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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第四章 魔王領アルヘイム編
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86:魔王政府



 ものの数秒で混戦状態へとなった現場。

 お互い首領が矢面に立っているのが士気を高めてるのだろう。


 う~ん、逃げるかぁ。


 左右から同盟組の者達が流れ出ていくのを眺めながら思った。

 よくよく考えたら僕ってそんなに戦力ならないし、もうここまで目立てば勝とうが負けようが大差無い。

 うん。帰ってリリスと紅茶でも飲もう。

 ぶっちゃけ女子組の方はそっちの方が安心してくれるし。


「アズサ、ここは行こう」


「え! クレナ!?」


 と、同盟組の中から紺色のローブを羽織り、深くフードを被ったクレナが声を掛けてきた。

 姿を見ないと思ったら何をしてるんだ。


「説明は後だ。とにかく離れよう」


 クレナに付いて乱戦する現場を縫って行く。

 と、クレナに背を向けて蜥蜴族リザードマンと闘う男が居た。

 白い装束に身を纏い、頭を隠すかの様にバンダナを巻いてマスクも着けている。

 体格もよく高身長。向き的にも同盟組の様だが、あんな人居たっけ?と疑問に思っていると、その男は相手していた蜥蜴族リザードマンを適当に突き飛ばして、こちらへと向かって来る。


「クレナ!」


 明らか敵意のある動きに僕は叫んだ。

 その男はクレナ目掛けて拳を振り下ろした。

 だがクレナに油断は無く、気づいてた様でそれを受け止める。

 数度の躱し、往なし、受け止めの応酬の後。


「チッ」


 と、僕の方を一瞥して舌打ちすると、男は混雑する戦場へと戻っていった。

 そんなこんなで道の脇から路地へと進んで喧騒から遠ざかる事ができた。


「え、えと。どうしたの? 流石に規模が大きくなっちゃった?」


「いや、今朝使者が来て魔王との謁見の許可が通った事を知らされたんだ」


「え! って事は、もうこんな意味分かんない事しなくていいんだ!」


「そう言う事だ」


 石畳みの路地を進みながらクレナと話す。


「もうここに用は無い。と言うか最初の取り継ぎで伝わった様だから最初から無い」


 じゃあ今までの意味無いのかよ。


「ふぅ。漸く巻けたぜ」


 と、グレンまで僕らを追って来た。


「え? ほ、ほっといていいの?」


「もう城に行けるんだろ? これ以上無駄に喧嘩してもな」


「え?え? ちゃんとクズじゃん。今回に関しちゃ擁護しようがない真性のクズだよ?」


「うっせ」


 煽るだけ煽って放ったらかしにするとは。


「居たぞー!」


「あ、やっば。行こーぜ」


 途端背後から響いた声にグレンは走り出す。


「何で君ってば問題ごと引き連れて来るかなぁ」


 僕もそれに付いて行きながらそう零した。


「グレンさん、こちらです! 包囲されています!」


 と、横切ろうとした脇道からゴウルの声が届いた。


「おっ、さすがゴウルだな!」


 調子良く行ってゴウル先導の元走るグレン。

 こいつあんたら見捨てたんですよと言ってやりたい。


「場はかなり混乱しています。戦域は住宅街まで及び、最早組以外の者まで混ざっている様です」


 マジか。それもう暴動じゃん。

 細い路地を抜けて開けた場所へと出た。そこには疎に希釈化されてはいるが、取っ組み合いや殴り合いをする者達が居た。


「ったく、しゃーねー。間引きすっか」


 そう言って適当に放浪組と思われる人に喧嘩を売りに行くグレン。

 結局喧嘩か。

 僕ってばこの国に何しに来たんだっけ? 喧嘩以外碌にしてない気がする。

 何だか悲しくなって来た。


 そんな風に思いながら僕は自棄的に何人かを相手した。

 殴ったり殴られたり。拳や殴られた部位の痛みも遠くに感じる。

 慣れって怖いな。

 それかアドレナリンか。僕の体って出るのだろうか?


 放浪組も同盟組も続々と集まり、走り回ったりしてどんどん騒がしくなっていった。


「ふにゃ~。あ、もっと右」

 

「アズサ、行こう」


「あ、うん」


 クレナに言われ、僕は猫妖族ケット・シーから手を離すと、倒れ伏す二、三人の魔族を横目に走り出す。

 この体はやはり無理が効く。僕が倒れてないのはこれのお陰だろう。

 グレンも合流して三人で走る。


「おいおい。まさかあんな啖呵切って逃げるとはな」


 あ、やっば。

 声のする方を見れば、目の前に狼男族ライカンスロープの男が立ち塞がっていた。

 その言葉には限りなく同意に近いが、今は逃げるが勝ちだろう。


「参った参った。俺個人との勝負はあんたの勝ちだよ。決着つけたいならまた今度な」


 グレンのその言葉に男の片方の眉の部分がぴくりと動く。


「そんな言い訳が通じるか。全権を賭けてる以上は組全体の降参として宣言してもらう」


「ったく。牛頭族ゴズの奴に全権代理を任せてるからそいつに言ってくれ。条例は本来一対一を想定された物だろ? 『参った』つってんだから見逃してくれよ。ああ、それかその二人だけでも通してくれるなら引き続きやるが?」


「いいや、駄目だ。そいつらが実質的ナンバー2と3なのは把握してる。代理権が無かろうとここで潰しておく」


「あんた言ってる意味分かってんのか? そりゃただの暴行だぞ?」


「安心しろ。証人ならここに居る」


 その言葉に周囲を見ると、僕らを囲う魔族達が居た。

 僕はそれに後ずさる。

 20人近く居た。

 三人とも息が上がっている。これは大分キツいんじゃなかろうか。

 しかも向こうは自重しないと言っている。


「参ったなこりゃ」


 そう零すグレンの言葉がより焦りを煽った。


「うおぉぉ! ボスらを守れー!」


 と、その声に振り返るとゴウルが何人かの同盟組を引き連れて向かって来ていた。


「今しかない!」


 グレンの言葉を合図に僕らは一斉に放浪組へと殴り掛かった。

 ちょっとやる気出ちゃってる自分が悔しい。









「ほうほう。やるじゃないか」


 場にパンパンと一つの拍手の音が響いた。

 死屍累々と言った具合で倒れ伏す魔族達。

 立っているのは見てるだけで動かなかった狼男族ライカンスロープの男とグレンのみ。

 クレナですら片膝を突いている。

 僕はそれを四つん這いで見ていた。


「くっ」


 苦渋の表情で片膝を地面に着けるグレン。

 ぐ、グレンが膝を突くなんて!?


「ま、よくやった方だろう。ルール通り闘気を使う気配もなかったし」


 狼男族ライカンスロープの男はグレンの髪を鷲掴みに面を上向けにした。

 血や埃で汚れたグレンの顔が悔しげに歪む。


「おい! もう決着はついただろ!」


「いいや。まだだ。こいつには同盟組が放浪組の下に付くと宣言してもらわねばならん」


 僕が堪らず叫ぶも男は取り合わなかった。


「はっ。しねぇよんな事。それより確認なんだが、俺は『参った』つったよな?」


「ああ? 最初っから尻尾巻いて逃げてたろ?」


「『参った』つったよな?」


「ああ、そうだな。啖呵だけ切っといて無様にもな」


 重ねて問うグレン。まるで言質を取るかの様だった。


「おい。もう証拠は十分じゃないのか?」


「はぁ? 何言って」


 その時、建物の屋上から降りた立ったかの様に見知らぬ男性が落ちて来た。

 黒を基調とした貴族服、いやタキシードか。軍服の様にも見える独特な服を着こなし、髪は白い短髪。歳は二十代後半と言った具合。一見端正な顔立ちの男性だが、額から生えた鋭い角が人間でない事を示している。

 そして腰には剣を差していた。


「あ? んだお前。見ない顔だな。組言えや」


 その男性は悠然と懐から手帳の様な物だし見せた。


「魔王政府だ」


 目を丸くする狼男族ライカンスロープの男。


「暴行罪、及び恐喝罪、強要罪の疑いで現行逮捕とする」


 男が一歩後ずさった。


「て、てめぇ! 嵌めやがったな!?」


 首を垂れるグレンへ男は叫ぶ。

 グレンは垂れた青髪の向こうでそれを見上げて薄く笑っていた。


「両手と両膝を着け。然もなくば武力行使も厭わない」


 その言葉に男の表情は歪む。


「ざけんなよ。こんな終わり方あるかよ」


 狼男族ライカンスロープの男はその太い拳を眼前へと構えた。


「ほう。やるか?」


「ふはははははっ! その煽り、後悔するぜ? 法に縛られない喧嘩だ! 一度はあんたら政府とやり合いたかったんだよ!」


 男は高笑いして言うや凄まじい速度で駆け出した。一瞬で最高速度に至る様な動き。大凡生物が出せる動きではない。物理法則すら傍に置いた速さで男性の眼前へと迫った。

 そして勝負もまた、一瞬で着いた。


「ぐ、ぶはっ……!」


 男性の拳が狼男族ライカンスロープの男の鳩尾へと打ち付けられていた。地面から離れた足。狼男族ライカンスロープの男は目を開き口から胃液の様な物を垂らした。

 その間、男性は一歩も動いていない。


「これは助言だ。ただの喧嘩で済ませろ。国家反逆罪は極刑だ」


 言いながら、男性は腕を逸らして男を落とした。

 体を曲げて言葉なく悶絶する男。

 男性は徐に笛を取り出すとそれをぴーと鳴らした。

 すぐに幾人かの黒い制服を来た人達がやって来る。


「そこの人間以外捕らえろ」


「はっ!」


 男性の指示で手際良く、倒れ伏す魔族達を後ろ手に手錠を掛けていく制服の人達。無論その人らも魔族だ。

 拘束するのはゴウル達も含まれていた。


「もうちょっと早く来ても良かったんじゃねーの?」


「確実に塀に送る為だ。仕方なかろう」


 と、地面に座り込んで言ったグレンに応じる男性。

 その視線の先には狼男族ライカンスロープの男の姿があった。

 確かにこいつが動いたのは最後の最後だったな。

 いや、って言うか。


「き、君ってば把握してたの? 警察組織が目を付けてたの」


「ん? ああ。だからあっさり降参した。それで通してくれるなら良いし、法的手段で組を潰せるならそれもでも良い」


 言いながらグレンは立ち上がる。


「俺達を逃すだけなら別方向に行けばいいのにと思っていたが、そう言う事か」


「ああ。悪かったよ利用しちまって」


 クレナの言葉に応えながら、グレンは手を引いて彼を立ち上がらせた。

 次いで僕にも手を差し出し、それを受け取って僕も立ち上がった。


「ま、結果オーライってやつだろ? これで丸く収まるだろう」


 そう言ってグレンは僕らにそれぞれ拳を差し出した。


「たっく」


 色々言いたい事は全てそれに込めて、僕はその拳へと少し強めに打ち返した。

 クレナもそれに応じ、流れで彼へも差し出すと肩を竦めて打ち返してくれた。


「まんまと組を挙げて誘き出された感じか。話が食い違ったり互いを煽る様な情報を流したのはあんたらか」


 と、狼男族ライカンスロープの男は魔王政府の男性を見上げて言った。

 男性はそれを見下ろすだけで何も答えなかった。


「これが政府のする事かよ。俺は自分の島の規模のちょうどいい指標にしてただけだったが、ニコニコポイントに特別条例。相反する二つの条例により歪みが生まれるのは当然だろ」


「何か勘違いしているな」


 と、男性は狼男族ライカンスロープの男に向き直った。


「そもそもこれらは実験的政策にすぎん。端から貴様らの善性に期待などしていない」


 そう男性は説明しだす。


「元々は歓楽街の店の収益を明確化して脱税を防ぐための政策だ。その後島を謳って街を取り締まる輩がでるのも予測されていた。が、その後に正攻法で潰せば問題ない。魔王政府の威光を示すと共に、公的機関の介入の口実が作れて万々歳と言う訳だ」


 なんじゃそりゃ。まるで最初から政府の手の平の上じゃないか。

 今までの踊らされてた様な実感にどっと疲れる物が出た。

 もしかして、町を占めたら魔王さんに会えるなんて噂流したのも魔王政府じゃないだろうな?

 いや、あり得る。話した感じそれくらいしそうだ。


「灯火組の奴らはどうなんだよ。不正に近い事やってるだろ。それともスタンプの事なんてやっぱどうでもいいのか?」


「それは現在我々も調査中だ。あまり詳しい事は言えん」


 グレンの質問にはお役人お決まりの言葉で返していた。


「はぁ。情報操作に尾行までして。他にはやって無いだろうな?」


 さすがのグレンもそう溜め息ついて溢していた。


「そう言えば、どっちの組の人も殴ってる人居たよ。なんか身の熟しも他と違かったし」


 僕はそれに若干同情して思い当たる節を言った。


「おかしいな。我々は情報を操作して煽っただけで、態々現場で混乱を期す様な行動はしていないが」


 と、案外包み隠さず答えた男性。


「一体どんな種族だった?」


「えっと、人間に違い姿だったけど、マスクやバンダナも着けてて下までは分からない。ほら、クレナが少し相手した人だよ」


 グレンに答えて視線はクレナへと向いた。


「教会で感じた様な血の匂いを奴から感じた……まさか、屍喰族グールか?」


 クレナはそう独り言の様に言う。


屍喰族グールですって? 放浪組にも同盟組にも居なかった筈です」


 と、いつの間に起きてたのか手錠を掛けられた状態のゴウルが言う。


「じゃあそれ以外って事だろ。ほら、居ただろ? そいつら傘下の奴らがよ」


「まさか」


 呟くゴウル。


「灯火組」


 続きは僕が言った。

 何故ここで絡んで来るのか。スタンプ制度、と言うより寄付と徴税の穴を突いてお金稼ぐ集団がこの覇権争いに首を突っ込む理由が分からない。

 各角思索を続ける中、一時黙って様子を見ていた魔王政府の男性が動く。

 狼男族ライカンスロープの男を立ち上がらせ、部下と思われる人達に指示を出して移動を開始する。


「ん? 俺達も事情聴取があるんじゃないのか?」


「一先ずいい」


 それだけ言うと男性らは去って行った。


「なかなか自由な機関だな」


 そう溢したグレンの感想が全てを表してる様に思えた。



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