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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第四章 魔王領アルヘイム編
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81:常夜の街



 目の前に広がる光景に僕らは立ち尽くしていた。

 その起因する感情は言うなれば驚きであり、興奮であり、興味である。


 黒い夜空の下なのに周囲は支障なく明るく、そこに広がる街並みは古めかしい木造の物だった。

 特別舗装された訳ではないが南北に伸びる本道らしき道。僕らはその真ん中を陣取って周囲を見た。

 文化を感じる街並みはまた別として、皆が一様に注目したのは行き交う住民の姿だったろう。


 大方人形と見てよい。人の尺度言えば大概が大柄な偉丈夫の姿であった。

 無論それだけではなく、付属する姿形はそれぞれ違う様に見えた。

 濃い青や紫の肌だったり、額や側頭部から角が生えていたり、爬虫類の様な鱗や尻尾を持つ者も居る。

 総じて何らかの異形の部分や人間とは大凡違う肌の色であった。

 控えめに言って個性的だ。


 向こうもこちらが珍しいのだろう。疎に人が行き交う中でも視線を感じる。

 半ば茫然とする中、向から道を通る巨大な影が近づいていた。

 僕らはまたそれに一層驚く。

 荷牛、でいいのだらうか。

 とにかく大きな牛だ。濃い茶色の体毛の牛っぽい何か。筋肉質な体はもりもりと縦へも横へも広がり、その全長は目視で4、5メートル、高さは4メートル近くありそうだ。

 その牛に乗って手綱を握る子供の様な小さな人影。ボロ切れの様な灰色のローブを纏って姿は見えないが、除いた顔は犬の様な骨格と毛深さであった。


 こちらに向かってくるそれに僕らは暫し逸れていた意識を戻して道を開けた。

 巨大な荷牛と荷車が横切る。


「す、すげぇー」


 僕はつい呟いた。

 今までで一番異世界っぽいかもしれない。


「取り敢えず、休める所を探そう」


 と、そうクレナが言った。

 興奮で忘れていたがこれで徹夜で歩き回った身なのだ。

 体に限らず疲れは溜まっている。

 僕らは街を見回すのもそこそこに一先ず歩き始めた。


「おいおい、こりゃ驚いた。あんたら人族か? それもこの方向から見るに森の道を抜けて来たってのかい」


 と、その時一人の男性が話しかけてきた。

 青い肌に白い短髪。こめかみから牛の様な黒い角が生え、体は筋肉質。

 分かり易い魔族な風貌だった。


「んん? だが人族であればこれくらいの姿はまだ年端も行かぬ子供の筈。ひょっとして精霊系の種族だったか?」


 その男性は猛禽類の様な黄色い瞳でこちらを見渡して言った。 


「あ、えっと。人族で合ってます」


「そりゃすげぇ! あの門から人族が入るなんて久しい筈だ!」


 近くにいた僕が答えると男性は面白い物を見た様に表情を変える。


「この街は凄いわね! 何でこんな真っ暗なの? 道中もそうだったけど空の色が独特ね!」


「そうだろう、そうだろう。ここは魔王様庇護下の街だからな。確かに外じゃ空は青いらしいな」


 と、リシアの言葉に男性は自慢気に頷いていた。


「そうだ。この街を案内してやる。付いて来いよ」


「それは助かる。宿を探していた所だ」


「宿ね。任せな」


 クレナの言葉に応じて先導する男性。

 少々不用心かもしれないが、付いて行くだけなら無料だし。


「ね、ね。何でまだ夜空なの? 時間的には朝の筈でしょう?」


「それはお嬢ちゃん、この地域を囲う結界の効果によるものさ。ここは常夜の街、ヘルスタイン。結界の効果により年中遮光され、この街で日の目を見る事は叶わないのさ」


 そう道中リシアの質問に答えて男性は説明してくれた。


「正確には陽光の『陽』の部分を取り除いた感じだな。だから昼の時間で明かりに困ることもないし、街に張り巡らされた陣の効果により昼間の明かりを貯め、夜の時間でも問題なく過ごせる様になってる」


「へぇ〜、凄い!」


 リシアが好奇心に目を輝かせていた。


「陽光の『陽』の部分がダメな種族に向けて造られた街さ。光そのものがダメな種族に向けてはここから北西の方に地下都市があるな。真っ暗で人族が行ったって仕方ないだろうが」


 へぇ〜。確かに凄いなぁ。

 魔法的効果を利用した都市開発とは。


「あんたらは何処から来たんだ?」


 と、男性の視線が僕に向く。


「えーと。サングマリア王国? でいいのかな?」


「王国からだって? 真逆じゃないか。森の道を通ってまで急ぎの用だったのか?」


「ま、まぁ」


 驚く男性に控えめに頷いた。

 魔王から呪いを受けてるなんて正直に言ったらどうなるのだろう。

 いや、この際少し訊いとくか。


「魔王さんって、どんな人なんですか?」


「どんな方かだって? そりゃあ偉大なお方さ。我らの先祖をこの地に導き尚も加護を下さる存在。この国、いや間違いなくこの大陸最強の存在だ。まさに我らが王に相応しい」


「へ、へぇ」


 とりあえず敬ってるのは分かったな。

 魔王教ってのもある所を見るに、圧倒的強者に対する謂わば信仰的な物は少なからずあるのだろう。

 いや、それで言えば人だってそうか。神と言う理解の範疇を越えた超常的存在を恐れ、敬ってきた歴史は僕の世界でだってあったのだから。


 だがまだこれじゃ情報が足りないな。

 とりあえずと魔王領まで来てしまった僕らだが、これからその親玉に会おうとしてるのだ。

 冷静に考えればそんな事不可能だし、どんな人物かも分かってない。

 とにかく情報を集めないと。


 そんな風に思慮に耽け、男性と話していると彼は一軒の建物の前に立ち止まった。


「さて、着いたぜぇ。じゃあ俺はもう行くぜ?」


「あ、はい。助かりました。ありがとうございます」


 僕は男性へ深々と頭を頭を下げた。皆もそれぞれ意を示す。

 男性が立ち去るのを見送って僕は肩の力を抜いた。


「ふぅ」


 珍しく友好的なファーストコンタクトだった。

 いや、皆んなが居たからかな?

 僕って一人で居ると大概良くない絡まれ方するし。


「ちゃんと値段は見ないとね! ぼったくりかもしれないし!」


 リシアが宿の方を向いて遠慮なく言う。

 はっきり言うなぁ。


「あ、それで言えば両替をしなければ」


 え?

 と、クレナの言葉に虚を衝かれた。


「そ、そうじゃん。国が違うんだから当たり前じゃん。どうしよう。銀行とかあるのかな?」


 僕はそう言って周囲を見渡しつつも足踏み足一つしなかった。

 もうはっきり言って疲れてるから面倒くさい。これ以上動きたくない。

 皆んなも同じ意見だった様で暫し答えの出ない間が空いた。


「もうこの際持ってる通貨で押し通そう。高くは付くだろうが、保証金として置いてれば後日両替したお金で上手く話を付けられるかもしれない」


 と、クレナが折衷案を出す。

 なるほど。


賛成さんせーい


「同じく」


「そうしましょう。交渉は任せなさい」


 便乗する僕、リリス、リシア。マリンもこくこくと頷いていた。


「グレン達はどうするの?」


「一応道中の商人や村の連中から掻き集めてた分があってな。多分だが一晩分くらいならどうにかなる」


 相変わらずちゃっかりした奴だ。


「あ、でもこいつの面倒は見れねぇからそっちやるわ」


「わっとと。んー」


 エリィはグレンに背中を押されてタタラを踏み、忌まわし気に唸って見返していた。

 と、それもいつもの緩んだ笑顔になる。


「へ、へへ。どうもぉ……。お、お金なら幾らかあるんで捨てないでください」


 切実だった。









 無事店主との話を付けられ、僕らは宿へと入る事ができた。

 こう言った時にリシアの祝福の力はかなり便利だな。

 部屋は一応二つ空いていた様だが一つは手狭な一人用の部屋で、もう一つは複数人可の部屋だった。

 エリィが一人部屋を使い、僕らが複数人可の方を使う事に話は纏まった。


「ふぅ。とりあえず落ち着いた訳だけど、何か用事はある?」


 僕は二つ並んだベットの奥側に腰掛けて皆んなへ言った。


「せっかくだし観光しましょうよ〜!」


 と、正面に座ったリシアが元気良く言った。

 リシアは相変わらずだなぁ。物怖じしない感じと言うか。

 さすがに今からと言う意味では無いだろうが、何をするにしても今日は無理だ。

 端に腰掛けた途端に黒髪を揺らしてカクンと首を落とす少女だって居る。

 もうリリスが限界だ。


「とにかく明日ね。するにしても今日は寝ようよ」


 観光たってこの街ではあまり回る所も無さそうだが。


「一先ずは両替が急務だな。次点で移動と情報収集。魔王領の情報はあまり出回ってなくてな。聞いた話も尻尾が付いたデタラメの様な物だった。来てみて案外嘘ばかりで無い気もしてきたが」


 と、身の整理を終えたらしいクレナが同じベットの反対側に腰掛けて言う。


「あと腹が減ったな。起きたら一番にまともな飯を食おう」


 それはもう大賛成である。

 が、それとは別に今は話を整理しておきたい。


「だいぶ今更なんだけどさ。当てはあるの? 魔王さんに会うための」


 僕の問いたそれにクレナへ視線が向いた(リリス以外)。


「一応、無くはない……が、賭けだ」


 い、一体何しようってんだ?

 その応えに僕が少し不安になっていると。


「俺達の家系に魔王との繋がりがある可能性がある。確かな事ではないし、呪いを受けてる以上友好的とも限らない」


「で、ですが、母が魔王を頼る様言ったのも事実、と言う事です」


 マスクを下ろし、ローブも脱いだマリンが最後に捕捉する。

 なるほど。確かにそんな話しをしてた気もする。


「正攻法ではかなり難しいものがあるだろうな」


 そうクレナが呟いた。

 仮にも一国の主へと会おうと言うのだ。

 他国のそれも平民の身で。

 これは確かに賭け、だな……









 私は手狭な部屋のベットで一人体を起こした。

 横幅一メートルも無い小さく固いベット。それにぴったりと迫った様な両の壁。

 気まぐれに閉所恐怖症への配慮をしたかの様な小さな窓を開けて、私は落とさぬ様注意しながら止まり木を窓際へと置いた。


 私は序でに月も星も見当たらない黒い空を見上げた。

 寝た時が夜空だったのに起きた時も夜空なのは違和感がある。

 まるで少ししか寝てないか、半日寝過ごした様な感覚だ。


 空き部屋の関係上私は一人部屋となった。

 誰かと一緒だったとしても正直気まずかったろうが。

 それに私としても都合がいい。


 私はベットを跨いで奥にある椅子に座って机へと着き、一枚の小さな紙へとペンを滑らせた。


 今回私はこの町に来て大変困った事に気づいた。

 それは現金が無いと言う事だ。

 最初私の生活費と活動費の振込先を選ぶ事ができたのだが、一先ずの選択肢は二つであった。

 一つ目がマリア教団傘下のマリア・ルファ財団によるルーシェルト銀行。マリア教団の本部は別の大陸だが、ミリス教団によって連携されている為都市部では確実にお金を下ろす事ができた。

 二つ目はサングマリア・ルス王国の中央銀行であるサングマリア銀行。そして私が選んだのはこの後者であった。

 当然だがサングマリアに居た以上、こちらの銀行の方が遥かに多いし使い勝手もいい。

 だがまさか彼がこの世界に来て早々アグレッシブにも北の魔王領の地へと来る事など想定していなかった。

 最悪ある程度を現金化してればいいものを私は失念していた。

 今回の旅で最もしくじった事だった。


 一応もう一つアビス銀行という選択肢もあるにはあったが、色々あって却下した。

 これを選んでいればずっとマシだったろう。


 ま、今はそんな事を嘆いても仕方ない。

 私は日付けと私の現地調査官としての管理番号を書いた紙を見下ろした。

 そろそろ定時連絡の頃合いだ。


 〝無事竜凱山脈を下山、嘆きの森も抜け、北の魔王領へと到着〟と……


 北の魔王領ってややこしいな。普通に魔王領アルヘイムって描き直すか。

 あ、あとお金の相談しないと。

 でもこの報告返事来た事ないんだけど、ちゃんと読んでるのかな。

 この国から届くかも不安だし。


 そんな風に思いながら、私は近況報告を書き留めていった。









 久しぶりのまともな食事も済ませる頃には既に午後の十時頃であった。

 さすがに今日は皆んな疲れて寝過ごした様だ。

 市場を調べたらしいグレン曰く、為替の規制も無く銀行で両替してもいいだろうと。

 まぁ、よく分からなかったが。

 一先ず最低限両替して様子を見る事にした。


 この町に居ても仕方ないので早速出発する事となった。

 馬車が出てるのか不安だったが、道中も常に夜の空らしく、時間帯による馬車の有無はあまり当てにならないらしい。

 この街に長居すると完全に日にち感覚が狂ってしまいそうだな。


 町外れの馬車が停まった乗合場にて僕らは出発時間を待っていた。

 馬車と言うより牛車でいいのだろうか。引くのは馬ではなく例の牛っぽい生き物だ。

 最初見たのよりかはいくらか小ぶりである。

 まだ馬を見てない所を見るに、この国ではこの謎生物が主流の様だ。


 ただ屯って居るだけで周囲の方々から話しかけられたり、視線を感じていると、運営側らしき大柄な人物が来た。


「まぁ! オークね! 初めて見たわ! 凄いわね!」


 と、リシアが興奮気味に言っていた。

 二メートルありそうな見上げる程の背丈。一抱えでは全く足りない様な出っぱったお腹。腕も人の頭くらいありそうな程太い。

 人で言う側頭部辺りから出た豚の耳。その間の短髪に切り揃えられた白い髪。肌は茶褐色。

 なんと言っても目を惹くのは中央の豚鼻だろう。そして両の口端から上に伸びる白い牙。

 僕も何となくのイメージくらいは持っている。

 確かに豚の姿だった。


「これはどうも。人族とお見受けしますが合っていましたかな?」


 そう彼はこちらへ言ってきた。

 10XLくらいありそうなサイズの白いシャツを着こなし、丁寧に結ばれた黒ネクタイを垂らす。

 思慮深そうな口調と物腰だ。

 ちょこんと乗った鼻眼鏡が渋い。


「合っていますとも! これほど文化的生活を営んでるなんて驚かされたわ!」


「ふははっ。そうでしょうとも。この商会の取り纏め役と聞いて驚く同族も少なくないですからな」


 そんなやりとりをするリシアとオークの男性の二人。

 うーむ。見れば見るほどダンディなお方だ。


「人族を乗せるのは私も初めてです。特等席へご案内致しましょう」


 もう何か好きだこのおじさん。おじさんかどうかは適当だけど。

 大人の余裕感じる姿にいっそ憧れに似た感情を抱いていた。


 荷車は最大八人乗りの様で、計七人の僕らは一つの牛車に乗る事となった。

 30分遅れではあったが、概ね時間通りと見ていいだろう。

 基本こちらの世界は時間にルーズだからなぁ。


 こうして次の街へと出発した。



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