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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第三章 竜凱山脈編
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74:占い



 翌朝、僕らは軽く身支度して村長宅へと向かった。

 少し話すだけだし必要のない物は置いて行く。相棒である剣は少し迷ったが、他人の家にお邪魔するには物騒過ぎるし置いて行く事にした。


 昨夜から何処か気落ちした様なマリンもとぼとぼと付いてきている。

 今のマリンはフードにマスクも着けて久しく見る完全装備だ。

 他人に会うのは久々だし、マリンも緊張してるのかもしれない。


「ん」


 道中、唐突にクレナが後ろを振り返り、遠くの方へと視線を向けていた。


「どうかした?」


「いや……気のせいか」


 僕が問うと彼はそう言ってまた前を向いて歩き出した。


 ドアノッカーを叩くと昨日の青年に案内され、客間へと通された。

 この世界で初めて見る玄関で靴を脱ぐ習慣には皆んなも少し戸惑っていたが、皆んな順応は早い方だし問題なく進む。


 通された客間は十畳程の部屋で古風な内装だった。

 古い木造住宅特有の匂いが鼻を通る。

 座布団が二列に分かれて四つずつ並ぶ。計八つもの座布団が並んで用意されていた。

 奥にもこちらと対峙する様に二つ座布団が並ぶ。

 一つは中央に置かれ、もう一つは右手に少し下がって置かれている。


「どうぞ。お掛けください」


 青年に進められるまま座布団に座る。

 流れで前列の左からリシア、クレナ、僕と並び、僕の後ろにリリス、クレナの後ろにマリンが座った。

 今まで床に座る習慣はあまり無かったので新鮮だ。


「あ、どうも」


 奥の襖っぽい扉を開いて出入りした青年が全員にお茶を配る。

 前方の二つにも置いて出て行くと、昨日のお婆ちゃんに連れ添う様に入って来た。


「これで全員かい?」


「はい。揃っておりますよ」


 二人とも座布団に腰を落ち着かせ、青年の方を向いて訊いたお婆ちゃんに青年は答える。


「数え間違えかの。最近は物忘れが酷くて」


 一体どれの事だろう。

 お婆ちゃんの呟きに首を傾げる。


「心身は休まりましたかの? この先魔の森を抜けるまで人里はないでしょう。もう一晩、二晩と居てもいいのですよ」


「有り難い申し出ですが、何分先を急ぐ身でして」


 お婆ちゃんの言葉にクレナが応えた。


「所で、何故我々が魔の地に入る事を知っておいでで?」


「見れば分かります」


 あれ見えてんのか。

 僕が相変わらず閉じられた目蓋を見ていると、お婆ちゃんは青年の方に顔を向ける。


「そろそろ本題に入ってもよろしいですか? 飛竜を見かけた場所など知っている限りの事をお教え願います」


 と、意を得た青年は地図をこちらに向けて広げる。


「最初は……ここだな。ここらで迂回してるのを見かけ、会敵したのはここだ」


 そうクレナが地図をなぞりながら言う。


「アズサ。分かるか? お前が狼煙を上げていたのは恐らくここらだ」


「えっと。多分、ここを住処にしてます。来ましたし。ただ一晩ここで明かしてから来たのと、昔の糞があったのを考えるに、かつての住処じゃないかと……あってる?」


 クレナ越しにリシアを覗く。コクコクと頷くリシア。


「ふむ。やはりそうでしたか。あの飛竜が縄張りを広めてると言う事は、あれの時期も近いと言うことでしょうね」


 一通りを聞いて青年は思慮深く呟いた。


「何か森で起こってるのか?」


「生態系が整いつつあるのでしょう。我々も伝承でしか知らないのですが、あの飛竜は本来群れる存在であり、百年程経つと群れを成して家移りをするのです」


「あの噂は本当だったのか」


 青年の説明にクレナは驚いた様に呟いた。


「ええ。点々と大陸中を辺り生態系が整った頃にまるで凱旋かの様に家移りする。そしてまた他の地の生態系が整うのを待つ。現在山脈に住む個体は言わば群れの先遣隊。群れ全体が移れる程と確認し、いよいよ受け入れる為の準備を進めて居るのでしょう」


 なんて傍迷惑な。

 ただでさえ良い出会いをしてないあの竜の事が少し嫌いになる。


 しかし百年単位での渡り鳥ならぬ渡り竜とは。

 確かにあんなのの群れが住む様ではその地の生態系は壊滅するだろう。

 この世界の生物の事情は規模が大きくて驚かされる。


「四百年前かの魔王がこの大陸に移り住み、その周期にズレが生じていた様なのですがね。しかし到頭その時が来てしまいましたか」


 そう青年は気落ちした様に言う。


「まぁ、竜の話はこの辺でよいでしょう。貴方方は魔の地へと向かうのでしたね? 何も竜の話を聞くためだけに呼んだのではございませんよ。この先の事も多少は話が伝わっております。貴方方のお役に立てるかもしれませんよ」


 それから青年はいろいろと教えてくれた。

 この先に待つ森の事。そこが通称『嘆きの森』と呼ばれてる事。

 そこに漂う瘴気。瘴気の元である『死の湖』と呼ばれる場所。

 それによる強力な霊属性により『亡者の都』と呼ばれる場所がある事。

 とにかく知ってる事を教わった。


「ま、我々の知識はこれくらいです。昔は瘴気が酷くて対応は必須だったそうなんですがね。年々瘴気は減り今は三日も森に滞在しない限り影響は無い筈です。ですよね? ミチヨ様」


「ええ。貴方方なら大丈夫でしょう」


 起きてたのか。

 僕は確認する青年に頷くお婆ちゃんを見て思った。

 目閉じてるし微動だにしないから寝てるのかと思ってしまった。


「そういえば、まだ名前を訊いていないな」


「おや、私とした事がうっかり。こちらは村長をしておりますミチヨ様と、私はその補佐役に勤めております。私の事は補佐役か、村長の孫とでもお呼びください。私にはまだ名が無い身ですので」


「名が無い?」


 青年の返事にクレナは問い返す。


「ええ。この村では代々子を授かった時か養子を迎えた時にのみ、自分で自分自身に名前を付けそれを名乗る風習があるのです。それまでは役職か、『誰々の子』といった風に呼ばれます」


 変わった風習だなぁ。


「人は子を育てる義務を負って漸く半人前なのです。その子が更に子を育て、自身の名が別の者を指す時にすら使われなくなり漸く一人前となる。そう言った意味があります」


 思ったより立派な意味合いがあった。


「人里離れた集落の風習は独特ねー。そういえば、獣人にも自身に名を付ける風習があったっけ」


 と、そろそろ堅い話に飽きてきたらしいリシアが間伸びして言う。


「では、我々はそろそろ」


 それを見てかは分からないが、話も一段落した所でクレナが切り出した。


「もう行かれるのですね」


「ええ。この村も午前の内に出ます」


 お婆ちゃんの言葉に答えるクレナ。


「左様ですか。では最後に、貴方方の行く旅路を占ってあげましょう」


 そう言い、お婆ちゃんは後ろの箪笥から何かを取り出す。


「この先の瘴気に対するまじないを掛けるのが我ら代々の役目だったのですが、瘴気の落ち着きと共にそれらの風習も廃れて久しいです。これはその代わりです」


 言いながらお婆ちゃんは一辺30cm程ある紙を目の前に広げた。

 そこには陣の様に広がる模様とこの世界の文字が描かれている。


「なになに? 占星術かしら?」


「いいえ。違いますよ。我々が行うのは統計学的な物では無く、もっと呪術的要素を含みます」


 興味津々と言った様子で言うリシアに青年が答えた。

 その紙の中央には勾玉が重なり合った様な白黒の模様が一際大きく描かれてあった。

 これは、まさか……


「陰陽道?」


「おや。時折りこれを見て妙な呼び名をする者が居るそうですが、貴方もですか」


 と、僕の呟きに青年はそう言っていた。

 そして更にお婆ちゃんは手の平程ある水晶玉とその台を取り出し、それを紙の中央へと置いた。

 これはまた、随分ベタな物が来たな。


「世界は砂粒の一片に残らず力を宿し、絶え間なく流れを持って動いております。それらを知覚できる範囲で時の流れよりも早く計算せしめれば、それより大きな世界の動きを知るのは自明の理。流れを決めるのは人の思い。変わる事も、また変わらぬ事も定めでしょう」


 お婆ちゃんは何やら難しい事を言いながら、両手を水晶玉へと翳した。


「貴方方は随分複雑な因果で集まった様ですね。そして、貴方は因果その物の様だ」


 そしてじっと集中する様に水晶玉へと向いていたが、不意に一度こちらを向いた。


「はいはーい! じゃあ私からお願いします!」


 と、リシアが元気よく手を上げて言う。


「いいでしょう。特別に個人で占います」


 お婆ちゃんはリシアから水晶玉へと向き直ると、また集中する様に動かなくなった。

 一時の間僕らはその姿を静かに見守る。


「貴女はこれからの旅路でずっと会いたかった方に会う兆しが御座います。これは今まで貴女の周りを決定して来た意思による物では無く、互いの心の奥底が引き寄せ合った物でしょう」


 と、お婆ちゃんは水晶玉に向いたままそう話す。


「しかし拒絶するか受け入れるか、はたまた出会すらないか。これは貴女の向き合い方により先の人生を大きく変える物になる筈です」


 随分と象徴的で掴み所の無い内容であった。

 リシア自身も何の事か分からない様に首を傾げている。

 まぁ、占いなんてそんなもんか。


「あの、もう一ついいかしら?」


 と、リシアはおずおずと声を掛け。


「ちょっとご縁の有った方が居て、この旅に出る前にその人を放っておく形にしてしまったの。あまり良い別れ方ではなかったから、その……ちょっと、気になって」


 そうリシアは言いづらそうにしていた。


「できれば、その人がどうしてるか何て……分かれば。なんて」


 内容に自信が無いのかリシアは弱々しく言う。

 お婆ちゃんはそれをじっと聞き入る様に顔を向けていた。


「よろしいでしょう」


 次第にまた水晶玉へ意識を集中し、暫しの時が流れた。


「ご安心なさってください。元鞘に収まる様に良縁に恵まれ、今頃は真の心に従い生きる姿が視えます」


「……そうですか」


 リシアはその返事を聞き、一言返すと立ち上がった。


「ん? どこ行くの?」


 扉の方へ向かうリシアに僕が問うと。


「ちょっと、涼みに」


 そう端的に返す。


「お茶、ありがとうございました」


 そして両手を前に頭を下げるとリシアは部屋を出て行った。


「では、この先の貴方方の旅路、そこに待つであろう魔王に関する占いを致します」


 そう言って集中するお婆ちゃんに僕らは居住まいを正す。

 先程よりずっと長い間眉を顰めて水晶玉に集中し、そして。


「はっ! ぁあ!」


 お婆ちゃんは叫ぶや弾かれた様に水晶玉から身を引く。

 その姿にぎょっと僕らは驚く。

 青年も驚きつつ姿勢を崩したお婆ちゃんの肩へと手を添えた。


「ああ、恐ろしや恐ろしや」


 お婆ちゃんは両の手の平を擦り合わせて拝み倒す様に繰り返していた。


「恐ろしや、恐ろしや」


 まるで憑かれたかの様に繰り返し言い続ける。


「あれは果たして北に住う魔王だったのか……。凶々しくあり、神々しくもあり」


 そして繋いだまともな言葉は。


「彼の者を中心とし、災厄の様な〝死〟が撒き散らされるであろう」


 そんな不吉極まりない予見だった。









「こちらからお呼び立てした上、あの様な事になってしまい申し訳ありません」


「い、いえ。それより、お身体を大事になさる様伝えてください」


 玄関まで迎えてくれた青年の言葉に僕は応じた。

 と、並べられた靴を見て僕はある事に気づく。


「あれ? そういえばリシアは?」


 僕はこの場を見回す。


「もしかしたら裏口の露台かも知れませんね」


「ちょっと迎えに行って来ます。皆んなは先行ってて」


「突き当たり左にある扉の先ですよ」


 皆んなに言い添え、青年の言葉を背に僕は廊下を進んだ。

 そして青年の言われた通りの扉を開いてバルコニーへと出ると、背を向ける紫髪の少女が居た。


「リシア、もう行くよー」


 僕は腰辺りまである柵越しに、地味な土草の風景を眺める彼女へと声を掛けた。


「って、どうかしたの?」


 髪が邪魔して表情は伺えなかったが、若干振り返った時にキラリと水滴が垂れた様に見え、僕は思わず問う。


「別に――」


 リシアは背を向けたまま目元を拭うと。


「ただの……失恋よ」


 そう、いつもの調子で言っていた。










「絶対絶対言わないでね!?」


「わ、分かってるって!」


 先に行った皆んなを追いかけに歩いていた時、何度目かも知れない確認に僕は頷いた。


「あ、そうだ。今言うとまるで交換条件みたいになっちゃうけど、僕からもリシアに頼みたい事があったんだった」


 何の気なしに言ったそれだったが、リシアは驚いた様に自身の身に抱き着いた。


「な、何!? まさかその弱みを使って私の目真麗しい身と心を差し出してなさいって……!? あなたってば恐ろしい子っ! でも、そんなシチュエーションも悪くな」


「あー、はいはい。それはいいとして」


 すらすらと流れ出る妄言はそのまま流す。


「ちょっとは葛藤なさいよ」


 それに不服気に軽く頬を膨らますリシア。


「そのさ、あの霊草をタールさんに売って欲しいんだ」


「モーリュの陰草を? いいけどどうして? 分前が欲しいの?」


 案外すんなりと話を聞き入れたリシアに僕は首を横に振る。


「ううん。山脈に行く幾つかの前の町にね、それを欲しがってた男の子が居たんだ。タールさんらはそこら辺の町まで往来してるらしいから、その子の元に届けばと思ってね」


 ま、そんな都合良く行かないのは分かってるけどなぁ。

 でもせっかく機会が回って来たのだからできる事ならしてあげたい。


「男の子? それって幾つくらい?」


「え? うーんと、五歳くらい?」


「……そう」


 と、変わった所を訊いてくるリシア。

 僕の返事を聞いて真剣に反芻してる様子であった。


「どうかしたの?」


「別に」


 そうそっぽ向く。

 無意味で無謀な事だと揶揄って来るかとも思ったが、案外リシアは受け入れている様だった。


「届くといいわね」


 そしてそう、一言添えた。









「おお、これはランタンの所の物ですな? さすがはリシア殿。お目が高い」


 皆んなの先に行った場所。馬車の駐車場にてリシアが早速にタール氏へと交渉していた。

 僕らはその様子を傍に馬車を引き渡すべく、本当に必要な物とを整理していた。


「モーリュの陰草並びにこの様な品々を得る機会に恵まれるとは。これも天秤の神々とマリア様のお導き。多喜在らん事を」


 そう言って祈りを捧げる様に両手を組むタール氏。


「しかし相変わらず随分お急ぎなのですな。それも魔の地に向かうなどと……。不肖このタール、畏敬の念を禁じ得ません」


 と、作業を進める僕らを見てタール氏が言う。


「その、クレナ殿。差し出がましいのは分かっているのですが、やはり我々と共に下山してはどうですか? この様な年端も行かぬ者達を放っておくのはどうも……。無論、道中の食事の保証は致しますので」


「いや、昨日も言った通りこの先こそが我々の旅の目標なんだ。確かに馬を失ったのは誤算だが、どの道森は一、二晩で抜ける。馬車があろうとやる事は変わらないさ」


「作用ですか。事情を知らぬ身での愚見をお許しください」


 タール氏とクレナの会話を適当に聞き、僕はキリのいい所で話しかける。


「タールさんはこの先どちらに行くんですか? 山脈の道を戻るんですか?」


「本来はその予定だったのですがね。何せ竜が出てしまいましたので」


 そっか。確かにこの状況で好き好んで山脈の道を行く必要はないのか。

 モーリュの影草が少年に渡る可能性はこれでほぼ潰えたが、今更返してとは言いづらい。

 リシアも何だかすっきりしてる事だし、このままでもいいだろう。

 そもそも僕らでは活用できないし。


「我々はこのまま西に降って連邦国へと入る予定でございます。交易を続けつつ、更に南下して弧を描く様に帝国へと入る。当面の予定はここまでですかね」


「へぇ〜」


 すごいなぁ。旅する商人って感じだ。

 そんな会話も挟み、僕は車内に戻って作業する。

 と、リシアが座り込み床の仕込み銃を取っていた。

 僕はそれを横目に長椅子の収納空間を整理する。


「マリーン。ちょっと来てー」


 僕が呼ぶとリュックを背負ったマリンがすたすたと仔犬の様に寄って来た。


「これ行けそう? 結構重いけど」


 僕は手に持った猟銃の弾を指して言った。

 それにこくこくと頷きリュックを下ろすマリン。

 言っちゃ何だが、マリンは荷物持ちだ。

 マリン自ら何か役に立つ事がしたいと立候補したのだが、実際マリンが適任だった。

 非戦闘員だし、リュックはマリンのだし。


「結構ぱんぱんなっちゃったね。大丈夫そ?」


 フードの中でこくこくと頷くマリン。

 マリンのリュックは実用性重視な様で結構な量が入り、今や小柄な少女には不恰好な物となっていた。

 マリンは重そうなそれを背負うとそそくさと馬車を出て行った。

 僕はその様子を少し疑問に思いつつも見送る。


「それの弾はないの?」


 と、相変わらず床に座ったまま作業するリシアに向けて僕は問う。


「無いわよ。これは対人用よ? それも護身用の。なるべく使いたくない物を、わざわざ買ってないわ」


 そう言って肩を竦めるリシア。


「そもそも貰い物だし。よく分かんないし」


 言いながらリシアは手元に持った銀の拳銃を眺める。


「って事は、今入ってる分だけ?」


「そうね。後四発かしら」


 僕の問いに答えてリシアは立ち上がった。

 たった四発か。

 それでもリシアは持っていく様で、新たに着けた胸横のホルスターへと銃を収めた。


 その後無事に馬車とうば丸の引き渡しを終え、取り引きも終えたタール氏一行は出発する事となった。

 村の西側にある山道へと僕らは見送りに行く。


「元気でね」


 僕は最後になるだろううば丸への挨拶をする。

 僕らのだった馬車に繋がれたうば丸。人も荷物も減ったから一頭でも引けるだろう。

 うば丸は大人しく首元を撫でられている。やはり別れは寂しものだ。

 向こうは何も感じて無さそうだけど、ちょっと涙ぐんでしまう。


「アズサ殿、並びに皆さまも。先日は本当に助かりました。改めてありがとうございました」


 と、タール氏が改まって僕らに頭を下げる。


「では、また何処かで」


 そう言ってタール氏はうば丸の引く馬車に乗り込み、彼らは出発した。

 霧が流れる中、砂利と石の転がる禿げた山道を行く。

 小さくなる二台の馬車を見送り、僕らも出発する事となった。


 特に寄り道する様な所も無く、僕らは真っ直ぐに村の北口を目指す。

 何せ荷物はもう持ち歩ける程度にまで抑えている。

 宿泊した部屋の整理もしてるし、馬車はもう無い。

 僕らはもう自分の足で行くだけなのだ。


 この村の北口は祭壇と村長宅の間に通っていた。

 今朝は余り気にしなかった祭壇を見る。

 小さく簡易的な祭る為だけの祭壇と言った具合のそれ。そしてその背後には大きな岩がある。

 その巨岩はしめ縄の様な物で飾られてあった。


 土着信仰があるのか。

 なんだか家屋と言い僕の居た国の文化と似通った物あるな。

 この世界の人々は天空に座す神々こそ至高と言った価値観で固まってるから、お祈りするにしてもお日様に向かってやったりしている。

 教会での壁画や石像への具像崇拝はあれど、こう言った物そのものを奉るのは初めて見る。


 ついでに挨拶くらいしておくか。


 一日とは言え、お邪魔したお礼も兼ねてぼくはその岩を拝んだ。

 伸ばした両手を合わせて暫し目を瞑る。

 満足した所でその様子を見守ってくれていた仲間の元へと戻った。皆んなはこれが祭壇だとはぴんと来て無い様だ。

 いや、リリスだけは少し気になる様で岩を見てたが。


「さ、行こう」


 そして僕らは出発した。



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