78:亡者の都
「いい加減信じなよ。女神様が降臨した事自体は話も出回ってるんでしょ?」
「随分軽く言うわねー。神様が地上へご降臨なさるなんて話は世界でも百年に一度あるかないかくらいのもんなのに」
変わらず森を進む中、僕の言葉にリシアは応じた。
「そう言えば、お隣の国では大昔に天賦の女神様がご降臨なさったって話だったわね。って、今は魔王領だから隣りじゃないか」
「天賦の神?」
「記憶と思考を司る神様の事よ。かの大女神、マリア様の属性として有名ね」
と、僕の言葉にリシアは答える。
「祝福の効果は記憶力の上昇、及び知覚の向上。この祝福が勤勉な者に渡れば学者として大成し、勇猛な者に渡れば武功を上げたとされる」
リシアはそう大仰に語る。
「それはまさに天から賦与された才。故に名を──『天賦の祝福』」
なるほど。使い勝手が良さそうな祝福だ。
「加護の方は記憶に干渉する魔法に対しての耐性ね。後はやっぱ精神妨害系への耐性もね」
「そんなおまけもあるんだ」
「ええ。加護はその属性に限らず多少の精神妨害系への耐性も付くからね。それこそ『天賦の加護』さえ掛かっていれば瘴気もへっちゃらだったかもね。さすがに精神妨害耐性そのものが効果の『寵愛の加護』には及ばないでしょうけど、属性の似通う天賦と叡智は次点でその効果が強いみたいだからね。知性を表す三属性とも言われてるくらいだし」
「へぇ」
リシアは本当に物知りだなぁ。それとも常識なのだろうか?
宗教や神さま関連の勉強は割と急務なのかもしれない。
「ちなみに、俗には恩恵を授かった者を敬愛と皮肉を込めて『牧羊犬』と呼んだりもするわ」
牧羊犬。
なるほど。言い当て妙だな。
こちらの世界のでも信者を仔羊だとか、信者をまとめる者を牧師などと牧場に例えて言ったりするが、神に認められつつも宗教の運営側とは言えず、かと言ってただの信者と言う訳でも無く、神の使いっ走り感の拭えない恩恵を授かった者を牧羊犬として表現するとは。
確かに敬愛と皮肉が効いてるな。
「もう一つ、効果がある筈です」
と、唐突にリリスが口を挟んだ。
「ああ、確か魂に直接掛けた場合に限っては、多少の〝魂の記憶〟も保たれるんだったわね」
魂の記憶? って何だ?
「脳や精神体にでなく、文字通り魂に記憶された情報の事です。転生しても保たれる記憶、所謂前世の記憶の事です」
僕の方は首を傾げているとリリスがそう説明してくれた。
「我々が日々を過ごしている様に、必ずしも思い出す訳ではないですがね」
そしてそう言い添えた。
リリスは前を向きつつも、一度視線だけでこちらを一瞥した。正確には僕の胸辺りを。
祝福関連を遠い事の様に感じてる僕としては余り実感の湧く話ではなかったが。
そして今更だが脳と精神体との関係も気になる。
脳は電気信号で記憶を保存してる訳だが、魔法的観点から見ると記憶は魔力そのものであり、精神体そのものでもある筈だ。
そこのとこ物理学的にはどうなってるのだろう?
と、そんな答えの出ない考えを巡らせていると、不意にクレナが立ち止まり周囲を見渡した。
「またこいつらか。行こう」
周囲には木々に塗れて蠢く複数の魔呪麻樹が居た。
僕らはクレナの合図で走り出す。
適当に距離を置くと速度を落としてまた歩き出した。
そして遠く後ろの方が騒がしく感じて振り返った。
「何だ?」
怪訝に言うクレナ。
「人? こんな所に」
僕も続いて呟く。
何やら叫び声の様な音に目を凝らすと、二つのこちらに近づいてくる人影があった。
その人影は何かから逃げる様に走っている様だった。
そしてその人影は顔の輪郭が分かる程度まで近づき。
「おい何だよあれ! 襲わない種なんじゃなかったのかよ!?」
「私だって知らないよぉ!」
立ち止まるや膝に手を突いて言い合う二人。
深い藍色の髪と瞳を持った少年と、鈍色の髪に青の瞳を持った少女だった。
いや、と言うか。
「え!? ぐ、グレン!? それに……え、えっと」
それはかつてロビアの街で行動を共にした少年だった。
それにちょっとだけ話した少女の方も居る。
「うぅ。さすがに忘れちゃうよねぇ」
僕の言葉に落ち込んだ様に呟く少女。
「えっ、な、何で。偶然?じゃ、ないよね? 付けてきてたの?」
「まあな」
と、戸惑う僕に彼は平然と返す。
「ま、ここで合流してしまった以上は仕方ない。もうこそこそ着いていくなんて限界感じてた事だしな」
「やったー!」
諦めた様に言うグレンとは対照的に少女の方は両手を上げて喜んでいた。
「あっずぅさくぅ〜んっ♪ よろしくね!」
「え? あぁ、はい」
やたら上機嫌に僕へと微笑みかける少女。
つい戸惑って返す。
「一体どういう了見だ。付いてくるのは構わないが、些か事情が不明過ぎやしないか?」
と、クレナが僕ら側の誰もが聞きたかったろうそれをずばりと訊く。
「ま、早い話あんたらの事が気になって付けてたんだよ。別に危害を加えるつもりが無けりゃどっかと繋がってるの訳でもねぇよ」
それにグレンは飄々と返していた。
「あ、こいつの事情は俺も知らねぇけど」
「わわ、私だってそんなの無いよ!」
グレンに振られて慌てて言うも目を泳がせる少女。
何て分かり易いのだろう。
「確かに間者にしては不恰好だが、ただの旅人にしては不自然なのが本音だな」
「俺もそう思うよ」
「君も含めて言ったんだが」
「グレンだ」
チクリと刺した嫌味は流し、グレンはクレナへと手を差し伸べた。
「クレナだ」
それを一瞥してから受け取ったクレナ。
互いに手を離さずじっと見つめ合う。
何か瞳と手の感触だけで牽制し合ってる様に見えた。
「どうも。毎度急場だったからな」
先に口を切ったのはグレンの方だった。
その様子をクレナはまた一時眺めて。
「はぁ。構いはしないからな」
「そりゃ僥倖。のんびりさせてもらうぜ」
諦めた様に溜め息ついて手を離し、それにグレンも何となく応じた。
話は付いて離れる二人。
「い、いいの?」
「あれは何言ったって話をはぐらかすタイプの人間だ」
よく分かってるなぁ。
「ま、ロビアでの対応を見るに悪人と言う訳ではないし、建前上くらいは信じてみよう。害する気があるなら今まで幾らでもできた筈だしな」
そうクレナは言った。
彼がそう言う以上僕が反対する理由も特に無いのだが。
「おう、やっぱ話が分かるじゃねーか」
そう調子良く言ってクレナに肩を回すグレン。
「一応、借りもある事だしな」
「借り?」
「狼を追い払ってくれたな」
「はっはっはっ。そんな事もあったっけな」
嫌そうな目を向けながら言ったクレナと、余裕そうに笑うグレンだった。
まぁ、意外と相性良いのかも知れないな。
なんて思いながら腕を払うクレナを見ていたのだが。
「い、いやいや待った! 大事な事忘れてるって!」
僕はこの旅の大前提を思い出して声を上げる。
「ふ、二人とも僕らの旅の目的分かってるの?」
僕はグレンと少女を振り返った。
「ああ、分かってる」
「じゃあ一緒には来れないよ」
「魔王の所にか? さすがにそこまで行かねーよ」
「い、いや。道中もだよ。そこまで分かってるなら事情も分かってるんでしょ? この子の事」
僕はマリンの事を指して言いつつも、遮る様に前に立った。
その様子をグレンは頭の後ろに手を組んで一瞥する。
「断っとくが、俺はその嬢ちゃん見ても何も感じねーよ」
と、僕の憂慮とは反対に彼は平然としていた。
「ほ、本当に言ってる?」
「ああ」
頷くグレン。自然と視線はもう一人の少女の方へと向く。
「ま、まぁ私も。ほら? 一応は精神を司るなんたらだから?」
と、理由はよく分からなかったが少女も平気な様子。
この二人も精神妨害系に耐性があるって事だろうか。
「な、何かこうも立て続けに効かない人が出ると実感無くなっちゃうね」
「は、はい」
少し寄せて小声で話し掛けると、マリン自身驚き半分、戸惑い半分と言った様子であった。
「あんたは初めてましてだな。グレンだ」
「リシアよ。よろしく」
そう言い握手する二人。微笑みかけるリシア。
「え、えーと」
「こんにちわ」
「こ、こんちゃっす」
と、リシアに微笑まれ、躊躇っていた様子の少女は下手に挨拶する。
「何急に人見知りしてんだよ」
「し、してないよ!」
呆れるグレンに反発する少女。
「ど、どうも」
窺いながらお辞儀する少女にリシアは微笑んでいた。
「にしても、何かから逃げてきたって様子だったけど」
「ああ。魔物が出たら毎度錯乱の魔法でやり過ごしてたんだがな。あの木偶の棒は魔力を頼りに空間を把握してたらしく、普通にバレちまった。六感以外を持つ相手には効かねぇから」
「散々だったよ」
「今まで恩恵を受けといてよく言う」
文句を垂れる少女へグレンは半目で返す。
「錯乱の魔法……さては村の方で感じた気配は君達か」
「ありゃ? やっぱバレてた?」
尚も飄々とするグレンの返事にクレナは溜め息ついていた。
いっそ清々しい奴だ。
ともかく二人を混じえ、僕らは再度出発した。
と、当然の如く隣にやって来る少女。
「あ、あの。えぇっと」
「エリィだよ」
「あ、ああ。エリィさん」
「エリィでいいよ!」
「あ、はい。えっと、一先ず先日はどうも。お礼言いそびれちゃってたので」
「えへへー。お安い御用ですー」
妙に距離感の近い少女の応対に戸惑いつつも、やっとロビアでの件でお礼が言えた。
それにエリィさんは嬉しそうにはにかんでいた。
「あ、あの〜、僕とエリィさ……んって、何処かで会ってますっけ?」
「え? ロビアで会ったでしょ? も、もしかして忘れちゃった?」
「い、いえ! 狼の時にも会いましたよね」
途端悲しそうに眉を下げるエリィさんに僕は慌てて言った。
「ただ、その時から妙に親しみ深く接していただいてたので、その前にどっかで会ったのかなぁ〜、なんて。ははっ」
僕は失礼を誤魔化す様に愛想笑いする。
「ま、まぁ、会って無いっちゃ無い……の、かも」
それにエリィさんは自信無さげに応えた。
「あ、そうだ! そうでした! ほらあれです! ルンバスの方で助けられた少女的な!? あの時はどうも的な!?」
と、途端明るく言う。
「え? る、ルンバス? って言うと」
あ、ああ。そういや新聞とか載ったんだっけ。
「でも、僕がした事ってあんま無い様な」
「いやいや! ちゃんと見てましたから! うん!」
「そ、そうなんだ」
エリィさんの勢いに押され気味に頷く。
「ま、まぁ、とにかくそう言う事ね。あの時のあれに感化されてどうたらで着いてきた的なね」
「え? って事はただのストー」
「〝ファン〟ね!」
険しい笑顔で言ってきた。
◯
「あれ? 意外と人居るね」
木々が開けた広い空間へと出て、僕は周囲を見渡すと一番に言った。
ここは墓地の様で至る所に墓石が立っていた。規則正しい所もあれば無作為に並ぶ所もある。
この場全体が地面から薄く青白く光って見えるのは、また魔力の影響なのだろう。
「どこだ?」
「え? 目の前に沢山人居るじゃん」
と、おかしな事を言うクレナ。
「どこの事言ってるんだ?」
「だから目の前だって」
疑問げに見渡しながら言うクレナに僕はありのままを言った。
それでも分からない様子の彼に焦れて僕は近くの人へと踏み寄った。
「こんにちわー」
とりあえず挨拶する。
会話してる様子を見れば嫌でも分かるだろう。
「街は近いんですか? 僕達旅の者でして」
そう気軽に会話を重ねてゆく。
「なるほどー。そうなんですね」
相手の言葉に僕は相槌打った。
「あははっ。いやぁ」
僕は笑いながら後ろ髪掻く。
その様子を離れた位置で皆んなは見守っていた。
◯
「あいつ頭でも打ったの?」
「かもしれない」
「い、いえ。待ってください」
虚空との会話が弾むアズサを見てグレンが言い、クレナが応じ、リリスが留めた。
「放浪する魂が視えます。それも幾つも」
そう墓地全体を見渡して言うリリス。
「なるほど。亡者の都。これがそれなのでしょう」
一人納得したリリス。
「あっちだって!」
と、会話が終わった様子のアズサが戻ってくる。
「どうもー!」
そう離れて行く墓石へとアズサは手を振った。
「親切な人だったね」
「そうだな」
機嫌良く言うアズサに応じるクレナ。
実際調子が良い様でアズサは他を離して先頭を歩いていた。
「しかし、なぜアズサにだけ視える? 俺達はともかくリリスも魂しか見えないのだろう?」
隙を見て誰ともなく問うたクレナ。
「同種だからじゃない? あの子自称精神体生命体だってよ。それって種族で言えば『霊』でしょ?」
リシアの言った可能性のありそうなそれに誰もが息を呑む様だった。
「マジなのか?」
「マジです」
「マジだったんだ」
確認するクレナ、頷くリリス、溢したリシアだった。
「皆んなどうしちゃったの? 早くー」
と、いつの間にか距離ができてしまっていたアズサが振り返り、軽く皆を急かした。
そして前を向くとさっさと行ってしまう。
「何か心なしか生き生きしてないか?」
「話通りならここには霊属性の魔力が溜まっている筈です。その作用の可能性は十分に考えられます」
「あいつもうここ住めよ」
クレナに応じたリリスの言葉に、グレンは適当に言う。
それを聞いた誰もがちょっと納得したのは秘密である。
「って、おい。あいつどこ行った?」
と、一人居ない事に気付いたグレンは周囲を見渡した。
上の空だったマリンもその双眸で周囲を見渡す。
皆が後方に居たエリィに気付き、その後早足で彼女は追いついて来る。
「いやぁ、ごめん。つい話し込んじゃってさー」
「お、お前も視えるのか?」
「ああ、あれ? まぁ散々見てきたし」
と、何でもない様にエリィは答えた。
「やっぱここに人来るの珍しいみだよー。街はあっちだって」
そう言って東寄りの方角を指差すエリィ。
「アズサはあっち行っちゃったぞ?」
「あ、あれ? じゃあそっちか」
西寄りを示して言うグレンにエリィも応えつつ、皆はアズサを追って歩いた。
◯
「ぎゃーーー!」
場に僕の絶叫が響き渡った。
でも今回ばかりは悪くないと思うのだ。
町も近い様だし長い行軍も順調な内に終われると気分良く歩いていたら、まさかこんな物に出会うなんて。
沢山無防備な人々を見かけて油断していたのもその絶叫に拍車を掛けた。
件の絶叫の元凶。それは蠢く一つの人影にあった。
強烈な腐敗臭と剥がれ落ちた皮膚や肉。窪んだ目と欠けた顎。骨が見えている箇所もある。もはや人の輪郭を保てていない。
有体に分かり易く端的に申し上げるならば、所謂ゾンビだった。
それが足りない筋肉繊維を動かし、悍ましく歪な動きで歩いて来ていた。
「も、もしもーし! 言葉分かりますかー!?」
僕は耳が遠そうなそれに向かって叫んだ。
幸い動きは遅いが、圧倒的な見た目の嫌悪感がある。
まさに動く腐乱死体だったのだ。作り物には絶対に無い質感がそこにあった。
そのゾンビが近付くにつれ下がる応酬をしていると、後方から事態を察した皆んなが走ってやって来る。
「何やってる! 応戦しろ!」
「えぇ!? ご遺体を傷つけるなんて!」
とか言ってる場合じゃないんだね! 分かります!
クレナの言葉に僕は渋々剣を引き抜くとそのゾンビと対峙し。
「じ、実際に相手にやるのは初めてだけど……『ピュリフィケーション』!」
「え?」
と、その時エリィさんが唱えた魔法により、そのゾンビを中心として地面に青白い陣が広がった。
その一メートル程の陣は清麗さ漂う光でゾンビを包み、ゾンビは一度立ち止まった後力を失った様に倒れた。
その後陣の光もさっぱり消える。
「よ、よ、よかった。ちゃんと成仏してくれた」
それにエリィさん自身安心した様に呟いた。
見るからに彼女の力でゾンビを無力化したと言った感じだ。
「なんだお前。神聖系の魔法使えたのかよ」
「ま、まあね。私の唯一使える魔法さ」
グレンに応えたエリィさん。
「今のは?」
「未練や執着って呼ばれてる世界と魂の繋がりを断ち切る魔法だよ。いわゆる霊とかって呼ばれてる、死後も霊界に行かずに物質世界へ留まる迷える魂を強制的に成仏させるのさ」
一応訊いたがよく分からなかった。
「昔通ってた学院の必修課程の一つでね。これだけは使えるんだ」
「へ、へぇ。ともかくありがとう」
「いーえー」
嬉しそうに目を細めてエリィさんは応じた。
「アンデット系の魔物か……。死霊竜の話を聞いた時から予想はしてたが、俺も見るのは初めてだな」
と、そうクレナが言う。
「うっ。こ、この臭いは……さすがに無理」
マリンが険しい顔付きで言いながらマスクを着けた。
眼帯を付けてない今の状態では逆に珍しい。
「とにかく気をつけて行こう」
そうクレナが締めた。
◯
「『ピュリフィケーション』!」
「おぉー」
「えへへ」
エリィさんが唱えるや、陣の淡い光りがゾンビの身を包み無力化してしまう。
「エリィさん凄い!」
「ふ、ふへへ。そう? それほどでもある?」
感動して言う僕にエリィさんは褒められ慣れない様子で笑みが溢れていた。
「『ピュリフィケーション』! 『ピュリフィケーション』! 『ピュリフィケーション』』――ッ!」
調子付いて次々と湧き出るゾンビを無力化するエリィさん。
先程からゾンビが出てはさくっと彼女が応対していた。
無論、残り回数も考えて無制限に魔法を使ってる訳ではない様だが。
「あいつが活躍するなんて珍しい」
と、グレンが呑気に眺めながら言う。
周囲は一層と暗い紫の空の元、乱雑に立ち並ぶ朽ちた墓標と一寸先も見えない様な不気味な森に囲まれたていた。
何処からか湧いて出てくるゾンビ達。騒ぎに目覚めたとでも言いたげに、土の中から這いずり出てくる者も居た。
それらを牽制しつつ、エリィさんを中心に守りながら進むのが僕らの役目だった。
エリィさんの魔法で青白い光に包まれるゾンビ達。
一瞬ゾンビから離れて行く様に見える、白い帯か煙の様な半透明の物が所謂霊魂ってやつだろうか?
アンデット系とはつまり霊の事らしいし。
「や、やばっ。調子乗って目立ち過ぎたかな?」
と、周囲に蔓延るゾンビ達を見て零すエリィさん。
目視で数十と言う数に囲まれていた。
「いや、そもそも数が尋常じゃない。とにかく突っ切ろう」
クレナの合図で僕らは群れに刺す様な陣形を組む。
必然的に前衛である僕とクレナが多くのゾンビを相手取る事となった。
人の形をしたそれを斬るのは正直かなり思う所あるがそうも言ってられない。
「くっ……大霊園があるという西側の道ではこんなもんじゃ済まなかったかもな」
今のは状況に対する嫌味も込めてたのだろう。
実際僕らの進行は芳しくなかった。
次々とゾンビが群れて思う様に動けないでいたのだ。
「や、やばいよ! 囲まれてる!」
「あ、あわわ。さすがに数が多いよ」
焦る僕とエリィさん。
「は、範囲を拡げる! 時間を稼いで!」
「りょ、了解!」
「北西は任せろ」
「たっく。柄じゃないんだが」
エリィさんに応じる僕ら。グレンの奴もダガーで応戦している様だ。
エリィさんが詠唱の様な物を呟く間、僕はなるべくゾンビの動きを封じる様、脚を狙って切り付けた。
更に蹴り飛ばして距離を置く。
動きがとろくて助かった。
「『ピュリフィケーション』!」
エリィさんの声が響き渡る。
後面から伝わる淡い光。後ろから来るゾンビに向けたのだろう。
前寄りに戦力が傾いてるので仕方ない。
「えいっ!」
掛け声と共にゾンビへ銃剣を挿し込むリシア。それ程リシアの方面は押されてると言う事だろう。
いざとなったらリリスが一掃しそうではあるが、リリスの力は虎の子だ。
「『ピュリフィケーション』!」
続いてエリィさんは詠唱の様な物の後、魔法を南西方面に放った。
これで残るは僕とクレナが応じる前方向のみ。
なるべくゾンビを一塊にするべく、自身を囮にする事も含めて更に踏み込んだ。
クレナとグレンも加わる。場はすぐに混戦状態へとなった。
エリィさんの魔法は普通に生きる人間には影響ない様なので心配ない。ここら一帯を纏めて範囲にしてくれればよい。
「『セイクリッド・ハイ・ピュリフィケーション』!」
エリィさんの詠唱と共に、足元に青白い陣が広がった。
それはここらの蠢くゾンビ達を優に囲う範囲だった。
動きを止めるゾンビ達。
僕はそれを見て安心する様に脱力する。
(ふぁぁ。何か、気持ちいぃ)
そしてその清麗さ溢れる様な光は僕の身を包み、心地よい感覚が全身、いや体ではなく精神的な方でそれが駆け巡る様だった。
僕は周囲の意識を手放すゾンビ達と同じ様に、その心浮き立つ夢見心地な感覚へと身を任せ。
「あ、やばっ! 彼霊体なんだった!」
そんな焦った様なエリィさんの声を最後に、僕は死んだ。




