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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第三章 竜凱山脈編
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70:北の亜種竜



 いつもの朝。

 クレナと山菜を採りながら昨晩掛けた罠を見回る。

 動物の痕跡がある場所や巣穴を見つけて設置してもそう都合よくは掛かってくれない。

 どこにも掛かってない事を確認し終え焚き火の煙を目印に拠点へと戻る。


「クレナ。今ってどこくらいなの? もう結構移動したつもりだけど」


「次で最後の村に立ち寄る。そこからはもう降るだけだ」


 僕はその明るめな見通しに浮き立つ。

 クレナは速さ重視で道を選んでいるので道中に村を寄る機会も少なく、山道ばかりであまり進んでる実感が湧かないのだ。

 地図で位置関係を頭に入れてるクレナはよく分かっているのだろうが。


 僕は歩きながら何気なく空を見上げた。

 ん?

 鈍い色みがかった空に何か見慣れぬ物体が飛んでいるのが見え、僕は気になって目で追った。


「え? わ、わ」


「動くな」


 と、その時クレナが服の後ろ襟を掴み木影へと引っ張った。

 樹冠の向こうを睨む様に見上げる。

 僕も隙間から見え隠れするそれを見で追った。

 灰色の何かだ。それも大きい。鳥じゃないのは分かる。翼が大きくて、全長も長い。

 いずれ見失うも更に一分程経った頃、ようやくクレナが緊張を解いた様に僕を掴んでいた力も抜いた。


「あ、あれ何?」


「この山脈に棲みついてると言われる飛竜ワイバーンだろう。こんな所に居る筈ないんだが」


 クレナは答え、思慮深げに呟いた。

 と、顔を上げ。


「とにかく戻ろう」









 情報の共有をした後、僕らは移動を再開した。

 クレナが屋根で見張りをし、御者台にはリリスが。

 非戦力組は馬車内で大人しくするいつもの場所振りだ。


 雲は流れ、今は晴れ模様だ。青い空に真っ白な雲が散らばり、見渡す丘の山々に影を差す。

 先程から道の横が崖になっている様で、見晴らしが良いのだ。

 急な斜面が少しだけ広がり、その先は地面が見えなくなっている。

 落ちたら一溜ひとたまりもない。


 正面の窓からは後ろと違って、森が広がり更に高い山が見える。

 その景色は馬車が進んでる方向から見ると右側だ。僕が座っているのが左側。

 僕らは山脈を西周りに進んでいるから、北に進んでいればより高い山々は右に、より低い山々は左に見える。


 僕は視線を窓から戻してリシアを見た。

 リシアは僕の手元、そこに並んで持ったカードを凝視していた。


「ん〜、これね!」


 やっと一枚取って手札と見比べる。

 そして不満気に唸って僕の隣に居るマリンへと差し出す。


「おっと。本当にそれでいいのかしら? マリン、これはあなたの為に言ってるのよ。マリン? マリン?」


 リシアがカードを抜かれまいと力を込めて抵抗する中、構わずそれを奪い取ったマリンがゲームから上がる。

 また二人っきりになったリシアと睨めっこする。

 ちなみにこれにリリスが加わると大体リリスが勝ってしまう。

 リリスは意外と負けず嫌いである。


 リシアから適当にカードを奪って手札を減らした後、残りのカードを差し出した。

 リシアは真剣な表情で手を迷う様に漂わせる。


 と、リシアは僕の後ろ、窓の外を見て驚いた様に目を見開く。


「何? 隙を見てカードを覗こうったってそうは行かないよ?」


「いや……あれ……」


 呆然と言葉を零すリシア。

 その様子に怪訝になる中、何かが覆った様に窓からの光が無くなった。

 流石に何事かと後ろを振り返って外を見る。


 僕は一瞬。いや二、三秒は訳が分からなかった。

 余りに現実離れした光景に、理解が追いつかなかったのだ。


 陽光を乱反射する鈍色の個体。視界に収まらない大きさ。

 そこには竜が居たのだ。崖の向こうに竜が飛んでいた。

 大きな翼を羽ばたかせる竜。それが鋭い眼孔でこちらを覗いていた。


「「ぎゃぁぁーーーー!!」」


 そして理解と危機感が追いつくと同時に、リシアと叫び声がハモった。


「リリスぅーーー!」


「リリスちゃーーーん!」


 リシアと御者台の方に叫ぶと同じぐらいに馬車が速度を上げる。

 慣性の法則に身を任せる中、手を突きながら外を見る。

 き、消えた……?

 見える範囲には居なくなった竜に困惑していると、何か物が打つかる音と衝撃に馬車が大きく揺れた。


「わあ!」


「きゃあ!」


「んぎ!」


 馬車内で倒れ込む僕。リシアも体制を崩して叫び声を上げる。マリンは戻った衝撃で頭を打ったらしい。

 僕は倒れたまま外を見上げた。竜は一定の距離を保ちながら速度を上げる馬車に付いてきていた。

 大きい。距離感が分からなくなりそうだ。

 その丈は優に十メートルを越える。鈍色の鱗、鋭い鉤爪のある鷹の様な足、その翼は片方だけで馬車を優に覆ってしまえる程大きい。


 と、僕はハッと思い出す。


「く、クレナぁー! 大丈夫ー!?」


「ああ、問題ない!」


 四つん這い状態で叫んだ僕に屋上からすぐ返事が飛ぶ。

 だが安心してる余裕は無い。

 またも大きな揺れと共に何かがぶつかる。何かと言うか間違いなくあの竜だろう。

 と言うか、今まさに鉤爪が馬車を掴んでいる!


 でで、でか過ぎる。

 人なんか簡単に握り潰してしまいそうな程大きな脚だ。

 それの鉤爪が屋根の角を掴んでいた。


「ちょ、ちょっと! 何とかしてよ!」


「な、何とかって……! ひぃっ!」


 めめめ、メリっていった!

 隣のリシアに急かされる中、一層と鉤爪が食い込み馬車が軋む。

 と、屋根のクレナが剣を振るった様で金属の弾ける音が響く。


「っ! なんて硬さだ」


 そう言ちるクレナとは反対に竜は脚を離した。

 それと同時にふっと軽くなった様に馬車が速度を上げる。

 粉塵巻き上げる暴風。あの巨体が翼一つで飛んでいるのが信じられないが、今はそれどころじゃない。


「り、リシア! 銃だよ、銃!」


「ああ! そ、そうね!」


 僕の掛け声に手を突きながら立ち上がり銃を取るリシア。

 外を見上げると竜は付かず離れずな距離で滑空していた。

 どうやら森に入った様で図体の大きな竜は左右の木々が邪魔で馬車を掴みづらいらしい。

 リシアは床に寝っ転がり、銃口を上空へと向けた。


「さすがにこれは外せないわ」


 口上の後発砲音。耳を圧する音と共に微かに聞こえたキンッという金属の様な音。

 き、キンってなんだ? おおよそ生物を撃った音じゃないんだが。

 僕は竜がどうなったのか恐る恐る覗くと。


「めっちゃこっち見てるんだけど! すっげーガン飛ばして来てるよ!」


「う、うるさいわね! もうこうなったらやるしかないのよ!」


 続け様に撃ったリシア。確かに当たった様だがまるで効いてる様子はない。

 そして竜の意識は完全にこちらに向いた様で力を緩めた様に降下し。


「「ぎゃーーーーっ!!」」


 リシアと掴み合ってまたも叫び声が重なった。

 竜は地面に降りて走っているのだ。木々をへし折り、薙ぎ倒しながら無理矢理追いつこうとしている。

 噛み付く様に口を開けて威嚇してくる竜に僕とリシアが恐怖で掴み合っていると。


「曲がりますよー! 掴まって!」


「え?」


 御者台の方からリリスの声。

 そしてすぐ森が抜けた様で視界が開けると同時、急激な曲がり道に遠心力がその場を襲う。

 言葉を頭で理解するより先に体にそれが来て、僕とリシアは慌てて周囲へと掴まった。

 だが元々床に座り込んでいた僕らには何も踏ん張れる様な場所は無く、必死に床へとへばり付いていた。


「きゃっ、ぁあ! 落ちちゃう〜!」


「頑張れ!」


 足を外に投げ出してしまっているリシアの服の後ろ襟を掴む。

 ちらりと見えた後ろの様子は丘の様に下り坂が広がった空間で、竜は急な曲がり道とその草原に足を滑らせている様だ。

 と言って僕らにも余裕は無い。無理な姿勢で手も痛いしもう落ちそうだ。


 そしてその時、前方からの大きな物音と馬の鳴き声が響き、馬車が一層と大きく揺れた。


「あ」


「え?」


 軽く宙に浮く。阿呆っぽく声を零す僕とリシア。


「わあぁっ!」


「きゃー!」


 再び轟く二名の叫び声。

 僕らは外へと放り出されてしまったのだ。掴み合ったまま外へと投げ出される。

 加速度的に悪くなる状況の中、うば丸達に何かあった事だけは分かったが、如何せん思考する余裕はない。


「うぎぃ!」


「ぎゃぁ!」


 地面と再会して唸り声を上げる。

 それも急な斜面だったので早々にリシアとは離れて位置エネルギーを浪費するまま転がった。

 冷たい露に体を濡らしながら転がり続け、慌てて起き上がり周囲を見渡す。

 丘の上で馬車は森の奥へと走って行き、竜はこちらに気づいて向きを変える。


「ひぃぃ! り、り、リシアぁ!」


「ここよ!」


 すぐ上の方で草原から頭を上げるリシアの手を取り、全力で丘を駆け下る。

 ガアォともギャォとも似つかない、濁点に更に濁点を付けた様な威圧感てんこ盛りな威嚇の咆哮を背にひた走る。

 急な丘と濡れた雑草に何度も足を取られそうになる。いや、最早半ば転がり落ちる様な形で僕らは逃げていた。

 その背後には地面を踏み鳴らし追いかけてくる竜が。

 何気に今までで一番ピンチだ。


「ひいぃ! 美味しくない! 美味しくないってぇ〜!」


「こっちよ!」


 と、リシアに引いていた手を逆に引っ張られ、木々の方へと走った。

 急な方向転換に足をもつれさせながらも、竜の直線上からは逃れる事ができた。

 竜はすぐに同じ高さまで降って来て僕らを追いかけようとするが、図体が大きい分足を滑らせている様だった。

 だがそんのは関係ない。絶対にすぐ追いつかれる。


「あ、あそこっ!」


 息を切らしたリシアが木々を指して必死に何かを伝える。

 木々の密集した所から入り込もうと言う意図は伝わった。なるべく竜の障壁になるようにと言う事だろう。


 もう竜がすぐ後ろに居る。いつ踏み潰されるのか分からない恐怖に潰されそうになりながら走る。

 竜の影が視界に入るほど追いつかれた頃、遠く感じていた木々ももう目の前だった。

 僕らは手を離してそれぞれが木々の中へ向かい、そしてとうとう竜には追いつかれずに木々へと入る事ができた。


「ぎゃっ!」


「リシア!?」


 そう思ったのも束の間。物音とリシアの声に振り返るとリシアが木と木の間に挟まっていた。

 正確には、リシアの肩に掛けられた猟銃がだ。

 泣きそうになってるリシアに駆け寄り手を回して猟銃を持った。

 だが硬い!

 先に付いた銃剣が深々と木に刺さっていたのだ。

 もう竜は目の前だ。銃剣を力ずくで抜けたと同時、口をあんぐり開けた竜は視界を覆う程大きくなって──


「きゃー!」


「わぁぁ!」


 大きな物同士の打つかる音と飛び交う木片、そして男女二名。

 最早打つかった衝撃なのか後ろに跳んだのが先だったのか分からない。


「うぶっ!」


 そしてまたも地面と再会。今日はよく会う。今度はリシア付きだ。

 クッション代わりになったみたいなのでこの際良しとする。

 ともかく今は無事なのだ。


「ひぃい!」


 だが当然終わっちゃいない。

 竜が目の前に居る。木々を薙ぎ倒して前へと進んでいた。

 恐怖と焦りで足だけ動かし、腰が抜けた様に後ずさる。

 同じく竜を見上げたままのリシアの服の後ろ襟を掴み無理矢理引き上げた。


『ガアアアアァァァァ──ッッ!!』


 目の前で感じる痺れる程の咆哮。恐怖と爆音に失神しそうだ。

 ――って、本当に失神してる……!?

 僕の体にのし掛かったリシアはそのままぐったりと力を抜いて失神してしまっていた。


「リシア! リシア!?」


 必死に呼び掛けるがリシアは伸びたままだ。


「ああ、もうっ!」


 後退りながらリシアを抱きかかえ、肩を持つと連れて走る。

 後ろから聞こえるバキバキと木々の折れる音が僕を急かす。

 幸い幹は太く、樹冠は大きくて足止めと身を隠すにはちょうど良さそうだ。

 振り返って状況を見ると、竜は体を起こして進んでいる様だった。

 うでは突いているようだがそれも畳み、胸を張る様に首を伸ばして睥睨している。

 それを樹冠越しに確認した。

 改めて見て大きい。地に足ついているのに木々の中から体の半分以上が飛び抜けている。

 図体に物を言わせて環境破壊しながら進んでくる竜。

 僕はリシアを半ば引き摺りながら木々の中を走った。

 そして一時走った後、一層と木々の生い茂る場所の太い幹を選んでその影へと隠れた。


「はぁ、はぁ」


 激しい息切れ。背中を幹に預け、リシアの腰を寄せた。

 どうにかここでやり過ごしたい。早くリリス達と合流しなくては。

 僕は近づいてくる音の主を見上げた。竜は僕らを見失った様で周囲を見渡している。

 息を潜めて時が経つのを待つ。いずれどれくらい経っただろう。2分か3分か、5分くらい経ったかもしれない。

 竜は木々を薙ぎ倒して歩き回った後、ようやく諦めたのか飛んで行った。

 恐らく方向は南の方だから、クレナ達の方ではないだろう。


「はぁ〜」


 それを見届けてようやく緊張の糸が解けた様に息を吐いた。


「ん……ぁ」


 と、ちょうどリシアも意識が戻った様だ。

 小さく声を零すと寝ぼけた様に瞳を動かし。


「あ……そうだ。竜はっ!?」


 急激に記憶と意識が覚醒した様で、慌てた様子で立ち上がると声を上げた。


「もう居ないよ。おっと」


 それを聞いてリシアは心底安心した様にその場で脱力した。

 へなへなと僕の服を握って座り込む。


「うぅ、怖かったぁ」


 弱った様子でそう溢すリシア。

 流石にあれは誰でもそうなるだろう。

 僕はよしよしとリシアの頭を撫でる。

 慰めるのはいいのだが、あまり余裕が無いのが現状だ。


「リシア、沢山怖い思いもしたし、無理も無いとは思うんだけど、後で皆んなに慰めてもらおう。とにかく、今は合流しないと」


「あ、そ、そうよ! 早く追いかけないと!」


 僕の言葉に現状を思い出したか、慌てた様子で顔を上げるリシア。


「う、うん。それなんだけど」


 僕は周囲を見渡す。辺りには木と草しかない。

 竜から逃げるため闇雲に逃げ回った結果、方角が分からなくなっているのだ。

 背の高い山の位置から何となくは分かるが、この森を抜けて先程の位置まで正確に戻れるかは不安だ。


「ど、どうしましょう。これって遭難よね? あ、こういう時は川へ行けって言ってたわね! 川の上流に向えって。でもすれ違いになったらどうしよう? 水辺付近は危険だとも言ってたし、やっぱり戻ってみた方がいいのかしら」


「まぁ、落ち着いて。先ずは狼煙を上げよう。向こうもそうする筈だ」


 幸い腰のポーチは健在だ。クレナから全員持たされた物の一つに火打ち石がある。

 可燃物には困らないこの中ならすぐに上げられるだろう。


 そう思い早速枯葉を集めようとした時だ。

 ポツリと水滴が頬に落ちて上を見上げた。

 樹冠の向こうの空は灰色の雲が覆って、この空全体まで進む勢いだった。


「うそ」


 信じたくない思いでつい零してしまう。

 その後すぐ、内心の思いとは裏腹に雨が降り始めた。

 それはものの数秒で勢いを増し、通り雨では済まされない立派な物へとなった。


 ……最悪。


「こう捉えましょう! 水はどうにかなるって!」


 リシアの方は楽観的だった。



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