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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第三章 竜凱山脈編
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63:階級とスライム



 微睡みからすっきりと目が覚めると、敷かれた布に手を突いて上体を起こした。

 朝焼けの肌寒さ感じつつ周囲を見渡すも人気は無かった。


 あり? 今日は僕が最後か。

 いっつも誰かしら寝てるもんだけど。


 そう思いつつ腹掛けを退けて立ち上がる。

 寝具として使った布類を適当に畳んで、焚き火の側にある丸太へと近づく。

 そこに置いてあった五つのマグカップの内一つを取り、底の裏を見て名前を確認する。

 ごつごつと手作り感満載のマグカップを持って、小樽の蛇口を捻ると水を注いだ。


「ぷへぇ〜」


 一杯飲んで一息吐く。

 やっぱ朝は少し冷えるなぁ。


 目の前で上がる焚き火にはまだ焼べられて間もないと思われるたきぎが入っていた。

 各角が行動し始めた証拠だ。

 僕は背伸びしつつ、適当に朝の行動へと移っていった。









 森林を抜けて川の方へと向かうとその付近にあった二つの人影へと近寄る。


「あら、おはよう」


 と、リシアが足を止めてこちらへと気づいた。

 その足元には洗濯物の入ったタライがあり、泡立ったそれをリシアは素足で踏んでいた。


「おはよう~」


「ああ。おはよう」


 と、クレナも返事した。

 その手元には釣り竿を持ち、川へと糸を垂らしている。


「あり? 洗濯って僕の当番じゃなかったっけ?」


「遅いからやっちゃったわよ。暇だし」


「それはごめん。ありがとう」


「ふふん。干すのは手伝ってもらいますから〜。ほら、さっさと顔洗いなさい」


 言われるがまま浅瀬で顔を洗う。

 冷たさが両手と顔の隅々に渡り、頭が冴える。


「ありがとう」


 リシアからタオルを受け取る。

 洗ったばかりなのだろう。手で絞っただけと思われる湿ったタオルで顔と手を拭いた。


「今日はどんな感じ?」


 それをまたリシアに渡して泡立つタライへと投下されるのを見つつ、僕はクレナへと問う。


「昨夜掛けといた罠に合計三と、釣りで一匹。まずまずだな」


「ふんふん。今日は焼き魚?」


「今日は食べないぞ。備蓄の分がある。これは干して日持ちを良くする」


「ふーん」


 そんな会話もしつつ、リシアと洗濯物を濯いでいると、森林の方からリリスとマリンが歩いて来ていた。

 僕が手を振るとマリンがぺこりと頭を下げていた。


「おはよう」


「おはようございます」


「お、おはよう、ございます」


 リリスに続いて控えめに応じるマリン。

 二人の手元には盆ザルが持ってあって、その上にキノコや山菜、木の実などが乗ってあった。


「そっちの罠はどうだった?」


 クレナの問いに首を横に振るリリス。


「そうか」


 呟くクレナ。


「リリスちゃん。そのローブは洗わないの?」


「まともなのがこれしかないもので。本格的に山脈に入る前に一度洗っておくべきでしたね」


 と、リシアの問いに答えたリリスだった。


「じゃ、そろそろ朝食の準備としよう」


 きり良く揃った所で、クレナがそう言った。

 








「ふー、ふー」


 僕は飯釜の下に揺れる焚き火へと息を吹きかけていた。

 時折り薪がバチリと爆ぜり、圧する様な熱気が届く。


 こちらの世界にもお米はある。

 この世界の主食はパンなどの小麦から成る物が一般的だが、一応お米だってあるのだ。

 と言うか、食材に関しては野菜とかも含めてかなり類似してるか一緒である。

 まぁ馬や人が居るならそこも同じという事だろう。


「いや、こっちの方は間に合ってるから、リシアは鍋の味付けを頼む」


「ええ。リシアに任せれば安心です」


「何よ。任せるったって毎度マリンのを見てるだけじゃない。ねぇ、マリン? あなたも私の調理した物食べたいでしょう?」


「え、えと……不安です」


 そんな会話が聞こえる簡易的な調理場の方へと向かう。


「何かした方がい?」


「ん? ああ、そうだな……じゃあ、リシアの調理を手伝ってやってくれ」


 と、そうクレナは応えた。

 クレナはまな板に横たえた魚へと包丁を差し、その頭を切断した。

 その断面から溢れる血がまな板に広がり、染まり映えていた。









 その木漏れ日を眺めて車輪から鳴る木材の軽やかな音を聞く。

 と、それも止まると。


「ちょうどいい。そろそろ休息にするか」


 御者台からクレナが言った。

 木々の向こうから漏れる陽光の乱反射。湖がある。

 僕らは合図も無く馬車を降りる。


「ふぅ」


 と、一息ついたクレナが御者台から降り、それに続いてマリンも降りてくる。

 クレナは肩に掛けていたタオルで汗を拭うと、それを屋根の上にある籠へと投げ入れた。

 その一連を目で追うマリン。一時ぼーと籠を見上げていた。


「二人は水を汲んできてくれ」


「はーい」


 クレナの指示で僕は車内に置いてある小樽を持つ。


「洗濯は……」


「明日でいいんじゃない? 木々が狭くて走りながらじゃ干せないわ」


「さ、賛成です!」


「ん。そうだな。俺は水の煮沸しゃふつをするよ。リシアとマリンは馬の様子見を頼んだ」


「はいは〜い」


 途中外からクレナとリシアとマリンの会話が聞こえて来る。

 僕は砂やらいろいろ入って重い小樽を持って出る。

 桶を持ったリリスを共らって湖を目指した。


 と、目の前二、三メートル程の所に、半透明に透き通った青色の物体があるのに気付く。

 それは直径2、30cm程の大きさで、丸み帯びてのっぺりと雑草に紛れている。


「うわっ!」


 僕は驚き身を引く。

 ついリリスの後ろに隠れそうになって、慌てて庇う様前へと出た。


「そんな警戒する事ないですよ」


 と、リリスは言いながらその〝何か〟へと近づく。


「え、だ、大丈夫なの?」


 さすがにこの世界特有の〝何か〟であると僕も察せられる様になったので、未だ懐疑的な目で問い返した。

 リリスは桶を置いて〝何か〟の側にしゃがみ、こちらに来る様手を振った。

 僕は恐る恐る近づく。


「食事中の様です」


 僕も小樽を置いてしゃがみ込むと、リリスは〝何か〟を見て説明する。


「この様に草や枯れ木に乗って、消化液でゆっくりと吸収するのです。知性も自我も無い最下級の魔物です」


「はへぇ~」


 その〝何か〟の滑り気ある表面から覗く底面には、確かに溶けかかった雑草が踏まれてあった。

 なんだか半透明でめちゃくちゃに大きなナメクジって感じだ。


「この様に這って、ゆっくり移動します」


 本当にナメクジみたい。


「動物の死骸などを食べて多少体が強くなった個体ならば、跳ねて移動する事もある様ですが、稀です。それでも弱いですがね。寧ろ息が良いのは見せ物として売られる事もあるそうです」


 み、見せ物って……

 可哀想だな。


「自然発生型の魔物でどこにでも生息するので、冒険者最初の獲物として一般的です」


「自然発生? え!? これが!?」


「ええ。適度な湿気と魔力、そして触媒となる物さえあればどこでも発生します」


 僕の驚きに対してリリスは淡々と説明する。


「基本的に有機物であればなんでも食べるので、森の掃除屋なんて異名も付いてます。畜産場の方ではわざと放つ事もあるとかないとか」


 その〝何か〟はその間もじっと動かずに置物かの様に居た。


「面白いのが、塩を掛けると小さくなるそうです」


 まじでナメクジじゃん。


「浸透圧が関係してるとか。興味なかったので詳しく知りませんが。なので海辺に大量繁殖してる訳ではないそうですよ。粘性生物にも塩分濃度が決まってるという事です」


 そう言われるとちゃんとした生き物に見えてきたなぁ。


「数少ないGランクの魔物です」


「Gランク? そんなのあったんだ」


「ええ、一番下のランクです。〝女、子供でも対処可能なレベル〟を意味します。我々の方にもありますよ? ギルドカードは身分証も兼ねてるので、見習いか、非戦闘員を意味しますが」


 と、話題はランクの話へと移る。


「アズサには馬車の護衛をしてもらう手筈だったので、『F-』にして貰いました。『F-』ならば、末端の組合員でも独断で昇格可能なので」


 なるほどね。

 Gランクじゃ護衛は受けられなかったんだろう。


「その節はすみません。あんな事になってしまい」


「え? いやいいよー。リリスのせいなんかじゃないし」


 きっと最初に遭遇した悪魔の事を言うリリスに僕は応じる。

 とまあ、今だから言えるんだろうけど。

 あの時言われたらさすがに複雑な思いだったろう。


「ちなみに、『F』はどれぐいの強さ基準なの?」


 特別掘り返す気もないので僕は話を進めた。


「人の物であれば、〝武器を持った一般人レベル〟を指します。『F-』『F』『F+』と上がり、『E-』『E』『E+』と同様に上がっていきます。尚、この場合は強さのみを基準とし、組合側の人格的評価は別の物とします。ちなみに魔物と人の強さの基準は同じです」


 リリスの返答を聞いて、僕はなんだか嫌な予感がした。


「い、『E』や『D』の基準みたいなのは?」


「『E』は〝人並みの心得を持った者〟を指します。ある程度の戦闘技術はもちろん、野営技術や魔物の知識も持ち、冒険者として自立した者です。一般的に『E-』へと至れば一人前とされます」


 その説明を聞いてますます不安は募る。


「『D』は〝何らかの武芸に優れた者〟を指します。剣や槍、魔法ももちろん。ここまでくると剣士などは最低限の闘気を扱う者がほとんどです。魔法使いも中級魔法は必須です。まあ、あくまで強さの基準なので強ければ何でもいいのですが。一般には『中堅者』とされ、組合側からも活躍を期待されます」


 僕は説明を終えた余韻を感じながらすっとギルドカードを取り出し。


「ぼ、僕『D-』なんだけど」


 恐る恐る告げると、リリスはじっとカードを見つめて。


「不適合ですね」


 そう端的に断じた。


「実際アズサの昇格具合は異様だとは思ってました。『D+』までの昇格であれば組合長の権限で理由さえつけて一度に三段階昇格もできるので、規則に則てはいたのですが……」


「その理由がおかしい?」


「ええ。大して活躍した訳ではないですし、敵前逃亡をしなかったので人格的評価は上がってるかもしれませんが、ランク上昇には関係ないです。なので不自然には思ってました」


 リリスはそう本音を言う。


「じ、実はさ──」


 僕はリリスに思い当たる節を言った。

 組合長であったグゼンの策略により、僕が無理な昇格をさせられたとの話を。


「なるほど。それででしたか」


 と、納得した様に頷くリリス。


「ちなみに、僕の適当な強さってどのくらい?」


 僕はつい気になってそう問うたが、リリスは神妙な顔つきで。


「良くて……『F』」


 がくっと、その返答を聞いて項垂うなだれる。

 少しでも期待した自分が恥ずかしい。

 〝武器を持った一般人レベル〟、的を得てるし心を抉ってくる。


「ま、まぁ、初心者脱却は一番安易ですから」


 と、そうフォローを入れてくれるリリス。


「普通はどのくらいかかるものなの?」


「本当に知識もお金も力も0で始めるならば、一年は掛かるかと……。平均三年なんて言われてますが、人によりますね」


 リリスの言葉に遠い物を見る気持ち共に納得する。

 まぁ、そうだよな。

 ロビアの時の狼だって『E』だったのだ。

 それと同じくらい強くなれと言われたら、そりゃそれくらいは掛かる。


 僕は全体的に丸っこく、ぷるんっとしてそうな〝何か〟を見ながら思い、ふと随分前にも思えるある事を思い出す。


「これ、あれとは違うの? 僕とリリスが出逢った、初日の」


 それは夜中馬車での移動中に出会った緑の巨大なやつだ。

 リリスの魔法を初めて見て異世界だと実感するきっかけとなった、印象深い出来事の一つである。


「亜種、といった呼び方が正しいでしょう。これも環境や餌の種類でいろいろと変わってきます。目の前にいるのがもっとも一般的で、原型的な物です。これを総じて〝原種〟と呼びます。あの時のは植物ばかりを好んで食べる〝派生種〟でしたので、親戚みたいな物です。もちろん弱いです」


 ふーん。


「そういえば、アズサはこれを見て何か言ってましたね。何か、呼んでたような」


「ああ、スライム? 僕の居た場所じゃあ、そう呼んでたんだ」


「なるほど」


「こっちじゃなんて発音するの?」


「それを言っても、もう『すらいむ』と聴こえてしまうのでは?」


「あはは、そうだった」


 とは言え普段から発音を聞こう聞こうとしてるおかげか、最近は少しずつだが聴き取りの調整が可能になってきているのだ。

 特に瞑想を始めてからそれも上手くなっている気がする。

 あくまで気がするだが。

 今のところ不具合みたいなのはないが、気付いてないだけの可能性だってある。

 僕の中での言葉の勉強は急務なのだ。


「代わりに文字を書きましょうか」


「あ、そうだね」


 と、リリスはローブのポケットからメモ帳と羽根ペンを取り出した。


「綺麗な羽根だね」


「どうも」


 リリスの取り出したその羽根ペンは、煌々と輝く様な美しい橙色のそれだった。

 リリスはその羽根を揺らし、すらすらと文字を書く。

 その時羽根を動かす右の手首に、青い何かがちらりと輝いて見えた。


「これが種族名です」


 と、見せられたそれはシンプルな名前だったが、隣にも分からない単語が書かれていた。


「そちらが名称で、この生物に関してはかなりその名が知られています。他にも特徴を捉えて俗風に表した言葉や、学名もまた別で存在したりするので少しややこしいですが」


 メモに指を差して説明するリリス。


「えっと」


「粘性と、生物という意味です」


 なるほど、これは分かりやすい。

 粘性生物スライムか。いいじゃないか。


「うん。これからこっちの発音で言うよ。そろそろ慣れなきゃとは思ってた頃だし」


 こちらの〝スライム〟の発音も学んだとこで、僕は満足気に頷く。


「詳しく知りたいのならリシアに訊くといいでしょう。分類や学名等に関してはリシアに分布が上がります」


「え? そうなの? リリスより?」


 リリスはこくりと頷く。


「もちろん実践においての知識ならば負けませんが、それもサングマリア王国の西側に限ります。リシアはこの大陸全土の魔獣、魔物に関する勉強をしてるそうなので」


 専門知識はリシアの方が詳しいのか。

 って言うか、リシアも山脈に入るんだからそれくらい言って欲しかったかも。

 これから魔物の事も軽く学んどこうかな。

 少なくとも、道中の魔物くらいは知っとかないと。

 っというかこれ、だいぶ今更だよな?


 それに思い至って僕はまだまだ周囲に甘えてたのだと自覚する。

 とりあえず魔物の事はリシアから教えてもらおう。


 と、そう決めたところで後ろの方からクレナに呼ばれる。

 振り返ると遠くの方から手を振っているリシア達が。


「どうします? その剣で二、三突きすれば絶命しますが」


「え」


 と、唐突に。いや僕からしたら唐突に、リリスが問うてきた。


「酷く分かりにくいですが、中央と外側に分かれています。中央のほんの少し色が濃い部分がこの粘性生物スライムの本体です」


 リリスは平常に粘性生物スライムを見て説明する。


「どの冒険者も最初に通る道です。粘性生物スライムは自我も痛覚もない、虫か植物の様な魔物です。心理的にも、一番手をかけ易い相手だと思うのですが」


 そうこちらを窺うリリス。

 その様子は僕を気に掛けてる様だった。


「やめとこう。特別無闇に殺めたい訳じゃないから」


 僕は軽く首を横に振り応じた。


「それに、食事の邪魔しちゃ悪いよ」


 そして立ち上がりざまに言って、リリスへと笑い掛けた。

 それにリリスも軽く微笑む。


「そうですね。そっとしときましょう」


 ローブを払いながらリリスも立ち上がり、僕らはその場を後にしたのだった。



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