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また来世で会いましょう  作者: あおいあお
第三章 竜凱山脈編
59/172

53:迷惑は仕方ない。迷惑行為は許さない。



 翌日。

 僕はクレナと街を歩いていた。


「一体どんな事話したの?」


 一、二回顔を合わせた程度でマリンの気持ちに変化を起こした会話の内容が気になり、僕は隣のクレナに問うてみた。


「別に、これと言ってないが」


 そう変哲もなく応えたクレナ。

 まあ、マリンが平気ならいっか。


「あ、やっと再開してる」


 と、乗合馬車の受付にて張り出された看板を見て呟く。

 どうやら通行止めも解禁されたみたいだ。


「じゃあこの町も出るか」


「うん!」


 さっそく予定を決めたクレナに僕は頷いたのだった。









 その後空いていた席に乗って行ってしまったクレナを見送り、僕は一人で街を逆戻りしていた。

 活気ある露天商の並ぶ広場を行く。


「わっ」


 と、その時膝元への軽い衝撃に僕は声を零す。

 五、六歳程度と見受ける男の子が打つかってきたからだ。


「ご、ごめんね? 大丈夫?」


「ん」


 僕が謝るとその子は短く頷く。


「ごめんなさい」


「うん。こちらこそ」


 男の子は腰を折ると焦茶の髪の毛を垂らして謝った。

 礼儀正しいその様に僕は微笑み返す。


「君ってば迷子? 分かるとこまで送ろうか?」


 と、その男の子は警戒心の無い瞳でこくりと頷いて、僕の差し出した手を受け取った。

 そのまま二人並んで歩き出す。


「お兄ちゃん、モーリュの陰草かげくさ見なかった?」


「モーリュの陰草?」


 聞き覚えのない単語である。


「海藻みたいな見た目で、貴重な植物なんだ」


「う〜ん、ごめんね。見てないかなぁ」


 僕は困り笑顔で男の子へ応じる。

 特別見て回った訳ではないので何とも言えないところではあるが。


「おじちゃん!」


 と、男の子は僕の手から離れ、道端に広げられたとある露天商の元へと走り出す。


「おやぁ、坊ちゃん。今日も来たんかい」


 敷かれた布の前に胡座をかいて座る、店主らしきお爺さんが応じた。


「モーリュの陰草は?」


「無いねぇ。そんな一日二日で入ってくるもんやないさぁ」


 広げられた品々の前に四肢を突き、男の子は商品を見回す。

 そこには絹で編まれた様な布やら日用雑貨が並べてあった。


「でどもロビアの方じゃ『解魔の霊薬』が一瓶出回ったって話だよぉ」


「本当!?」


 と、お爺さんの言葉に男の子は立ち上がる。


「そうでやさぁ。坊ちゃんが言うもんだから気にする様にはしとったげさぁ。でども滅多に市場に出回らない分、あっと言う間に買われたみたいでなぁ」


「そっかぁ」


 続いた報せに肩を落とす男の子。


「そのモーリュの陰草? が必要なの?」


 一喜一憂する様につい気になって僕は問う。


「そうさ。上の姉の為に必要なの。下の姉が冒険者だから、今頃直接山の方に採りに行ってるけど」


「おんやぁ、坊ちゃん。まだそんな事言ってやさぁ? 当の本人はもういいって言ってやあっさやないですかぁ」


「でも」


 お爺さんの言葉に男の子は視線を落とすが、諦めきれない様に呟いた。


「この前もわざわざうちまで謝り来よっさよ。うちの愚弟がご迷惑おかけしますってさぁ」


 そうお爺さんは言い聞かせる様に男の子へ言う。


「また来るよ」


 と、それに短く応じて、男の子は小さい背中を向けると歩いて行った。

 僕は見た目にそぐわぬ若干の憂鬱か哀愁の漂う様に追いかけようか逡巡する。


「あの子なら心配ないでぇ。ここらの道なら庭の内みたいなもんでさぁ」


 それにお爺さんが男の子を見送りながら言う。


「兄さんも絡まれた口でしょう? いつもの調子なんで、放っといて大丈夫さぁ」


 お爺さんはそう言うと朗らかに笑っていた。

 そして視線をまた男の子へ戻し。


「ワシらにも、全くの無関係って話でもないんでなぁ」


 そう、気に留める様に呟いていた。









 その後一人でまた来た道を戻っていると、目の前に仁王立ちして行く先を塞いだ少女が居た。


「な、何よ! その呆れた様な目は!」


 言うまでもなく、リシアである。

 飽きずによく来るものだ。


「次はなんですか?」


「な、何がよ?」


 僕が呆れた態度を隠しもせず向けて問うと、リシアは少し威勢を崩した。


「次はどういった言い分ですか? やっぱ何度考えたって、あなたのお世話しようとは思いませんし。強がりでも、勘違いでも、自分の気持ちに気付いてない訳でもないですよ」


 そう先手を打つべく僕は抑揚ない声音で並べた。


「じゃ、じゃあ」


「それも無いです」


 何か言おうとしたリシアへ先を塞ぐ様に言う。


「ん〜ッ、もう! たまには二人でゆっくり話そうと思っただけよ! 悪い!?」


 と、リシアは開き直った様に言い返した。


「本当、おかしいのよ。何なの? 私を好きにならない何ておかしいのよ」


 すぐに落ち着いたかと思うや、そんな図々しい事を宣いだす始末である。


「最近、本当にあなたが強がりでもなく、自分の気持ちに気付いてないでもなく、嘘ついてる訳でもないんじゃないかって、ほんの少しだけ思い始めてるわ」


「全部そう言ってます」


 むー、と不満気に口を尖らせるリシア。


「もう一度、しっかりと私の目を見なさい」


 と、リシアはそう言うや、僕の瞳を覗きながら近づく。

 ち、近い。

 掌一つ分程リシアが顔を寄せ、透き通る様な紫の瞳が互いの焦点を曖昧にする。


「どう? 好きになった?」


「い、いいえ」


 瞳を覗いたまま問われて答える。


「今ちょっと動揺したのは何?」


 と、見逃してもらえなかった模様。


「い、いや。動揺もするよ。こんなに近いんだし」


 僕は視線を外して一歩下がりながら応えた。


「あんらぁ〜、ごめんなさいね。お子様には刺激が強すぎたわね」


 機を見たりと片手を口元に添え、全力でバカにしてくるリシア。

 むかつく。

 僕も言い返しそうになりつつも、一応距離を取ってくれたので溜飲を下げる。


「話は済みました?」


「何よ。大人ぶっちゃって」


 努めて冷静に応じる僕と、それが気に食わない様子で腕を組むリシア。


「何でそんな僕に固執するんですか? それとも、毎度こんなしつこく言い寄ってるんですか?」


「何よ、嫌な言い方ね。喜びなさい。あなたが初めてよ。どんなに堅実な男だって、三回も会えばほいほい付いて来たわよ」


 そう身も蓋もなく言う。

 確かに綺麗だとは思うが世の中の同性の皆様方はそんなに節操無しなのか?

 正直ここ数回に渡って見た感じじゃ、そんな魔性の女性って訳でもなさそうだけど。


「何よその目は」


「別に〜」


 両腰に手の甲を当ててずいっと顔を突き出したリシアから視線を外す。


「まぁ、それはとにかく。僕はもうこの街を出ますし、あなたも順番待ちの人達とやらへ気を回してあげてください」


「嫌よ。初めて諦めるのが年下のお子様なんて、私のプライドが許さないわ」


 そういう話か。

 その真意を呆れと共に理解する。


「少しでも僕の迷惑考えました?」


「私に話しかけられて迷惑な訳がないわ」


 僕が単純な質問として問うと、まるで常識でも語る様に言ったリシア。


「でしょ?」


 と、純粋な瞳で首を傾げる。


「そうですね」


「何よ! 違うって言うの!?」


 面倒だ。


「あ! 今面倒そうな顔した!」


 表情をころころと変えるリシア。


「んむむむむ……」


 今度はこちらを軽く睨んで不服気に唸る。


「意っ味分かんない! こんなお子様の何が良くて付いてきてるのよ! あの二人は!」


 と、急な他方面に向けた文句に僕はぎょっとリシアを見返す。

 て言うか、その発言すごい跳ね返ってくると思うが。


「僕の自慢の仲間だよ。二人ともすっごくいい子なんだ」


 僕は黒髪の少女と金髪の少女を思って言う。


「ふーん。何よ。どうせ私の爪先にも及ばないわ」


「ないない。まず常識と良識がちゃんとあるからね」


「何それ? 私が無いみたいじゃない」


「そうだよ?」


 不思議気に言ったリシアへきょとんと返す。


「ちゃ、ちゃんとあるわよ! いただきます言うし、靴だって揃えるわよ!」


 またムキになるリシアに僕は半目で見据えつつ。


「あのね。これは持論だけど、良識ってのはどれだけ人に迷惑かけないかに赴きがあるの。それは行儀ってやつでしょ? それが分かったら僕に『迷惑じゃないですか?』って訊いてごらんなさい。ほらほら」


 そう煽る様にリシアへ言った。


「で、でも! 私だって淑女としての嗜みは持ってるわよ! 茶道、華道、書道、香道! どうよ! 良い女の趣味は網羅してるわ!」


 リシアも負けじと言い返して、へへんっと胸を張る。

 確かに華やかな趣味ばかりだ。

 僕はそれに内心押されつつも。


「それで言ったら僕の子達だって、礼儀作法はもちろん、公式の場だって見習いたくなるような優雅ささ。淑女って品のある女性の事でしょ? ただの趣味や嗜好で人の値打ちは決まらないし、増して自分から価値を誇示する様な人が淑女なんて僕は認めない!」


 頑とした意志と共に僕はそう言い切った。


「ぐぬぬ……」


 そう唸るリシア。


「ん〜ッ、もう! 私が上なのよ! 私が上と言ったら上なの! 淑女と言ったら淑女なのよ! 女の価値なんて結局どれだけ良い男を侍らせるかなのよ! 連んでるのがあなたの時点で程度が知れるわ!」


 なっ。

 酷い暴論だし僕も傷つく。

 心の傷はそっと無視し、僕は努めて平気そうな顔をして。


「じゃあその僕程度も侍らせてない君は、僕の仲間以下って事だね」


 ああ言えばこう言うと言った感じだが、相手も子供なので気にしない。

 僕の言い返したそれに、リシアは感情だけ先行した様に口をぱくぱくと開閉していた。


「リリスの前だから控えてたけど、品も良識も気遣いだってありゃしない。こっちだっていろいろ考え事があるのに、それを毎度邪魔するかの様に現れる」


 僕はこの際だと纏めて文句を言う。


「はっきり言います。そうやって揶揄う為だけに来てるなら、ただの迷惑です」


 そしてそう真っ直ぐに目を見て告げた。


「嫌がらせが目的ならそれはもう十分に果たされてるので、ここらで終わりにしていただけませんか?」


「わ、私は、そんなつもりじゃ」


「嫌がらせではなかったと? あなた本気で僕があんな態度で荷物持ちなりすると思ってたんですか? そういう所が常識無いって言ってるんですよ」


 言い繕ろおうとするリシアに僕は勢いのまま言い切った。

 い、言い過ぎたかな?

 後になって少し思う。

 でも実際そうだろう。年上と言えど僕と二つも変わらない筈だ。

 これから先も長いんだから、もうちょっとマシな感性を持って欲しい。

 逆になぜ今まで許されてきた様子なのかが謎だ。

 ここらで治しとかないといよいよ不味いと思う。

 まあ、僕には関係ないんだけど。


「で、でも!」


 と、リシアはいつの間にか下げていた顔を上げ。


「でも!あれよ! あの……」


 勢いで言い返そうとはしたものの、言葉が追いつかない様にリシアは威勢が空ぶる。

 そしてその頼りの勢いさえも落とす様に声と視線を下げ。


「シリアさん」


 僕の改まった呼び声にびくりと肩を震わすリシア。


「こちらからもいろいろなご無礼、大変申し訳ございませんでした」


 僕は両手を横に頭を下げる。


「つきましては今後、僕と、その仲間には一切の関わりを持たないでください。お願いします」


 僕は頭を下げたまま言った。


「は、はぁ? 別に全然いいし。寧ろあなたと縁切れて清々って言うか? 晴々って言うか?」


 それに大仰な態度を取るリシア。


「ぜんぜん大丈夫だし。平気だし。どうって事ないしっ」


 リシアはそう強がりを重ね。


「別に……! 別に、いいもん! 別にいいもおぉぉんっ!」


 そして捨て台詞を吐くや、リシアは走り去って行った。

 最後の方に瞳が潤んでいたのは……まぁ、見なかった事にしておこう。

 と、いつの間にか少なくない注目を浴びていた様で、走り去ったリシアと対照的に僕へと視線が向けられていた。


「はぁ」


 溜め息一つ。


 まあ、女の子泣かせちゃったし。

 こくらいの蔑視は甘んじよう。











 さらに翌日。

 次の町に行く馬車へと乗るべく、僕らは広場を通って行く。

 と、マリンが何処かへと顔を向けているのに気づく。

 視線の先を追うと、リシアが噴水の端に一人腰掛けていた。

 物憂つ気に髪を垂らし、とてもじゃないがいつもの尊大な態度は見受けられない。


 僕はその様子に苦笑いする。

 僕のせいか。

 ちらりと視線を下げるとリリスがこちらを見上げていた。

 と、気付けばマリンもこちらをじっと見ていた。


「ちょっと行ってくるよ」


「お好きに」


 肩を竦めるリリス。

 僕は俯くリシアの元へと向かった。


「あ、あの〜」


 目の前に立って控えめに声を掛ける。

 と、彼女はゆっくりと顔を上げ。


「ああ、あなたね」


 そう元気無く応じる。

 瞳にいつもの軽快さや活気と言うのが無い。


「何しに来たの?」


「その、先日は言い過ぎました。ごめんなさ」


「いいのよ。全部私が悪いのよ、全部。ええ」


 頭を下げようとする僕を遮って、リシアはそう自棄じき的に言った。

 うわぁ。

 これはこれで面倒な仕上がりになってるな。


「私が邪魔したからよね? そうよ。今思えば失礼なだけよね。生意気だし、煩いし。こんな私に付いて来る訳ないわよね」


 と、そう自虐的に語るリシア。


「まあ」


「あら、そう言ってくれるのね……。優しい人。今からでも特別に部屋の掃除くらいさせてあげても……って、え?」


「え?」


 お互い見合う。

 不意に視線を上げたリシアだったが、僕の真っ直ぐな視線を受けると見る見る内に顔が赤くなり。


「もう! そんなんだからお子様なのよ! 女が傷心気味なら気の利いた一言でも言いなさいよ!」


「な、何が傷心気味さ! 言い合いするくらいには元気じゃないか!」


「そんなのどうでもいいのよ! そもそも何!? あなた私に関わらないでって言った割に自分から声掛けに来たじゃない!」


「別に僕から関わらないとは言ってませ〜ん!」


「この……!」


 僕の揶揄った返事にリシアは言葉を詰まらせる。


「もう怒った! 怒ったわ! あなた次は『プルルン』行きだったわね!? あなたが私の僕になるまで付きまとってやるんだから!」


「あ! 今自分から付き纏うって言ったな!? 自分が執拗しつこいって自覚あるんでしょ! って言うかなんで知ってるのさ!」


「そんなのどうでもいいのよ!」


「よくないよ! このストーカー!」


「なっ!」


 絶句するリシア。後。


「きっー! むかつくぅ! もう許さないんだか! あなた従僕で済むと思わない事ね!」


 拳を握るとその場で地団駄踏むリシア。

 昨日の淑女云々の話は何だったのか。


「邪魔してやる〜! 邪魔してやるんだからッ! 途中の道に待ち伏せて襲ってやるんだから! 覚悟なさい! 商会にはちゃんと自分から謝る事ね!」


「な、何勝手な事言って……あ、ちょっと!?」


 唖然としたのも束の間、一方的に告げるとリシアは去って行った。


 な、何か。また面倒な事になりそうだ。



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