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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第一章 七日間の旅編
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05:天使の娘



「私の名前はレミリアニャ。どうぞよろしくニャ~」


 そう、気軽に挨拶してくる目の前の少女。

 彼女はエリア様曰く天使だ。

 篝火に照らされ輝くエメラルドグリーンの髪と瞳。

 少しカールの掛かった髪はエリア様より短めで、肩口より上にしっかりと切り揃えられている。

 歳は見た目的には僕と同程度だろうか? 十五、六歳程の少女に見える。


 そして服装。

 構造そのものは和服っぽいが見た目が違う。

 白を基調とし、所々緑の刺繍がある清潔で気品の感じる服だ。

 司祭などの着る祭服?に似ているかも。

 エリア様と同じような服だ。


「え、えと……り、リアって言いま~す」


 と、天使改めレミリアさんに、即席の偽名で自己紹介するエリア様。

 り、リアって……。『エ』取っただけじゃん。

 エリア様の自己紹介にこくこくと頷くレミリアさん。


 何で天使が護衛してるのか知らないが、今は情報の共有化を図る為にも同じ焚き火を囲っていた。

 護衛役が一塊にならない様に僕らとレミリアさんの四人ではあるが。

 それはそれとして、こちらの世界では何ら違和感ない彼女だが、エリア様は何を見て天使だと判断したのだろう?


「私はリリスと言います」


「あ、えと、預咲です……よろしく」


 と、リリスに慌てて続く。

 レミリアさんは『よろしくニャ〜』と気軽に返事していた。

 んー、見た感じ天使っぽさは全く無いが。

 彼女がエリア様を探している天使だとは限らないが、エリア様はそう確信してるらしい。


「ところで何だけど、何でこんな所にいるニャ?」


 と、突拍子も無くレミリアさんが訊いてくる。


「えーと、次の町……に、行く為?」


 質問の意図が分からなかった様に、疑問気味に返すエリア様。

 レミリアさんはそれを聞くと更に。


「次の町? に何か用でもあるのかニャ?」


「いえ」


「あ、あれ? ないの?」


 きょとんとするレミリアさん。

 続いてそれは訝しさと疑問を合わせた様な表情へと変わる。

 確かに次の町自体に用事は無いが。


「ええ、別に」


 エリア様の返事に、レミリアさんは眉根を寄せて険しい表情になると。


「つまり……言えないって事、かニャ?」


 真剣な雰囲気を漂わせて訊いてくる。


「いえ、本当に用事無いんで」


 だが雰囲気関係無くそう答えるエリア様に、レミリアさんは暫し『んん~?』と唸るりだす。


「じゃあ、あんたら何者なにもんニャ~?」


「なにもん?」


 エリア様は顎に手を当て考え込むが、不意に顔を上げ。


「人……ですかね?」


「人……かニャ?」


 お互い疑問顔の二人。

 何この会話?


「ん~~。じゃあ、君は? ここで何してるんだニャ?」


 と、急にレミリアさんの矛先がこちらを向く。

 う~む、ここでは。


「護衛?」


「うん。やっぱりかニャぁ」


 僕の安直な答えにレミリアさんは満足気に頷いていた。


「ん~。私はここらで仕事を任された者なんだけど、私の事は聞いてないかニャ?」


「あ、一応聞いてます。今回の件は一緒に行動するそうで」


「あ、知ってるニャ? なら話が早いニャ」


 と、エリア様の返事に途端態度を軟化させるレミリアさん。

 うん。今晩一緒に護衛する事は御者のおっちゃんから聞いているが。


「桃紫の髪の人らしいんだけど、見かけなかったかニャ?」


 突然エリア様の事を指してだろう話が上がって驚く。

 隣のエリア様も時が止まった様に静止している。


「にしても、こんなのが来るなんて聞いてないんだけどニャぁ……」


 レミリアさんは僕の方を見てそう呟くと、『う~ん』と唸りだす。

 もしかして、バレてるのかな?


「あの、質問なんですけど……これから、どうするんですか?」


 エリア様も不安になったか、様子を伺う様に問う。

 レミリアさんは一度疑問顔で首を傾げると。


「そりゃもちろん、こっちはこっちで仕事するけど……。と言うか、そちらさんこそ次の町には何しに行くニャ? もう私には言ってもいいんじゃないかニャぁ?」


 逆に質問で返され、少々たじろぐエリア様。

 しかし直ぐに立て直し。


「いえ、ですから用事も無いので通り過ぎますけど」


「え」


 レミリアさんはエリア様の返事に暫し口を開いて固まると。


「ニャぁあ??」


 会って一番の困惑顔でそう呟いた。

 ニャ……









 目の前の焚き火がバチッと弾ける。

 乗客達も食事を終え、皆思い思いに過ごす中、僕は揺れる焚き火をただ見ていた。


 何か、こう。気まずい……


 焚き火越しの正面には同じく焚き火を見つめる緑髪の少女。

 揺れる焚き火の映った緑の瞳はそれ自体が揺らいでいる様だ。

 エリア様で麻痺してたがこの人もなかなか目立つ髪色である。


 他二人はと言うと寝ている。夜間も護衛だから交代で今の内に寝とかなきゃいけない。

 だからレミリアさんと起きてるのだが、そこに会話は無く身動ぎ一つもしづらい様だ。


「ニャあ」


「ぇ……はい!」


 と、唐突にレミリアさんから声が発せられ、自分に向けてだと気付いて慌てて返事する。


「一つ、訊いていいかニャ?」


「な、何でしょう?」


 レミリアさん自身悩んでいる様な表情で確認され、疑問に思いつつも応じると。


「あんたら、何者なにもんニャ?」


 そう、先程と同じ事を再度訊かれる。

 なにもん、と言われても。

 返答に困って暫し悩む。

 僕の沈黙をどう受け取ったか、レミリアさんは少し険しい表情になると。


「私は」


 何か言おうとするも、直ぐに詰まるレミリアさん。

 しかし一度息を吸って覚悟を決めた様な表情をすると。


「私は、天界から来た者ニャ。ある任を受けて、天界から派遣されて来たニャ。けど、あんたらは何者なにもんニャ? 最初は同業者かと思ったけど、明らかに異質。もし機密事項なのなら、記憶を司る神に頼んでこの会話は消してもらって構わないニャ。その場合、そちらにはそのぐらいの権限があるだろうし。それぐらいの覚悟して再度問うニャ」


 そうずっと溜まっていた胸の内を明かす様に話すと、僕を真っ直ぐに見て。


「あんたら、何者なにもんニャ?」


 三度問われる。

 レミリアさんの瞳が、一挙手見逃さぬ様にと向けられた。


 どうしよ。何て答えよう。

 とりあえずはバレてなさそうだが、何か向こうはすごい覚悟して訊いてきたっぽいから無下にもできない。

 でも話半分以上、理解できなかったんだけど……

 と、とりあえず、何か言わなきゃ。


「あ、えーと……。多分、多分なんだけど」


 僕は今から言う事が失礼に当たると分かっている故、目を泳がせながらそう前置きすると。


「そん~な凄く無いよ? 僕達」


 そう言った。

 二人共寝てます様に。

 レミリアさんは『んん~?』と難しそうな顔で唸ると。


「本当ニャ?」


「本当です」


「本当の本当ニャ?」


「本当の本当です」


 その応酬の後、レミリアさんは考える様に。


「分からないニャ~。ウソを言ってる様に見えないのが尚更。君達の立ち位置が本当に分からないニャ」


「ん~。とにかく、すごくはない」


 と、思う。

 僕の色々端折った答えを聞いて、レミリアさんは途端吹っ切れた様に。


「な~んか、ずっと警戒してたのがバカバカしくなってきたニャ~。ニャっはは~」


 未だ困った様に眉根を寄せつつも、そう言って軽く笑うレミリアさん。

 どうやら警戒してたのはレミリアさん方こそだったらしい。

 僕だって分からない事だらけなのだ。

 話の全容も未だ見えないし、軽はずみな事は言えないが。


「警戒はしなくていいと思いますよ。自分でも立ち位置よく分かんないですが、それだけは」


「そうかニャぁ?」


「そうです」


 少しは気を許してくれた様な彼女に場も和む。


「ま、警戒は怠らないけど」


 と、一言付け加えられて僕は肩を落とす。


「ま、まぁ、いいんじゃない?」


「ニャはは~。ま、悪い人達じゃないって事は何となく分かったニャ」


 にこにこと笑って返すレミリアさん。

 笑顔でそう言われたら何も返せない。


「ところで、そもそも何で警戒してたんですか?」


「え? だってそりゃぁ、こんな所に神さんが居たら誰だってそうなるでしょ」


 そう、きょとんとした表情で言われて。


「えぇ、知ってたの!? いつから気付いてたの!?」


「しーニャ! しー!」


 声を荒げる僕に、レミリアさんが人差し指を口元に注意してくる。

 幸い二人が起きる事は無く、レミリアさんとほっと胸を撫で下ろす。


「え、えっと……いつから?」


「馬車から降りてた時。あの時全員の魂を隈無く見てたニャ」


 た、魂……?


「魂って、何? それ見れば一発で神様か分かるの?」


「そうニャ」


 こくりと頷くレミリアさん。

 た、魂って。

 本当にそんなものがあるのか。


「そっちも、魂見て私が天使だって知ってたニャろ?」


「えっと。魂見てかは分からないけど、多分」


 見ていたと同時に見られてたって事か。

 というか、見られたら即神だとバレるだとか、これでこっそり天界に帰るのは無理な気もするが……


「正体を知られてるって知らなかったのかニャ。こっちはお互いに正体を知っていて、知られているという事を知っていると前提にして話してたんだけどニャぁ。どうりで話が食い違う訳ニャ」


 やれやれと首を振るレミリアさん。

 正体とはエリア様が神であると言う事だろう。


「ま、私の眼は誤魔化せないって事ニャね」


 と、レミリアさんはそう言って、冗談っぽくウィンクした。

 深いエメラルドの瞳が映える。


「ニャあ」


「はい」


「それ、無しにしようニャ。今後はタメ口でいいニャ。私の事も、呼び捨てで構わないニャ」


「ああ、そう……です? じゃあレミリアも呼び捨てにしてよ」


「分かったニャ。アズサ」


 レミリアが僕の名前を呼び、ふわりと微笑んだ。

 僕も微笑んで応じる。


 何だか、少し慣れて来た。

 この場もそうだが、この世界に来て一日以上が経ち、単純に整理が付きつつある。

 初日のメンタルのやられぐらいは今振り返っても大分重傷だったからな。


 と、そんな時である。

 僕が少しは彼女と打ち解けた気になっていると、遠くの方で何かが壊れる音がしたのは。



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