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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第三章 竜凱山脈編
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60:女神の溜め息



 温度0℃、標準気圧の環境において、水平面上に間隔を569mm開けて平行になるよう設置した直径1cm以上の円柱2本の上に、白金とイリジウムから成る合金製メートル原器を置き、原器に刻まれた2つの中心線の軸を挟む距離。

 もしくは真空中で光が1/299792458秒に進む距離。

 一メートルの定義である。

 確か……そんな感じだった気がする。


 私はそんな考え事をカフェのテラス席にて思った。

 目の前には畳んだ新聞とティーカップに入った紅茶があり、私はティースプーンを手に取るとゆっくりとその甘めの紅茶を撫でた。


 まあ、この世界は電子機器が無いからそんな正確な数値は出せないんですけどね。


 後者は預咲君の元いた世界での定義である。

 普遍的な物理量基準の必要性と言うものは当然こちらの世界でも問われた。

 一メートルの基準というのはこの世界でも預咲君の居た世界と同じ様な過程を踏んでいる。

 振り子がどうとか、子午線がどうとか。

 要は正確さや測定誤差の縮小を求めて移り変わってきたのである。


 この世界でも光を基準にしようとする動きはあった。

 光は光源の動きや方向に関わりなく、またどんな波長でも一定であり、不変であるからだ。

 しかしそこには技術力に問題があった。

 安定したレーザーや正確な観測器を作れないからだ。


 まあ、この世界は魔力がある分、預咲君の居た世界とはミクロの世界における物理法則が少し違うから、仕方ない部分もあるんだけど。


 とにかく同じ様な歴史を辿り、両方の世界での一メートルの定義は限りなく近い物へとなっていったのだ。

 天文学者からしたら眉唾ものだろうが、預咲君が暮らす分には何ら問題ないだろう。

 無論、預咲君の元いた世界とはこの〝メートル〟の発音は違う。

 預咲君にどう聴こえてるかは分からないけど。


 私はぼーとテーブルの角を眺めながら、スプーンを垂らして紅茶を一口含む。


 という事を預咲君達が山脈に行くと言う話を聞いて思った。

 何でも最高標高は五千メートルを超えるらしいし、預咲君はそこんとこどう思ってるのかな〜と。

 まぁ、そこまで深く考えないか。

 でもこの世界での一メートルの定義が違かったら、どう預咲君に聴こえるのかは少し気になる。

 たぶん間違ったまま聴こえるんだろうけど。


「って、おい。聞いてるのか?」


「え? あぁ、何て?」


 と、その時グレンに呼ばれ、私は隣を振り返った。


「たっく」


 それに呆れた視線を寄越すグレン。


「どう行くかだよ。って言うかそもそも、お前付いて来れるのかぁ?」


 次いでそう怪訝気な視線を向けて言った。


「もっちろん付いていくよ! しがみ付いてでもね!」


「やめろよ? 置いてくからな?」


 わきわきと手を動かして言った私にグレンは軽くあしらった。


「まぁ、いい。行商人が定期的に行き来してるそうだからな。それに引っ付いて行くぞ。何か意見は?」


「無い! 任せた!」


 丸投げな私にグレンは呆れきった半目を向ける。


「にしても、まじで山脈の道行くとはなぁ」


 と、私に対して何かを諦めたか、話題を変えるグレン。


「大丈夫でしょ。あの子達も安全な道行くんでしょ?」


「まぁ、そうみたいだが」


 私の問いに歯切り悪く答えるグレン。

 何か含み気な態度に首を傾げて意を示すと。


「魔物が山脈の方から少し流れて来てただろう? それであいつら諸共足止め食らっちまってた訳だが」


「それがどうかしたの?」


 話してくれたそれに、私は更に問う。


「単なる噂だぞ? 魔物が降りてくる事自体はよく聞く話だが、今回は規模がでかいらしい。それにここらの地方だけじゃないみたいなんだ」


「どうゆう事? 魔物が縄張りでも変えたっての?」


「そういうこった。だがここからが本題だ」


 と、頷き身を乗り出すグレン。


「何かから、逃げて来たんじゃないかって言われてる。そしてそいつこそが、縄張りを変えて魔物の生活圏を荒らした奴なんじゃないかって」


 グレンは真剣な眼差しで言う。


「お前も話ぐらい聞いた事あるだろ? 北の山脈に移り住んでる亜種竜だよ。そいつが動いたんじゃないかって噂だ」


「不味いじゃん」


 私も山脈を通ると言う事で話くらいは聞いた覚えがある。

 本来はエルドラド南西に生息する飛竜ワイバーンの逸れ個体だ。


「ま、単なる噂だからな」


 と、彼は背凭れへ身を引いて言った。


「そんな事よりさ」


「そんな事って」


 またも呆れ顔を頂戴するが、そんな事よりも。


「結局あの人はなんなのさ! 何か急に増えてるあの人!」


「だから俺も知らねぇって」


 私は二階のテラス席から見下ろせる、街の中央の広場でたむろする集団を視線で指して訴えた。

 赤に黒に金と目立つ髪色の集団の中に、更に加わった紫色。

 白くすらりと伸びた四肢に流れる様な美しい菫色モーブの髪を持った女性だった。


「また女の人だ」


 私はそれをつまらなく思いながら見つめる。

 私はこうやって影で見る事しかできないのに。

 それに紫髪の人もとっても美人さんだったし。


「それより、今知りたいのはいつ出発するかだろ? それによって俺達の日程も変わってくるからな?」


「分かってるよ」


 念を押すグレンに私は応じる。

 その為に、またこうやってこそこそと様子を伺ってる訳だし。

 輪になって話し合ってる様子の預咲君達を口の動きが見える程度の距離で見下ろす。


「君の読唇術で読みとればいいじゃん」


「バカ言え。そこまで便利じゃない。じゃなきゃ手話は発達しないだろ?」


 確かに。

 納得しつつ私は五人を見下ろす。

 五人はそれなりに打ち解け合っているらしく、時折笑い合っていた。


「う〜ん。私も本来の力があれば、表面的な感情だけでも読み取れるんだけど」


「はぁ?」


「こっちの話!」


 怪訝気に振り向いたグレンには適当に誤魔化した。

 そのまま預咲君を眺める中、隣からグレンの視線を感じていると。


「なぁ。お前天使か?」


「へぇっ!? ち、違うけど……どうして?」


 急に相違ない事を突かれて動揺する。

 と、テーブルの新聞を弾いてこちらへ向けるグレン。


「ロビアとルンバスでの事件の関連性……だとよ。両方の街に現れた、謎の赤髪の少年」


 それを聞いてつい表情を引き攣る私。


「今は情報規制がなされているが、最初の方は随分好き勝手書いてたみてぇじゃねぇか。特に、ルンバスの方はよ」


 そう暇つぶし程度の乗りでグレンは話す。


「何でも、神エリアの御降臨だとか? しかも悪魔を討伐した少女はその教会育ちと来たもんだ。そしてそれらと行動を共にし、両方の街で目立った動きをした、謎の赤髪の少年」


 彼はそこまで話すや、タメでも付ける様に預咲君の方を向く。


「どう考えなくてもあいつの事だろ」


 はいそうですと、ネタバラシできる程今の私に余裕は無い。


「そ、それが何で急に私が天使って話になっちゃうのさ」


「いいや。ただの思いつきだ」


 問うた私にグレンは一度否定する。


「長年活躍してたリリスの方はともかく、ぽっと出の赤髪は天使じゃないかって噂が出てる。新聞じゃ載らないが、その手の雑誌じゃ有名な話だ」


 今度は別の意味で表情が引き攣る。


「だが数日間あいつと行動を共にした身からすると、どうもあいつはそんな玉でもない気がすると言うかなぁ」


「え、えっと。つまり?」


 堪えきれず先を促すと。


「つまり、あいつは何かしら異常な存在なんじゃないかと思ってな? どう異常かはさっぱりだ。何せあいつの強さも分からないし、本当に天使かもしれない訳だし、天界のお方々からどう言った扱いなのかも、もちろん俺には見当もつかない」


 そうグレンは話し。


「ただ、それも含めて異常って言うんなら、天界からの監視役が来てもおかしくないんじゃないかな、と。そう思ってな」


 彼の並外れた推理力に、私は平常を装いつつも心臓を撫でられた様な気分になる。


「ま、天使の見張りなんて、そんな御伽噺おとぎばなしみたいな事が本当にあるかも分からんがな。あいつが天使って説も、俺はどうも頷けないし。全部ただの偶然ですって話の方が、きっと確率は高いんだろうしな」


 結局グレンは半信半疑も至ってない様だった。


「今言ったのも単なる気紛れだよ。実際に監視役が居たらこんなお粗末な存在じゃないだろうからな」


 私を横目に言ったグレンに引き攣った苦笑いで返す。

 今は私の無能っぽさに感謝である。


「そうなると、ますますお前の謎が深まるばかりなんだけどな……」


「あ、あはは。まぁ、預咲君の熱狂的なファンって事で? ほら、ルンバスの件辺りで助けられた少女的な? 辻褄は合うでしょ?」


「それを俺に打診するな」


 呆れ顔でツッコむグレン。


「ま、そうだな。今はストーカーって事にしといてやる」


「〝ファン〟ね!」


 嫌な暫定をしたグレンに私は強めに訂正した。

 肩を竦める彼を横目に私は預咲君へと視線を移す。

 相変わらず街中でも一人目立つ、燃える様に赤い髪の少年をぼんやりと眺めて思った。


 でも、確かにそうかも。

 預咲君の監視役、私何かでいいのかなぁ?









「はぁ!? Dぃ!? あなたが、Dぃ〜!?」


 この町の中央の広場にて、目の前のリシアが怪訝さを隠しもせず言う。


「な、何さ。何か変?」


「変も何も、あなたがぁ〜? こんなひ弱そうな見た目なのにー?」


 そう胡乱な目を向けて続けるリシア。


「悪かったね。弱そうで」


 僕はツンっと応えた。

 訊かれたから答えただけなのに、理不尽な。


「信じられないけど、クレナもDランクらしいし……」


「さてと、もう大方揃えて馬車にも積んだが」


 と、クレナがメモを眺めながら言う。


「もう買い物終わり?」


「まぁ、そうだな」


 僕の問いに応じるクレナだが、気のせいかなんだか歯切り悪い。


「じゃ、ちょっと三人で見て来るわ」


 と、リシアがリリスとマリンの肩に後ろから手を置くと言った。


「どこ行くの? 暇つぶしなら皆んなで行こうよ」


「だーめ。三人で行くのよ」


 決定事項だと言うリシアに僕が疑問気に見返すと。


「一月以上の長旅でしょう? いろいろと買わなきゃいけないのよ」


 そう主語を抜いて話したリシア。


「そうなの? でも荷物持ちくらいはできるけど」


「そんなのいいから」


 遮る様に言ったリシアに尚も疑問顔を向けていると。


「はいはい。とりあえず行くの」


 リシアは僕の体の向き変えると背中を押しながら言う。


「良い女は買い物が長いのよ。ほら、男子達は先に馬車にでも待ってなさい。しっしっ」


 最後に軽く押すとはらう様に手振りしながら言った。

 マリンもリリスも見てるだけでリシアに反対はしてない様子。


「アズサ、ここは行こう」


「う、うん」


 と、クレナに言われ、疑問は残りつつもその場を後にした。


 こうして必要な買い出しもあらかた終えると、僕らは日が落ちる前に町を出発した。



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