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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第四章 魔王領アルヘイム編
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77:『悲嘆』の状態異常



 濃い霧にまるで何処まで続くか分からない橋を進んで行く。


「お兄ーさーん」


「ここに居るぞー」


 後ろからマリンとクレナの応酬が聞こえてくる。


「お兄ぃーさんっ」


「ここだぞー」


 もう何度目かもしれないそのやり取り。マリンの声の方が気持ち遠くから聞こえていた。

 今僕らは五人全員で橋を渡っている。

 前から僕、クレナ、リシア、マリン、リリスの順だ。

 全員の左手首にはロープが一周され、三メートル程の区間を置いて連なっていた。


 五人全員で行くと言うクレナらしからぬ意見に最初は反対したが、二人も付き添いが必要になった今、普通に行ってはダマになってしまうのと、その二人の自主性が削がれてる為、万が一落ちた時に自力で上がれるか分からない。だから男手はもう一人欲しい。

 との説明に僕はその意見を呑むことにした。

 橋自体が落ちる事がないのなら、確かにクレナの意見に僕も賛成なのだ。

 僕からしたら支えてくれる人が増える訳だし、正直安心感が違う。


「お兄ぃーさぁーんっ」


「はいよー」


 霧が濃くて姿が視認できないのだろう。マリンはしきりにクレナの有無を確認していた。

 気が逸れるそれを聴きながら、僕は急激に角度のついた橋を登る。

 絶壁の岩肌に着いたその橋は、今度は上から垂れるただのロープ一本へと変わった。

 これで登れと言わんばかりだ。

 渋々それで巨岩の孤島を登り、手首のロープを引き上げて皆んなを手伝いつつ、つつがなく全員登り終えた。


 皆んな肩で息をして座り込む。

 流石に今のは疲れた。この瘴気で神経を擦り減らしてる感じもするし。

 一筋縄で行けるだなんて思っちゃなかったが、瘴気が濃かった時代であれば既に詰んでそうだ。


「少し、休憩にしよう」


 皆んなを見回してクレナがそう告げた。









 空の色は一面暗めの藍色となっていたが、星が無ければ月も無い。

 明暗の差(コントラスト)が無いのも態とらしい天井の様な質感に拍車を掛けた。

 一応夜、なのだろう。

 相変わらず周囲を見る分には支障が無いのが不気味だが。


 僕は各角休憩を取る仲間達を見渡した。

 ロープも一先ず解き、岩肌の孤島に生えた数少ない樹木に背を預けたりしている。

 少し強く引っ張り過ぎたか、膝を抱えて座るリシアは手首を無表情に摩っていた。隣にはリリスが座っている。

 リシア達の調子は大分良くなった様だが、やはりまだ無気力と自主性の欠如が見られた。

 心配だ。

 特にぽつんと膝を抱えたままのマリンは虚な目で何処を見てるか分からない。


「皆んなで喋ってる筈なのに何で私だけ相槌が無かったりするの? 別にいいよ。共感して貰えなかったんだよね。でもそんなの適当に流すのが会話じゃん。後さっきから笑ってるのは何? 私?私を笑ってるの? これって自意識過剰? さっきもせっかく誘われたのに忙しいフリして断っちゃった。本当は全然予定なんか無いのに。見栄張っちゃった。本当に充実してる人は忙しい上に人の為に時間作れる人だよね。でもそんなの疲れない? 伸び伸びが一番だよね。って言うか『二人きりだと意外と喋るんだね』って何? 煩かったの? そんなの言われたらもう何喋っていいか分からないじゃん。あ、あと喋り出す前に『あ』とか『え』とか無駄に言葉出しちゃうの何なんだろう」


 さっきからマリンがぶつぶつ言ってる。

 ちょっと怖い。


「さて、そろそろ行くか。マリン、毎度悪いがリュックを」


「うわぁー! ごめんなさい、ごめんなさい! 変な趣味持っててごめんなさい! でもあれ持って寝ると凄く落ち着くんです! まだ二人のは盗ってないから許してぇ!」


「なっ、マリン! まさかまだあの癖直ってなかったのか!? その歳でやってるならお兄ちゃんちょっと言いたい事あるぞ!」


「わー!わー! 何も聴こえないー!」


 あの癖って何だろう……

 珍しく騒がしい兄妹だった。









「うぅ……一生の不覚ね」


 また次への橋へと歩いていた最中、正気に戻ったリシアが参った様に溢した。


「意外と変わらなかったよ?」


「うるさい」


 嫌そうに言葉で噛み付いてくるリシア。

 だが僕はそんなリシアを見据え。


「リシア。僕はリシアの性格好きだよ?」


 これはちゃんと伝えようと思っていた事を言った。


「ふ、ふんだ。知ってるわよそんな事」


 強気にそう返したリシアだが、さすがに少し照れてる様子であった。


「あ。あと、僕はリシアの事も家族の様に思ってるよ」


「は? あっそう」


 あ、あれ?


「よかった。すっかり戻ったんだな。瘴気だけなら耐性の方が上回った様だな」


 と、マリンに付き添っていたクレナが前方に戻って言う。


「ええ。油断するとまだちょっと落ち込んじゃうけど」


 それにリシアは肩を竦めていた。


「うっぐ……えっぐ。お兄ちゃんが……お兄ちゃんがぁ」


 と、最後列のマリンが両手で目元を拭いながらとぼとぼ付いてきていた。


「マリン、俺の事はせめてお兄さんと」


「もうそんなの関係ないじゃん!」


「そ、そうだな」


 珍しく気圧された様に折れたクレナ。


「い、一体何の話だったの?」


 その様子につい気になって訊く。


「それは……」


「ん゛ー! ん゛ー!」


 と、言い淀んでいたクレナに向かってマリンが喉を鳴らして訴えた。

 僕らは一度マリンを振り返ってから顔を見合わせ。


「多分、悲嘆とか関係なく泣くから言わない」


 そうクレナは応えたのだった。

 めっちゃ気になる。









 その後崖から始まる高さ二、三十メートルはありそうな橋を渡りきり、それが難所の様でその後は緩やかに降る橋ばかりだった。

 そしてとうとう浅瀬の方へとやってきて、右へ左へと孤島に掛かった橋に好き勝手動き回らせれた後、僕らは最後だと思われる橋を前に立ち往生していた。


 たった十メートル程度の短い橋。

 目視で感じる水深は浅く、孤島から足を着いて踏み出せるほど高低差も無かったが、それと同じくらい橋の位置も低かった。

 向こう岸には見渡す限り広がる陸と深い木々。

 北側の森へと着いたと見ていいだろう。


 だが目の前の橋の中腹を見て少し悩む。

 水面が高く橋も緩やかなせいで中腹辺りが湖の液に浸っていた。

 欠落したりは今までもあったが、こうやって浸してるのは初めてである。

 とは言え浸っているのは一メートル程だから、跳んで越えられる程度だ。


 一度頷き合ってから僕は先導する。


「ほっ」


 適当に掛け声を上げて難なく飛び越えた。

 板も壊れずにホッとする。

 これが確認できれば後は簡単だ。クレナ、リシアと難なく続く。

 そして未だ悲嘆の影響の残るマリンの順へとなった。


「大丈夫ですか?」


 リリスが優しく声を掛け、こくこくとそれに頷くマリン。


「なるべく橋を浮かそう。二人は下がっててくれ」


 クレナに言われて僕とリシアはロープを解くと陸側へと下がった。

 橋が浮いてその分浸された範囲が減った。


「待ってください」


 と、それに同じくしてリリスもロープを解く。


「落ちた時は頼みます」


「ああ」


 リリスに頷くクレナ。

 マリンが伸び伸びジャンプできる様解いたのだろう。

 そしてマリンは軽く身を屈め。


「えいっ、わぁ!?」


 飛び越え踏み込んだ板が割れてマリンは前に転んだ。

 幸いそれはクレナが受け止めたが、これで飛び越える範囲は広くなった。

 連れ添って橋を渡り切る二人に入れ替わり、僕は中腹へと向かった。


「どう?」


「行けます」


 リリスが言うならそうなのだろう。

 リリスは余裕のある所作で跳躍した。そしてそれは優に浸った部分を越えたが、着地した板がまたも割れてリリスは片足を湖へと突っ込んだ。


「リリスッ!」


 端に居た僕は慌ててリリスに寄る。

 足元を見て驚いたままの表情で固まるリリスを半ば引っ張る形で誘導する。

 陸まで着くと皆んなでリリスの様子を窺った。

 まともにあの液に突っ込んでいる。さすがのリリスでも不味そうだ。

 表情を落としていたリリスの目は次第にうるうると涙が溜まり、両目を手の甲で覆って啜り泣き始めた。


「暗いの怖い」


 ぽつりと零したリリス。

 肩を揺らして息をひくつかせる。


「ママ……ママどこ?」


 眉を垂らして潤んだ瞳で左右を見るリリス。


「エリア様は? エリア様どこ?」


 迷子の子供の様な弱った表情と声で辺りを見渡すリリス。

 いつもの平坦で淡白なそれとは違う、幼さ強調する姿だった。


「あ、アズサ。ママは?」


 と、まるで今僕に気付いたかの様に問うリリス。


「ママは……」


 一瞬僕に問われているのかと思って返答に困ってしまった。

 訊いといて気にせず辺りを見渡すリリスを見据え、僕は前にも同じ様な事があったのを思い出した。

 あの時どうして欲しかったか、どうしてもらったかを思い出す。

 僕はリリスを抱き寄せた。


「よーしよし。ママだよー」


 ゆっくりと髪を透く様に撫でながら、僕は腕の中のリリスへ言い聞かせた。

 大人しく胸へと頭を預けたリリス。回した腕からリリスの華奢な体躯を感じる。


「ママ……」


 次第、少し落ち着いたリリスは零した。

 








「ふぅ〜。何だかこうしてると落ち着くわね」


「は、はい」


 さすがに休息を取る事となって僕らは木影へと移動した。

 リシアとマリンのやり取りを聞いて僕は樹木の根元へと目をやる。

 そこにはリリスを真ん中として三人が密着して座っていた。

 二人ともリリスと手を繋いでいる。


 マリンは一時的に右眼の眼帯を取っていた。涙を乾かしてるらしい。

 当のリリスは赤みと潤い残る目元のまま、時折りひくつきながらも二人に手を繋がれて大人しくしていた。

 湖に突っ込んだ方のブーツは脱がされ、白い素足を晒している。


「さ、リリスちゃん。行くわよ」


「ん」


 リシアの声に小さく応じながら、大人しく靴下とブーツを履かせてもらうリリス。


「ママのとこ?」


「そうよ。ママの所よ」


 優しく言って甲斐甲斐しく世話をするリシア。


「ママ居ないと無理」


「そうね。無理ね」


 子供の様に呟くリリスにリシアは微笑み掛けていた。









「死にたい」


 また少し移動しての休息中、リリスは仰向けに寝転んだまま腕で目元を覆うと言った。


「いっそ殺してください」


「そ、そんな物騒な」


 近くの樹木へ背を預けていた僕は、そんな物言いをするリリスに軽く引きつつ応じた。

 両手を胸の前に組んでご遺体のポーズをするリリス。

 あれから更に5分程経って、リリスは早くも正気に戻っていた。計15分程度と誰よりも早い。

 確かに精神妨害系に対する耐性があるのだろう。


「もう無理ぃ」


 ごろんと寝返りしてうつ伏せに溢したリリス。くぐもった声が聞こえる。


「あー、うー、あーー」


 まだ悲嘆の症状は完治してないみたいだ。

 僕は適当にリリスの頭を撫でる。


(悲嘆と言うか、心の弱い部分の本音なのかもなぁ)


 僕は一人そう思う一幕であった。









 ちなみにその後。


「う、うぅ……ヒモでごめんなさい」


 うっかり油断して小川の様に溜まっていた瘴気の液に足を落とし、僕も『悲嘆』の状態へとなった。


「働きます。慣れてないからとか目標があるからとかまだ若いからどうにでもなるみたいな言い訳してごめんなさい。クズです。社会のゴミです」


「そんな事思ってたのか……」


 頭を抱える僕をクレナが微妙な表情で見下ろしていた。


「大丈夫です、アズサ。当面は私が責任持って面倒見ます」


「り、リリスちゃんったら、意外とクズ男に引っ掛かるタイプ?」


「く、クズなアズサさん……ちょっと良いかも」


「マリン!? こんなのに引っ掛かっちゃダメだぞ!」


 何か好き勝手言われてるのは分かったが、あまり頭に入って来なかった。

 幸いその後10分くらいしたら戻る事ができた。

 移動中にて。


「でも終わってみると意外とすっきりする物あるよ? クレナもしてきたら?」


「絶対に嫌だ」


 あら、フラれちゃった。


 上手く立ち回って一人『悲嘆』の状態へとなってないクレナに勧めてみるも、断固拒否されるのだった。



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