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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第四章 魔王領アルヘイム編
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83:魔王政府特別条例



 魔王領アルヘイム。

 正式名称アルヘイム魔王国。

 アルヘイムは文字通り君主制の国家であった。

 だが成り立ちが特殊な分、それらも特殊である。


 約四百年前、敗戦した氷の魔王の納める国家が解体され、その軍と国民の一部がこの大陸に移動する事となる。

 そして誰がこの地を統治するかであったが、当然武力を持つ軍の者達となるだろう。

 アルヘイムが軍事政権となるのは必然であったが、それを紅の魔王は善としなかった。

 周辺国家への不可侵を宣言し、事実それは四百年守られている。


 戦後の混乱、大陸を移動し疲弊する民。開拓が第一優先となる中で支配体制の樹立は急務であった。

 結果は紅の魔王を頂点とする君主制となる。だが政治体制は独特な物になった。

 旧魔王軍の一部と旧貴族階級だった者の一部を貴族階級とし、土地を与えて封建制とした。

 残りは国会議員、貴族の元につく官僚、裁判官として取り立て、これらを特権階級とする事で新体制に対する不満を無くしていった。


 上手く落とし所を見つけてる様だ。

 無論、当時は何をしたって不満は出たであろうが。


 話はここからだ。

 三権分立という言葉がある。

 立法権、行政権、司法権が独立した機関により抑制し合い、権力の集中と濫用を防いで国民の権利と自由を保証する原則である。

 これらは異界の都より来れし迷い人の齎した政治理念である。

 無論、この説明を聞いた時は驚いた。異界の都から来た人とは間違いなく僕と同じ世界から来た人の事だろう。

 三権分立も単語くらいなら聞いた事がある。

 まさかこんな形で故郷を同じくする者の痕跡を知るとは。

 案外先に来た先輩方は元の世界の知識で活躍してたりするのかもしれない。


 とまあ、話を戻そう。

 未だに殆どの国家で君主制が残っている事から分かる通り、この世界ではこの三権分立の理念はあまり受け入れられなかった様だ。

 この大陸で相違なく政治に取り入れてるのはアルテミス連邦国のみらしい。

 そして一部とは言えその理念をこのアルヘイム魔王国でも取り入れていた。


 まず行政権を持つのは貴族階級の者達だ。

 貴族階級とその管轄の組織は纏めて『魔王政府』と呼称される事となる。正式名称は『天下魔王政府』だそうだ。

 魔族は強き者に従うと言う本能が強いらしく、魔王を初め貴族階級を元軍人で固めるのは合理的な事の様だった。

 アルヘイムは表だった軍部を持たないとは言え、統治をする警察組織は必要だ。

 無論、それらは行政権を持つ貴族階級管轄となる。

 強きに従う本能がより顕著に現れる部分なので、ここもまた合理的だった。


 立法権は国会が、司法権は裁判所が担当する。

 が、立法の最終決定権は紅の魔王さんが持ち、無論国王及び貴族階級に対する不信任決議権(有体に言って辞めさせる権利)も国会には無い。

 勝手なイメージだが、裁判も紅の魔王さんが大人しく受けるのは想像付かない。

 三権分立とは名ばかりの中央主権的、絶対王政の国家であった。


 ま、文句があるなら可能な範囲で暴れればいいと言う事だろう。

 それを象徴する様な制度が『魔王政府特別条例』と言う実に簡潔な名の条例だ。

 これは言ってしまえば各町での条例の範囲を調整する事により、現体制に対する不満を緩和する為の政策だ。

 魔族には権力とは自らの力で地位を証明してこその物であると考え、法治国家の体制そのものを嫌う者も一定数居るらしい。

 そう言った脳筋達の為に各町に定められた条例だ。


 これにより限定的な武力の行使が容認される。

 細かく決まりはあれど、概ね本能を法に抑制された者への捌け口として、また序列や白黒付けたがる魔族の気質に合わせて作られた条例である。

 先の例から説明するに、腕相撲やルールの下の決闘、無法的な喧嘩まで許される町もあるらしい。

 この勝ち負けにより法的効果がある町もある様だ。


 ある意味地方分権的政策だ。

 だがそう言った意味でもやはり紅の魔王さんと魔王政府の権力の絶対性が証明される。

 一見脳筋な政策ではあるが、どれだけ力自慢が居ようと結局は最強である魔王さんには勝てないのだから。

 実際これで四百年秩序を保ってるなら合理的な政策なのだろう。

 強き者に従えが本能なのは本当の様だ。


 ちなみにほぼ無法地帯である町も存在する様で、力自慢は最終的にそこに行き着く様だ。

 だが無法であるが故定期的に魔王政府の者が──あくまで私的理由と言うていで──出向いて調子に乗り過ぎた者をボコボコにするらしい。

 所詮四百年前のガチな戦争を経験した魔王やその配下(まで当時を経験してるか分からないが)にとってはルール内で自分の島を作って勘違いする様な奴は雑魚なのだろう。

 革命なんて阿保な事を考える奴の芽を摘む事にもなる。


 とまぁ、以上の事を長々と有翼族ハーピィの店員や和解した馬頭族メズの男性から聞いた。

 時折りエリィの補足を入れつつ、何とか頭に押し込んだ。

 エリィの用語の説明が無ければ半分以上理解できなかったろう。

 政治の事は弱々である。立法権とか正直知らなかったし。その他単語も殆どをエリィの説明で補足した。


 恐らくだが、魔王政府は元いた世界で言う内閣に当たるのだと思われる。

 内閣が世襲制になったのだと思えば分かりやすいだろう。



 僕は適当にそう覚えようと思いつつ、皆んなと森の山道を進んでいた。

 あれから更に幾つもの街を経て歩き出し、王都に続く山道を登っていた。

 空の色は相変わらず暗いが、所々星が輝き月も見えた。

 かれこれ十日は経つが、まだこの国に来て昼を見ていない。

 王都も特別な日以外常夜らしいし、一時日の光を浴びる事は叶わないのだろう。


 森の道を進んでいると正面から向かってくる一つの人影があった。

 だがそれは小柄で背丈も腰下程度と余りに小さかった。

 こんな所に子供?

 そう否応なく注目する。次第にその姿がはっきりと見える様になって驚く。

 それは二足歩行する猫の姿だった。

 黄金色の毛並みに胸の部分が白い模様だ。黒い長靴を履いて黒い帽子を被った格好である。

 腰には背丈に合わせた短身のレイピアを差している。


「まぁ! 猫妖族ケット・シーね! 可愛い!」


「殺すぞ」


「えぇ!?」


 興奮するリシアだったが意外に野太い声で言われて驚愕する。

 って言うかめっちゃ普通に喋ったな。


「貴様ら人間は事あるごとに可愛い、愛らしいなどと抜かしやがって。そもそも気安く話掛ける事すら本来ふにゃあぁ」


 つらつらと語り出そうとした猫妖族ケット・シーだったが、リシアに頬を撫でられて緩んだ声を出す。


「ふにゃぁあぁ、気持ちいにゃぁ。あ、もっと右」


 夢見心地と言った様子で目を細める猫妖族ケット・シー

 と、それも途端正気に戻った様に凛々しくなり。


「殺すぞ」


「えぇ!?」


 またも物騒な事言われてリシアは手を引っ込める。


「動物扱いしやがって。猫は人間に媚びないのだ。孤高の生き物よ。猫に対して懐柔できているなどと思わない事だな。それは人間を利用してるに過ぎん。だが獣人、貴様らは駄目だ。隷下から脱したのはいいが、それでも猫系が帝国を支配して然るべきだ。猫の癖に尻尾振って共存しやがって。それは駄犬たる仔狗族コボルドやクー・シー共の領分だろうがふにやぁあっ」


 話途中だったが僕も堪らず首元を撫でた。

 先程からずっとうずうずしてたのだ。

 ごろごろと喉を鳴らしていた猫妖族ケット・シーだったが、またもハッと正気に戻ると僕の手から脱し。


「き、き、貴様何だ! 今のやらしい手付きは!?」


「えぇ!? や、やらしいだなんて。ご、ごんなさい」


 鋭い剣幕で言われて僕は謝る。


「さては貴様慣れてるな!? 一体その手でどれだけの同胞を堕落させてきたのだ!」


「いやそんな事してないんで!」


「殺すぞ」


「えぇ!?」


 口が滑ったとばかりに猫妖族ケット・シーは首を振り、腰の鞘からレイピアを引き抜き僕へと構える。


「貴様の手は危険過ぎる。種族を代表してここで叩き切る!」


「お、落ち着いて! 何もしてないから!」









 猫妖族ケット・シー

 俗語の方は本来『猫妖精』と書くらしい。

 この大陸では滅多にお目にかかれない種族だとか。

 本来はお隣の大陸に生息する種族らしいが、氷の魔王の敗戦により大移動に巻き込まれて少数が越して来たらしい。

 数少ない単一種族での国家を運営する種族でもあるとか。

 つまりは、猫妖族ケット・シーの国が存在すると言う事だ。


「そんなメルヘンな国があったなんて! ちょっとこの世界見直したよ!」


 無論、その説明を聞いてテンションが上がる。

 猫妖族ケット・シーとは別れたがその後も歩きながら説明を聞いていたのだ。


「貴方って動物好きよね」


「うん! 大好き!」


 リシアに言われて否定する理由もなく頷く。


「獣人族みたらどんな反応するのかしら」


 それに面白気に呟くリシア。


「やっぱ動物は良いよねぇ〜。まぁ、さっきの方を畜生呼ばわりは失礼だろうけど」


「何か動物を飼ってた経験がおありで?」


 と、リリスに言われてつい反応が鈍る。

 高揚していた気持ちも次第に落ち着いてきた。


「まぁ、昔だけど。猫を二匹と、犬を一匹ね」


 今はそんな思い出話をしても仕方ない。

 そう思い、それ以上深い話はしなかった。









 ある時不意にリリスが道の傍に視線を向けた。

 そこには小さな石板の様な物が立ってあった。


「墓標? かなぁ? こんな所に」


 少し気になって立ち止まり見てみる。

 模様の様なものが刻まれてるだけで、文字は書かれていなかった。


「どうかしたの?」


「いえ、ちょっと気になっただけです」


 その石板の向こうが気になった様に、リリスは木々の奥へと視線を向けていた。









 山道を登り続け、いつしか峠を越した様に降りとなる。

 そして開けた木々から風景を見渡す事ができた。


 梺から広がる湖。左手、つまり西側に湖を囲う様にして広がる町の灯り。そこから湖に伸びて橋に繋がるのは黒塗りの城であった。

 巨大で禍々しくありながら豪奢な城だ。

 そして上空には真っ赤で巨大な月がそれらを睥睨した。

 まさに魔王城と言った感じだ。

 圧倒的雰囲気。ラスボスが居ても不思議じゃない。

 僕らは暫しその威容に言葉なく眺めていた。


「どんな人なんだろうね。魔王さんって」


 火口を切ったのは僕だった。


「お伽噺では吸血鬼という事になってはいるが」


 誰ともなく言ったそれに応えたクレナ。

 吸血鬼! 何て王道なんだろう!

 常夜の街の不夜城に住む吸血鬼の魔王。


「何かワクワクしてきた」


「お前そんな脳筋キャラだっけ?」


「違うけど。吸血鬼の魔王って凄い王道な感じするじゃん!」


 グレンに応えて見回すも、皆んなはよく分からない様に見返してきていた。

 生粋のこの世界の住民にはぴんと来ない様だ。

 ただリシアだけは無言で固い握手をしてきた。









 そうして王都へと着いた。

 今までの町で払っていた通行料の差額分を支払い、正式な入国証を入手した。

 これで一月はこの街に滞在できる。


 最初の町と比べて文明レベルを数段上げた様な街並み。

 煉瓦造りや石造りの建物が立ち並び、至る所から灯りが漏れる。 

 道も舗装され、街灯により十分に照らし出される。

 そして顔を仰げば街全体を睥睨する様に聳えた魔王城。

 街を行き交う異形の住民達と合わせ、まるで魔界だ。


「よし。漸くだ、漸くここまで来れた。早速城へ向かおう」


「えぇ!? も、もう?」


 クレナの言葉に僕は驚く。


「い、いや、こう言っちゃ何だけど、早くない? せめてもうちょっとゆっくりしてからでも」


 疲れてるのもあるが、こ、心の準備が。


「まぁ、長旅ではあったし、今更一日二日待つのは構わないが」


「何があるか分からねーからな。旨いもん食って悔いが残らねーようしよーぜぇ」


 し、死ぬ前提かよ。

 だが言ってる事正しい気もする。

 続いたグレンの言葉にそう思う。


「それでも大丈夫か? マリン」


 と、クレナはマリンの方を向いて確認し、上の空だったマリンも向き直る。


「も、もちろん! よ、よく考えたら、こんな大勢で魔都まで来る事になって……なんか、すごい……です」


 勢いで言った後、紡ぐ言葉が無かった様に恥ずかし気に尻窄むマリン。

 これでマリンの意思も取れた。


「そうと決まれば観光よー!」


 相変わらずなリシアを見て僕は苦笑した。



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