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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第四章 魔王領アルヘイム編
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89:呪いの理由



 呪いがある場合の利点? そんな物あるのか?


「それを話すには、一体どこから話そうか」


 疑問に思ってる間、魔王さんの言葉は続いた。


「先ず持って、君の魂は特別だ。この場の誰よりもね」


 理解できない様に怪訝な表情をするマリン。


「君は人間と天使のハーフなのだよ。それも特別なハーフだ」


 と、今度こそその言葉にマリンは目を丸くした。


「そ、そんな話は……え、でも、お兄ちゃんは」


 呆然と呟いてクレナの方を見る。


「マリン。ずっと隠してたが、俺達は腹違いだ」


「そ、そんな」


 衝撃を受けた様に言葉を無くすマリン。


「流石に天使だなんて話は初耳だが」


 そうクレナ自身反芻する様に呟く。


「君は人間と天使、その両方の真価を引き出す事ができる存在だ。故に天界は君達の魂を安全な場所にて転生させ、成長させるよう策したのだ」


 え? て、天界? なんで急に出てくるんだ。


「早い話、君は天界の切り札の一つ。悪魔に対抗しうる最も有効的な種族だ。君は悪魔の天敵なのだよ。だが若い芽を摘むが如き動きをする悪魔は居るだろう。つまりは君にとっても悪魔は天敵。それらの対策として、君にある精神妨害属性を付与する様とある神から頼まれたのだ」


「神から、頼まれただと?」


「ああ。私と神々は協力関係にある。まぁ、今は割愛しよう」


 あまりの衝撃に口調を保つことがままならなくなった様子のクレナに、魔王さんは気にした様子も無く応じる。


「君達の住んでいた地はその神が管轄していた。その神が君達二名の魂を管理する事となり、天界と内通する家系へと君達を転生させた。君達は所謂、天界の〝布石を打っていた家系に連なる者〟だ」


 話に取り残されぬ様話を聞く。


「そして精神妨害属性とは何なのか。これが君に掛かった呪いの正体だ。その呪いは使い様によっては祝福にもなる。魔の系譜に遠い者程嫌悪を、近しい者程愛好な感情を抱く様になっている。もっと言えば、それに沿って感情が逆転する」


 と、流れ込む情報量に僕は圧倒されてしまう。


「い、一体なぜその様な……そうか」


「そう。つまり、魔の者。主に天敵たる悪魔は君に良好な感情を抱く事になる。更に例え殺そう、痛め付けようなどと思っても、感情の逆転により著しく難しい物へとなる。小手先ではあるが、精神生命体である彼らにはとても有効な手と言えよう」


 クレナに応じた魔王さん。その言葉に更にクレナは考え込んでいる様だった。


「え、えっと」


「これは神から頼まれた事ではあるが、元は君の実母が願い出た事だ」


 対して付いて行けていない様子のマリンへと魔王さんが告げる。


「君を守るためにね」


 難しい説明より、マリンにはその一言の方が響いた様だった。


「君の母は私を頼る様言ったのではないかね? この国に暮らす者は魔の系譜に近しい者達だ。つまり、この国で暮らす以上はその呪いを気にする事はない。寧ろ良好な関係を築き易いとすら言えよう。故に君が直接この国に来る事に意味があったのだ。人の世を捨て魔の地に入るのであれば、その後終の住処としても受け入れ易かろう? 私の庇護下に加わる事にもなる」


 正直体のいいように言った甘言なのかもと半信半疑であったが、その説明は納得のいく実感の篭った物である様に思えた。


「私を、守るため」


 マリンもそうだったのだろう。呆然と呟いていた。

 良くも悪くも、今まで信じてきた物が崩れた事だろう。


「常に魅了の状態が続く様な精神妨害属性を付与する魔法は無くてね。『寵愛の祝福』であれば可能だろうが、明確な意志を持って妨害しようとする者の精神を捻じ曲げる程、強力な祝福はそう無い。そもそも君は天界でも極秘な存在だろう。よって明確な欠点はあれど、確実な精神妨害を来すそれを付与する事となったのだ。特に感情の逆転は非常に強力だ。君を傷付ける事ができる魔の者はそう居ないだろう」


 魔王さんはそう説明してくれる。


「人間の場合は、具体的にはどの様になるのでしょう?」


「魔の系譜から遠い者。つまりは対象が人族であった様な場合は嫌悪を抱かれる事となる。そしてこの場合の感情の反転現象とは、悪感情はそのままに、そして好意的な感情はそれに準ずる悪感情に転ずる事となる」


 クレナの問いに応える魔王さん。


「助けようとする者ほど見捨て、穏和な者ほど冷たく、許そうとする者ほど責め立てる」


 そう、例を挙げて。


「──そして、愛する者ほど嫌悪する……」


 真っ直ぐに、魔王さんとクレナは目を合わせている様だった。

 クレナは先頭に立っていて誰もその表情を窺えなかった。


「これはそんな呪いなのさ」


 そう締めた魔王さん。

 区切りが付いて暫し反芻する様な間が降りた。

 中々衝撃的な内容だったが、一先ず嫌がらせが理由でない事が分かってよかった。


「あ、あのっ。質問、よろしいですか?」


「ふむ。何だね?」


 と、間を破ったのはマリンだった。


「呪いの効果についての、質問なんですけど」


 マリンはそう一言前置きしてから。


「た、例えば、三、四人で歩いてる時に自分だけ後ろを歩いたり、偶数の筈なのに不思議とペアが組めなかったり、自分は輪に入ってるつもりだったのに何か喋ったらちょっと驚かれたり、何か準備してる時に他の人だったら待つ雰囲気ができるのに私の時は皆んなさっさと行っちゃったり、人と喋らな過ぎて妄想が捗ってそれが趣味になっちゃったり、あ、あと、人と喋った後『あれはこう言った方が良かったな』とか勝手に反省したり……こう言った事も、全部呪いのせいって事ですか?」


「う、む……まぁ、一部そうかもな」


 流れ出る妙に質感の伴ったその問いに、魔王さんですら若干戸惑っていた。


「そうですか……。い、いえ。ただの例えなので別にいいんですけど」


 絶対に例えでない事はこの場の誰もが分かったが、言わぬがあれだ。ほらあれ。

 ここは暖かい目で見守っておくべきだろう。

 ティアちゃんですら呆れ憐れむ様な半目を向けていた。

 にしてもマリン。若干思ってた事ではあるが、多分呪いとか関係なくぼっち体質だ。


「ま、私からは以上だ。何か気になる点があれば答えるが?」


「二つ程、気になる点が」


 と、魔王さんの問いに早速声を上げたクレナ。


「今までの話からするに、私とマリンはペアで転生先が決まった様に拝察します。それは何故ですか?」


「君達は前世でも兄妹であったと聞く。二人揃って無ければ自主性が著しく下がるとの話だ。愛する者、守るべき者が居てこそ真価を発揮するたちなのだろう」


 その答えを聞いて、クレナはマリンの方を振り返っていた。

 お互い視線を合わせるがすぐに泳がせて逸らし、恥ずかしがってる様だった。

 二人とも少し頬が赤い。

 そんな初々しい反応を晒した後、クレナはふと真剣な表情へと変え魔王さんに向き直る。


「もう一つ。大凡安全だとは言い難い生活を送ってきたつもりですが、これは神々が仕向けた成長促す為の出来事と言う事ですか?」


「途中管轄する神が変わった。その意向だ」


 次第、その答えを聞いてクレナの拳がきつく握られた様だった。


「君らの事情は把握している。くだらぬ理由で家系が没落した事も。その後離ればなれになった事も。今までの不幸が勝手な都合による物だと知り、荒ぶる気持ちを抑えられないのだろう。君の怒りは最もだ。元々面倒を見ると約束した身。望むならこの場全員の永住権を用意しよう」


 と、ふっとその拳の力も緩む。


「いえ。一先ずは、それには及びません。寧ろ安心した面もあります。長年政敵により命を狙われているのだと勘繰っていたので。予定調和だと言われれば、納得はできませんが肩の力を抜く事ができます」


 そうクレナは実際に肩の力を抜いた様に言っていた。


「最近悪魔と事を交えたのも勝手に関連付けていたのですが、それもやはり考えすぎか。思考ばかりが先行するのは悪い癖の様だ」


 いや、これは肩透かしと言った感じか。

 クレナは独り言の様に呟き、おでこに指を当てて頭を振っていた。


「天界を庇うつもりは無いが、悪い事ばかりでもない。結局は君達を利用する為だったが、其々に偶然を装った保護者を付けていた筈だ」


「ま、まさか、師匠が天界の回し者……?」


「え、うそ」


 と、魔王さんの言葉に二人とも心底驚いた様に反応していた。

 ん? 確かにクレナはともかくマリンって今までどう生活してたのだろう?

 身内の不幸に遭ってるのは何となく察して触れない様にしてたが、そうなると13歳の少女が一人で生きるには結構厳しいだろう。

 だが天界が何かしらしてたなら納得である。


「天界の間者は大勢居る。無自覚の者が大半だろう」


 そう魔王さんは付け加えていた。

 魔王さんなりのフォローだったのだろうか?

 と、少し考え込んでいた様子のマリンが顔を上げ。


「あ、あのっ。私、顔を見られるとちょっと問題が起きたりするんですけど、これはどう呪いと関係するのか、を」


「ふむ。無論、認識あっての呪いであろうが、特別その様な効果は無かった筈だ。呪いの仕様と君の姿から察するに、感情の逆転現象が起きたのだろう。言っては何だが、君の容姿は大凡の者が好意的に受け取る物であろうからな」


「え、えぇっと」


 魔王さんの言葉にマリンは困っている様だった。

 僕はそんなマリンへと振り返り。


「つまりは可愛いって事だよ」


「か、かわっ」


 告げたそれに目を丸くして驚いた。


「そういう事だ。マリン君、今まで君に向けられた嫌悪の感情は、大概は良好な物だったと言う事だ」


 序での魔王さんからの助言もあり、マリンは納得した様に落ち着いた。

 そして若干俯いて。


「ふ、ふへっ」


 ふ、ふへ?

 にやりと口角を上げて笑うマリン。

 マリンの笑い方は独特でかわいいな。


「さて。私としては数日空けてもいいが、解きたいと言うなら今解いてあげよう。この呪いを解く事ができるの者は世界でも限られるだろうからな」


 と、魔王さんが空気と話を切り替えて言う。


「これは状態異常の類いの物ではないのでな。神聖魔法でも解けはせんだろう。世間では魔力により変異を起こした病原菌による特殊な病なども、大まかに呪いと呼称しているが、それらとは違うのでな。霊薬によっても治せはせんだろう」


 細菌か。

 魔力的進化をした生物に関して最近考えを巡らせたが、微生物とは盲点だったな。

 昔の人は疫病を呪いだと考えてたそうだが、当たらずとも遠からずである。


「どうだね?」


「え、えっと。解いてください! お願いします!」


 確認する魔王さんにマリンは頭を下げる。即決だった。


「よかろう。では解こう」


「え。あ、は、はい!」


 踏みよる魔王さん。マリンも二、三歩前へと出た。

 本当に今すぐ、何の準備も無く呪いを解くらしい。

 そして魔王さんはマリンへと片手を翳し。


「この魔法は受け売りなのだがな……『スキル・ブレイク』」


 そうたった一言唱えた。

 それだけである。何か陣や光が発せられる訳でもなく、静かにその作業は終わった。

 解けた……のだろうか?

 こんなあっさりと。

 その呆気なさに誰もが実感を持つ事ができずに居ただろう。

 マリン自身、呆気に取られた様に僕らへ振り返ろうとし。


「わっ」


「良かった……! 良かったわね……っ!」


 勢いよくリシアが抱きついていた。マリンの白い頬を圧して密着する。


「良かった。ええ、本当に。良かったわね」


 リシアは涙を流していた。上擦るのを抑えた様な声で言って、頬を流れる程の涙を流してマリンを抱き締めていた。

 僕にはマリンの変化が分からなかったが、何故リシアにはそれが分かったのか。


「り、リシア。もしかして君ってば」 


 ……いや、無粋か。

 息をひくつかせて涙を払うリシア。ぱちくりと大きな瞳で見上げるマリン。

 リシアは珍しく茫然としてしまっていたらしいクレナへと手を差し伸べた。

 ゆっくりと踏み寄るクレナ。リシアごと腕を回してマリンを挟む様に抱擁した。

 まるで親子だ。

 正直、流石にその様を見ては僕もうるりと来てしまう。

 何はともあれこれで長い旅の目標は達成し、苦労が報われた瞬間であった。


「お、お兄ちゃ、苦しっ」


「離さない。もう離さないぞ」


「うぅ゛」


 若干本当に苦しそうにマリンが溢していた。



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