……

 ──それは……


「つまりは、殺気、殺意なのどと呼ばれる、その赤色の感情にね」


 その答えは、魔王さんが言った。

 そう、赤色の感情とは殺気、殺意の事なのである。

 ずっと受け入れられず考えない様にしていたが、やはりその可能性は認めなければなるまい。

 つまり、僕の前世は余程の殺意を向けるか、向けられる生涯であったと。


「一応『憤怒』という感情も赤色なのだがね。あれは他の色と混ざりやすい」


 と、僕の瞳奥深くを見るように言った魔王さん。


「とは言え、殺気の感情が混ざり難いと言う訳ではないんだがね。そこまでの穢れなく、混ざりなく、鮮やかな赤色は……一体どれだけの殺気だったのだろうね」


 そんなの……知るか。

 いつの間にか寄っていた眉間の力を抜く。


「悪い事ばかりでもなかろう。現に一刻前より強くなっているではないか」


 その言葉と魔王さんに応じて剣を構えた。

 無意識に剣は左手に持ち替えていた。

 また死力を尽くす様な剣撃の対処に追われる。

 左脚へと向かった剣を打ち返す。次いで右から来る斬撃を往なし、頭上からの剣を受け止める。間入れず三連で続いた剣撃の後、場に渡る金属音。

 首元目掛けて振るわれた斬撃を、寸前で受け止めていた。


「ふむ。技術面と同時に身体的解放も促されている様だな。今の君は、この城に来る前の君と比べて、少しタフになっている筈だ」


 次こそ終わったのだろう。剣を収めながら魔王さんが言う。


「少しタフに……俺の体が」


 ん? 俺? 俺って何だ。

 僕は自分の言動に首を傾げる。そして。

 ──ああ、これも前世の影響なのか……

 そう剣を持つ手を眺めて思った。


「人の子らが使う『D』と言った所か。魔力を集中させる事ができれば闘気を扱った場合と同じ様な事もできるだろう。今の剣技もそれに見合った物だ。君は精神体生命体だからな。魔力は人一倍多くても闘気を扱う事は今後とも不可能だ。だが同じ様な事はできる」


 魔王さんは語る。

 Dランク。剣技もそれに見合う物。

 都合の良い成長の仕方だが、これでカードのランクには追いついた。

 正直実感は無いが。


「これの注意点があるとすれば、その成長はいつか必ず頭打ちになる事だ。それに頼ってばかりでなく、自分の特技を作る事だな」


 と、そう魔王さんは締めた様だった。


「あ、えっと。手合わせ、ありがとうございました」


「うむ」


 僕は両手を前にお辞儀した。


「所で、その剣はどこで?」


 と、魔王さんの興味は相棒に向く。


「え、えっと。これは拾ったって言うか、貰ったって言うか」


「……そうか。とても良い剣だ。大事にするといい」


 僕は相棒を見下ろした。


「少し、見てもいいかね?」


「あ、はい」


 魔王さんに言われて僕は相棒を渡す。


「この剣には幾つか封印が施されているな」


 魔王さんはそう言って手を翳した。


「持ち給え」


 返してもらった剣を持つ。

 重い。

 肌に着くずっしりとした重厚感。僕の剣は渡す前より重くなっていた。


「封印を一つ解いた。これでこれからの君に見合った得物となるだろう」


 魔王さんのその言葉に僕は相棒を見る。

 見た目の方は何ら変わっていなかったが、女の子が振るには難しいくらいの重さへと変わっていた。

 って言うか、封印を解いたら重くなるってどいう事だ。

 質量保存の法則はどこいった。


「あと三つ封印が残っているが、一つは一種の状態に近い。解くのは困難を極める上、解いた所で可もなく不可もない。君には関係の無い事だろう。残り二つも、解いた所で今の君には使いこなせないだろうな。いつか神々の枷を外された時にでも来てくれれば、片方くらいは解いてやろう」


「ど、どうも」


 僕は魔王に会釈しながら少し気になった。


「あの、天界の神々とどう言ったご関係なのか聞いても? こう言っちゃ何ですが、魔王さんとは相容れない感じがすると言うか」


「ふむ。それを語るには、400年前まで遡らなければなるまい」


 と、魔王さんはそれを口火に語り出す。


「氷の時代の真の歴史を語るとしよう」


 400年前の、生き証人としてのそれを。



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