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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第四章 魔王領アルヘイム編
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76:死の湖



 ちょくちょく休憩も挟みながら、魔蟲とか言う類いの蟲系の魔物との交戦もあったりしつつ、森を進み続ける。

 もう6時間近くは歩いてる筈だ。

 変わり映えしない風景のせいで時間の感覚が奪われて久しいが。


「何だか瘴気が濃くなってきた感じするわねー」


「湖が近いからな」


 間伸びして言ったリシアにクレナが応えた。


「湖? ああ、そういや村の人言ってたっけ」


 僕は今朝を思い出して言う。


「湖と言うか、瘴気の液状の物だな」


 うぇ。汚そう。


むかーしここらで暴れてた邪竜の死んだ場所よ。紅の魔王さんが退治したらしくってね。一撃だったそうよ」


 と、リシアが説明する。


「だけど一撃だった分力を残していた邪竜はそのままアンデット系最上位の死霊竜デス・ドラゴンに変異。ま、また結局魔王さんに退治されたらしいけど。浄化系で除霊した訳ではなくてただの力技で倒してしまったらしいから、有り余る霊属性の魔力は北の墓地に流れて亡者の都を作り、元々の邪属性の魔力は散布されて森に充満し、死属性の魔力は遺体の埋まった窪地いっぱいに溜まったって話よ」


 そう湖の由来を語るリシア。

 だから死の湖なんて安直ながらおどろおどろしい名前付いてるのか。


「相変わらず詳しいね」


「ふふんっ」


 機嫌良さ気に鼻を鳴らしたリシア。

 と、それもすぐ気落ちした様に眉を顰め。


「さすがに鬱気な気分になってくるわね。これが状態異常ってやつかしら?」


 僕は何も感じなかったが、そう何か感じる物があった様にリシアは言った。

 状態異常。

 魔力的効果により精神や肉体に異常を致した状態の事である。

 主には毒や麻痺なんかが挙げられるそうだが。


「ほら、着いたわね」


 そう言ってリシアは前方を仰いだ。

 二手に分かれた道の一方のすぐ先に、湖はあった。









 目の前に広がる湖……で、いいのだろうか。

 確かにただの水が溜まっている訳ではないと先の説明で分かってはいたが。

 内心その見た目だけで気圧される物があった。


 目の前に広がる湖の色は若干赤みがかった紫色だった。

 明るい色調でパープルと言ってもいい。

 仄かにそれ自体が光を発してる様である。

 何よりそれが非常に濃い。もはや透明度一センチと言っていいかもしれない。

 そんな波風一つ立てない謎の液体が一杯に広がり、水面の直ぐ上を滑る様に霧が動いていた。

 その光景は霧に霞んで見えなくなるまで続く。

 この瘴気の影響か、空の色も明るく濃い桃紫色へと変色していた。


 そしてそんな行く先も見えない様な湖の中央へと続く一本の吊り橋。

 それは目先の孤島の様に浮き上がった陸まで続いてる様だが、霧によりはっきりとは見えない。

 古さの目立つロープと足場の木の板が連なっただけの簡易的な橋だった。


「こ、これ渡んの?」


 自害するだけならこれで十分だろと言わんばかりなその出来栄えの橋を目に捉え、僕は避けたい気持ちを隠しもせずに言った。

 一応もう一方の道もあるのを見るに迂回する道もあるのだろう。


「この湖はかなり大きい。迂回するとなると一晩は余計に掛かるだろう」


 そうクレナが応える。


「それも湖の周囲に沿った道の様でな。瘴気の影響が計り知れない」


 確かにそうかも。


「ま、大丈夫でしょ。さっさと渡っちゃいましょ」


 相変わらずリシアは楽観的だった。

 両手を後頭部に呑気に言って退ける。


「俺が先行するから、一人ずつ来てくれ」


 と、当然の如く一番危ない役を買って出るクレナ。

 散歩でも出かける様な気軽さで橋へと歩む。


「ま、待った」


 それについ反応が遅れて僕は声を掛けた。

 各角こちらを向く。


「そ、その。多分、僕が行った方がいいと思う。この体結構無理が利くと思うから」


 僕がそう言うとクレナは意味が分からないと言う様に若干怪訝な表情で返した。


「ほら、精神なんたらだから。適材適所ってやつ?」


 僕は援助を求める様にリリスの方を向く。


「適任でしょう」


 同じく振り向いたクレナにリリスが一言返す。


「二人が言うのならそうなのだろう」


 それにクレナも納得してくれた様子。

 そんな僕らを傍にリリスはマリンの後ろからリュックを漁る。

 されるがままのマリン。

 次第にリリスは一つ取り出した。


「アズサ、これを」


 差し出されたリリスの手には、束ねられた一本のロープがあった。









 僕はロープの端を左手首に結び、吊り橋へと足を踏み行った。

 ぎぃ、と木の軋む嫌な音を立てて、足を受け止める木の板。

 僕は生唾飲む思いでまた歩を進める。

 両手は紐のケーブルに添え、簡単に揺れそうな吊り橋を落ち着かせる為にゆっくりと歩く。


 木の板を結んだだけの床はスカスカで隙間から毒々しい湖が覗いた。

 時折り気化した瘴気だろう、拳大の気泡ができてゆっくり目に破裂する。


 こんな分かりやすい毒があるだろうか。

 僕は精神体生命体。今までおいそれと治らない筈の傷も一晩か二晩寝れば治ってきた。

 僕が仮にこの湖に落ちても一番どうにかなりそうだと言う理由で申し出たが、その実魔法的効果に対するそれは未知数であった。

 今までの怪我は全部物理的な衝撃による物の筈だ。

 それでも僕が一番マシな結果になりそうだと思ってこの役をやっているが。


 僕は軋む板を確かめる様につま先で踏む。

 安全を確かめてから踏み込み進んだ。

 端の方が強度は高いんだろうが、後ろに続く人が居る以上完全に安全を確かめたい。

 僕の体重で耐えられるなら大丈夫だろう。


 その話で言えばこの体の体重って生前と比べてどうなのだろう?

 特別軽くも重くもなった気はしないが。

 まぁ、一先ずは僕らの中で一番重ければそれでいい。

 普通に考えて一番体重があるのは僕かクレナだろう。

 それかリシアか? 実は一番身長が高いので言えばリシアだったりするし。

 あ、でも普段からヒールのある靴履いてるしどうなのだろう。今思えばよくあれで山脈を旅できた物だ。

 そう言えばリリスも意外とヒールのあるブーツを愛用してたりする。

 リリスとマリンの身長はほぼ同じだが、もしかして靴抜きにしたらマリンの方が身長高い……?


 と、意外と余裕のある考えを巡らせていると、左手首のロープが限界を達した様に突っ張る。

 振り返るともう片方の端を持ったリリス達の所までロープが延びていた。


「そっちはどうだー?」


「い、一応中間地点っぽい所ならあるよー」


 十五メートル程離れたクレナからの掛け声に僕も声を上げて応じる。

 と、返事を聞いたクレナは自身の手首にもロープを結ぶと橋へと踏み入った。

 僕が落ちたらクレナが引っ張ってくれると言う事だろう。

 ロープは一つしかないから後の三人は一人ずつ来る事となる。

 マリンLOVE☆なクレナからしたら苦渋の決断だったろう。


 無事半径五メートル程度の孤島の様な中間地点へと着く事ができた。

 クレナの後リシア、マリン、リリスの順で女子組もやってくる。

 孤島の反対側には同じ様な橋が掛かっていた。


「大丈夫?」


 僕はホッとした様子で一息つくマリンへと声を掛けた。


「は、はい。でもやっぱり、何だか油断すると気が落ちて行くと言うか」


 マリンは少々疲れた様子で応えた。

 やはり瘴気が濃い分『悲嘆』の状態異常の影響が出てるのだろう。


 その後も同じ様な事を繰り返し、僕らは湖の向こう岸へと着く事ができた。


「意外とあっさりしてたね」


 僕は来た道を振り返って言う。


「ああ。無事全員来れて良かった」


 クレナは皆んなを見回して応じた。

 一区切り付いて何となく休憩する雰囲気ができる。


「何やってるの?」


 そんな中で一人湖へと近づくリシアへと言った。


「死、霊、邪属性の塊よ? ここでしか採れないとっても貴重な物なんだから」


 そう言うリシアの手には瓶を持っていた。


「一応私って資金繰り担当でしょ?」


 そうだっけ?

 確かに山脈行く前に何となく決まった感じはしたが。


「研究材料としても大変価値のある物よ。それに私個人の収集癖が擽られるわね」


「気をつけなよ」


 四つん這いになるリシアの腹周りに解いていたロープを一周させた。

 そんなのは気にせずにリシアはそっと手を伸ばして瓶を沈めさせる。

 蓋の部分を持って掬い上げる様にして瓶を液で満たした。

 水滴を垂らしながらそれを持ち上げる。

 波紋がほぼ広がらないのが不気味だ。


「驚いた。これすっごく軽いわ」


 リシアは摘み上げる様にした瓶をまじまじと見つめて言った。

 明るい赤紫の液が入った瓶。宛ら魔女の持つ秘薬か劇薬だ。


「中々興味深いわね。気体の状態に近いのかしら? かと言って霧の様な飽和状態とも違う様な」


 リシアは言いながら蓋を閉めて瓶を腰のポーチに仕舞った。

 そして徐に石ころを拾うとそれを湖へと投げた。


「え」


 スッと入っていったな。

 その石は音どころか殆ど飛沫や波紋を立てずに沈んでいった。まるで湖全体が立体画像ホログラムだ。


「あれに落ちたら一巻の終わりね。多分落下するみたいに溺れるわよ?」


 リシアはそう平常に言う。

 液体は密度によって浮力が変わるが、これはほぼ密度が無いのか?

 いや、魔力が液体っぽく見えてるだけなのかもしれない。

 何れにせよ落ちたくないものだ。


「ま、もう関係無いけど。ついでにもう一瓶〜」


 と、上機嫌にうたいながらもう一度液を掬うリシア。


「おっとっとっ。わっ!」


「え?」


 そして手を滑らせたリシアは瓶の胴の部分を掴んでいた。しかも溢れたのだろう液も手に掛かっている。

 次いで瓶や液の事などまるで気にかけない様にリシアはそれを地面へと落とした。


「だ、大丈夫!?」


 ぺたんと女の子座りで座り込んだリシアに声を掛ける。

 顔を俯いて表情は窺えない。


「うぐっ、えっぐ」


 次第に肩を上下させて嗚咽を漏らすリシア。


「どうせ私なんて顔が可愛いだけの女よ。分かってるわよ。えっぐ」


 目元を手の甲で拭いながらそう漏らす。


「煩い女ですよ。鬱陶しくて我が儘で軽率な女ですよ。分かってますよ。でも仕方ないじゃない。そう言う性格なんだもん」


 リシアは泣きながら自虐的にそう並べ立てる。

 ま、まさか。


「ひ、悲嘆!? これが悲嘆の状態異常!?」


 僕はその事実に驚きリシアを眺める。


「はいはい。そう言う反省しない所がダメだって言うんですね。でもいいもん。祝福あるもーん」


 そうリシアは開き直るが。


「う、うぅっ。祝福に頼ってばっかの私って……。う、うっぅ」


 その威勢は何処へやら直ぐに落ち込んだ様に泣き崩れる。

 普段からは考えられないマイナス思考だ。


「だ、大丈夫だってリシア。とにかく行こう? ね?」


 僕はなるべく刺激しない様に声を掛け。


「そうよ。どうせ私なんて顔が可愛くて胸が大きくてエロい体してるだけの女ですよ」


 あ、あれ? いつものリシアだ。

 つい言動に納得してしまう。


「祝福と見た目だけが取り柄の女ですよ私なんて。そう思ってたら祝福効かないし。見た目でカバーするしか無いじゃない? でもリリスちゃんもマリンも凄くかわいいもん。これじゃ私のアイデンティティほぼ無いじゃない」


「り、リシア落ち着いて。ほら、人の値打ちは見た目じゃ決まらないって」


「はいはいはいはい。そうですよ。その見た目しか取り柄のない私はどーせダメダメな女ですよーだ」


 だ、ダメだこりゃ。

 今の精神状態で説得は無理だ。


「とにかく行こう。湖の瘴気から離れるんだ」


「う、うん」


 クレナの言葉に僕はリシアの手を取って立ち上がらせた。


(僕がもっと気を付けてさえいれば……)


 つい暗い思考になってしまうが、今はそん場合でないと頭を振る。

 瓶は放っておこう。あれに触ると良くなさそうだ。


「分かってるわよ。私だって本当に大事な人には内面で振り向いてほしいんだもん。だから祝福が効かないあなた達と居るのは居心地が好くて、でももどかしい思いもあったりして」


 一人呟き続けるリシアのそれは無視して、僕らはゆっくりとリシアを誘導しながら坂道を登る。


「不味いかもしれない」


 と、眉根を寄せて呟くクレナ。


「どうしたの?」


「瘴気への耐性より瘴気の力が上まるなら、リシアの症状は悪くなる一方だ。早く森を抜けないと」


 その言葉に僕らの歩も自然と早くなる。


「どうせ私なんて身体を売る事にしか価値無いのよ。最初から分かってた事じゃない」


「リシア……リシア!」


 クレナはリシアの発言が引っ掛かった様に振り向く。

 名を呼ばれてリシアはハッと目の前に意識が戻ったようになった。


「俺はお前の事も家族の様に思っている」


「あ。う、うん」


 リシアの目を真っ直ぐに見つめて言ったクレナ。

 か、かっこいい。後でメモしよ。


 そんな会話をしていると思っていたよりずっと早く木々が避け、道が開けた。


「なっ。まだ橋は続いていたのか」


 が、そこに有ったのは新たな橋だった。

 愕然と呟くクレナ。

 坂道だったので湖へ若干崖の様になっている。高さ二メートルといった所か。

 それも橋の先は霧に飲まれてどれだけ長いかが分からない。


「とにかく行くしかないよ。また先導するから」


「ああ。リリス、リシアを頼む」


「ええ。マリン、少しリシアを」


「あ、はい」


 各角が連携して役割を熟す。

 マリンがリシアの両手を取って大人しくし、リリスがリシアの腰に結んだままだったロープを解く。

 もう一方の端をクレナが僕の左手首へと結んでくれる。

 そしてクレナも準備できた所で橋へと向き直った。

 参ってしまってるリシアはリリスが面倒見ると言う事だろう。

 マリンには荷物もあるし。


 と、出発する寸前で場に誰かの啜り泣く声が響いた。


「お兄ちゃん、置いてかないで」


 それはマリンのものだった。

 目元に手の甲を当ててか細く零すマリン。


「やだ。嫌だよ。辛い」


 止め処なく大粒の涙を頬へと伝わせる。


「お父さん、お母さん」


 折れそうな程か細いその声でマリンは呟き。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん!」


「大丈夫だ! ここに居る! ここに居るぞ!」


 崩壊したダムの如く激情を流したマリンをクレナは抱きしめた。


「お兄、さん」


 眉を垂らし、潤んだ瞳で呟くマリン。

 涙で濡れた、ふっくらとした白い肌を肩に乗せる。

 その様子に漸く呆然としていた思考も戻る。


 ま、まさかマリンも!? このタイミングで!?

 そうか、リシアの手にはあの液が付いていたから!

 僕が普通に触っていたから油断させてしまった様だ。


「とにかく行こう!」


 僕は言った。



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