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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第四章 魔王領アルヘイム編
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87:屍喰族《グール》



 灯火組と思われる人物が紛れ込み混乱を助長させる様な行為をしたのは恐らく事実。

 顔役を降りようと布石を打ってるグレンだが、現頭領としては見過ごせないらしい。

 だがシズン教の目的は分からない。分からないなら訊けばいい。

 と言う事で、三人でシズン教会まで来ていた。


「ほら、特攻隊長行ってこい」


「ちょっ!」


 グレンが言いながら僕のお尻を蹴って突き出した。


「何すんのさ!」


「偵察行ってこいよ。お前精神なんたらなんだろ? この前みたく簡単に復活すんならお前が適任だろーが」


 その言いようにクレナの方を見る。


「痛手が少ないのは事実だ」


 真っ直ぐ見返されてクレナにもそう言われてしまう。


「うぅ。最近の僕の扱いが軽いのは気のせいですか?」


 僕はとぼとぼと歩きながら重厚な扉の前へと立った。


「す、すみませーん」


 ドンドンと叩いて一時待つと、祭服を着た見覚えのある初老の男性が出てくる。


「おお! これはこれは……一人、かね?」


「え? あ、はい」


 と、僕を見て驚いた様に目を見開いた後、確認する様に外を見回していた。


「紹介でもされて来たのかね?」


「え、えーと。そんなとこです。見学とかってできます?」


「もちろんだとも。入り給え」


 司祭に招かれて僕は教会へと入る。

 中は左右に長椅子が並ぶ、厳粛な教会然としたとした風景だった。

 中央奥には祭壇と思われる長方形のただの台があった。

 扉を閉め懐から出した鍵で錠をする司祭。


「君の様な若い人族が入信するとは嬉しい限りだ」


「い、いや、入信はちょっと」


「お金の心配なら要らん! 初めての人族と言う事で特別に入信料も無料にしておこう!」


「い、いえ。そう言うのは本当によくて」


 僕らは話しながら適当に奥へと進む。


「おお。これは失礼。貴方方人族は天上に座す方々を信仰なさるのでしたな。ですが安心なされよ。シズン教とは宗教とは名ばかりで信仰する対象は無いのです。強いて言うならばそれは自然の恵みや食への感謝そのもの。それらを忘れぬ為の、言わば友愛団体。当然、他宗派での信仰も快く受け入れております」


「そ、そうですか」


 熱意ある演説に圧される。

 祭壇を背にこちらへと向き合う司祭。


「であれば、属するだけ得があると言う物。何、軽く一筆描くだけです」


「え、えっと」


 どうしよう。なんか断れない雰囲気。

 こう言う時はずばり本題に切り込むべきか。


「本当は昼間の件でお伺いしたんです。屍喰族グールの人、昼間の抗争に紛れ込ませましたよね?」


「それが?」


「え?」


 平然と返される。


「それが?」


 重ねて問う司祭。

 参ったな。開き直るとは思わなかった。


「え、えっと。気になっただけです──ッ!?」


 その時、司祭の腕がブレたかと思うと、僕の右の手の甲に痛みが走った。

 後退り右手を見る。三本の鋭い物で切りつけられたかの様な痕があった。

 若干抉れたその傷は血が滴った。


「抗争を煽り、混乱に乗じて貴様を攫う予定だったが……。そちらから来るとは運がいい。魔王政府が介入したと聞いた時はよもや勘づかれたかと嫌な汗をかいたものだが」


 そう語った司祭の手には、血の付いた鋭い爪が剥き出しになっていた。

 その指先を徐に口へと運ぶ司祭。


「ほう……ほうほう……ほう! 素晴らしい! 何と芳醇で深みのある味わい! それでいて名残惜しい程の滑らかさと口溶け感! そして分かる、この濃密な魔力」


 目を見開き興奮した様子で語る司祭。


「人族とはこれ程までの美味だったとは。これからは人間狩りが捗りそうだ」


 その物言いに僕は痛む右手を抑えて後ずさる。


「し、死後食べて良いのは信者だけなんじゃないの?」


「なぁに、後で入ってた事にすればいい」


 その言葉に完全に目の前の男が〝敵〟となった。


「最低。クズだ。許せない」


 口ぶりから初めてではない。

 僕は込み上げる怒りを込めて司祭を見据えた。


「殺されるくらいなら殺すよ?」


「ひっ」


 その言葉に腰を抜かした様に司祭は転んだ。


「何だ。流れ的に襲ってくるかと思ったが、ボケたジジィの戯言だったか?」


 僕ってこんな口調だったっけ?

 やっぱグレンの影響出てるな。うん。あいつのせいだ。そういう事にしとこう。


「仔兎かと思っていたが抜かったか。だが一体何をしようと言うのだね? 丸腰の君に何ができる」


 正気に戻った様に司祭は余裕を持って立ち上がる。

 確かに今の腰にいつもの相棒は居ない。

 司祭の言葉はもっともだが考えならある。


「助けて皆んなー! 早く来てー!」


 奥義、他力本願!


「くくっ。ま、良い判断だろう。が、ここは防音室でね。叫び声を上げるくらいなら想定されてるのだよ」


 え、ちょっ。一気にピンチなんだけど!

 今までの他力の下の余裕が崩され焦りが込み上げる。


「ひひっ」


 司祭は嫌な笑みを浮かべて拳を振りかぶる。

 後ろに逸らして僕は避けるも、目紛しく変わった状況にまだ頭が付いて行けていない。

 腕を翳して身を守りつつ、時折りジャブを打ち返す。

 僕もここ最近で慣れたつもりだったが相手はその上をいった。


「ぐっ!」


 まともに顔面へと拳を受けてしまう。


「ああ、いい。いいぞ。嬲るのは趣味じゃなかったが君のはとてもいい」


 息切れとはまた別の荒い息を吐き、興奮した様子で言う司祭。

 きっも。

 性的趣向に文句言うつもりは無いが、同意の上が良いと思います。

 そして僕は左手を振るう。

 僕が全力で振りかぶった拳だったがそれを司祭は態と受けた様に顔面で止めた。


って!」


 そして鋭い歯で僕の手の肉を食い千切る。

 小指の付け根辺りを小さく喰われただけだったが、当然めちゃくちゃ痛い。

 空気に触れる事すら敏感になった様な手を下げて、僕は後退った。


「そろそろか。良い感じに身も解けただろう」


 司祭は顎を動かし僕の肉を味わいながら言った。

 喰われる痛みと恐怖を実感する。

 司祭は悠然と僕へ背を向けると、祭壇の向こう側へと回った。

 そしてそこから取り出された物を見て息を呑む。


「感覚の中で最も順応が安易な物は何か分かるかね?」


 司祭は短剣を片手にそう語り掛ける。

 まるで焦らすかの様なその問いを余所に、僕も何か得物は無いかと視線を流す。


「味覚さ。生き物は皆、移りゆく時代と食物連鎖の中で食う物を変える事によって生き永らえてきた。より競争倍率の低い方へ、時には毒を克服し食す。当然味覚は変わりやすい感覚となった。今の時代に生きる生物は皆その進化の結晶だ」


 目ぼしい物は無く、僕は視線を司祭に固定して身構えた。


「大飢饉の際必ず大量に出る物がある。それを我らの先祖は食したのだ。そして体はそれを求める様に変化していった。いや、もしかしたらリソースを効率的に得る為の進化だったのやも知れぬ。何れにせよ我らは一つの種を確立し、競争倍率の著しく低い物を主食とする様になった」


 司祭は言いながら祭壇を降りて僕へと相対する。


「それが屍喰族グールかばね喰いの種族だ」


 主張する様に鈍く反射する短剣を眼前へと翳した。

 握った拳が力む。


「だが時代と言うのは残酷よ。文明の発達とそれに伴う道徳心によって我らは社会の隅へとやられ、宗教の真似事までさせられる様になった。本能が疼くのさ──喰と」


 余裕な態度を崩さず身構えては居るが、その実かなり焦っていた。

 ど、どうしよう!? 迎え撃つ獲物が無い以上奪うか逃げるかだが、技量差的に難しそうだし、建物の奥に行く様逃げたって追い込まれるのがオチだ!

 かと言ってそれ以外の選択も無い!


「理由なんてそれで十分だろう? 所詮この世は弱肉強食。食物連鎖に従い弱きを喰らうだけだ!」


 思考も定まらない中、司祭が駆けた!

 僕は翻った所を思わず躓き転ぶ。振り返ると司祭は既に目の前で、短剣を大きく振りかぶっていた。

 最早どうしていいか分からない。反射的に腕を翳して目を瞑り……

 キイィィン──ッ! と、澄んだ音に目を開いた。

 そこには同じく剣で受け止める、見覚えのある男性が居た。


「魔王政府だ。傷害罪、及び拉致監禁、殺害未遂の疑いで現行逮捕とする」


 そう。それは放浪組の首領を圧倒していた魔王政府の男性だった。

 横から片手で差し入れただけの剣にも関わらず、男性は腕どころか剣先一つブレていなかった。


「両手と両膝を着け。従わなければ武力行使も厭わない」


「く、クソがぁ! 貴様らの作った社会の歪みだ!」


 司祭は逆上して男性へと剣を振るう。

 が、男性は事も無げに刀身を指で摘み、もう片方の手で司祭の胸ぐらを掴むと引き寄せ、鳩尾へと膝を入れた。


「がッ!」


 目を見開き、喉奥を震わす空気が漏れる。


「弱肉強食なのだろう? であれば食物連鎖に従い魔王様の定める法に則るのは当然だ。この国で暮らしておいてよく抜け抜けと言えたものだ」


 司祭は倒れ伏し、気絶した様だった。

 それを確認し、男性は後ろ手に司祭へと手錠を掛けた。

 序でに扉の鍵も取る。


「安心したまえ。君は正当防衛だ。全てこちらの男から手出ししている。証人ならここに居る」


 と、その様子を眺めていた僕へ男性は手を差し伸べた。

 僕はそれを受け取って立ち上がる。


「ま、また利用されちゃった感じか」


「それに関してはすまないと思っている。本来は事件を未然に防ぐ事が最良であり、市民を守る者として恥ずべき行為だ。失礼した」


「い、え」


 まぁ、この国の国民じゃないし。だから利用したのかなとも思うが。

 男性は扉を解錠し、開放した。

 途端左右の壁に沿って並んでいたらしい制服の人々が入ってくる。

 何かいろいろと道具を持っていたのを見るに、最悪扉は破壊するつもりだったのだろう。


「君は怪我をしていたね。応急処置だけして後で病院へ行こう」


「おい、アズサ! 返事しろ!」


 と、話途中で外からグレンの声が聞こえて来る。


「お友達に顔を見せるといい」


 男性の言葉に外を見ると、制服の男性二人に抑えられて暴れるグレンが居た。

 その隣には険しい顔で佇むクレナも居る。

 僕が二人へ向けて手を振ると、あからさまにほっとした表情をして脱力していた。


「あの二名は若干我々の動きに気付いていた様だが、幸い意図を読んで託してくれた様だな」


 と、男性は僕に並んで二人を見て言った。


「って、て言うかいつの間に入って」


「最初からだ。適当に隠れていた」


「そ、それ住居侵にゅ」


「令状ならある」


 僕の言葉を防ぐ様に紙を出す。


「不正な金銭授与に関するそれだったが、序でに他の現行を抑えられたのは全くの僥倖であったな」


 む、無茶するなぁ。

 絶対に偶然でない事は全く持って演技をする気の無いその様からも分かったが、まぁこれも結果オーライか。

 ふと、僕は自分の手を見下ろした。

 右の手の甲に付いた傷も、左手の抉れた肉もすっかり治っていた。

 あの時と同じ、戦いの場で加速する再生力であった。


「ん、ぁ」


 と、そう零して司祭が目覚める。彼は膝を突くと当たりを見渡し。


「そうか。負けたか」


 そう首を垂れて零した。

 そして男性を見上げ。


「おい。塀の飯に人の肉は出るのか?」


 そう太々しくも言い放った。それに男性は応えない。


「味覚は最も順応が安易な感覚なんだろ? だったらかばね以外の味を覚えろよ」


 文句や嫌味が一番だが、単純に助言も込めて言った。

 ま、そんな綺麗事は僕が屍喰族グールに産まれてないから言える事だろう。

 本能に抗う彼らの気心は想像も及ばない。


「そうだな。極刑を間逃れたらそうするか」


 そう呟いたのが彼の言葉を聞く最後だった。

 複数人の制服の人が彼を連れて教会を後にした。

 僕はそれを見送り、現場検証か制服の人が幾人か残る教会を見渡した。


「あ、あの。流石にもう無いですよね? もう僕ら用事もあってあちこち回る予定は無いんですが」


 僕は男性を窺いつつ問う。


「何の事かは分からないが、大丈夫だと頷いておこう。君が何らかの事件に巻き込まれる可能性は低いと思われる。そんな気がする」


「て、て事は」


「無論、事情聴取には付き合ってもらう」


 うわぁ、めんどくせ。









 事情聴取は丸一晩に及んだ。最も、ずっと夜なので一晩と言う表現が正しいかは定かではない。

 時計が一周近くする程の時間が経ったのは事実である。

 そう言えばこの町で鐘楼の音が鳴ったり鳴らなかったりするのは午前と午後を分てるのか。

 まぁ、今更か。


 署を出るとリリスが待ってくれていた。

 ロビアやリシア関連の時でもそうだったが、まるで身元引き受け人だな。

 当然事情聴取は僕が一番長く、僕一人では迷子になりそうだったのでかなりありがたかった。

 いろいろ予定が押した事もあって、流石に魔王さんの所に行くのは一日休んでからと言う事になった。


 後日、放浪組首領と一部幹部、組員数名が暴行罪、傷害罪、傷害現場助勢罪等の容疑で。

 シズン教司祭が傷害罪、誘拐罪、監禁罪、殺害未遂罪等の容疑で逮捕された事が報じられた。

 更に灯火組の幾名かも誘拐罪、誘致罪、業務上横領罪等の容疑で逮捕され、それぞれ引き続き余罪の調査が進められると。


 これで漸く肩の力を抜く事ができるだろう。

 とにもかくにも、これで後は魔王さんの所に行くだけだ。









「マリン、助かったよ。ありがとう」


 漸く戻る事ができた仲間の元(マイホーム)にて──正確には宿にて──クレナが綺麗に折り畳まれた紺色のローブをマリンへと差し出した。

 それを受け取り物凄く嬉しそうに頬を緩ませているマリン。


「中々洗う時間が無くてな。遅くなってすまない」


「え。洗った……んですか?」


 と、それも束の間。マリンの表情は抜け落ちスカートを揺らしてガクリと床へ手足を突いた。


「マリン!? す、すまない。優しくお湯洗いしただけだから、縮んだりはしてないと思うぞ!」


 その様子に慌てて駆け寄るクレナ。


「い、いえ。いいんです。ははっ」


 合わない焦点の目で応え、乾いた笑みを浮かべるマリン。

 何か相当堪える物があったらしい。

 と、それを見てクスクスと笑うリシアだったが、僕の方に目を向けると表情を落とし。


「で、貴方は何してるのよ?」


「相棒〜! ごめんよ相棒〜! もう離さないよ! ……あ、見てた?」


「隠そうとしてから言いなさいよ」


 呆れた様に言われ、僕は再会するやずっと抱きついていた剣から顔を上げた。

 今回の事で相棒の有り難みが良〜く分かったのだ。

 それにうば丸やカリンちゃんともお別れし、はっきり言って愛でる対象が他に無い。

 共に過ごした時間で言えばリリスに並ぶ様な相棒を気にかけるのは、極自然的な回帰であると言える。


「何だか戻ってきた途端騒がしいわね。いえ、ここは賑やかとでも言っておきましょうか。ま、とにかくお帰りなさい」


 と、そうリシアは微笑んでいた。


 そして翌日、僕らは魔王城へと向かった。



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